ミスリル
「まぁ、そんなに難しい話でもないんだ。だって、今出回っているミスリル製の道具って殆どが人間が作った粗悪品だし。だからそれを上回るものを作れば…」
「「ちょっと待て。」」
俺がこれからミスリルの加工技術の向上の説明を始めようとしたところ。ディースとサリアから横槍が入った。
「ん? どうかした?」
「いやいやいやいやいや! お前今すごい事言っただろ! 何だ粗悪品て!」
ディースが身を乗りだすようにして俺の先ほど言った「粗悪品」といった言葉の意味を聞く。
サリアは口には出さないが目で「どういうことか説明しろ」と言っている。武術部でないニアはいまいちピンとこないのか首をかしげて俺達を見ている。
「あー、それか。まぁ簡単に説明すると、ミスリルに色々と薬品を混ぜて作ったインゴットを加工して作ったのが、今出回ってるミスリル製の道具なんだ。これなら普通の人間でもミスリルの加工が出来る」
俺は三人になるべくわかりやすく、「人間の作る」ミスリル製の道具の作り方を教えた。
「それがなんで粗悪品なんだ?」
「さっきディースが言ってただろ?『ドワーフじゃないとまともな物ができない』って、つまりこの方法だと不純物が多いからその分だけ魔力の通りが悪くて耐久性も低い『まがい物』なんだ。純正のミスリル製のものと比べると明らかに粗悪品なんだよ」
「あぁなるほど」
「ふむ」
ディースとサリアの二人が納得して、ニアが「へー、そうなんだ」と感心する。
三人が納得したので説明の続きを再開する。
「今、出回っている粗悪品を上回るものを作ることが出来れば、学院からは間違いなく「研究室」がもらえる。」
「なんでそこまで確信を持ってんだ?」
「教会だよ」
「教会?」
「そっ。教会の人間は聖なる金属って言われるミスリルをよく身に着けてるんだけど、大抵は人間が作った粗悪品なわけ。教会は他種族の作ったものは絶対に身に付けないらしいから」
なんでも教会のお偉いさんが厳しく禁止しているらしい。理由は多分つまらないプライドだろうと俺は思っている。
「だから、人間が作るもので今までより品質がよければ教会は絶対欲しがる。」
「だがそれがどうした?別に教会が欲しがろうが意味ないだろう?」
今度はサリアが質問する。その質問に俺はニターっと笑った。
「いーや、教会と仲の悪い王家はそうでもないだろ? こんな教会に対して優位に立てそうな情報を見逃すはずがない。なにより教会から金を毟り取るチャンスだぞ?」
俺の言葉に三人は「あっ」と顔を見合わせる。
どうやら俺の考えがみんなわかったようだ。俺はそれに満足しながら三人にわざとらしく聞く。
「そんな王家に受けのいい、こんな研究成果を学院が無視するか?」
「確かにその研究成果は学院も認めるな。」
サリアは俺の考えに納得してくれた。残りの二人も首を縦に振って頷いている。
「だろ?」
「だが」
そこでサリアが俺のことを疑わしそうな目で見る。
「ん?」
「お前は本当に今までよりより質のいいミスリル製の道具が作れるのか?確かにお前の鍛冶の技術は大したものだが…」
彼女はどうやら俺が本当に作れるのか疑問に思っているようだ。
なのでその疑いを晴らすために俺は力強く答えた。
「作れるよ。だって俺、普通に薬品なしでミスリル加工できるから。」
さらに、「つーかドワーフと同じものが作れる」って言ったら「「はぁ!?」」と三人に驚かれた。
ドワーフはミスリルを加工するときは薬品など全く使わずに、ただのミスリルのインゴットから見事な剣や杖を作ることが出来る。
ドワーフの作るミスリルの剣は比べ物にならないほどの強度と切れ味を持ち、杖は魔術師の魔力の流れをスムーズにして、魔術の発動を素早くしさらに威力を向上させる。
さらにここからがミスリルという金属の特性の一つだが、ミスリルは持ち主の魔力に反応して「軽く」なる。
これは別に重さがなくなるわけではなく、ミスリルという金属が持ち主の魔力と同調することで、まるでミスリルが体の一部になったかのように重さを感じなくさせるのだ。
だが、ここまでミスリルの特性を発揮させるのは人間ではまず不可能。
せいぜい頑丈で魔力のよく通う道具が出来る程度で、同調も起きない。
ドワーフの並外れた鍛冶の技術があってこそ、ミスリルはその特性を発揮する。
なのに、あろうことか人間のしかも十代そこそこの若造がドワーフと同じものが出来ると言った。
彼の名はトール=グラノア
それがドワーフに育てられた、ドワーフの技術を身につけた人間の鍛冶師の名。
すごい疲れました。特に設定を考えるのが
話はまだすこし続きます。
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