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気晴らし

 怯えるクードに最後の忠告を与えた後、トールはギャラリーの視線や生徒会の人間の制止を無視して、寮の自分の部屋に帰った。


 部屋に帰ったトールは、手に持っていたダマスカス刀を机の上に置いてからベッドに横になった。


 そのまま寝てしまおうと思ったが、夕食前のこの時間ではさすがに眠気はやって来ない。


 そして、ただベットに横になってボーっとしていると、どうしても今日のことを思いだしてしまう。


 思い出すのは、クードとのやり取りや奴の台詞だ。


 先ほどあれだけ脅したのに、まだ腹の虫は収まらない。


「…くそ、一発殴っとけば良かった。」


 このままではイライラは収まりそうもない。



ガバッ


 とりあえず、ベットから起きる。


 そして、何か気を紛らわせるものはないだろうかと部屋の中を物色する。


 だが、まだこの寮にやってきたばかりのトールの荷物はそれほど多くはないので、それほど時間はかからずトールはソレを手に取る。


「…やっぱりこれしかないか。」


 トールが手に持っているのはかなり大きな道具箱だ。それは、トールが故郷を離れる際に養父のドワーフから持たされたものだった。


パカンッ


 道具箱を開けると中には、金槌、木槌、彫刻刀、錐、ヤスリ、ブラシ、他にも様々な道具がみっしりと箱の中に入っている。また道具の中には素人では一体どう使うのかわからない物まである。


 これはトールが故郷で、養父の仕事を手伝ったり自分で鍛冶をしていたときに使っていた道具だった。


 養父が気を使って、トールの愛用の道具を全てまとめて入れてくれたのだろう。


「…ありがと、おっちゃん。」


 養父の気遣いに先ほどまでの苛立ちを忘れて、故郷にいる心やさしいドワーフに礼を言った。



「これなら気晴らしに何か作れそうだ。」


 トールは道具箱の中を確認してから、嬉しそうに笑った。


 さすがに鍛冶は無理だが軽い彫刻なら素材さえあれば大丈夫そうだ。


(落ちた木の枝とかなら寮の傍に落ちてそうだな。…探してみよ。)



 トールは素材を探しに部屋から出て行く。

 

 暫らくしてから、トールは手になかなか太い木の枝を持って戻ってきた。


 だが、目的のものを見つけたにもかかわらず、トールの顔は暗い。


 その理由は、


「…木の枝を掃除中の寮母さんからもらったのは良かったけど、何に使うか聞かれて「できたらちょうだい」と言われるとは思わなかった」


 トールが寮の外で落ちた木の枝を捜していると、掃除中の寮母さんがいたので木の枝が落ちていないか聞いてみた。


 すると、「なぜそんな物を探しているの?」と聞かれてしまい、トールが「木の枝を使って、彫刻細工でもしようと思った」と答えると寮母さんはにんまり笑ってトールに取引を持ちかけた。


 内容は簡単で、「落ちた木の枝を渡す代わりに、その落ちた木の枝で作った作品を自分に渡すこと。」と言ったものだった。


 トールはその取引を受け、落ちた木の枝を寮母さんからもらった。


 寮に帰るとき、寮母さんから満面の笑顔で「かわいいのお願いね~~!!」と手を振って言われてしまい周りの男子寮生から殺気を込められた目で見られた。


 トールの住んでいる男子寮の寮母さんは、若くて美人なので寮生達から大人気なのだ。なので、抜け駆けをすると後でとんでもない目を見るらしい。トールが寮にやってきた初日に先輩の寮生から聞いた情報だ。


 トールはその視線から逃げるようにして、慌てて寮の自分の部屋に戻った。


「まさか、ただの気晴らしのつもりがこんな事になるとは。」


 そういってトールは手に持った彫刻刀で表面の木の皮をとる。


 そして、カリカリとゆっくりと木の枝を削っていく。


 作るものはすでに頭の中で決まっている。あとは目の前の木の枝を頭の中のものに近づけるだけだ。


 トールはただもくもくと手を動かす。


 故郷にいた頃は、町にいる子供や自分と同じ年ぐらいの女の子に動物の置物などを何度も作ったことがあるのでその手先は慣れたものだった。


 もくもくと削っていると時間の経つのも忘れていく。


 そして、嫌なことも徐々に考えていかなくなり、目の前のものにただ夢中になっていく。


 トールの作業は深夜まで続いた。




翌朝──



「おーい、寮母さーん。」


「ん~?な~に?」



 トールは学院に行く前に、寮の前で掃き掃除をしている寮母に声をかけた。



「はい、これ。」


 そして、彼女の手に何かを手渡した。


「え?」


「それ、約束のやつね」


 寮母が手のひらを見ると、彼女の手には小さな木彫りの梟が乗っていた。


 梟はリアルに彫られたものではなく、女性受けしそうな、かわいくて愛嬌のある梟だった。


 寮母は手のひらにあるものと、目の前の少年を見て驚いた。


「こ、これ、君が作ったの?」


「そうだよ。」


 寮母は目の前の少年がこのかわいらしい置物を作ったことに驚きを隠せなかった。


 目の前の置物は殆どお店で売っているような物で、とても学生が作ったものだとは思えない。


 だが作った当の本人は眠そうに欠伸をしている。



「んじゃ、俺学校行ってくる。」


 トールは寮母の驚愕をよそにスタスタと学院に向かって歩き出してしまう。


 それを寮母は呆然と見送った。




誤字脱字、感想を待っています。


今回は次の話につなげるために少し閑話っぽいです。


後、一応こちらでも報告しておきますが、自分のもう一つの作品「EGG」はちょっと問題が起きて感想を受け付けなくしました。詳しくは作者の活動報告を見てください。


「やさしい鍛冶師」のほうは問題なく感想を受け付けています。

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