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第5章

 新たに確保した拠点の一角を改装し、簡素ながらも図書室を設けたのは、ほんの数日前のことだ。煙と火傷の跡がかすかに残る壁を修復し、仲間の一人が街で見つけてきた中古の本棚を並べる。わずかな手間で作り上げたその空間には、俺たちの成長に欠かせない知識が詰まっていた。


 かつて襲撃を受け、炎の手から死守した貴重な書物や資料の数々。その中でもひときわ目を引くのが、古びた文献の山だ。エリシアから譲り受けた王家の記録と関連するものも含まれている。そして今日から俺は、この場所で「英雄王の血統」について調べることになっている。より正確に言えば――俺の中で目覚めつつある“血統の力”を理解し、それを新たな経済戦略へと結びつける方法を模索するために。


 ページをめくるたびに、埃のにおいが鼻をつく。掠れた文字を丹念に追い、判読できた箇所をノートに書き写す。戦場で鍛えた手には武器の感触が馴染んでいるが、古文書の解析となると話は別だ。とはいえ、ここで足を止めるわけにはいかない。「やるしかない」と自らに言い聞かせ、前へ進む。

 ふと、あるページに目を奪われた。そこには“英雄の血統”に関する詳細な図表が記されており、細かな注釈がぎっしりと書き込まれている。

「これは……システム上の覚醒パラメーター、みたいなものか?」


 呟いた瞬間、胸の奥が熱を帯びた。最近、戦闘や訓練の際、まるでゲージが伸びていくような感覚がある。あれはただの気のせいではなかったのかもしれない。ここには、それを裏付ける手がかりが隠されている気がした。

 文献にざっと目を通しただけでも、“英雄の血統”は単なる身体能力の強化にとどまらないことが分かる。精神的な成長、仲間との連携、そして戦略的思考までも底上げする可能性が示唆されていた。


「まさか……俺の“成長システム”と関わっているのか?」

 確信にも似た感覚が胸を突く。もしこれが真実なら、俺はまだ自分の本当の力の片鱗すら知らないのかもしれない。

「まさか、これが俺の“成長システム”と関わっているのか……」


 思わず声が漏れる。血統に秘められた秘密が、俺の内に宿る“成長システム”そのものと密接に繋がっている。そう確信せざるを得なかった。ならば、最近組織として進めてきた経済戦略とも関連があるはずだ。これを活用できれば、俺たちの力は格段に引き上げられる。


 本を閉じ、思考を整理する。すると、外から仲間の声が響いた。

「レオン、ちょっと来てくれ! 経済戦略の件で打ち合わせだ!」

 図書室を後にし、拠点の広場へ向かう。そこでは仲間たちが集まり、活発に意見を交わしていた。先日の襲撃を経て、新たな方策を練っているのだ。俺たちが掲げる理念は「正当な評価」と「腐敗しない仕組み」。かつて商人だった男を中心に、資金の流れを再分配するシステムを構築中だった。


 もし、俺の“成長システム”を組み合わせれば――単なる金銭取引ではなく、組織全体の成長を飛躍的に加速できるかもしれない。


 実際に会議を進めると、驚くほどスムーズに話がまとまっていく。誰もが積極的に意見を出し、互いに補完し合うように計画が形を成していく。

「これも……血統の影響なのか?」

 そんな考えが脳裏をよぎる。確証はないが、かつては連携のぎこちなかった仲間たちが、今では一枚岩のように機能していた。物資管理や装備の準備、戦闘時の配置――すべてが緻密に組み上げられ、組織全体の成長が確実に進んでいる。


 夕暮れ時、実戦を想定した魔物討伐を行うことになった。俺自身も前線に立ち、成長具合を確かめるつもりだ。ここ最近、本格的な戦闘はなかったが、今なら明確に違いを実感できる気がする。


 森の入り口へと進んだそのとき、視界の端に黒い影が走った。鋭い牙を覗かせる狼型の魔物が、低い唸り声を響かせる。

 かつてギルドに所属していた頃は、こうした相手にも緊張を覚えたものだ。しかし――いまの俺には、微塵の恐れもない。


「来るぞ! 全員、配置につけ!」鋭く叫びながら、俺は剣を抜いた。

 同時に魔物が襲いかかる。だが、迷いはない。一気に距離を詰め、横薙ぎの斬撃を放つ。刃が魔物の肉を断ち切り、鋭い手応えとともに悲鳴が響いた。倒れ込む魔物を横目に、周囲の仲間たちも次々と敵を屠っていく。


