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第7章

 全面戦争の喧騒が去ってから数日、辺りには嘘のような静けさが戻っている。焦げた地面や崩れた建物こそ生々しく残っているけど、それでも空気は穏やかだ。まるで、俺たちが得た勝利の余韻そのものが、重く張り詰めていた空気をやわらげてくれているように感じる。

 今は戦場に立ち尽くしていた仲間たちも、少しずつ新たな秩序づくりに動き始めている。俺たちが掲げる「正当評価」と「腐敗なき組織」という旗印に、多くの人々が興味を示してくれているからだ。


 ただ、その過程で忘れてはならないことがある。俺たちの側にも犠牲が出た。戦いで失った仲間を想うたび、胸が苦しくなる。そこで俺は、皆の総意として追悼式を開くことにした。仲間の中には、倒れた戦友の名を呼びながら涙する者もいる。そんな場面を見守りながら、俺は改めて戦いの重みを痛感する。

「ここで奪われた命を、絶対に無駄にはしない。新しい時代を築く糧にしよう」

 追悼の集いが終わったあと、自然とそんな言葉がこぼれ出る。すると、組織の管理システムに「絆ポイントが加算されました」という表示が出てきて、一同が静かに頷き合う。システム上の数字に頼らなくても、気持ちは十分につながっているのだが、こうして可視化されると仲間の絆を再確認できる。



 翌朝、雲ひとつない青空の下、俺は新たに作り直した旗を高く掲げた。旗には剣と翼のモチーフがあしらわれ、その中心には俺たちの組織を象徴する紋様が刻まれている。


「俺たちは、実力主義と経済戦略を融合させた“新秩序”をここに宣言する! 腐敗や不正がはびこる世界なんてまっぴらだ。俺たちの手で、本当に納得のいく未来を築こう!」


 言葉に込めた決意が風に乗り、広場に響き渡る。大仰な演説は得意ではないが、それでも精一杯の声を張り上げると、周囲から大きな拍手が湧き起こった。戦いの疲労が色濃く残る仲間たちが、それでも互いに笑みを交わしながら拳を突き上げるのを見て、俺の胸にも熱いものが込み上げる。


 その後、エリシアが王家の情報網を駆使し、国全体を安定化させるためのプランをまとめてきた。戦争状態だった地区には未だ混乱が残り、ギルドの支配を脱した土地は経済的な不安を抱えている。これからどのように再建し、統治していくか――国の命運がかかった局面だった。


「こちらに、被災地の復興優先度と人口分布のデータがあります。治安維持の方策も併せて検討しなければなりません」


 エリシアが広げた地図に目を落とし、俺は唸る。王家の情報システムには膨大なデータが蓄積されており、その威光を活かせば支援策も格段に進めやすくなる。


「助かるよ。これなら、今後の支援ルートを明確にできそうだ」

「ええ、市民の混乱を抑えつつ、あなたたちの“新秩序”を広めるには、地道な連携と説得が必要ですから」

 彼女の落ち着いた言葉には、王族としての気品が滲む。だけど、その瞳は隣に立つ俺を熱っぽく見つめていて、少し照れくさい。



 その日のうちに、俺たちの組織が提唱する「実力主義&経済戦略」の理念を市民向けに発信する。思った以上に多くの人が興味を示し、システム上の「人気度」がぐんぐん伸びていく。


「へえ、こんなに早く反応が返ってくるとはな」

 商人崩れの男が驚きつつ端末を操作し、数値の推移を示してくれる。ギルドのもとで苦しんでいた人々が多かったからこそ、俺たちの動きに期待を寄せてくれているのだろうか。

「人気があるということは、責任も伴う。そこを忘れるなよ」

 軽く釘を刺すと、仲間たちが真面目な面持ちで応じてくれる。信頼を裏切れば、いままで積み上げてきたものが一瞬で崩壊する。だからこそ、これからの組織をどう再編し、誰がどの専門分野を担当するのか、その割り振りを明確にしないといけない。


 そこで、俺たちは内部の再編成会議を開き、各部門の専門性を数値化して示すことにした。戦闘・魔法・経済・外交――それぞれをデータとして整理し、エリシアの情報網と統合して、組織の“どこが強みで、どこが弱みか”を視覚化するのだ。


