願い
「……っ」
バッ!
自分が泣いている事に気がつき顔を上に向ける。
ここには誰もいないことは知っている。
だから、泣こうと思えばいくらでも泣ける事も知っている。
でも、俺はこのまま泣きだしたくはなかった。
…泣く事は嫌いだ。
泣けば、思い出してしまう。
両親が死んで、泣いてばかりいた子どもの頃を。
…ずっと泣いていた子どもの頃の自分を。
両親が死に、天涯孤独となった。
泣いているとやさしく頭を撫でてくれたあの手の持ち主はもういない。
「どうした?」とちょっと困ったように笑いながら声をかけてくれたあの人もいない。
そのことが、悲しくて、悲しくて、仕方がなかった。
とにかく泣いた。
泣いていると両親の顔が浮かび、さらに泣いた。
辛くて、悲しくて、苦しい記憶。
…俺は泣く度にこのことを思い出す。
だから、俺は泣く事が嫌いだ。
泣く事も、人が泣いているのを見るのも嫌いだ。
子供の頃を思い出して、…とにかく嫌いだ。
…だからあのちびっ子王女が泣いているのを見て、泣き止ませるために助けてやろうと思ったんだ。
なのに、どうしてだ?
ムカつく馬鹿子爵はもう潰した。
これで『あいつ』が不安がる原因はなくなったはずだ。
もう、笑顔になっていいはずだろ?
なのに、どうしてだ?
顔を上げた先に見えた、お城のベランダ。
そこで、ヒラヒラのドレスを着て、風に長い銀髪を揺らされながら、『あいつ』が俺の事を見ている。
『あいつ』が、俺の事を見ている。
俺が一番嫌いな『あの顔』で。
「…なんで、だよ」
そんな顔、もう見るはずがないだろ。
だって、そうだろ?
言い寄ってきていた子爵はもう潰した。
お前は、もう安心していいはずだ。
なのに、どうしてだ?
どうしてそんな顔をするんだ?
「…おかしいだろ」
笑えよ、そこでさっきの俺の事も見てたんだろ?
可笑しかっただろ?
馬鹿みたいに騒いで、そのせいでむせて、挙句泣きそうになって。
笑えただろ?
なぁ?
…だから笑えよ。
笑ってくれよ…。
『その顔』は嫌いなんだよ。
なぁ、『ちびっこ』。
俺は『その顔』を見る度に昔を思い出して、すごく辛いんだ。
だから…、お願いだ。
「……頼むよ、泣かないでくれ…」
「ぐすっ、ぐすっ…」と鼻を鳴らして泣き続ける、銀髪の少女。
今すぐ泣き止んで欲しい。
昔の自分のように泣き続けているあいつ。
それを見るのはとても辛い。
…だから頼む。
泣かないでくれ…。