枯龍(ころん)
コロンさまの『アフォの祭典』参加作品です。
何でもいいって言ったよね?
「龍神さまって水の神様なんだよね?」
そうだよ。
「じゃあ、どんな旱でも枯れないこの川を、どうして枯龍っていうの?」
そうだね。不思議だね。それじゃあ、話してあげよう。
むかしむかしのことさ。
この地上を我が物顔にのし歩いていたヒトという生き物がいた。
ヒトは傲慢にも自らのことを賢いなどと名乗っておった。愚かだと思うじゃろ?
ツメもキバも筋肉もない弱々しい生き物だったヒトは、天より与えられたものだけでは満足できなかった。
ヒトはツメやキバの代わりとなる「武器」を作り、ひ弱な筋肉の代わりになる「機械」を作った。
そういうものを発明できたことで「賢い」と思ってしまったんじゃな。
ヒトは食べたいものを食べたい時に食べるため、森を伐り払って農地を際限なく広げていった。
必要もない大きな邸宅を作るために、山を根こそぎ崩してしまった。
やがてヒトは機械を作り動かすため、森の木の枝を切って薪にするだけでは足りないと思うようになった。
森を壊し、大地を掘り返し、燃える水と燃える石を使うようになった。
ついに、龍神さまは怒ってしまわれたのさ。
天の気を変え、洪水を起こし、旱を起こしてヒトを滅ぼそうとなさったのじゃ。
大地は熱くなり、川は干上がり、ヒトの飲める水がどんどんなくなってしまった。
ヒトはヒト同士、水を求めて争い、殺し合った。
そうして最後に生き残った男も、また飲む水がなかった。
かつて戦いの前に「不枯の川」の噂を聞いていた男はこの地までやってきたが、そこには1滴の水もなく、川底は乾いてひび割れておった。
1人の女が幼子を抱いてひび割れた川底に座っておった。
陽を避ける大きな鍔の帽子をかぶり、幼子をその影にするように抱いておったが、その肌は鱗かと思うほどの干からびた硬い皺だらけで、その腕は枯れ枝のようだった。
幼子はまだ生きておったが、ひび割れたその唇は半ば開き、虚なその瞳は何かを訴えるように男を見ておった。
男はその場に崩れ落ちて、ひび割れた大地に横たわった。
「すまない‥‥」と男の口が動く。
「天よ。龍神よ。生まれて間もないこの子に罪はない。なんの罪もない。どうか‥‥この子にひと椀の水を与えたまえ。我が命と引き換えに‥‥」
それだけ言うと、男は息をしなくなった。
男の目から、体内に残った最後の水が涙となってこぼれ、男の頬につたったが、それはひび割れた大地に届く前に蒸発して消えてしまった。
その時だった。
枯れ木のような女の、ウロのような眼窩からひと雫の涙がこぼれ落ちた。
驚いたことに、その雫は蒸発することなく、ひび割れた川底にまで落ちて届いたのじゃ。
すると、赤茶色だった川上の団子山がうっすらと若緑に染まり、やがて枯れていた川に水が流れてきた。
それがこの川だよ。
その時の幼子の、かつてヒトだったものの末裔がわたしらなのさ。
だからわたしらは、ヒトの過ちを繰り返さぬようこの川を『枯龍』と名付け、ひと椀の水も大切にしているんだよ。
『惜しむべし半杓の水』
村の入り口に掲げてある戒めを、おまえも知っていよう?
そう言って、白髪を頭の上でお団子に結い上げて若緑に染めた村のおばばは、歯のない口で笑ってみせた。
「だからね、かわいい子ロンよ。おまえも1滴の水、1粒の川砂も大切にするんだよ。」
麦わら帽子のきみは、枯れたマリーゴールドに似てる。。。
帽子の中には緑色のお団子が‥‥‥?
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(この後書き、著◯権的にヤバいかな? まあ、鬼◯郎ちゃん登場させてる人もいたから大丈夫だろう)(^^;)