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夜桜邂逅  作者: らりさず
出会いと別れ、そして始まり
2/3

第一章:エピソード1 日常が崩れる瞬間

俺の名前は鬼怒川悠斗きぬがわゆうと!太陽の国の中央にある、トウキョウ都立曙あけぼの学園に通う高等部2年生!…になったばかりだ。

なったばかりっていうのは、今日が新学期初日だからだ。学校だりぃけど、行かなきゃお袋に絞められるし行くしかねぇか…。

え、『好きな子にいつ告白するか』?う、うっせぇそんなん言う言わないは俺の勝手だろ?!ほっとけ!!!

…別に、恥ずかしくてずっと隠してるなんて事じゃねえんだからな?俺なりにタイミングを考えてるだけな?いつか言うんだからな!?

淡い淡い夢の中。

知らない女性が目の前で、腹部から血を流して意識を無くしている。生ぬるい風に揺れる長い黒髪が、自分の手のうちにあった。力無く倒れてきた女性を、抱きしめるように受け止めている。腹の中がジンジンと痛み、それと同時に体温が下がっていく感覚がした。



───助けねば、早く止血をしなければ、彼女が死んでしまう。



何に代えても守り通したかった女性。かけがえのない唯一の人。助けたい。生きていてほしい。頭の中は真白になってまともに考えることも出来ない。

生気を感じないその体を起こし、彼女の顔に手を触れた。目の前の彼女の顔が、生命活動を維持できていないということを、嫌という程物語っている。

ほのかに蜜柑の香りがする長い黒髪も、話す度淡く色鮮やかに染まる赤い頬も、明るく透き通った鈴の音のような声も、そして全てを見透かすように神秘的な黄土色の瞳も。



もう、会えないのだ。もう、見ることもないのだ。もう、聞くこともないのだ。

自分がもっと早くこの場に来れていたら、彼女に有無を言わさずに「逃げよう」と云えたのならば、彼女のために大勢を敵に回せたのならば…。



────俺が、殺したも同然じゃないか。



物事を冷静に捉える為に培ってきた理性は何も役に立たない。

視界が歪み、雫が彼女の顔に落ちる。自身の腹部は間違いなく貫かれて激痛が伝わってくるはずなのに、胸の方が苦しい。詰まり詰まって呼吸が浅くなる。

認めたくない現実は、時が止まったかのように目の前に鎮座していた。あぁ、こんな景色、みたくない。みたくない。見たくないのなら…





──────────全て、壊してしまおう。





体の内側から燃え上がる炎がその場を包み込む。

逃げ惑う一族の術師達(ひとでなし)、自分を止めようと叫ぶ友人たち。視界が己の獄炎で包まれていった。









▷▷










『────ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ・ピピピピ…』



いつしか耳に滞りなく響くアラーム音が、けたたましく室内に音を撒き散らしている。やがて浮上してきた意識が完全に安定する前に、『シャァァァッッ』とカーテンが開かれる音がし、その瞬間強烈な光が瞼裏を照らす。

眩しさに耐えかねて、思い切り瞼を瞑ると、頭上から響くドスの効く聞き慣れた声が、耳を貫いた。



「ちょっと悠斗(ゆうと)起きなさい!いつまで寝てるの?今日から2年生でしょうよ!」



お袋の声が聞こえ、頬を結構強い力で引っ叩かれる。あまりの痛さに両目がぱっちりと開かれた。目の前には不機嫌そうに眉を顰めた表情のお袋が立っていた。



「ってぇ!?え?!今ぶった?ねぇぶった?!」


「三回も起こしに来たのに起きないあんたが悪いわよ!ほら早く支度しなさい!」


「げっ、かわいげねぇの!」


「は゛ぁ゛?」


「…サーセン」

挿絵(By みてみん)



痛過ぎて文句を垂れると凄まれてしまい、思わず謝った。その姿を見るなり「早く支度しなさいよ」と呆れながら、お袋は自室を後にした。

スマホ画面を見て時間を確認すると、午前7時20分。



(…まだ寝れんじゃん)



