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叫び

『純粋なミスリルの剣! 確かにそれを装備した騎士隊は強力な隊となりますな!』


『いや、騎士団だけではもったいない。他の隊の兵達にも同じような物をつくらせるべきでしょう』


『いっそ武器だけでなく、防具もすべてミスリルの装備に変えてみてはどうでしょう?』



謁見の前にいた国の偉い人達が俺の抱えている布に包まれた剣を見ながら喋る。


それを聞くたびに、俺の心臓が胸に痛いほど叩いて、殴られたように痛い。


 誰かが喋るとその痛みは酷くなり、服を脱げばそこに痣が見えるのではないかと思うほどだ。


 誰かが喋っている間、俺は剣を抱えながら顔を伏せて床を目を瞬かせる事なくずっと見ていた。




 …俺は彼らの話がたまらなく嫌だった。


 自分の剣を、知りもしない奴らのために大量に作る。


 …考えたくない。


 そんな事は考えたくない。


 そんな事のために、鍛冶師になったわけではない。


 そんな事のために、鍛冶師の技術を使いたくはない。



 だから、王様が鎧男や周りの人たちの意見を聞いた後、俺に聞いた質問に俺はこう答えた。


「…ふむ。周りはこの様に言っているのだが、そなたはどうだ? この国の兵達のために剣や鎧を作る気持ちはあるか?」


 「…自分にはそんな気持ちは全くありません」


ざわざわ ざわざわ


ざわざわ ざわざわ


 周りの人間が俺の言葉を聞いて目を見張っていたが、王様は静かに微笑むだけだった。



「そうか残念だ…。色々と迷惑をかけてしまったな。」


「いえ…自分は」


「よい、最後に不愉快な思いをさせてしまったようですまなかったな。もう下がってよろしい」


「はい…」



 王様による退席のお許しがでて、俺はゆっくりと腰を上げた。


 だが、俺が腰を上げこれから退席しようとしたところで、横から腕を掴まれた。


 でも、今度は剣を奪われる事はなかった。


「待てっ…!」


 鎧男はそう言って、俺の腕を掴んでもう一度床に座らせようとしている。


 さらに、鎧男は俺に言った。



「座れっ…。そして、今度は陛下に向かって『是非作らせてくれ』と頼むのだっ…!」


 俺はその言葉に対して、断りの言葉を言った。



「…俺はそんな事の為に剣は作りたくない。兵を強くしたいから武器を強くするのは剣で人を殺すためだろ? 俺はそんな事では自分の腕を使いたくない」


 俺はそう言って鎧男の手を腕を勢いよく振って払おうとするが、鎧男の次の言葉で動きを止めてしまった。



「何を言っている!! そんなこと『当たり前』だろう! 人が殺せなけば剣の意味などないっ!」


「………。」


 鎧男の言葉を聞いて、俺は体が抉られるような感覚がした。


「剣は人を効率よく殺すための武器だろうがっ!」


 …男の言っている事はある意味正しいだろう。


 剣は争い、傷つけ、時に殺し合うために使うものだ。


 …それが剣の本質なのかもしれないと、ずっと考えながら生きてきた。


 でも、俺はそれだけはない、とずっと考えながら『も』生きてきた。


 俺は後者の考え方をしながら、ずっと生きてきた。


 …だから、そんなふうに決め付けた言い方はしないで欲しい。


 …それはとてもつらい。


 剣が一つの方法だけしか使い道がない物だと、決め付けないでくれ。


 『それ』を決め付けられる事は、俺を否定される事に変わりがない。


 剣の使い方が傷つける以外にもあると、俺は信じてきたんだ。


 …いや、違う。


 信じてきたんじゃない。


 憧れてきたんだ。


 親父が使っていた剣を見てから、俺はずっと憧れてきた。


 奪う事でしか剣が振るわれていなかった『あの場所』で、親父の剣だけが違った。


 親父の剣は守るためだけに振るわれた。


 ボロボロになりながらも、刃がこぼれながらも、たとえ血で汚れようとも、真っ直ぐな気持ちで最後まで振るわれた。


