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閑話~手紙

PV50万アクセス記念です。



田舎の小さな町の酒場の酔っ払いの中に一人のドワーフがいた。


そのドワーフは実に楽しそうに人間の中に混じり、酒を飲んでいる。


ドワーフは本来、人とは馴れ合わない気難しい性格のものが多いのだが、そのドワーフはずいぶんと変わり者だった。


そのドワーフの名前は、ヴォガス=ザール。


町一番の鍛冶師にして、トール=グラノアの養父だった。









「ヴォガスさん、今日はずいぶんと機嫌が良いですね」


と、酒場の店主が言って、追加の酒をヴォガス達のいるテーブルに置いた。


それをヴォガス達は奪い合うようにして手に取る。


そして、ジョッキいっぱいに注がれた麦酒をゴクッゴクッと喉を鳴らしながら飲んだ。



「ぶっはー! 機嫌が良いのがわかるか店主!」


と、誰よりも早くジョッキを空にして、ヴォガスは店主にそう言った。


その顔はアルコールで少し赤みが目立つが、それよりも目立つのはその笑顔だ。


まるで、誰かにそう言ってもらえるのを待っていたかのように実に嬉しそうだ。


それを見た店主は心得たものでヴォガスに笑顔で言った。



「はい。今日は一段と機嫌がいいように見えますよ。なにかいいことでもありましたか?」


すると、それを聞いたヴォガスは満面の笑みを浮かべ懐をガサガサと探り出す。



「うむ! 実は今日これが届いてな」


とヴォガスは嬉しそうに一枚の紙を取り出した。


店主はそれを見てヴォガスにそれがなんなのかを聞いた。



「それは?」


「うむ、これはトールからの手紙じゃ!」



「「えっ!?」」



それを聞いた店主も店の酔っ払いたちも全員が驚いて、その手紙に注目した。




つい先日、この町から旅立った青年の事を彼らもまた心配していたからだ。


それは、十年前の戦争が理由だ。


十年前の戦争で、トールの両親は町の人間を一人でも多く救うため、足止めをして敵の進軍を遅らせた。


その事に町の住民は大変な恩を感じていた。


おかげで町の人間は全滅せず、町を完全に壊されなかった。


だから生き残った町の住民は、トールを町を全滅から救ってくれた恩人の子として、いつも気にかけていた。


トールが町から離れると聞いた時は、町の住民が皆心配して、引きとめようとしたほどだ。


そのトールからの手紙。


酔っ払い達は一気に目が覚め、その手紙の内容を聞こうとヴォガスに詰め寄った。



「ヴ、ヴォガスさん。手紙にはなんて書いてあるんですか?」「元気にやってるのか!?」「なにか困った事とか書かれてないか?」「風邪とか引いてないだろうな?」「腹はすかせてないか?」


と、まるで心配性の母親の様な台詞が酔っ払いたちの口から出てくる。



それを聞いて、ヴォガスは「…お主らはいつからトールの母親になった」と若干呆れている。




「んなぁことどうだっていいから、手紙の内容教えてくれよ!」「そうだそうだ!」「はやくはやく」「なんて書かれてるんだ!」


だが、酔っ払い達はそんな呆れた言葉など耳に入らないようで口々に手紙の内容を教えてくれと催促する。



それを見たヴォガスは勿体つけるのはやめようと「では、」と言って手紙の内容を話し始めた。






手紙の内容は多くはなかった。


学園に通ってからすぐに手紙を書いたのだろう、手紙は学園の事について大雑把に書かれており、入学してすぐに友達が出来たとか、授業が大変だとかが書かれていた。


手紙は三枚ほどあり、一枚は学園での事。


二枚目は町の住民に対して、心配するな、頑張ってる、大丈夫だ、など気を使った文が書かれていた。


それを聞いた酔っ払い達はしみじみと手紙に書かれた内容に聞き入っていた。



「では、最後の一枚だの」


だが、最後の一枚を読もうとした所でヴォガスが少し口ごもった。


それを見ていた酔っ払いたちはどうしたのかと首を傾げる。


そして、しばらく「むぅ」と悩んだ後、



「…店主任せた。手紙はしばらく預ける。ワシは用を思い出したので今日は帰る」



と言って手紙を店主に渡すと、そそくさと帰ってしまった。


それを呆然と見送った酔っ払いと店主だが、それよりも最後の一枚の内容が気になった彼らは最後の一枚を店主に早く読むように頼んだ。



そして、しばらく読み進んでいくうちに、彼らはヴォガスが帰った理由を知った。


照れくさかったのだ。


手紙にはトールが養父に対して、心配する言葉や感謝の言葉が書かれており、聞いてるこっちがむず痒くなるほどだった。



「そして最後に…、ん?おやおやこれは」


と店主はなにやら手紙の最後を読んでニコニコと笑っている。



「おいおい、マスター! ここまで来て最後の最後にもったいぶるのは止めようぜ!」


酔っ払いたちは店主がもったいぶっているのだと思い、早く言ってくれと催促した。



「いやいや、すいません。あまりにも泣かせる言葉が書かれていたので」


「ん? なんか最後に書かれてたのか?」


「えぇ、素晴らしい言葉が書かれていましたよ。是非皆さんも見てください。」


「「?」」



店主がそう言って酔っ払いたちの座るテーブルに手紙を置いた。


「んー? どれどれ」「なんだなんだ」「なにが書かれてたんだ?」「ちょっと詰めるな詰めるな」「お前こそ詰めるな」



そして、酔っ払い達が手紙の最後を読む。


そこにはこう書かれていた。





最後に、酒を飲むのもいいですけど程々に。


ではまた今度、手紙を書きます。


世界一の鍛冶師にして我が師匠ヴォガス=ザールへ



貴方の弟子にして、不肖の息子トール=グラノアより








それを見た酔っ払い達は口に笑顔を浮かべた。



「あぁなるほど」「これはキクなぁ」「いやぁ、良い子だな」「うんうん。」「ヴォガスさんが帰る訳だ」「よしじゃぁ、あのひとの分まで飲んでやるか!」「おし付き合うぞ!」「朝まで飲むか!」「おおーーー!!」




そして、彼らは夜が更け、朝になるまで酒を浴びるように飲んだ。





「やさしい」鍛冶師っぽいところが見たいという意見があったので、主人公のやさしい面を書いて見ました。


少しは主人公の「やさしい」所を見せることが出来たでしょうか?


期待に沿えたのなら幸いです。






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