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馬車の中

「…やっぱり、とんだ欠陥品でした。混ぜる素材を少なくする代わりに、とんでもない物を混ぜてました」


俺は犯罪者なんかを護送するときに使う頑丈な馬車の中でそう言った。


 俺の目の前には二人の女性がいて、今のは二人に向けて言った言葉だ。


 一人は、牢屋に入れられた俺を助けてくれた王女様と一緒にいたユリアさん。


 もう一人は、その部下のリースさんだ。


 二人には今回の騒動で色々と手伝ってもらっている。


 具体的には、俺がミスリルを作るときに使う工房の手配や看板の落書きなどがそうだ。


 それに先ほどの俺の回収などもだ。


 王女様が城下に見学などと嘘をついてやってきて、魔術で騒ぎを起こしていた俺を捕まえてくれた。


 そしてこの後は、俺を『とある人』の場所まで犯罪者として運んでくれる。


 ちなみに、ユリアさんはともかく、リースさんが今回の話で色々と手伝ってくれたのは、俺にちょっとした借りがあるからだ。


 まぁそれほど大したことではないし、単なる誤解だったので俺は気にしていないのだが、本人が気にしているので、本人の希望通り手伝って貰う事にした。


「とんでもないもの? なんだそれは?」


 すこし考え事をしていると、先ほどの言葉に反応したリースさんが興味深そうに聞いてきた。その横にいるユリアさんも声には出さないが目で「話せ」と言っている。


 正直、答えると気分が悪くなりそうだったが、二人にも聞かせたほうがいいと思い俺は答えた。


 対面に座る二人に向かって、俺は小さく「…モンスターの体の一部です」と答えた。


「? それのどこがとんでもないものなんだ? 武器にモンスターの骨や鱗を使うのは珍しい事ではないだろ?」


 リースさんが俺の言葉に不思議そうに首を傾げた。


 確かに、武器を作る時の素材としてモンスターの骨や鱗の一部を使うのは実に一般的だ。


 だが、


「…確かに、普通の武器や鎧にモンスターの素材を使うのは不思議じゃないです。スケイルメイルなんかもあるぐらいですし、…でも、それがミスリルの素材に使われると話が変わってくるんですよ」


 そもそも、モンスターには『瘴気』と呼ばれる物質が体の中にある。


 『瘴気』は時にブレスや毒液として、モンスターの口や爪から飛び出し、人や動物に害を与える。


 特に『瘴気』はマナを汚染する。


 例えば、人の体に『瘴気』が入るとマナの流れを阻害して、怪我が治りにくくなるばかりか、病魔にかかりやすくなる。


 まぁ、ここまではモンスターに関しての一般常識内だろう。


 問題は次からだ、


「ミスリルにモンスターの素材を混ぜると、ミスリルは瘴気に汚染されます」


 爪や牙に残った瘴気がミスリルと混ざり、徐々に瘴気がミスリルを汚染していく。


 そして、次第に使用者も蝕む。


 俺はリースさんにそう説明した。


 だが、俺の質問に疑問を持ったリースさんは俺にこう聞いてきた。


「…だが、すでに死んだモンスターから剥ぎ取った爪や牙にあった瘴気は消えていくはずだろ? 現に、モンスターの素材で作った武器を使っていて体を汚染されたなど聞いたことがない」


 リースさんの疑問に俺はゆっくりと答えた。


「確かに、モンスターの爪や牙に残った瘴気は時間をかけて徐々に消えていきます。他にも教会に行って聖水をかけて貰えばもっと早く瘴気は消えるでしょう。実際、武器に加工するときはそうやって瘴気漬けの素材を浄化します。…まぁ、あの子爵もそれくらいの事ならしていただろうけど」


