朝起きたら夜になりました
はいはい、わかりました。
前回と違って真面目にSFしますよ。
まったくも~プンスカしないでくださいよ。
これが、本気の凛古風SFだっ!
アパートで一人住まいの俺は、いつものように目が覚めた。
でも、どういうことだろう、もっと明るくてもいい時間なのに、まだそうでもない。東窓のカーテンを開けて外を見ると、
朝起きたら太陽が沈んでいく……だと?
そして振り返り時計に目をやると、秒針が逆回転していて、途方に暮れた。
もういちど、窓の外を見る。
日の出の早朝だから、ほとんど人気はないのだが、新聞配達の自転車が、新聞を回収しバックして走っているじゃないか。そう、ちょうどビデオを再生しながら等速で巻き戻すように。いや、表現が古いか、動画を等速で逆再生している景色がそこにあった。
「いったいどうなっている」
と、つぶやいたら。
「ああ、なんというイレギュラーでしょう」
振り返ると、入口に黒い人影があった。
「だ、誰だ?」
こんな状況では、不審者もクソもあったもんじゃない。
「えーと、この時間ベクトルで聞こえますか?私は、多次元生命体です。まぁ、貴方達の世界の言葉で簡単に言うと宇宙人ですかね」
どうしよう……思考がついていかない。
「えと?烏忠仁さん?もう、何がなんだか?どうなっているのか教えてください」
「混乱しているようですね……いいでしょう。端的言うと、今まで膨張していた宇宙空間が、収縮しはじめました。だから、膨張によって定義づけられていた時間軸が、逆方向に動きだしました。これにより、原因→結果でなく結果→原因として世界は巻戻ります」
「……なんてこった、動画を再生し終えると、等速で戻るのか。この宇宙は」
「そうです、3次元生命体にしては、理解が早くて助かります」
しかし、まだ疑問が残る。
「ところで、なんで俺だけ、巻戻らないんだ?」
「偶然の一致です。時間の流れが右向きから左向きに切り替わる時、ピッタリのタイミングで、ピッタリの速度で、寝ている貴方は寝返りをうった」
「……寝返りが原因?」
「まさしく、時間の流れ右から左へ切り替わる0点にシンクロしたのです。確率で言うと、およそ十兆分の一の確率でしょう。地球人類は約81億人しかいないので、このようなイレギュラーが起こるとは、いやはや予想外」
「じゃぁ、巻戻る世界には、俺一人が存在するのか」
「そうです。でもベッドを見てください」
「俺が寝ている……」
「ええ、日の出前の寝ている貴方ですね。」
窓を見ると、東の太陽は沈みきって、朝焼けの赤い空が見えた。
「これから、どうすればいいんだ」
「残りの人生を好きに過ごせばよいですよ。この世界は、結果→原因の巻き戻し世界。その中で原因→結果の時間軸を持つ貴方が、何をしても認識されませんから。世界を改変するレベルの大それた事でもしない限り、私達は黙認しましょう。それではっ」
そうして、黒い人影は消える。
巻戻る世界に、俺は一人残されたのだった。
「さて、どうしたものか。とりあえず、顔でも洗うか」
洗面台に立ち、蛇口をひねる、が、水は出ない。
「そうか、巻き戻しの世界だもんな」
仕方がないので風呂の残り湯で、顔を洗うことができた。
しかし、風呂の残り湯を、いくら汲みだして流しても、湯が減ることはなかった。
「時間軸逆行の俺は、どこまでこの世界に干渉できるのか、よくわからないが、まぁいいだろう」
とはいえ、朝食も取らねばならない。
俺は冷蔵庫を開けて、朝食用に準備していた、サンドウィッチを食べる。食べ終えて確認すると、時間が巻戻ったのか、再びサンドウィッチは冷蔵庫の中にあった。
「なるほど、結果→原因の流れの中に、原因→結果の俺が存在するというのは、こういうことなんだろう」
俺は、外に出ようと服を着替える。着替えを終えて数秒後、俺が脱いだ服は消え去り、俺が着た服は、同じ物が同じ場所にあった。そして、早朝から深夜に時間がうつろう町へと歩き出す。
ガラガラの道路を、数少ない自動車がバックして走っていくのを見ながら、コンビニエンスストアに入る。
高級ビールを手に取ると数秒後の棚は元どうり。手には取ったビールは、そのまま。朝?起きたばかりだけれども、せっかくなのでコンビニの入口で一本飲んで空き缶を捨ててやった。が、空き缶は消えたようだ。
