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閑話 バレンタインデー

一年の中でこの日は、トールにとって実に怖ろしい日になる。



バレンタインデー


女性が好意をもつ男性に、チョコを渡す日。


だが別に、トールに好きな娘がいて、その子から毎年チョコがもらえないのが怖いとかそういったことではない。


そんな甘い話ではない。



ことの始まりは数年前のバレンタインデーだ。


その日、トールは依頼された品を返しに来ていた。


品物は壊れた鍋だ。


鍋の底に穴が空いてしまったので、直して返却に来たのだった。


トールはその鍋を持ち主の家の奥さんに返し、何か食料でも買ってから自分の家に帰ろうとしたところ、家の中にいた奥さんの子どもに腹にタックルされた。


「ぐぉっ…!」


頭がみぞおちにあたり思わず膝を突きそうになった。だが、そこは年長者の意地でなんとか踏みとどまる。


でも、そんなトールのことなど子供は気にしてはいない。


子供は笑顔でニコニコ笑いながらトールの服の端っこを握って、紙に包まれた小さなお菓子を見せてきた。


トールはおいしいお菓子でも自慢でもしに来たのかと思いながら、ずきずき痛む腹を気にしながら目線を子どもと合わせて話しかけた。


「あー、それどうしたんだ? お母さんにもらったのか?」


「違うっ! トール兄ちゃんにあげるのっ!」


トールは思わず「は?」という顔になり、子どもとその母親を見た。


すると、母親のほうから「今日はバレンタインだからよ」とにこやかに言われて、やっと理解した。


おそらく、背伸びしたい子どもが父親以外の人にチョコでもあげたくなったのだろう。


なんだか微笑ましいと思いながら、チョコをもらってお礼の言葉をいった。


「そうかそうかー。いやー、ありがとう。あっ、必ずお返しもするからな」


「うん! 楽しみにまってる!」


トールは頭でも撫でてやろうかと思ったが、背伸びしたい子どもにそれはまずいだろうと思ってそれは止めておいた。


そして、トールは最後にその家の奥さんと子供に手を振りながら自分の家に帰っていった。



そして、トールは家に帰ってからお礼の品を色々と考えた。


色々と考えた結果。


お返しのホワイトデーの日。


トールはあのチョコをもらった子供の家にいき、さまざまな動物の絵が彫られた手製の木箱をプレゼントしたのだった。


もちろん、箱の中には飴玉のお菓子もいっぱい入れている。


少し出費はかさんだが子供はとても喜び、トールも喜んでもらえてとても嬉しかった。


だが、トールは知らなかった。


その子供には少し歳の離れた姉がいて、…その姉がおしゃべりだったという事に。



次の年から、『素敵なお返しをしてくれるトール』に毎年沢山のチョコが渡されるようになった。


トールは、毎年何にかと理由を付けてそれらを断ろうとする。


だが、そのたびに。



『大丈夫! どれだけ時間がかかってもトール君は必ずお返しをしてくれると信じてるからっ!』


『そうよ! トール君はお返しは必ず返してくれる義理堅い人なんだからっ!』


他にも。


『あっ、そのお菓子はなに? とてもおいしそうね! えっ、これがお返し? もう、トール君たら冗談ばっかり』


『えっ、妹にはあんなに素敵なものを送って、私には飴玉? これって何? 私が妹ほど可愛くないってこと?』




…もう、二月から三月はトールにとって地獄だった。


しかも、彼女達はチョコの包みにカードを挟んで、それを注文書にして欲しいものを強請るのだ。


そのあまりの極悪ぶりには、町のすべての男達が同情し、その季節になるとトールの家に色々な包みを送る。

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