勝負3
時間がかかりそうなので、出来上がったところだけ投稿しました。
申し訳ありません、まだ続きます。
「………。」
トールは無言で石畳に埋まった自分の剣を引き抜いた。
先ほどまでは炎を纏っていた剣だが今は元の剣に戻っている。
多少刀身に土が付いているが、それ以外はもとの美しい剣のままだ。
刃こぼれやヒビが入っている様子もない。
─だが、子爵の剣は。
「………。」
トールは自分の足元の近くにあった「ソレ」を剣を持っているほうとは逆の手で掴んだ。
「ソレ」はほんの少し前までは剣だったもの。
だが、今は刀身が二つに折れ、刀身のない柄だけが石畳から飛び出している。
それは先ほどのトールの一撃で破壊された、子爵の剣の残骸だった。
「…これが一級品か?」
トールはその剣の残骸を引き抜き、こちらを唖然と見ていた子爵に顔を向けて言った。
「……っ!」
トールの言葉に広場の隅にいた子爵が顔を歪ませた。
「…高品質のミスリルを材料にして腕のいい鍛冶師に作らせたものが、これか?」
「っ…! き、貴様っ」
子爵は唸り、トールを殺気を込めた目で睨みつける。
そして、子爵は肩を怒らせながらトールに近づき、唾が飛ぶ勢いでまくし立てた。
「ま、魔術を使うなど反則ではないか! そんな事をすればどんな剣だろうが壊れるに決まっている!」
「………。」
息がかかりそうな近くでまくし立てる子爵に対してトールは、
「…材料はなんだ?」
と、冷たい声でそう言った。
「っ…!?」
先ほどまで早口でまくし立てていた子爵はその声に威圧された。
そして子爵の代わりに、攻守が交代したかのようにトールが喋り始めた。
「…この剣を作るのに使った材料はなんだって聞いてるんだよ。ミスリルの原石以外に何を混ぜてインゴットを作ったんだ? 妖精の羽の粉や一角獣の角を砕いた粉末か? それとも独自の製法で作った新薬か?」
「そ、そんなことを聞いてどうする…」
「俺の質問に答えろ」
トールは自分の質問に対して質問を返そうとする子爵の言葉を遮った。
そして、トールは自分の鼻が子爵の顔につきそうな程に顔を近づけ、怖ろしいほどの無表情でまた質問を繰り返した。
「…材料はなんだ?」
「あ、うぁ…」
子爵は自分を瞬きもせずに無表情で見つめるトールに対して恐怖を覚えた。
それは、今まで「貴族」という特権階級に生まれ、温室育ちの子爵にとって初めての感覚だった。
(な、なんなのだコイツは…! 貴族の私に、何故こんな行動がとれる!)
特権階級の貴族に対して、平民の、しかもこんな若造が貴族を脅すなど聞いたことがない。
こんな事をすれば貴族不敬罪で首をはねられてもおかしくない。
それなのに目の前の若造は怖れるどころか、質問に答えない子爵に苛立って「ガッ」と胸倉を掴んできた。
そして、胸倉を掴みながらドスの効いた声で「早く、答えろ」と子爵に命令してきた。
「ひっ…!」
子爵はそのドスの聞いた声と、瞬き一つせずに自分の顔を睨みつけるトールの無表情に怯えた。
そして。
「わ、わかった! い、いま喋る! だから、その手を離してくれ!」
恐怖心から子爵は、怯えながらトールに材料に使った素材をすべて話した。
それを聞いている間のトールは、一時も子爵の胸倉を掴んだ手の握力を緩める事はなかった
子爵の話をすべて聞き終わったトールは掴んでいた子爵の胸倉を離した。
「くそっ…!」
トールは忌々しそうに吐き捨て、ゲホゲホと喉を押さえて咳き込む子爵を睨んだ。
「おいっ…!」
そしてトールは子爵に向かって何かを言おうとするが、それを遮った人達がいた。
キンッ!!
ミスリル製の槍をトールの目の前で交差させ、動きを封じた二人の男。
「っ……!」
それは最初子爵の周りにいた護衛者の二人だった。
彼らは自分の雇い主が胸倉を掴まれているのをただ見ていただけではなかった。
トールが子爵の胸倉を離したのをずっと待っていたのだ。
その証拠に、子爵の胸倉を離したトールの胸の前で槍を交差させて動きを封じている。
「邪魔を、するなっ…!」
だが、その槍をトールは手で押しのけるようにして子爵に向かおうとする。
その様子に槍を持った二人の護衛者は驚くが、子爵に近づけさせないよう、必死に槍に力を込める。
飛び掛らんばかりに子爵に向かっていくトール。
それを何とか止めようとしている護衛者達。
そして、護衛者に守られる形でトールに怯える子爵。
さらにその様子を唖然と見つめる街の住民。
すでに場は修羅場となっており、収拾がつかない。
「これからどうなるのか?」と、その場にいた人達がトールたちの様子を遠巻きに見ていると、意外な人々がこの騒ぎを収める為にやってきた。