記憶
――俺の両親は戦争で死んでしまった。
そこそこ腕の立つ冒険者だった両親は、村に攻めて来た他国の兵隊に殺されてしまった。
その時、俺は町からだいぶ離れた父の友人であるドワーフのおじちゃんの家に遊びに行っていたので助かった。
自国の兵隊がやってきた頃には、町は半壊状態だった。
町の多くの人が死んだ。
両親のいなくなった俺のことを不憫に思ったドワーフのおじちゃんは俺のことを育てると言ってくれた。
だが当時の俺は7歳で、両親が死んでしまった悲しみでずっと泣いていた。
ドワーフのおじちゃんは友人の忘れ形見である俺のことを本当に気にかけてくれて、子供の好きそうなお菓子やおもちゃをたくさん買って来ては俺を慰めようとしてくれたが――俺は泣いてばかりだった。
泣いてばかりいた俺にドワーフのおじちゃんはあるものを見せてくれた。
それは一つの『剣』だった。
当時の俺は剣を見たことなど殆どなくて、両親からは剣は「危険」なものだとしか教えてもらっていなかったので俺はその剣を見たとき驚いた。
その剣は――あまりにも美しかった。
「……きれい」
派手な装飾もされてはいなければ、宝石も何もついてはいない。
なのに、目を惹きつけた。
「…これはな坊、ワシが作った剣だ」
「おじちゃんが?」
「そうだ」
当時の俺はこの無骨なドワーフがこんな剣を作ることに驚いて剣とドワーフのおじちゃんを交互に見てしまった。
「……坊よ、ワシはな剣は殺しの道具だと思っておる。どんなに言葉を並べても人を傷つけるだけの物だと」
そう言ったドワーフのおじちゃんの顔はとても悲しそうだった。
「こんなにきれいなのに?」
俺は剣を指差して聞く
「そうだよ坊。そもそも剣は斬るためのものだ」
当時の俺は、なんと言えば良いのかわからなくて途惑ってしまった。
そんな俺を髭もじゃの顔でドワーフはさびしそうに笑いながら言った。
「だがな坊、剣は傷つけるだけではない。人を守ることもできたようだ」
そう言って壁に立てかけてあった剣を俺の目の前に持って来た。
「この剣の持ち主は剣で人を『傷つける』のでなく、『守った』のだ。ワシが殺しの道具でしかないと思って作った剣でな」
ドワーフのおじちゃんは俺に剣を押し付けるように持たせて言った。
「全く大した男だよお前の父親は」
俺の両親は剣を持って他国の兵隊に一歩も退かず、援軍が来るまで戦い続けたそうだ。
援軍が来た頃には、両親はもう助からないような重傷だったらしい。
両親はもう一線を退いた冒険者だった。
いざとなれば逃げ出しても誰も責める事はしなかったはずだ。
――それでも両親は逃げなかった。
両親は息子を守る為に最後まで戦った。
息子が少しでも逃げる時間を作るために。
ほんの一時であろうとも時間を稼ぐために。
両親は――最後まで懸命に戦い続けた。
……気がつけば俺は剣を抱きながら泣いていた。
ドワーフのおじちゃんがそんな俺の頭をなでながらぽつぽつと話し始める。
「なぁ坊、お前がその剣を綺麗だと思ったのは、その剣が人を『守る剣』になったからだとワシは思うんだ。」
「え…?」
「ワシがお前の父親が持っていたこの剣をせめて墓に入れるときに綺麗にしてやろうと研いでみたら、信じられんほどの輝きを放ちおった。」
俺は涙に濡れた目でドワーフを見上げる。
「ワシは思ったよ。――剣が誇らしげに胸を張っているようだと」
まるで仕事をやり終えた男の顔を見ているようだ、とドワーフのおじちゃんは言った。
町の共同墓地で俺とドワーフのおじちゃんは両親の墓の前に来ていた。
「……」
「……」
周りにはほとんど人はいない。いるのは俺とドワーフのおじちゃんだけ。
――ズルっ、ズルっ。
俺は父親の剣を引きずりながら両親の墓の前までやってきた。
墓は二つ並んでたっており、まるで肩を寄せ合っているようだった。
「……」
――ザシュッ。
俺は無言で剣を父親の墓の前に突き立て、母親の墓にはここに来る前に摘んできた野の花を添えた。
そのまま俺は両親の墓をじっとみつめたままドワーフのおじちゃんに聞こえるように、大両親の墓の前で、天国の両親にも聞こえるように、大声で叫んだ。
「俺に剣の作り方をっ!!!!」
天まで届けと叫んだ。
「教えてくださいっ!!!!!」
感想評価まっています。
特に感想まっています!
すごい衝動的に書いてしまったので反応が気になります。
もうひとつの小説も頑張って書いていくつもりなのでよろしくお願いします。