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材料









長い時間話していたので、外は真っ暗だった。


俺は、それを理由に「ミスリルの無薬品加工ができる」という話の追求をしてくる三人から逃げる事にした。


ドワーフの鍛冶技術は人間には不可能だというのが世の中の常識だ


それなのに、俺みたいな奴がドワーフと同じものが出来ると「聞いても」信じられるはずがない。


だから、「見て」信じてもらうことにした。


そして俺は寮に帰って、用意を始めた。












次の日の早朝、トールの右手には布を巻いた棒状の物があり、背中には大きな籠を背負っていた。



「まず材料がなければ話にならないからな」



そう言って、トールは朝早くに王都から出た。



王都から歩いてしばらく歩いたところには深い森がある。



トールはその森の中にズンズンと入っていく。




そして、森の一番奥まで入るとつぶやいた。



「…ここら辺なら『いそう』だな。」




トールは籠を置き、次に大きな声で叫んだ。



「土の精よ!!あなた達に用がある!!どうか現れて俺の話を聞いてくれ!!」


普段使うことの少ない敬語を使ってトールは何度も呼びかけた。


静かな森にトールの声がこだまする。


深い森の中で大きな声を出すことは大変危険で、下手をすればモンスターが現れる可能性だってある。


だが、トールはそんな事はお構いなしに大声で尚も叫んだ。



「俺の名前はトール=グラノア!土の民であるドワーフに育てられた人の子だ!今日はあなた達と取引をするためにここに来た」



叫んだ後、今度はトールは目を閉じて耳をすませた。



すると、



「一体、何の用だ?人の子がワシ達に」「人間など追い返せ」「じゃが、ドワーフに育てられたと言ったぞ。」「同じ土の民が育てた者ならワシ達にとっては同胞じゃろう」「嘘かも知れんぞ?」「そうじゃそうじゃ」「人は平気で嘘を吐く」




小さな、しわがれた老人の声が複数聞こえた。「彼等」の姿は見えず声だけが聞こえる。


そして、「彼等」の声の大半はトールのことを疑っている。


「嘘ではないです!俺は確かにドワーフに育てられました!」


その声に、トールは必死に自分の言葉が嘘ではないと返した。



その言葉を聞いた「彼等」は




「証拠を見せてみろ」「そうだ証拠だ」「ドワーフに育てられたなら何か作ったものが在るだろう」「それを見せろ」



と言ってきた。



トールはその言葉を聞き、籠の中に入れてあった布に巻かれた棒状の物を取り出した。



トールは巻かれた布を取り、よく見えるよう頭上にかざした。



「これは俺が先日鍛えた剣です!養父から学んだ技術で作った剣です!これが俺がドワーフに育てられた証拠になるはずです。


どうか御覧ください!」



布から出てきたのは先日、トールが決闘の時に鍛えたダマスカス刀だ。



その剣を見た「彼等」は



「おぉ!!」「ダマスカスじゃ!」「あの木目はまさしく!」「素晴らしい!」「アレを作るのはドワーフが得意だったはず」


「あの人の子の言葉は正しかった!」「うむ。間違いなくドワーフの子じゃ!」「ワシ達の同胞じゃ!」



そう言って、口々にトールのことを認めた。



そして、



「人の子よ、今までの非礼を詫びよう。お主は確かにドワーフの子じゃ。」



「彼等」は姿を現した。



トールはその姿を見て笑いながら言った。



「いいえ気にしないでください。『ノーム』の人嫌いはよく知ってますから。」



それを聞いた「彼等」はしわがれた声で楽しそうに笑った。








『ノーム』




土の精と呼ばれ、彼等が土の中によくもぐり鉱石や宝石を掘ることからそう呼ばれる。


ドワーフが鍛冶を得意なように彼等も鍛冶を得意とする。ただしドワーフが剣や鎧を得意なことに対して、ノームは指輪などの装飾品を作ることが得意だ。


彼等は老人のような小人の姿をしていて、主に鉱山の深くや森の奥の土の中に住んでいる。


ノームは人嫌いで有名で、まず人間の前に姿を現すことはない。


土の民と言う言葉は、鉱山など土に馴染み深い種族の者達のことだ。ドワーフもそれに含まれる。


他にも、エルフやニンフなど森に馴染みのある種族は森の民と呼ばれる。





トールがノーム達に接触を試みたのは、ある取引をするためだ。




「この剣とミスリルの原石を交換してもらいたいんです。」




トールは自分の膝ほどしか身長のない彼等の前で膝を突いて、頭を下げてそう頼んだ。


彼等は珍しい鉱石を土にもぐって手に入れる。その中にはミスリルの原石も含まれる。


トールは彼等のその習性を頼って、彼等に取引を持ちかけたのだ。





「ミスリル?」「なにか作りたいのか」「いいのでないか?先ほどの非礼の侘びとしてくれてやれば」「それに貴重なダマスカスの剣をもらえるそうだしのぉ」「では、持ってこよう」「どれくらい必要だ」「こんな珍しい客は久しぶりなんじゃから、あるだけくれてやれ」「そうだ。そうだ。」





正直ここまで来るまでの間、ノームが頼みを聞いてくれるかわからなかった。


しかし、トールの頼みごとはノーム達にとってそれほど大したことではなかったようで、あっさりと取引は成立した。


そして、ノーム達はどこからか銀色に輝く塊を次々に運んで来てくれた。銀の塊はミスリルの原石だ。


気がつけば持ってきた籠いっぱいのミスリルの原石が手に入った。



「こんなにいっぱいもらっていいの?」



トールが籠を見て思わず敬語を忘れて、足元にいるノーム達に聞くが、みんな口を揃えて「「気にするな」」という。



「…それじゃ、お言葉に甘えてもらっていきます。」



トールは頭を下げてから剣をノーム達に渡した後、籠を背負った。


そして、なごり惜しむノームと手を振って別れ、もと来た道を戻り王都に帰って行った。


ノームに渡した剣はおそらく彼等が細工をするときの道具にするために鋳潰されるだろう。


せっかく鍛えた剣がなくなるのは寂しい気もするが、防護策もない今の状態では剣を盗まれる可能性もある。


俺の剣で誰かを傷つけられるかもしれない、それならば争いごとに関心のないノームに渡した方が何倍もいい。


そう考えてからトールは、今度は背中に背負った籠の中身を見た。



「んー、それにしても。これだけの量のミスリルは買えばいくらぐらいになるんだ?」



おそらく、王都に着けば門番や街の人間から驚かれることだろう。


なにせ背中に金貨を背負っているようなものだ。




「…まぁ、どうだっていいか」




だが、ドワーフに育てられて鍛冶にしか興味のないトールには背中のミスリルの原石はただの「材料」に過ぎず売って儲けようなどとは考えていなかった。


誤字脱字の報告と感想を待っています。


今回すごい書くのが疲れました。変なところが在るかもしれませんがどうか笑って許してください。


次の話から主人公が本格的に研究室を手に入れるために動き出します



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