「なるほど……防衛は第二部隊が最適か」「交渉は、話術スキルの高い奴らに任せよう」

 意見を交わすうちに、経済戦略と魔法を融合させた新たな“連携スキル”がシステム上に登録される。たとえば、魔法使いが物流を最適化する魔法を展開し、商人系の仲間が同時に取引を拡張する――そんな具合に、これまで想像もしなかったコラボがどんどん生まれていく。


 「あえて区分化することで、皆が自分の役割を理解しやすいんだな」

 そう実感していると、ふと仲間の視線を感じる。どうやら、俺にもう少し堂々とリーダーらしい挨拶をしてほしいらしい。俺は少し照れながら、立ち上がって全員の前に立つ。


「……俺たちのビジョンは、もう言葉にする必要はないかもしれない。けど改めて言わせてくれ。ここにいるみんなが、正当な評価を受けられる世界を作りたい。腐敗や不正は不要だ。お互いを認め合って高め合う、その姿をもっと広めよう」


 まるで熱に浮かされたような心地で語り終えると、システム上に“信頼度急上昇”の通知が表示される。それと同時に、歓声と拍手が広がった。胸の奥が熱くなり、全身に昂揚感が満ちていく。こんなにも多くの人々の前で堂々と演説できるとは、数日前の俺には想像もつかなかった。

 だが、その熱気を冷ますように、エリシアが静かに報告を上げる。


「王家の情報網によると、国外でも不穏な動きが確認されました。我々の急成長に対し、いくつかの勢力が警戒を強めているようです」

「……なるほど。国内だけでなく、外部からの干渉も視野に入れねばならない、ということか」


 俺はゆっくりと息を吸い、決意を固める。新たな秩序を築こうとする以上、抵抗勢力の存在は避けられない。ならば、迎え撃つ準備をするまでだ。


「システム上でも『警戒レベル』を引き上げるべきだろう。加えて、組織の防衛体制を再点検し、各部門間の連携を強化する。今のうちに最悪の事態を想定しておくべきだ」


 ゲームのように見えるかもしれない。だが、これは紛れもなく現実だ。俺たちが進める改革が着実に成果を上げているからこそ、周囲は警戒し、動きを見せている。ならばこちらも、データを駆使し、盤石の体制を築くしかない。

 そうして改革を進めていくうちに、内部の結束が驚くほど強まっているのを感じる。ギルド時代の旧弊に苦しんでいた仲間たちは、新たな理念を歓迎し、成果が出るたびにその意志をより強くしていく。システム上のデータを確認すると、ほとんどのメンバーが「新理念に同意」と表示され、一体感はかつてないほどに高まっていた。



 夜が訪れ、拠点の執務室で一息ついていると、エリシアが静かに扉を叩く。

「レオン様」

「どうした?」

 彼女は俺の前に立ち、真剣な眼差しを向ける。

「これから先、もっと多くの国や地域と関わりを持つことになると思います。英雄王の血統の件も含めて、あなたには見据えるべき大きなビジョンがあるのではありませんか?」


 真剣な面持ちの彼女に向き合い、俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「まだ血統の力が完全に解放されたわけじゃないし、俺も完璧なリーダーじゃない。けど、いま背負ってる仲間や市民の期待を裏切るつもりはないんだ。エリシア……君の力も借りたい」


 彼女は微笑みながら頷き、俺の手をそっと握る。まるで、一緒に未来を作ることが当たり前かのような自然さに、胸が熱くなる。


 やがて翌日、勝利の祝賀を兼ねた小さな祭典が開かれる。これには仲間だけでなく、多くの市民も招かれ、和やかな雰囲気が拠点を包み込む。みんなが笑顔を交わし、音楽や料理を楽しんでいる様子を見ると、まるで平和な時代が戻ってきたかのようだ。

「ここまで来れたんだな……」

 小声で呟くと、隣で商人崩れの男が腕を組み、楽しそうに笑う。

「だな。誰が追放者の集まりなんてバカにしてたんだろうな。いまや市民が自分たちから手を差し伸べてくれる。最高の気分だよ」


 祭典が盛り上がる中、自然と仲間たちの個々の成長エピソードが語られていく。剣技が下手だと言われ続けた男が、自分に合った魔法分野を見つけて活躍している話や、表舞台に立つのが苦手だった女戦士が、いまや頼れる副リーダーになっている話――いずれも、組織の成長グラフを見ると一目瞭然だ。

