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「ふざけるなっ!」


 歓声に沸く声の中でその怒声は響き、あたりはシンと静まる。


 声の主はクードだ。彼は鬼の様な形相で俺に近づき、胸倉を掴む。


「貴様っ!さては魔術で剣を強化したなっ!この卑怯者がっ」


「………。」


 俺の胸倉を掴んだクードは俺に唾を飛ばしながらそんな台詞を吐く。


「俺の作った剣は最高級の玉鋼を使っているんだぞ!それがあんな容易く斬れる筈がない!」


 正直、俺はもう我慢の限界だった。


 この思い上がりの餓鬼がこれ以上喋るのは、我慢が出来ない。


 俺は胸倉を掴む相手と周りの観客にきこえるように、こう言った。



「あんたが作ったあの剣。鋳造だろ?」


「「!?」」



 目の前の男と周りの観客は俺の言った言葉に驚く。


「おかしいんだよ。ダマスカス刀は確かに鉄だろうと斬れるが、鍛造で作った剣をあんなにあっさりと斬れるわけがないんだよ。」



「そ、それは貴様が魔術でっ!」


 クードは取り乱したようにわめき始めるが、俺はそれに冷静に答えてやる。


「剣の切れ味を強化する魔術なんて一般学部の俺に使えるわけがないだろ。」


 それに、と俺は続ける。


「あんたは最高級の玉鋼を使ったと言ったけど、俺に用意された素材の中にそんな物はなかったぜ。これはどういうわけだ?」


 クードは俺の言葉にしまったと顔をしかめる。どうやら怒りで我を忘れて不正をした証拠を自分から喋ってしまったのに気がついたようだ。



「どうやら卑怯者はあんたのほうみたいだな?だがおかしいな、それだけいい素材があったなら鍛造で作れば良質の剣が作れたはずだ。それをしなかったのは……」


 俺はそこで言ってやる。


「もしかして…」


 彼が鍛造で剣を作らなかった理由を


「!?。 貴様やめろっ!!」


 クードが何かに感づき、俺の言葉を遮ろうと大声を出すが、俺は無視する。


そ して、観衆に聞こえるように言ってやった。


 彼にとっては、とても残酷な言葉を。



「あんた、鍛造で剣を作れないな?」



 俺の言った言葉にクードは泣きそうな顔で俺を睨んだ後、力尽きたように俺の足元に崩れ落ちた




 鍛造の剣を作るには、通常は何年も鍛冶の師匠の下で製法を学び、修行を積まなければならない。


 四学年のクードなら、すでに学院にいる教師から鍛造の技術を教わり、剣も作れるのだと俺は思っていた。


 だが彼は最高級の素材を持ちながら、鍛造の剣を作らなかった。


 その理由は間違いなく、彼は鍛造での剣を作れないからだ


 辛い修行から逃げたのか、プライドが邪魔をして師匠から師事するのを放棄したからなのか理由はわからないが、とにかく彼には「鍛冶師」としては完全に半人前だ。


 にも、かかわらず。


「…あんたは自分が未熟な腕にもかかわらず俺だけではなく、俺に鍛冶を教えてくれた師匠まで馬鹿にしたのか」


 俺は頭を抱えているクードを侮蔑の眼差しで見つめる。



「ひぃっ」


 自分を恐ろしいほど無表情に見下ろされ、クードは引きつった声を上げて距離をとる。


 だが、虫のように逃げるクードを俺は制服を掴んで逃がさないようにする。


 そのとき、クードの制服にある学院の校章と学科を示す紋章が見えた。


 校章は本を咥えた梟。そして、クードが所属する武具鍛冶学科を示す「剣を叩く金槌」の紋章。


 俺はその「剣を叩く金槌」をじっと見つめた後、クードの胸倉を掴み片手でそのまま彼を持ち上げる。


 クードは俺の腕から逃げようと、必死に腕を剥がそうとするが、腕はビクともしない。


 俺はそんなクードを無視して、ダマスカス刀を持つサリアに向かって「剣を渡してくれ。」といった。


 サリアは渡すかどうかしばらく迷ったが、俺の「殺すつもりはない。」という言葉を聞き剣を渡した。


 サリアから剣を受け取り、もがくクードに剣を向ける。


「ひぃいいいいいいいいいい!!」


 間違いなく殺される、クードはそう思って絶叫を上げる。



ビッ!!



 だが、クードの想像した衝撃は来ず、代わりに何かを切り取った音が自分の制服の胸の辺りからした。


 クードはおそるおそるそこを見ると、制服の一部が切り取られていた。



「へ?」


 よく見ると、そこにあったはずのクードの所属する学科を示す紋章がなくなっていた。


 俺がダマスカス刀で紋章を切り取ったのだ。


 足元を見れば、彼のつけていた紋章が落ちている。



ガッ!!



 だが、その紋章の中心を俺の持つ剣が貫く。




「……あんたに、これを身に付ける資格はない」



 俺は、ダマスカス刀で「剣を叩く金槌」の紋章を剣で二つに切り裂いた。



「あんたが鍛冶の道具を一つでも身につけていると思うと、反吐が出る。」



 俺はクードを持ち上げていた手を放した。


 咳き込むクードを殺気を込めて見つめ、



「次に俺の師と、両親から受け継いだこの髪と瞳を侮辱したら―」


 腹の奥からどす黒い感情を引き出しながら、


「必ず殺す」


最終宣告をした。



誤字脱字の報告と感想を待っています。



あとお気に入り登録が100を超えました。


皆さんありがとうございます。


これからも頑張って書いていきます。

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