勧誘
トールが育ての親であるドワーフ――ヴォガスに呼ばれて自宅の玄関に向かうと、そこには軍服をきた大男が背の低いヴォガスと話していた。
(……でけぇ。背が二メートルぐらいあるんじゃないのか)
「おっ! 来たなトール」
やって来たトールを見て、まず振り向いたのは髭もじゃの身の丈が一メートル半ほどのドワーフだった。
――ヴォガス=ザール
彼がトールの育ての親にして鍛冶の師匠。
そして、トールの両親達が死んでからの十年間、厄介者のトールをここまで育てたトールの大恩人でもある。
「むっ、この子が」
それに対し、大男の方はトールの事を見て驚いた後――ヴォガスの方を向いて彼と何か話し始めた。
「ヴォガス殿、…で…こち…噂…ですか?」
「そう…ワシ…の…だ」
声が小さくてよく聞こえなかったが……どうやらトールのことを話しているように聞こえた。
「おっちゃん?それで俺に客って言うのはこの人のこと?」
「んん?あぁそうだ。この人がお前のことを訪ねてきたんだ」
トールの問いかけに、ヴォガスはどこか歯切れが悪そうだった。
「ふ~ん、まぁいいや。それで軍人さん俺に何か用かい?」
トールはその軍人さんの事を見上げながら尋ねた。
「ふ~む」
軍人はトールの事ををじろじろ見た後に突然――
「トール君と言ったね? 君は『学校』に興味はないかね?」
と尋ねてきた。
今、自宅のダイニングではトールとヴォガスと軍人の大男がテーブルを挟んでの話し合いが行われていた。
「学校ってどういう意味?」
トールは先ほどの言葉を思い出しながら、軍人に尋ねた。
「王都の学院は、若くて才能ある若者を欲しがっていてね。風の噂でこの街には若いが腕の立つ鍛冶師がいると聞いてね、是非勧誘しようとこの町に寄ったわけだ」
「へぇー」
熱心に説明を始める大男であったが、トールは気のない返事を返した。
「……あまり気乗りしていないようだね?」
「いまさら俺に何を学べと?」
「それはもちろん未熟な自分の腕を磨くために───」
気乗りしないトールを再び熱く語り始めようとした大男であったが――
「――必要ないな」
ヴォガスの言葉が一言がの会話を断ち切った。
「それはどういう意味ですか?」
大男は意味がわからないと突然横槍を入れてきたヴォガスに尋ねた。
「鍛冶の技術で、こいつに物を教えられる者などいないということだ」
「…信じられませんな。自分達の技術には絶対の自信を持っているあなた達ドワーフが人間の若者をそこまで評価するとは…」
「それだけトールの鍛冶の腕は人間離れしておる」
「……」
――ドワーフが認めた人間の鍛冶師。
ヴォガスの言葉に相手の大男を黙ってしまった。
しかし――ヴォガスの言葉はまだそれで終わりではなかった。
「――だが、鍛冶以外のことならこの坊主はほとんど無知でな、そういったことも教えてくれるというのならば、トールはその学院に行くべきだな」
しかし今度はヴォガスの言葉にトールが驚いてしまった。
「なっ! おっちゃん何を……!」
あわててヴォガスの顔を見るトール。
「――――」
「っ……」
そこには真剣な表情でトールを見つめるヴォガス顔があった。トールは思わずそれに息を呑んだ。
「――トール。お前が鍛冶師を目指した理由を忘れたわけでなないだろう? お前の目指している剣を作るためには鍛冶の知識だけでは足りないとワシは思う。……だから、王都へ行けトール」
「お、俺は……」
ヴォガスの言葉に、自分が鍛冶師を目指した理由を思い出すトール。
――守る剣。
人を傷つけるのではなく、人を守る剣
それが自分の目指すべき目標。
「……」
――鍛冶の腕は確かにあがった。
でも、自分の作った剣は本当に人のことを守ることができるのか?
……最近はずっとそればかり考えていた。
(…おっちゃんに見抜かれてたか)
流石はおっちゃんだと思いながら、トールはガスに尋ねた。
「……おっちゃんは俺が王都の学院に行けば俺の目標が叶うと思うか?」
「わからん。だがこの小さな町ではお前の才能が潰れていくだけだということはわかる」
「…………」
「…………」
会話の途中、トールとヴォガスの二人はそのままずっと黙り込んでしまう。
「……トール君。返事なら急がなくても構わないのでゆっくりとヴォガス殿と話し合って──」
黙り込む二人を見て、大男は気を効かせようとしたが――
「……いや、決めたよ」
トールの口から出た強い意志のこもった言葉に、彼は思わず口を閉ざした。
「王都の学院に行って、俺は『守る剣』を作るよ」
――トールの夢を追いかける旅はこうして始まった。
なるべく話の内容がかぶらないよう頑張ります。
でもどこか似てしまったら大変申し訳ありません。
そのときは一度消して書き直すつもりです。
感想、誤字脱字の報告待っています。