 そのグラフがまたじわじわと上昇しているのを確認し、「俺たちはまだまだ伸びるな」と笑い合う。自分自身も同じだ。血統の覚醒こそ終わっていないが、追放者として卑屈になっていた昔の俺とは比べものにならないほど強くなったと実感する。


 そんな高揚感のなかで、俺は次なる国際情勢への挑戦を口にする。隣国との交流も避けては通れないし、むしろ積極的に連携を深めていかなければならない。具体的な戦略を詰めようとすると、周囲から大きな賛同の声が上がる。

「いいね。さっそく外交の窓口を作りましょう。先方の商人や兵士とも交易できるかもしれない」

 仲間たちが提案を重ね、システム上で「外交ポイント」を付与する項目まで出てくる。まるでゲームさながらだが、実際これが説得力を持つ。データがあるからこそ、相手国に説明するときも「何をどうサポートできるか」が明確になるのだ。


 そして夜も更け、皆が祭典の後片付けに取りかかるころ、俺はふと外の冷たい風を感じながら物思いにふける。自分が今、ここまでのリーダー役を担っているとは思ってもみなかった。だけど、確かに仲間と共に道を歩み、結束を深めながら世界を変えようと動いている。

「もう、“ただの追放者”じゃないよな」

 小声で漏らすと、背後からエリシアが静かに歩み寄ってくる。

「もちろんです。あなたはリーダーとして、そして英雄王の末裔として、誰もが認める存在ですわ」

 優しく微笑む彼女の瞳に勇気をもらい、俺は深く息を吸う。個人の成長とリーダーとしての覚悟を、今この場で数値として示せるなら、おそらくかなり高いポイントが出るはずだ。それを思うと、少し誇らしい気持ちになる。


 ただ、新たな脅威に備えるための準備は欠かせない。俺たちはこのまま組織全体で戦略シミュレーションを行うべく、再び会議を開く。もし大きな災厄や対立がやってきたとき、どのように被害を最小限に抑え、どうやって人々を守るか――真剣な議論が交わされ、全員が次なる一手を検討するのだ。

 こうして話し合うたびに、内部の信頼度がさらに高まり、システム上の“最終チャレンジ”へ向けてゲージが上昇していく。皆の目が輝いていて、恐れよりも希望のほうが遥かに大きい。


 そして俺は、最後にエリシアの手をとって外へ出る。夜空には無数の星が瞬き、ほんのり冷たい空気が頬を撫でる。遠くに見える街明かりは、俺たちの組織が運営する拠点の灯火とつながり、新たな秩序を照らしているように思える。

「ここから先、どんな未来があるんだろうな」

 ポツリと零した言葉に、エリシアがそっと寄り添う。

「きっと、レオン様なら素晴らしい未来を築けます。私も、ずっとお側でお支えしますわ」

 彼女の気品あふれる横顔を見ていると、言葉にならない感謝がこみ上げる。俺ひとりでは、ここまで来ることは絶対にできなかったから。


 そうして、俺は一歩前へ進む。仲間との絆を確かめ合ったこの章は、まさに“内面の成熟”と“組織の再編”が進んだ証そのものだ。システム上でも「組織の基盤が確立されました」というメッセージが表示され、さらに希望を感じる。

「まだまだ道は長い。けど、ここまで来られた。なら、どこまでも行けるはずだ」

 夜空に浮かぶ星を見つめながら、俺はエリシアの手の温もりを感じる。全員が未来への決意を固めている今こそ、本当の勝負が始まるのかもしれない。追放から始まった物語が、この新たな秩序と共に、さらなる飛躍を遂げる――そんな予感が、静かな夜に満ちている。


 そう、俺たちは間違いなく前に進んでいる。そして、いつの日かこの歩みが世界を変える原動力になると信じたい。仲間たちの笑顔と、市民の支持、そしてエリシアの柔らかな眼差しが、その未来を照らし出してくれるのだから。


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