二度寝するとアッパーが飛んで来るので渋々起き上がり布団から出る。

パジャマを脱ぎ、ワイシャツと制服のズボンに着替え、洗面台へ向かう。

鏡越しに朱みがかった瞳の黒髪短髪美青年の俺!と目が合う。梳かしても治らない寝癖と癖毛を梳かし、顔を洗いリビングへ向かった。



リビングにはすでにお袋と、いつもこの時間帯には仕事で家を出ている親父がいた。

四人がけのダイニングテーブルにどっしりと腰を下ろす親父の正面に座る。俺の顔を見るなり、親父はニヤニヤしながらちょっかいをかけてきた。


「お〜悠斗。今日も怒られてんなぁ〜」


「うっせぇ親父!…てか仕事は?」


「俺今日休み」


「はぁ?!ずりぃ〜!!!」


「ずりぃも何も有給ですぅ〜会社に所属している人の真っ当な権利ですぅ〜」



そういうと親父は得意げにニヤつき、親指を自分の胸元に突きつけ主張してきた。そんな親父の態度が癪に障り、少し下唇を尖らせて威嚇をし、頬杖をつく。



「こら、行儀悪い!肘を立てないの!」


「え〜そんな細けぇこと誰も言わねぇよ!」


「人として最低限のマナー!」


「…っすー………」


睨まれながらも白米が盛られたお茶碗と、目玉焼きと漬物が乗った平皿が目の前に並べられた。

隣にお袋が腰掛け、俺の背中をバシバシと叩いてきた。それに弾かれるように背筋を伸ばし、「いただきまぁす」と手を合わせがっついた。

正面のテレビでは『前世占い』のコーナーが始まり、女子アナウンサーが意気揚々と発表していた。



『今日の運勢第一位の方は〜?前世で牧場主だった方!あの頃飼っていた家畜達のように可愛い動物と出会えるでしょう!』


朝から『家畜』なんて単語を、ニュース内の爽やかお姉さんから聞いてしまい…飲んでいた味噌汁を思わず吹き出しかけた。



「ゲホ、え?家畜?…てかこの占い当たる?」


「意外と評判いいらしいぞ?会社の同僚がこの間一位だったらしくて絶好調だったって」


「へぃへぃ〜いいですねぃ前世がわかるお方は〜」


「悠斗だって、そのうち思い出せるかもしれないぞ?ずっと思い出せないままって訳ではないだろぉ」



親父のその言葉に、今朝見た奇妙な夢を思い出し、思いがけず持っていた箸を止めて考え耽ってしまった。

様子を見兼ねた親父が「おい、どうした?」と声をかけてきてふと我に返った。

あの夢も気にはなるが、流石にあんな物騒なのが前世とかはないだろう。きっと、昨夜読んでいた呪術○戦の影響に違いない。

そんな事を思っていると、隣からお袋のせかす声が聞こえてきた…。



「ちょっと、早くご飯食べてちょうだいよ!お皿洗えないじゃない」


「「サーセン」」



この世界の人間は、『前世の記憶』を持って生まれてくる。それが当たり前。その記憶を糧に人類は進化を遂げてきている。()()()()()()()()()()()ごく自然に思い出す。



