白龍①
ここ数日はいつもとは雰囲気が違う。
このカフェのある街、シグリアは現在白龍の襲来で不要不急の外出が出来なくなっているからだ。
冒険者や王宮の兵士たちは出歩いているので、一応お店は開けている。
珍しく満員のカウンター。
それぞれに注文の飲み物を出す。
「今日は軽食も出してるのよ」
「ありがてえ! 店はどこもしまってるからな」
同じパーティらしい六人の冒険者は、ため息をついた。
「兵士は王宮で食事がとれるが、俺達は一般人に混ざって炊き出ししかないからな」
私は窓のそばに寄り、空を眺めた。
二頭の白龍が街の上空を旋回しているのに加え、この好機を逃すまいとワイバーンの群れが襲来してきている。
兵士と冒険者はこのワイバーンを討伐するために駆り出されている。
白龍に関しては様子見のようだ。
(軍隊をいくつか出さないと白龍は落とせない。それが二頭もいるとなると……)
攻撃の意図があれば、この街は初日で焼け野原になっているはず。
「白龍がいなくなればワイバーンも引くと思うんだがなぁ」
「攻撃してくるでもない、一体何が目的なんだか」
長生きのエルフから見たら、答えはひとつしかない。
(間違いなくこの国のどこかに、あの白龍たちの卵がある)
龍種の卵は孵るまで絶対に動かしてはいけない。
親が必ず追ってくる。
その種に適正な場所で龍は卵を産み、孵るまでは放置する。
白龍は高位ドラゴンだから、孵化は半年〜十ヶ月前後だ。
ワイバーンのように二ヶ月でどんどん生まれるものではなく、数が少ない。
子龍が殻を破った時に、親龍は一度だけ戻ってきて成体になるまでの必要最低限の魔力を与えるだけだ。
だが、卵を移動した場合は──
(どこまでも追跡してくる。壊そうものなら、まさに災厄になる)
赤ワインで煮込んだブルグ肉のブラウンシチュー。
野菜もたっぷり、肉ももちろんたっぷり。
軽食と言ってもシチューとパンか、タマゴサンドイッチしか出せないのだけれど。
大きな寸胴の鍋は、既に半分以下の量になっている。
(もう一鍋作っておこうかな)
冒険者たちは席を譲るため、食事を済ませるとサッと席を立つ。
緊急時に儲けるのも悪くはないけれど、私は食事を商売の種にしているわけじゃない。
なので、飲み物も食事も銀貨一枚ずつにした。
(時間加速の魔法があって良かったわ。炒めた材料を放り込めば、すぐ完成するもの)
お客さんは途切れることなく、あっという間に夕方になる。
閉店直前に入ってきたのは、シグマと言うこの国の若き宰相だ。
ご丁寧に外の札を閉店にしてきたようだ。
「悪いな。飯をくれ」
「王宮に食堂あるでしょうに」
「冒険者たちが絶品シチューだって言ってたからな。それにエルフの知恵を借りたい」
「高く付くわよ」
「やむを得ん、今回で借りが五つだな」
「まあ、いいけれど。いったい何の相談なの」
シグマの目的はシチューではない。
十中八九、ドラゴンのことだろう。
甘くないアイスミントティー、シチューに丸パン。
シグマはシチューにスプーンを差し入れ、慎重に冷ましながら口に運んだ。
「美味い」
温かいものを口にして気が緩んだのか、大きなため息が店内に響いた。
「で、何が聞きたいの」
私は大量の洗い物を魔法で綺麗にして棚に戻しながら、問いかけた。
時空庫に入れれば良いのではとも思うけれど、きちんと積まれた素敵な食器は見せておくほうがいい。
「お察しの通り、龍だよ、龍」
「王様はなんて言ってるの」
「怖いって泣いてる」
「あ、そうか。まだ四歳だものねぇ……」
去年、王様が亡くなって代替わりしてたわね。
三十代の兄弟たちではなく、正妃の嫡男が。
正妃の子であること、また正妃の実家は政治的に強いから、幼子に後見人をつけることで即位が決まった……って聞いた覚えがある。
どうでもいいけれど。
「そうなると後見人は……」
「正妃の兄が後見人だ」
「あなたのお父さんじゃないの」
「そうなるな」
小さなこの国の王侯貴族は、何かしら血縁関係がある。
近親婚姻がタブーではないから。
「まあルルブのことは良いんだよ、まだ四歳だし。聞きたいのは白龍が何で二匹もいるのか、どうしてただ上空にいるだけなのか……だ」