そんなこんなを観察していると、後ろ歩きでコンビニ袋を提げた派手な女が近づいてくる。朝帰りの風俗嬢だろう。エコバックくらい持っとけよ。そんなんだから、金が貯まらないんだよ。と、頭で毒づきながら、近寄ってお触りしてみる。
胸の二つのたわわは、重力が巻き戻しなので、なんだか少し異なる揺れ方だ。
おりゃっ、と、腰から服をずりあげて、二つのたわわ拝見したのだが、数秒後には元通りになって、後ろ歩きで帰っていった。
もちろん、風俗嬢が俺に対して反応することはない。
これらなら、まぁ、食欲も性欲も満たすことはできそうだ。
睡眠も何とかなるだろう。誰も俺を認識して、反応することはできないし、ホテルのベッドで朝のシーツが乱れてなかったら、その夜は誰も寝てないってことだろう。
そうして俺は、巻戻る時間の中で、適当に食事をし酒を飲み、適当に女を抱き、適当に宿泊して、過ごした。どうせ、あの時から、俺の人生の歯車は狂ってしまったのだから、この巻戻る時間を楽しむことができれば…それでいいやと。存在の不文律からか、車やバイクは動かせなかったが歩けばいい。健康には気を付けて、ドラッグストアの高級サプリやら、薬局の薬やらもいただいた。薬を調べるとき、結果→原因の世界では、インターネットが使えなかったから、調べるのは本になった。ネットが使えない?エロいのはどうする?そんなの問題ない。デビュー前のアイドル達を夜中にコッソリいただきました。時間が巻戻るので処女膜も戻るんだよなぁ。
そんなゲスな生活を続けて10年近くの月日が巻戻る中を過ごしていると。一人の高校生が、死にそうな顔で歩いているのを見つけた。
……俺だ、あの時の、俺だ。
高校時代から、約10年経過し約10年巻戻り、37歳になった俺は、体感20年前の絶望を思い出した。
そうだ、交通事故だったよな。
高校時代に彼女が交通事故で他界して、それから俺はやさぐれた。
そんな、過去が今、巻戻っている。
ああ、そうだ、こんなことをしている場合じゃない。俺は、このために戻って来たんだろう。
巻き戻しに歩く高校時代の俺は、葬式会場からの移動の俺だ。
そうだ、今からなら、何とかなるかもしれない。
思い出せ、20年前の記憶を。彼女は、どこで事故にあった。
だめだ、そもそも詳しく知らないじゃないか。
そうして、俺は走り出す。薄らいだ記憶の検証をするために。
彼女の家は覚えている、通学のルートは、駅は、確か……
3日かけて探し回ると、お花が供えられ、ガードレールに血痕がある。やっとその場所をやっと見つけた。
「よし、見つけた、間に合った」
今は昼、あとは朝に巻戻るのを待つだけだ。
待つ
・
待つ
・
待つ
バラバラだった歩行者が逆行して事故の人だかりが出てきた。
救急車がバックして戻って来る。
救急車の担架に乗せる作業が巻戻ってきた彼女は、胴体を激しく損傷し、内臓が出ていた。血で真っ赤に染まったガードレールで胴が切れたのだろう。
担架に乗せる前の倒れている状態で、ドクドクと流れる血が彼女の体に戻っていく。まるでファンタジー世界の回復魔法で生き返る行程みたいだった。
ああ、戻っていく、死ぬ前に。戻っていく。
彼女の体が完全に戻り、ガードレールから自転車に移動し、接触した黒いミニバンに移動していく。
「いまだ」
俺は、黒いミニバンに接触する直前の彼女の自転車を、歩道にむかって蹴り飛ばした。だが、わからない。今の蹴りで彼女は助かったのだろうか。やってきた未来の事はわからない、俺は過去に進むだけだから。
目の前では、彼女が自転車でバックしていく。失敗かもしれない。俺は、まだここにいる。彼女が生きてたら、俺の人生は違っていたハズだ。まだ、やらなきゃいけないことはある。
バックで移動しているのは、前進する自転車の1倍速巻き戻しだ、速いっ。俺は、追いつくために、必死で、走る、走る、走る。巻戻りの運命は、この日の為だったに、違いない。
そうして、もう一度、彼女が乗る自転車を蹴り飛ばした。スッ転んで、事故のタイミングに間に合わなければ、生きているだろう。生きてくれていたら、俺は、いまここに存在しない。多分、いや、そうに違いない。
駄目だ、クッソ。
走る、走る、走る。自転車でそんなに飛ばすから、ミニバンにはねられるんだよ、チクショー。