…のだが、なぜか俺は思い出せない。別に前世がなくったって生きていけるけど、『みんなにはあって俺にないもの』があると自分が劣っているように感じて腹が立つ。

昔から前世関連で揶揄われたりしていたが、その度に暴れ回っていた。…現在はそんな大人気ないことはしないが。



因みに親父は前世プロの殺し屋(笑)で、お袋はプロボクサー(多分ほんと)らしい。



朝食を食べ終え、歯磨きをし終わると7時50分。

制服のブレザーを羽織り、ネクタイを緩く締め、ローファーを履く。学業道具と弁当が入ったリュックサックを背負い、後ろに向かって声をかける。



「んじゃいってきまーす!」


「「いってらっしゃーい」」



両親の声を聞きながら玄関のドアを開けて外に出た。

鬼怒川(きぬがわ)』と書かれてある表札の横を通り過ぎ、桜が散った道路を歩く。昨年に比べ、少し遅咲きだった桜も、4月上旬になると流石に散り去っていた。

歩きながら暖かい春の風を浴び、新しいクラスに想いを馳せていると、後ろから声をかけられた。



「悠斗くんおはよう!」


「ん?奏音(かのん)!おは〜」



茶髪の胸下ぐらいまで伸ばしたロングヘアーを、耳上の高さで二つに括った黄土色のパッチリとした瞳の少女…光星奏音(みつぼしかのん)と目が合った。彼女とは幼稚園時代から付き合いがある。いわば幼馴染だ。…関係年数と共に俺の片想い歴もずっと更新され続けている。



俺も幼稚園時代はそれはそれは荒れていた。子供は素直にものを言うし、反応だって素直だ。先程の前世が思い出せないから揶揄われていたと言うのはこの時からすでに始まっていた。

初めて会う相手に速攻『前世って何やってた?』と尋ねてくる子供を甘く見てはいけない。覚えてない、なんて返答すれば子供特有のなぜなぜ攻撃が始まる。



なぜなぜ攻撃があまりにもしつこくて、聞かれるたびに暴れ回っていた俺に『私も前世覚えていないの。一緒に頑張って生きていこう』と、奏音は声をかけてきた。公言すると揶揄われると知っていながらも、まっすぐ伝えてくれたことに、とても感動と勇気を貰った。

それ以来…彼女のように受け入れて暴れることも無くなった。…これがきっかけで、俺は彼女にずっと思いを寄せている。



俺と奏音は、挨拶もそこそこに歩道を歩き始める。



「あ、寝癖!」



特に言葉もなく歩いていると、不意に後ろ髪を突かれる。それに対し遅れ気味に慌てて少し距離を取る。



「う、うっせぇ!ほっとけ!」


「ダメだよ!今日から先輩なんだから…しっかりしないとなめられちゃうよ?」


「だーいじょーぶだって!剣道部は上下関係厳しめだから」


「…だったら尚更直さなきゃだめじゃない?あ、ネクタイも今日ぐらいはしっかり締めなきゃ!」


「だぁ〜!お袋かよ!」



お袋と言われた途端ちょっと目を見開いた奏音。昨日動画サイトで、餌を入れられすぎて面食らったトイプードルを思い出した。



(すぐ表情が変わって小動物みたいだな…)



そんなことを考えていると、奏音は表情を変え、眉毛をキリッとさせた。そして驚いている俺の正面へと勢いよく踊り出た。



「じゃあ直してあげるからこっちむいて!」


「はぁ?いいって!…わかったよ、行けば良いんだろ?」



妙に張り切って手招きをしている。諦めて少し近づくと、細くて華奢な指が首元のネクタイを軽く締め直す。距離が近くて悶々としてるとあっという間に終わった。



挿絵(By みてみん)



「はい、これでよし!」


「…ありがと」



奏音は満足そうに前を向き、また二人で歩き出す。先ほど言われた上級生っぽくないと言われてのを思い出し奏音をチラッと見る。



「てか上級生っぽくないだったら奏音の髪型もちょっと幼くねぇ?…あ」



さらっと思っていたことが口から出てしまった。デリカシーがないとか言われるか?!素直な性格ゆえの過ちだろう。し、仕方がない…!

うっかり出てしまった言葉に、鼻の下を擦りながら目を逸らす。



「こ、これは!…ちゃんと理由があるからいいの!」



少し顔を赤らめて眉を吊り上げた。珍しく奏音が怒った。改めてよくなかったなと感じ、即座に謝った。



「悪いって!別に似合ってない訳じゃないしいいと思うけどな!!可愛いし」


「え…?」



きょとんとしてこちらを見つめ返してくる奏音…言うつもりも無かったことまで口走ってしまった。顔周りの温度が上がっていくのを感じた。恥ずかしくて言い訳を考えている間も、目を丸くしたままこちらを見つめてくる奏音の視線から、逃れるために勢いよくそっぽを向いた。



「お、お袋が!!!そう言ってた!」



思った以上に大きな声が出てしまい、それに対しても恥ずかしくなって、落ち着く事ができず鼻の下を擦った。それを聞いた奏音は数秒固まると、弾き返されたかのように我に返った。我に返った後また頬を赤く染めてツインテールの両端を手で握った。



「そ、そっか!おばさんにありがとうって伝えて!」



「おっ、おう」と歯切れの悪い返事と共に変な雰囲気にになってしまった。気まずい。…なんか話題!!