「なら、別に─」


「ミスリルは例外なんです」


 俺はリースさんの言葉を途中で切った。


「………。」


 言葉を途中で遮られ、少しムッととするリースさんに向かって俺は詳しく説明した。


「モンスターの研究家等でないと、詳しく知らないかもしれないですけど、モンスターの体に染み込んだ瘴気は、僅かですが残るんです。人体には影響がないほどの微量ですが」


 俺は親指と人指し指をつくかつかないかぐらいに近づけながら、そう説明した。


「…まさか、その微量な量がミスリルを汚染すると?」


 そこで、今まで全く会話に参加しなかったユリアさんが会話に参加してきた。


 俺はそのことに少し驚いたが、話を続けた。


「そうです。小指の爪の先ほどの僅かな量ですけど、ゆっくりとミスリルを汚染していきます。そして、徐々にマナの通りが悪くなり、使用者の体を蝕んでいきます」


「…それは人のマナに同調しようとする、ミスリルだから起こる影響ですか?」


 俺の話を聞いたユリアさんはものすごく真剣な顔で、そう聞いてきた。


 俺はそれに頷き答えた。


「そうです。粗悪品の品でも同調はしなくても、マナの流れをよくしようと僅かな補助ぐらいならできます。その時に使っているミスリルが汚染されていると─」


「体が徐々に汚染されると、」


「そういう事です」


「「………。」」


 二人は俺の肯定の言葉に黙り込んだ。


「…少し目的の場所まで急いだほうがいいな」


「…そうですねリース。急ぎましょう」


 俺の話しに顔を青くした二人は御者の人に向かって急ぐように命令した。


 ちなみに、御者は非番だったリースさんの後輩の隊員だ。なんでも一番気の弱くて口の堅い、二人に絶対逆らわない人らしい。


 その証拠に、命令を聞いた御者の人が鞭を思いっきり振り馬車が大きく揺れ始めた。


 どうやら全力で目的地に向かっているようだ。



 そして、目的地に近づくならばする事がある。


「…それではトール殿。大変心苦しいのですが、縄と口枷を」


「あー、了解です。気にせずやってください」


 ユリアさんはそう言って俺の前に縄と口枷を持ってきた。


 俺は何をするかわかっていたので、すんなり了承した。


「…では、失礼します」


 俺の了解を得たユリアさんは一度両手の手枷を外し、腕と胴周りを縄で縛った後、両手を後ろ手にしてもう一度枷をつけた。


 そして、最後に自害対策の口枷。


 見た目は完全に捕らえられた犯罪者だろう。


 ちなみに、この格好には意味がある。


 俺はこれから街中でテロ行為を働いたという事で、王城に連行される。


 一応それが誤解だったと二人から話もあるが、騒ぎを起こしていた原因は必ず聞かれる。


 その時に、俺は事のあらましと、子爵が作ったミスリルがどんなものだったのかを話す。


 すでに王城では俺を裁くために『とある人』が厳重な警備の中で待っている。


 俺がこれから会う人は、あのちびっこ王女の父親にしてこの国の最高権力者。


 つまりは、王様。


 国王だ。


 正直、俺は出来れば会いたくない。


 でも、こうしなければあのちびっこ王女をあのバカ貴族から守れない。


 この他にも、あのちびっこ王女を守る方法は色々とあったが、これが一番早くあの貴族を追い払う方法だと思った。


 さすがに、王様の前であの欠陥を言えば、今までの功績も吹っ飛んで王女に近づく事はもうないだろう。


 まぁ、さすがにバカ貴族のミスリルがここまで酷いものだとは思っていなかったが、


 当初は、俺のミスリルでバカ貴族のミスリルをぶっ壊して子爵をへこませた後、王様に『子爵のミスリルは大した事ない』と教えるだけのつもりだった。


 それで子爵のミスリルを使う顧客は減って、俺みたいな若造が作った剣に負けたという事で噂を流し、人前に出れなくするつもりだったのだ。


 だが、予定は大分狂ってしまった。


 モンスターの体の一部を混ぜて作ったミスリル。


 これは早く回収しなければとんでもない事になる。


 俺は内心あせりながら、揺れる馬車の振動に耐え馬車が王城に着くのをじっと待った。



早く次を書けるよう頑張ります。

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