 驚くほど軽快に動ける。かつては必死で戦った相手を、今ではスピードとパワーで圧倒している。まるで身体そのものが次の段階へと進化したかのようだ。

 血統の力と経済戦略の融合。仲間との連携を含めた“成長システム”が、確実に強化されている証なのかもしれない。

 戦場に漂う硝煙が薄れた頃、後方から駆け寄ってくる姿があった。

 エリシア──王女の身分でありながら、机上の学問に頼らず、自ら足を使い情報を集める聡明な女性だ。今朝、拠点に立ち寄った彼女は「私も少しだけお力になれれば」と言い、この演習に同行していた。


「レオン様、素晴らしい動きでしたわ。皆さんとの連携も見事でした」

 微笑むエリシアの表情には、どこか誇らしげな色が宿っていた。

 俺は少し照れくさくなりながらも、彼女の言葉に背中を押されるような気がした。


「これまでの戦いの積み重ねが、ようやく形になってきた気がする。初めて、手応えを感じられたよ」

「ええ。それに、血統の力だけが成長の源ではないのでしょう? あなた自身が積み上げてきた経験こそが、真の力を引き出しているのではなくて?」


 さすが王族の知見を持つエリシアだ。鋭い観察眼に、俺は苦笑しつつも頷く。


「でも、もし血統の力をもっと制御したいなら、特別な訓練を試してみては? 王家に伝わる古い修練法の資料が残っていました。それを活用すれば、あなたの潜在能力をさらに引き出す鍵になるかもしれません」


 その提案には乗らないわけにはいかない。いずれまたガルツやギルドの連中が攻めてくる可能性もあるし、もっと強くなる必要がある。そこで、演習を終えた後に夜通しの特別訓練を行うことを決めた。エリシアが魔法陣の理論や精神統一の要領を丁寧に教えてくれる。俺はその通りに呼吸法を意識しながら魔力を差し込む。


 すると、まるで体の奥底から光がにじみ出すような感覚が湧き上がってくる。筋肉がいきなり強化されるというよりは、“限界を超えて力を引き出す回路”を刺激するような感覚だ。数値的なステータスに例えるなら、攻撃力やHPが底上げされるだけでなく、“上限値”すら拡張されるようなイメージ。これが英雄王の血統の片陰なのかと思うと、興奮と不安が入り混じる。


 翌日、招待所に戻ると、再び組織全体を巻き込んだ大規模作戦の準備が始まっていた。最近、俺たちが築いた独自の経済ルートに対して、敵対する商会が妨害を付けているらしい。その商会はギルドとも裏で結びついているとの噂だ。黙っていれば、またこちらが痛手を負わされかねない。それなら先手を打つしかない。資金の流れを分析し、王家の情報網もフル活用して、敵の招待所を抜いてかかる。それが今回の目標だ。


 会議で作戦を共有すると、みんながそれぞれ役割を理解し、スムーズに動き出す。かつて小さなトラブルですら右左に振り回されていた頃を思うと、嘘みたいだ。これも血統の効果というよりは、俺たちが積み重ねた経済戦略のノウハウと連携の貝物だろう。


 実際に作戦が始まると、俺たちの連携はさらに研ぎ澄まされているのを実感する。エリシアの諜報で得た敵の配置や資金ルートを、俺たちの成長システムに組み込むことで、攻めどころと守りどころが一目瞭然になった。経済と戦闘が一体となり、まるで一つの巨大な戦略スキルのように機能している。


 そして、俺たちの部隊が敵陣に踏み込んだ瞬間、相手は大混乱に陥った。王家の紋章を持つエリシアの存在が彼らの判断を鈍らせ、数名のガードが形ばかりの威嚇をしてくるが、俺は迷いなく魔法剣を抜いて正面から応じる。


 そのとき、不思議な現象が起こった。剣を掲げた瞬間、俺の腕のあたりに王家の家紋らしき紋章が薄く光り輝いたのだ。


(あれは……?)


 自分でも驚いたが、敵のガードたちはもっと仰天し、一斉に後退する。その隙を逃さず、仲間たちは一気に踏み込み、相手の商会の資金や重要書類を押さえ込んだ。まさに電光石火の戦果だった。


「なんだ、あの紋章は……!」「まさか、王族なのか……?」

 敵の戸惑いを耳にしながら、俺は心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。力と知恵が融合し、戦況を支配する感覚――これこそが英雄王の血統が示す真価の一片なのかもしれない。


 そして、俺は静かに呟く。「ガルツ……」

 先日の襲撃では打ち破ったものの、奴は決して敗北を認めていない。きっと、より本格的な妨害を仕掛けてくるだろう。そのときこそ、はっきりと勝負をつける必要がある。


「この作戦が終わったら、次はアイツとの決着をつける」


 エリシアの微笑みに背中を押される。

「レオン様なら、きっと勝てますわ。私も全力で支えます」

 その言葉に、胸の奥底から熱い闘志が湧き上がるのを感じた。俺たちが本気で動けば、腐敗したギルドの御曹司であるガルツがどれほど足掻こうと、もはや勝ち目などない。そう確信できるだけの“何か”が、俺の中で静かに、しかし力強く燃え広がっていた。


