表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

枯龍(ころん)

作者: Aju

コロンさまの『アフォの祭典』参加作品です。

何でもいいって言ったよね?


「龍神さまって水の神様なんだよね?」


 そうだよ。


「じゃあ、どんな(ひでり)でも枯れないこの川を、どうして枯龍(ころん)っていうの?」


 そうだね。不思議だね。それじゃあ、話してあげよう。


 むかしむかしのことさ。

 この地上を我が物顔にのし歩いていたヒトという生き物がいた。

 ヒトは傲慢にも自らのことを賢い(サピエンス)などと名乗っておった。愚かだと思うじゃろ?

 ツメもキバも筋肉もない弱々しい生き物だったヒトは、天より与えられたものだけでは満足できなかった。

 ヒトはツメやキバの代わりとなる「武器」を作り、ひ弱な筋肉の代わりになる「機械」を作った。

 そういうものを発明できたことで「賢い」と思ってしまったんじゃな。

 ヒトは食べたいものを食べたい時に食べるため、森を伐り払って農地を際限なく広げていった。

 必要もない大きな邸宅を作るために、山を根こそぎ崩してしまった。

 やがてヒトは機械を作り動かすため、森の木の枝を切って薪にするだけでは足りないと思うようになった。

 森を壊し、大地を掘り返し、燃える水と燃える石を使うようになった。


 ついに、龍神さまは怒ってしまわれたのさ。

 天の気を変え、洪水を起こし、(ひでり)を起こしてヒトを滅ぼそうとなさったのじゃ。

 大地は熱くなり、川は干上がり、ヒトの飲める水がどんどんなくなってしまった。

 ヒトはヒト同士、水を求めて争い、殺し合った。


 そうして最後に生き残った男も、また飲む水がなかった。

 かつて戦いの前に「不枯(かれず)の川」の(うわさ)を聞いていた男はこの地までやってきたが、そこには1滴の水もなく、川底は乾いてひび割れておった。


 1人の女が幼子(おさなご)を抱いてひび割れた川底に座っておった。

 陽を避ける大きな(つば)の帽子をかぶり、幼子をその影にするように抱いておったが、その肌は(うろこ)かと思うほどの干からびた硬い(しわ)だらけで、その腕は枯れ枝のようだった。

 幼子はまだ生きておったが、ひび割れたその唇は半ば開き、(うつろ)なその瞳は何かを訴えるように男を見ておった。


 男はその場に崩れ落ちて、ひび割れた大地に横たわった。

「すまない‥‥」と男の口が動く。

「天よ。龍神よ。生まれて間もないこの子に罪はない。なんの罪もない。どうか‥‥この子にひと椀の水を与えたまえ。我が命と引き換えに‥‥」

 それだけ言うと、男は息をしなくなった。

 男の目から、体内に残った最後の水が涙となってこぼれ、男の頬につたったが、それはひび割れた大地に届く前に蒸発して消えてしまった。


 その時だった。

 枯れ木のような女の、ウロのような眼窩からひと雫の涙がこぼれ落ちた。

 驚いたことに、その雫は蒸発することなく、ひび割れた川底にまで落ちて届いたのじゃ。

 すると、赤茶色だった川上の団子山がうっすらと若緑に染まり、やがて枯れていた川に水が流れてきた。

 それがこの川だよ。


 その時の幼子の、かつてヒトだったものの末裔がわたしらなのさ。

 だからわたしらは、ヒトの過ちを繰り返さぬようこの川を『枯龍(ころん)』と名付け、ひと椀の水も大切にしているんだよ。


  『惜しむべし半杓の水』

 村の入り口に掲げてある戒めを、おまえも知っていよう?


 そう言って、白髪(しらが)を頭の上でお団子に結い上げて若緑に染めた村のおばばは、歯のない口で笑ってみせた。


「だからね、かわいい子ロンよ。おまえも1滴の水、1粒の川砂も大切にするんだよ。」




麦わら帽子のきみは、枯れたマリーゴールドに似てる。。。

帽子の中には緑色のお団子が‥‥‥?

  ↑

(この後書き、著◯権的にヤバいかな? まあ、鬼◯郎ちゃん登場させてる人もいたから大丈夫だろう)(^^;)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人類滅亡…………。 というか、昨今の気温上昇を見るとただフィクションとは言えない気もする。 こわいこわい。 ところで、最後の人類はひとり。 という事は今語るその末裔は龍神とのハーフから増えたドラゴニ…
企画の作品という事でしたが、あまり意識しないで読んでみると不思議な雰囲気を感じました。水の大切さを教えてくれる作品ですね。「語り」が巧みでした。
文明や種族もまた永遠ではなく、やがては滅びて次代へと移っていく。 そうした諸行無常を感じさせますね。 かつてヒトだったものの末裔が人類の運命を反面教師として調和のとれた生き方を出来ているなら、人類の栄…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