そんなことを考える余裕もなくなってきた。でも、ああ、懐かしい。何度か行ったことのある、彼女の家が見えた。
ぜー、ぜー、ぜー。呼吸が苦しい。
こうなったら。何としても足止めするんだ。
彼女は後ろ向きに移動して、家の中に戻っていく。
よし、こうするしかない。俺は、彼女の家に侵入する。俺が触れていれば、その存在が数秒は移動するんだろう。だったら、こうしてやる。
着替え中の彼女の服を、何度も移動させた。
しかし、数秒後には元にもどる。
だめだ。まだ俺は存在するのか。だったら、こうだ。
彼女の服をひん剥く。
だが、しかし、数秒後には元に戻る。
どうしよう。これ以上、時間が戻ると、急いで支度されて、ミニバン事故遭遇に修正可能になってしまうだろう。もう、どうしたらいいかわからない。
ええい、ままよ。
混乱した俺は、全裸になり、彼女の制服を着てみる。しかし、数秒巻戻ると、同じ位置に制服が。
もう一度だ。
「くらえっ、タイムパラドックス!」
俺は全裸になり、今、脱いだ彼女の制服を、再出現した制服の上に置いた。
その瞬間……
「きゃぁーーーーー、裸のオッサンがいる」
時間が逆転して、彼女は尻もちをついたのだった。
だが、しかし、一瞬だけだった。タイムパラドクスで何とかなったのは、その一瞬だけだった。
今は、制服に着替える前のパジャマ姿の彼女が朝食をとっていた。
失敗したのか、救えなかったのか……
そう思う俺に、体の異変が訪れた。
「なんだ?体が少し、透明になってきたぞ」
「まったく…やってくれましたね」
約10年ぶりに、俺の前に、黒い人影が現れた。
「まぁ、いいんですけどね。どうせ巻戻る世界ですし。今回改変された未来よりも貴方の存在の方が不都合といえば不都合……」
「み、未来が変わったのか?どんなふうに」
黒い人影は、フッと笑って話す。
「朝に全裸の中年男に遭遇した彼女は、少し遅れて出発することになり、事故に遭いませんでした。その結果、貴方と結ばれて、10年後の宇宙収縮時には貴方と彼女の間には子供がいましてね。。。夜中、子供に蹴り飛ばされて、寝返りのタイミングがズレたのですよ」
「よ、よかった。だから、俺は消えていくんだな」
全身がほとんど透明になった俺は、黒い影に確認した。
「そうですね。でも、よかったんですか?こんなことをしなければ、あと50年くらい時間逆行の中で好き放題する生活を楽しむこともできたのですよ?」
「いいんだ、いいんだ。あの時から、俺は、おかしくなっちまったから」
「そうですか。まぁ、どうせ巻戻る10年の時間ですから、世界は大してかわりません。そうだ、今の意識を部分的に今を生きてる高校生の貴方に飛ばしてあげましょうか」
「そんなことができるのか?できるなら、頼む」
「3次元生物の美しい物語を見せてもらえたサービスです。まぁいいでしょう。記憶は一部消しますよ」
「ああ、かまわないさ。どうせ俺は消えるんだろ」
「そうです。では、いきますよ。それっ」
そうして中年男の俺は、完全に消えた。
奇しくも、その瞬間は高校生の俺が目覚める瞬間だったりする。
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俺は、いつものように目が覚めた。
彼女もできたし最近は高校に行くのがどんどん楽しみになっていく。
今日は朝起きたら彼女に会いたくて会いたくて仕方がない。
なぜだろう…いつもよりもずっと。
さぁ、張り切って学校に行こう。
(おわり)
「リア充、爆発しろー!」な、ラストでした。
凛古風が贈る純愛ラブストーリー。途中はちょっとゲスイけど。
時間逆行って、水溜まりから雨が上に飛んでいくし、落ちた石も上に飛んでいくんですよねぇ。気を付けないと、股間に石が激突するかもしれません。ああ、痛そう。
いや、そんなことを書いてたら、5000字超えちゃうもんね。
復活する処女膜はイスラム系天国の記載を読んでから、時間逆行の親和性を考えてしまってて、ああ結局下ネタなんでアッラーに、ぶちコロされないか、心配です。
少女ならば時をかけるのでしょうけれども、30代半ばの男は普通に全力疾走するという...バックする女子高生自転車を追いかけて。どなたかそのシーンを動画でつくってぇえええええ。お・ね・が・い。




