表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/87

二限目

 あれからトールはディースとニアに支えられるようにし、二限目の授業にニアが受講している「美術」という平和そうな響きの授業を体験することにした。


「……体が痛い」


「だ、大丈夫? トール君?」


 トールが机に上半身を寝そべるようにして言った言葉に、ニアが心配そうに声をかけた。


 その優しい言葉に、トールは思わずホロリときた。


「……やばい。泣きそう」


「えぇっ!! そんなに痛いの!」


 痛んだ心に優しさ少しだけ沁みたトールであった。




 トールが一限目のダメージから回復する頃には、担当教師が今学期の授業の日程について黒板に説明し終えていた。


 教師の説明によると、春の間は外に出て草花のデッサンをし、夏休みに入るまでの授業はずっと油絵を描いていくそうだ。


 説明が終わると教師は生徒達に画用紙を一枚一枚渡し、全員にいきわたるとように声を張り上げた。


「皆さんがどれだけ描けるのかを見たいと思います。モデルは何でもいいので授業終了まで何か描いて下さい」


 教師の言葉に生徒達はそれぞれ外に出たり、隣の生徒に声をかけてモデルになってくれと声をかけたり、スムーズに行動する。


「何か皆行動がはやすぎない?」


 ほかの生徒の様子に疑問を持ち、トールは隣のニアに訳聞いてみた。


「それは多分みんな去年の内に『美術基礎』を取ってたからだと思う」


「何それ?」


 ニアに聞くと言葉の中に聞いたことのない単語が出て来た。


「えっとね、一年の内からもう自分がどの学科に進むか決めてる人たちの為に専門的な事の基礎だけでも教えてくれる授業があるの。美術科だったら美術基礎っていう風に」


 トールはニアの言葉に驚く。どうやらこの授業はすでに自分の将来を決めた人間が受講するものだったようだ。


「つまり、ここにいる人の殆どが去年それを取ってるから、絵を描くのは楽勝だと?」


「えっと、楽勝かどうかはわからないけど……多分それなりに描ける人が集まってるはずだよ」


「……ニアも?」


「……うん」


 まさかと思い聞くと、案の定ニアも自分の将来をすでに決めている人間だった。


 これには正直困った。


 トールはこの授業をまだ受講申請していないので、絵を描く必要はない。


 だが、周りの人間が作業をしているのに自分一人が何もしていないのは心苦しい。トールは頭を悩ませた。


 そんなトール見て、ニアがおどおどし始めた。


「……二ア。俺のことは気にしないでいいから、描きたいものがあったら描きに行きなよ」


 ニアの様子が見ていて可哀想なので一応気を利かせてみたトール。


「あっ、でも、それだと」

「俺のことは気にしないで」


 トールはニアの言葉を遮った。そうしないといつまでもニアが描けない気がしたのでなるべく強い調子で声を出す。


「うん。……わかった」


「うん。いってらっしゃい」


 なんとか納得してくれたようでニアは画用紙と鉛筆を持って、教室から出て行った。


 トールはそれを手を振って見届ける。


「ふぅ」


 トールは絵を描く気が起きず、机の上に上体を寝そべらせた。


 ――まだ前の授業のダメージがまだ残っていたらしく、机に体を預けると途端に眠くなって来た。


(……ねむい。課題は……もういいや。とりあえず寝よ)


 トールはそのまま睡魔に身を任せる事にした。



 ――目を開けると、教室から出て行ったはずの生徒が帰ってきており、教壇前にいる教師の言葉を聞いていた。


 どうやらトールはかなりの時間寝ていたようだ。


 教師のほうを見ると、教師はなにやら一枚の紙を手に取り、それに描かれている絵を褒めている様子だった。


「んん?」


 トールはまだ寝ぼけている目をこすり、どんな絵なのかを見ようと目を凝らした。


「ん~?」


 教師の手にある絵をじーっと凝視していると、少し違和感を覚えた。


 そして、そんなトールの事を周りにいた生徒がくすくす笑い始めた。


「ん?」


 トールが周囲の様子に気が付く。


「おぉ、モデルが目を覚ましたか! 残念だなもう少しこの絵の素晴らしい出来を褒めたかったのだが」


 生徒の笑い声に気がついた教師が、喋るのをやめてトールを見た。


 教師は名残惜しそうに絵を、トールの隣に座る生徒に手渡した。


 思わず隣を見ると、ニアが恥ずかしそうに絵を受け取っていた。


「ニア=シュリオン、この調子で頑張るように。ただし、今度はモデルに許可を取っておけよ?」


「は、はい。すみません」


 トールは状況が理解できず、教師とニアの顔を交互に見た。


 教師は明らかにトールの顔を見てモデルと言っていたが、トールには身に覚えがない。


「あー、ニア=シュリオン。モデルが混乱気味な様なので教えてやりなさい」


「ご、ごめんね。トール君」


 トールがまだ混乱していると、ニアは頭を下げて両手に持った絵をトールに手渡してきた。トールはその絵を人目見て合点がいった。


「あー、なるほど」


 ニアから受け取った絵――そこには気持ちよさそうに寝ているトールが描かれていたのだった。



今回は二ア、次はディースです。


トールまでもう少し時間が掛かりそうです


なるべく早めに書けるよう頑張ります



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