製作終了
トールが工房に通い続けて数週間。
鎧の製作は順調に進んだ。
まず、授業中にも作っていた鎖帷子は十分な長さに仕上がった。
次にサリアに着けて貰う予定の鎧も問題なく完成した。
そして今
トールは最後の鍛冶に取り掛かっている。
「馬鎧」と呼ばれるものがある。
騎兵などが馬に乗って戦う場合、馬が狙われる可能性がある。
「馬鎧」はそんな馬を守るために作られた馬専用の「鎧」だ。
馬の頭を守る「馬面」。
胸を守る「胸甲」。
馬の尻の部分を守る「尻甲」。
「馬鎧」は大きく分けて以上の三つの部位に分かれる。
馬が負傷するのを避けるために「馬鎧」は頑丈に、しかし機動性を損なわないように可能なだけ軽量に作る。
それが「馬鎧」を作る上での鉄則だ。
だが、鎧というものは防御を重視すると機動性が犠牲になり、逆に機動性を重視すると防御が犠牲になる。
なので「馬鎧」を作る時は防御と機動性を上手くつりあわせて作らなくてはならない。
防御と機動性の両方を完璧に兼ね備えた「馬鎧」。
そんなものは存在しない
と思われていた。
だが、とある国の学院の工房で「ソレ」は完成しようとしていた。
鍛冶師の血と汗と魔力を大量に吸って
「ソレ」は作られていた。
カンカンカンカン
学院の工房の一角でトールは鎖帷子と白銀に輝くかなりゴツイ「お面」の様なものを止め具で固定していた。
ぐいっぐいっ
そして何度か引っ張って不備が無いか確認する。
「んー、大丈夫そうだな。」
固定が完璧だと確認すると大きな布でそれを包んで部屋から出て行った。
学院内の馬小屋──
「部長さん」
「ん?おぉトール」
「…『例のアレ』ついに完成しました」
「っ!!ついに最後のパーツが出来たのか!!」
「えぇ。これが最後です。」
「よし!これで祭りに間に合うな。」
「はい。」
「では祭り当日までこいつは俺が預かろう。」
「お手数をおかけします。」
「なーにコイツが見つかって騒がれるのを防ぐためなら仕方ないさ。幸いここは物が多いから隠し物をするときは便利だからな。祭りまでの数日間は余裕で隠せるさ」
「よろしくお願いします。」
「おう任せておけ!!」
そんなやり取りが学院の馬小屋であった事など大抵の人は知らず
時間は緩やかに流れる。
王都は祭りを前に徐々に活気づき、人は期待で胸を膨らませていく。
そして
花祭りが始まる。
次回花祭り当日
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