急展開
(…どうしよう。)
私は今、男の人と一緒にカフェにいる。
こんな事、今まで経験がないのですごく緊張する。
だけど、もっと緊張するのは、
いつ私の『正体』がバレてしまうかだ。
私の『正体』はバレてしまうと色々とまずい事になってしまう。
だから目の前の男性はもちろん、他の人にも絶対にバレる訳にはいかない。
でも、幸運なことに目の前の男性は私をただの迷子だと思っているようで、私の『正体』に気がつく様子はない。
それに私は少し安心した。
だけど、
「あー、番所でも行ってみるか?」
「え?」
「迷子になった娘を探しにお前の両親がいるかもしれない。」
突然、目の前の男性がぶっきらぼうに私にそう言った。
家の住所を質問され、答えられなくて黙ってしまった私を心配そうな顔で見ながら、
ぶっきらぼうに、でも優しい声でそう言った。
本当は迷子でもない私を、本当に心配して
その事に私はすごい罪悪感を覚えた。
目の前の彼にはパレードで助けてもらい、この喫茶店ではお茶をおごってもらい、さらには迷子の心配までさせているのに、
自分は迷子の振りをして彼を騙している。
「…っぁ。」
その事実に私は我慢できなくなった。
「っぁ…、うっ…、ひっく」
喉から嗚咽が漏れ、目からはボロボロと涙が零れた。
「うぉっ、ど、どうした!?ど、どっか痛いのか?」
すると、突然泣き出した私に驚き、目の前の彼が心配して椅子から立ち上がり駆け寄ってきた。
「は、腹か?それとも頭か?ど、どこが痛い?」
彼は私の椅子の近くに膝を突いて、凄く動揺した声でどこが痛いのか聞いてきた。
「えっぐ…ひっく、…だ、だい、じょうぶ、です。」
私はそれに、これ以上彼を困らせてはいけないと思い、言葉に詰まりながらもなんとか大丈夫だと答えた。
「ほ、本当か?我慢してないか?」
でも彼は、私の言葉を聞いてもまだ心配そうだった。
私は彼を安心させようと、彼に「本当に大丈夫です。」と声をかけようとしたのだけど、
ガッチャン!!
「失礼!!こちらに貴族のご令嬢が迷い込んではいないだろうか!」
突然、私達がいるカフェに鎧を着込んだ騎士が飛び込んで来て、その言葉を彼に言うことは出来なかった。
突然店に入ってきた騎士が店内を見渡していたら俺のほうを見ていきなり叫んだ。
「貴様っ!そこを動くな!!」
「は?」
突然の出来事に間抜けな声が出た。
いきなり泣き出した少女をあやしていたら、今度は厳つい鎧を着込んだ騎士に突然怒鳴られる。
多分、俺じゃなくてもこの展開には誰もついていけないと思う。
「あー、よく状況がわからないんで説明してくれません?」
展開についていけない俺は、間抜けな顔のまま騎士にどういうことか聞いた。
「白々しい!それで言い逃れができると思っているのか!」
「あー、いや、別にいい逃れとかじゃなくて、ホントに意味が」
すると、目の前の騎士が顔を真っ赤にして怒り出してしまった。
なぜ騎士が怒り出すのか分からず、俺はさらに混乱した。
何とか激怒する騎士をなだめようとするのだが、全然効果がない。
そして、
最後には騎士が腰にある剣に手をかけてしまった。
「貴様っ!いい加減にしろっ!」
そう言って騎士は腰の剣帯からスラリと細身のサーベルを抜いた。
「あっ!」
私はそれに見て流石にまずいと思い、騎士を止めるべく声を出そうとした。
「仕舞え」
だけど、隣から聞こえたその声に、私は声を出せずに固まった。
その声は私の隣にいる『彼』からした。
声も確かに『彼』の声だった。
でも、その声は今まで聞いた『彼』の声とはかけ離れすぎていた。
その声には私を心配してくれた時の優しさも、泣き出した私を見たときの動揺もなかった。
まるで別人のようだと思い、私は『彼』の横顔を見た。
(え?)
そして、私は驚いた。
私は『彼』はすごく怖い顔をしていると思ったのだ。
でも違った。
『彼』の横顔は、
まるで、泣くのを必死に我慢している子供のようだった。
「今すぐ『ソレ』を仕舞え。」
俺は目の前に騎士に剣を仕舞うように命令する。
「な、なにを言っている!自分の状況が分かっているのか!」
でも、騎士は喚くばかりで俺の命令を聞こうとしない。
仕方がないので俺は強攻策に出る事にした。
コッコッ コッコッ
一歩一歩、俺は騎士に近づく。
「ひっ!」
ピタリ
そして、騎士との距離が殆どなくなったところで立ち止まった。
「な、な、」
「黙れ。」
まだ何か喋ろうとした騎士に向かって俺は黙るように命令した。
「うっ」
今度は少しは命令を聞いたようで騎士はただ呻くだけだった。
俺はそれに満足しながら騎士の持っている剣を素手のまま片手で掴んだ。
「っ!」
「…俺は子供の前で剣を抜くような奴が大嫌いなんだ。」
そして、剣を掴んでいる手とは反対の手を手刀の形にする。
「なにより、俺の前で意味もなく剣を抜くな。」
そのまま俺は手刀を剣の峰に向かって振り下ろした。
ガンッ!!
カラン カラン
「っ!?」
「…この国の騎士は騎士の癖に剣をただの道具としか思ってないのかよ。」
俺は折れた剣を驚愕の目で見つめる騎士を横目に、元いたテーブルに戻った。
「悪いなちびっこ。店にいられなくなったから外に出よう。」
「え、あ、は、はい。」
俺はなるべく優しい声で目の前の少女に声をかけた。
やっと泣き止んだのに怖がらせてまた泣かせたら可哀想だと思ったからだ。
幸いにも少女は泣かずに椅子からスっと立ち上がった。
そして、俺はお茶の代金をテーブルに置いてから唖然とする客と騎士を無視して店を出た。
だが、
バチンッ
「ぐぁ!?」
店を出て一歩踏み出した瞬間、いきなり後頭部に激痛が走った。
そして、なんだか目がちかちかして体に力が入らない。
気がつけば俺は地面に膝を突いていた。
(なにが起きた?)
「…まだ気を失わないのか。ずいぶんタフな誘拐犯だな。」
混乱する俺の頭の上からは大人の女性の冷ややかな声がかすかに聞こえた。
「まぁ、結局最後は変わらないんだがな。」
バチッ
「がぁっ!?」
そして、冷ややかな声と一緒にさらなる激痛が走った。
俺はそれになす術がなく、一瞬で、意識を手放した。
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