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悪夢

馬車はものすごい速さで王城についた。


そして、王城につくと俺はすぐさまに乗っていた馬車からおろされ、王城の地下にある特別製の牢に入れられた。


一度、牢に入れられる事は事前にユリアさんから聞かされていたので、俺は体の前に手枷をした状態で硬いベッドの上でのんびりと横になった。


俺はここに入っている間に、ユリアさんとリースさんが自分の部下に広場での騒動を調べさせた後、王様に事の顛末を詳細に報告してくれる。


 それだけで俺の無実は証明されるだろうが、問題はあのバカ貴族のミスリルの欠陥だ。


 アレは早く教えなければ大変な事になる。


 でも、なんとかユリアさん達が王様との面会の機会を与えてくれるそうなので、俺がそこで王様にバカ貴族ミスリルの欠陥を話せば問題はない。


 本当ならば、今すぐにでも王様の前ですべてをぶちまけてしまいたいのだが、そんな事をしてもただの罪人の狂言だと思われてしまう可能性がある。


 なので、俺が無実でがちゃんと証明された後、何故あのバカ貴族と騒動を起こしたのかを面会の時に王様に話さなければならない。


 しかし、それまでは俺の出る幕はないのでここでじっとしているしかない。


 しかし、ただじっとしているとどうしても眠気が襲ってくる。


「ふぁ~~~~」


 魔術師でもない俺が無理矢理に魔術を使うと、とんでもなく疲れるのだ。


 これは魔力マナを普段練りなれていない者に起こる現象で、肉体労働の後の疲労によく似ている。


 それに、ここ最近はずっと隠れて工房で剣をつくっていたせいで大分寝不足だった。


「あー、やばい。ちょっと、こ…れ、は」


 寝不足と、いきなり魔術を使ったこと、この二つが原因で強烈な睡魔が俺に襲い掛かってきた。


 しかし、ここで寝ると今必死に働いているユリアさん達とその部下の人たちに申し訳ないと思い、慌ててベッドから離れた。


「さすがに、これなら大丈夫だろ」


 ベッドから転がるようにしてどいて、牢屋の鉄格子に背中を預けて胡坐を組んで座った。


 背中が硬い鉄格子に当たって痛いし胡坐という眠りにくい体勢をとっているので、これなら眠らないだろうと思い、じっとユリアさん達がやってくるまで俺はこの体勢で待った。


 だが、体は執拗に睡眠を欲していたのか眠気は全くおさまらず、結局必死の抵抗の末、かなり無理な体勢のまま眠りに落ちてしまった。








 …無理な体勢で眠ったせいだろう。


 夢を見た。


 それもとびきり最悪の悪夢だ。


 俺は剣を打ち、それを一人の男に渡した。


 男はそれに喜び、そしてその剣を使って周りにいた人を殺し始めた。


 俺が突然のことに驚き、慌てて男を止めようとするが、体が動かなかった。


 いや、それどころか声も出せなかった。


 慌てて自分の体を見ると、俺の体は縄で拘束され、いつの間にかあった狭い鉄の檻に閉じ込められていた。


 俺は必死にそこから抜け出して男を止めようとするが、体はまったく動かない。


 その間に、男は人を殺し続けている。


 男も女も子供も老人も関係なく、男は人を殺し続ける。


 そして、気がつけば残ったのは二人の男女だけ。


 俺はその二人を見た時、声の出せない口から悲鳴を上げそうになった。


 俺は檻の中で男を止めようと必死に手を伸ばす。


 だが、檻の中からでは男を止める事は出来ず、男は持った剣で二人の男女に襲い掛かった。


 その光景を見た瞬間、俺は口から音のない絶叫を上げた。


二人の男女が襲われている間、限界まで口を開いて何度も喉を震わせた。


 肺がつぶれるほどに息を吸って、喉がつぶれるほどに声を出そうとしたが、…だめだった。


 二人の男女は剣を持った男に殺された。


 俺はその光景を見て、檻の中で男に向かって声もなく叫び続けた。


 そんな俺に男は気がつき、剣を持ってこちらにやってきた。


 俺はそいつに向かって殺すつもりで手を伸ばした。


 すると、何故か縄も鉄の檻も突然消えた。


 俺はその事に戸惑いながらも、男に向かって拳を振り上げた。


 そして、今にも俺の拳が男の顔に当たる瞬間、男は笑いながら言った。


「お前の剣は───に最適だ」と











ガッシャーーーン!!


「……っ!?」


 鉄格子がものすごい音を立てた事と、手に痛みが走った事で俺は目が覚めた。


 そして、目が覚めたと同時に「はっ、はっ、はっ、はっ」と荒い息をついた。


 まるで早鐘のように俺の心臓は鼓動している。


 俺は拘束された両手で胸を押さえながら、深呼吸を何度も何度も繰り返した。


 まるで発作を起こした病人のような姿に牢を監視していた看守が慌てた。


「おいっ! どうした!」


「はぁっ、はぁっ…」


 徐々に心臓の鼓動は戻っていく。


 だが、頭は混乱したままだ。


 …先ほどの『アレ』は夢だったのだと言う事はすでに理解している。


 だが、俺の剣で人を殺していく男。


 その男が殺した二人の男女。


 俺はその事を思い出し、顔を両手で覆った。


 鉄格子の外からは看守がうるさいほど叫んでいる。


 だが、俺は自分の感情が落ち着くまで、動く事はできなかった。


 死んだ二人の男女。


 その顔には見覚えがあった。


 忘れる事などできない。


 俺が小さい頃に死んでしまった。


 俺の、両親だ。


 戦争で俺や街の人を守るために死んだ、俺の両親。


 そしてその両親が、夢の中で男に切り殺され、また死んだ。


 夢の中の出来事だと云うのに、本当の両親はもうこの世にいないというのに。


 両親の死を見るのは、体が裂けそうなほど悲しかった。


 そして自分の作った剣が、自分の大切な人を傷つける姿を見るのは。


「っ……。」


 …死んでしまいたくなるほど、つらかった。


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