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悪役令嬢 恋愛システムが破綻しました  作者: 南蛇井
第三章「選ぶ幸福」

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第31話:共鳴崩壊

――レディアナの存在が波形を乱す


王都は、静かだった。


静かすぎるほどに。


市場では穏やかな笑みが並び、

酒場では争いも議論も起きない。

学院では問いが消え、

祈りは整った旋律で揃っている。


観測塔。


《国家安定値:68》


完璧な円環波形。


乱れなし。


術式院長は満足げに頷く。


「これが本来の国家だ」


管理官は水晶を見つめたまま答えない。


円環の中心。


微細な黒点が、わずかに脈打っている。


——


庭園。


レディアナだけが、その静寂を“重い”と感じていた。


風が、均一だ。


鳥の羽ばたきまで、揃っている。


「……気持ち悪い」


干渉無効血統。


彼女の周囲では、強制波がわずかに歪む。


ティアナが小声で言う。


「みんな、安心してる」


「ううん」


レディアナは首を振る。


「眠ってるだけ」


その瞬間。


王城の鐘が鳴る。


正確すぎる音。


余韻の揺らぎすら、ない。


彼女の胸がざわつく。


「……行くわ」


——


大広間。


王太子と聖女が並び立つ。


美しい。


完璧な共鳴。


二人の波形は重なり、

甘く、整い、揺れがない。


観測塔。


《象徴核:完全同期》

《適合体:同調率100%》


解析官が歓喜する。


「理想値です!」


だが次の瞬間。


水晶が、かすかに震える。


庭園から、微弱な反転波。


「……外部干渉?」


管理官が目を細める。


「違う」


「存在そのものだ」


——


レディアナが大広間へ踏み込む。


扉が開く。


空気が、わずかに歪む。


王太子が振り向く。


その視線が交わった瞬間。


共鳴波形に、亀裂。


観測塔。


《象徴核波形:微振動》


「異常発生!」


術式院長が叫ぶ。


「干渉源を排除しろ!」


だが兵士たちは動かない。


動けない。


彼らの中にも、わずかな違和感が走っている。


——


王太子の胸が、痛む。


整えられていた感情に、ひびが入る。


「……なぜ」


レディアナは何も術式を使っていない。


ただ、そこに立っている。


それだけで。


円環が揺らぐ。


聖女が息を呑む。


彼女の中でも、何かがほどける。


「これは……」


強制された安心が、薄れる。


観測塔。


《国家安定値:68 → 64》


急落。


「共鳴崩れています!」


波形が乱れる。


完璧な円が、歪み、振動を始める。


管理官が呟く。


「干渉無効血統は、波を拒絶する」


「存在するだけで、統一を壊す」


——


レディアナは静かに言う。


「それ、あなたの感情?」


王太子の瞳が揺れる。


整えられた微笑が、崩れる。


「……分からない」


それが、正直な答え。


聖女が震える声で言う。


「私は……安心していたはず」


「でも、今は……怖い」


その“怖い”という言葉。


強制波に存在しない感情。


観測塔。


《異常波形増幅》

《適合体自律値上昇》


「崩壊します!」


術式院長が制御を強める。


水晶が白く燃える。


だが。


レディアナの周囲で、波が弾かれる。


均一化できない。


王太子の中で、二つの波が衝突する。


強制された安定。


かつて拒絶した記憶。


「私は……」


叫びが、胸から漏れる。


「私は、選ぶと決めた!」


その瞬間。


円環が砕ける。


観測塔。


《国家安定値:64 → 52 → 46》


急落。


警報が鳴り響く。


だが今度は違う。


波形は崩壊しない。


乱れながら、持続している。


均一ではない。


だが、生きている。


——


大広間。


強制共鳴が切れる。


王太子と聖女は膝をつく。


荒い呼吸。


だが、目ははっきりしている。


レディアナは静かに立つ。


彼女は何も壊していない。


ただ、均された波を乱しただけ。


観測塔。


解析官が震える声で言う。


「完全同期……消失」


管理官が深く息を吐く。


「制度の暴走は、止まった」


——


王都。


人々がざわめき始める。


「……さっきまで、何を考えていた?」


「妙に、頭が軽かった」


違和感が戻る。


問いが戻る。


安定値は低い。


だが。


思考がある。


レディアナは王太子を見る。


「選びなさい」


命令ではない。


促し。


王太子は立ち上がる。


まだ揺れている。


それでも。


「私は、揺れる国家を選ぶ」


その言葉が、波となって広がる。


共鳴は崩壊した。


だが。


崩れた先に残ったのは、沈黙ではない。


無数の、不揃いな鼓動。


制度は初めて知る。


“完璧な安定”こそが、最も脆いのだと。


そして。


一人の存在が、国家の波形を変えた。


共鳴は壊れた。


だが、思想は消えなかった。

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