 作戦を終え拠点へ戻ると、組織全体の成長グラフが劇的に上昇していることがわかる。先の襲撃騒ぎを乗り越えた時も確かに伸びていたが、今回はそれ以上だ。仲間たちは誇らしげに「これなら、本格的にギルドを超えられるんじゃないか」と口々に語り始める。

 俺は皆の前に立ち、自然と声を張り上げた。


「見ての通り、これが本当の俺たちの力だ。そして、俺自身もまだ成長の途中にいる。昔、ギルドで“無能”と罵られた俺が、ここまで来たんだ。誰だって変われる。腐敗した体制なんかに、絶対に負けはしない」


 仲間たちは歓声と拍手で応えてくれた。その熱気の中、エリシアがそっと囁く。

「レオン様……あの家紋が表れた時、まるであなたが“英雄王”そのもののように見えました」


 耳が熱くなるほど嬉しい言葉だったが、同時に自分がまだ完全に覚醒していないことも理解している。文献を調べれば調べるほど、かつての英雄王の力は遥かに壮大で、世界の危機すら覆すほどのものだった。俺は今、その片鱗に触れ始めたに過ぎない。

 だからこそ、これからの組織の未来計画がますます重要になる。戦闘力、経済力、情報網、そして王家の信用――すべてを備えた新たな勢力を築けば、旧体制を塗り替えるほどの大きなうねりを起こせるかもしれない。

「……やるしかねぇな」

 その口癖をかみしめるように微かに傾げた。血統の秘密と経済戦略。その二つが混ざり合えば、次の戦いも勝ち抜ける。数値はまだ“最終上昇”には達していないが、その時は確実に近づいている。


 明くる朝、俺は全員を集め、突き上げるように元気な声を振り上げる。

「敵との決着は近い。ガルツも、腐敗ギルドも、一切尊重しない。俺たちはここから本格的な反撃に出るぞ」

 仲間たちが一斉に「おお!」と拳を突き上げる。そのエネルギーが拠点全体を包み込み、成長数値が一気に跳ね上がるのを感覚的に捉える。システムの記録を覗かなくてもわかるほど、まるで目に見える光のように活力が満ちている。


 こうして、俺たちは腐敗した旧体制への反撃を本格化させる決意を新たにする。血統の覚醒システムが“完全に作動”する日は、もう遠くないのかもしれない。少なくとも、この勢いなら必ずその扉をこじ開けられると信じられる。



 再び図書室へと足を運び、古びた書物を手に取る。薄闇に揺れるランプの明かりの下、かつて難解だった文字が、今では驚くほど自然に目に馴染んだ。まるで血統の力が目覚め、必要な情報を手繰り寄せているかのように。


 英雄王の血を引く者として、この先どんな試練が待ち受けているのかは分からない。だが、それを乗り越えた先に、真の"最強"の境地があるのなら——俺は迷わず進む。もう過去のように、自分を疑いはしない。初めて、心の底からそう思えた。


 仲間たちと築き上げた組織、エリシアから託された王家の秘宝——そのすべてが俺の力になる。そして今この瞬間にも、胸の奥で何かが確かに目覚め始めているのを感じた。


「ここまで来たんだ。もう後戻りなんてしない。俺の中に流れる英雄王の力、仲間の想い——すべて背負って、進むだけだ」


 決意を固める俺の耳に、夜風が静かにささやく。やがて、あの無慈悲な魔神の気配すらも、確かに感じ取れる日が来るのかもしれない。遠くうごめく闇の脅威、ギルドの横暴、そしてまだ完全に覚醒していない俺の血統——


 それらすべてが、いずれ正面からぶつかり合う宿命にある。だが、恐れはない。今の俺には、揺るがぬ自信と確かな道筋がある。たとえ絶望的な状況に追い込まれようとも、経済戦略と血統の力を駆使し、必ず突破口を見出してみせる。俺の成長は止まらない。その証として、光のように伸び続ける未来のグラフが、確かな軌跡を描いているのだから。


 ――そんなふうに思いを巡らせるうち、心が熱くなる。新たな一歩を踏み出すために、俺は再び剣を握り、身体を動かす。深い呼吸とともに、胸の奥でまたひとつゲージのメモリが上がるのを感じながら。もうすぐ、次の段階へと踏み込む準備ができるはずだ。血統の秘密が、いよいよ本格的に花開くときが近づいている――そんな予感に胸を躍らせて。



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