 最後まで真っ直ぐな気持ちで使われた剣の姿に、俺は憧れた。


 そして、その憧れを自分の手で形にしたくて、俺以外にも剣に守られる人を増やしたくて、俺は鍛冶師になった。


 だから、さっきの鎧男の言葉はその憧れて歩んできた道を否定された事になる。


 だが、コイツの意見に真っ向から向き合うには、俺には足りないものがある。


 それは今すぐ用意する事ができないし、かといって話してわかってもらえるものでもなかった。


 だから俺は目の前の男にこれ以上、自分のこれまでを否定されたくなくて、情けなく逃げた。



「…やめてくれ。これ以上、なにも言わないでくれ」


 俺はそう言って俺の腕を掴んでいる鎧男の手を振り払った。


 そして、剣を胸に抱いたまま謁見の間から外へ出た。










「………。」「………。」



 外に出たとき、扉の外にユリアさんとリースさんがいた。


 俺はその二人を見て、一言だけ「…一人になれる場所を教えてください」と言って二人に人気のない場所に案内して貰った。


「…ここなら滅多に人が来ないでしょう」


 そう言って連れてこられたのは花の香りが充満する花園だった。


 どれだけの種類の花が植えてあるのかわからないが、すごい数の花々だ。


 だが、今はそんなことはどうだっていい。


 今はただ一人になりたかった。


 幸いここは一部の人間しか訪れない場所らしいので、しばらくは一人になれる。



「それでは、自分達はここから離れます」


 ユリアさんがそう言って、リースさんと一緒にどこかに消えていく。


 俺は二人が完全に見えなくなった後、俺は独り言を呟き始めた。




「なんでだよっ…!」



 謁見の間で言えなかった自分の気持ちを、誰もいない花園で俺は一人で感情を吐き出していた。


「なんで俺があんな事を言われなきゃいけないんだよっ…!ずっと前からっ!」


 毒を吐き出すように、俺は一人で叫び続けた。頭の中が徐々に真っ赤になっていく。


「俺は『あれ』を作るって決めてるんだっ。それなのにっ…!」


 腹の中に溜め込んだ感情が爆発しそうになっているのがわかる。


「そのために磨いてきた技術だぞっ! 時間も、生活も、他も、全部捨てて!」


 もう、爆発はすぐだ。


「それをっ! 国の兵隊のために使えだとっ! ふざけるなよっ…!」


 肺の中の空気が全部なくなっていくのがわかる。


 もっと叫びたいのに、声が少しずつ掠れていく。

 

 だから、肺に残った最後の空気を使って、思いっきり叫んだ。



「俺がっ…! なんで人殺しの兵隊のために使わなきゃいけないんだよっ…!」


 まだ肺には少し、空気が残っている。


 ならば、まだ叫んでやる。俺の怒りはまだ収まっちゃいないのだから。


「俺にっ…! 自分の親を殺した奴らが持っていたのと同じっ…、」


 まだだ。まだ収まっていない。



「『人を傷つける剣』を、作れって言うのかよっ…!」



 怒りは収まっていない、なのに、肺に空気が足りない。


 そのせいで、最後の言葉は完全にかすれてしまった。


「俺は『人を守る剣』を作りたいのにっ…! 誰かを守りたいのにっ! 何で、だよ…!」


 完全に肺の中の空気がなくなり、空気を吸い込むために膝に手を突いて「はぁー、はぁー」と深く息をついていく。



 そして、もう一度何かを叫ぼうとしたが、喉から上手く声が出なかった。


 代わりに出たのは、鼻声交じりの小さな嗚咽だった。


 それは、自分の声とは思えない、実にか細い小さな声だった。


 気がつけば、目元が熱い。


 なぜか目の前も濁って見える。



 …その時になってようやく俺は、自分が泣いている事に気がついた。





作者はコレ書いててすごい楽しかった。




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