ふと今朝見た衝撃的な前世占いを思い出し共有することにした。



「そ、そういや今日前世占いで…あだっ!!」


「何朝から道端でいちゃついてんだよ二人とも」



急に後頭部を叩かれ振り向くと、眼鏡越しに深緑の瞳を細め呆れ顔をした、もう一人の幼馴染緑間龍也(みどりまりゅうや)がいた。

きっちりと制服を着こなして、赤茶色の天然パーマの短髪を左手で掻きながら、右手には伸ばした折り畳み傘を持っていた。



「んな…!龍也(りゅうや)テメェ急に頭叩くんじゃねえよ!痛いじゃん!てか折り畳み傘で叩いたん?!それ伸び縮みさして遊んでたんだろ!!小学生かよ!」



見られていた恥ずかしさと、気まずさと、叩かれたことに対しての怒りが後から沸々と上がってきた。

勢いよく声で反感すると、龍也はめんどくさそうにため息をついて折りたたみ傘を縮めた。そしてじろりと俺を見た。



「声でか…僕の前で道塞いでるのがいけないんだろうが。通れないだろ」



相変わらずの不機嫌さ丸出し加減MAXでど正論パンチをくらわせてきた。



「龍くんおはよう!そしてごめん!」


「うん、おはよう。大丈夫。ほらお前も奏音の素直さを見習え」


「んあ?!そりゃ…道塞いでた俺も悪いけど、折り畳み傘で叩かんくても良くね?!声かけてくれればよかっただろうがよ!」


「…なんか朝からいちゃいちゃしててうざかったから」


「んな、いちゃいちゃって、してねぇだろうが!」


「いいから前進めよ遅刻するぞ」


「おい話すり替えんな!!!」



龍也が先を行き、奏音と俺で後を追いかけて学校へと向かった。



▷▷



トウキョウ都立(あけぼの)学園。

このトウキョウにある()()の学園。ここには様々な事情を抱えた生徒、先生が日々通っている。普通の学園と違い、()()()()()()()()()()()()でも通うことが出来る。



初代校長の『どんな生き物にも学ぶ楽しさを知る権利がある』という理念の元に設立された学校。

一般的に入試や企業面接で聞かれる「あなたの前世はどんな生涯でしたか?」という質問の代わりに、「何を学ぶためにここを選んだのか」という哲学的質問が飛んでくることで有名だ。



因みに俺は学ぶものを探すためにここを選んだって答えたら受かった。なんか哲学っぽいだろ?



学部は『初等部』『中等部』『高等部』『大学部』と年幅広く世間一般の『エスカレーター式』の学園だ。

俺と奏音と龍也は高等学校の授業を主に行う『高等部』から途中入学した新参者だったってことだ。もう先輩だけどな!



新学期ということもあり、高等部の玄関先に新しいクラスが張り出されている。新2・3年生たちが、ガヤガヤしながらクラス表の前で騒いでいた。

俺は後ろからクラス表をスマートフォンで撮影して、奏音と龍也のもとに戻った。玄関から少し離れたところで写真を共有して、お互いのクラスを確認する。



「お、俺1組!…龍也と一緒だな!」


「はぁ…またお前と同じクラスか」


「ため息つくなよ!奏音は…2組か!離れちゃったな」


「離れちゃったね…あ、でもまりちゃんとゆみちゃんと同じクラスだ!やった〜!」


「ほーん、よかったじゃん!」


それぞれクラスを確認していると後ろから左肩をトントンと叩かれた。

振り返ると右頬をぶすりと刺された。昨年度同じクラスだった園崎優美(そのざきゆみ)だった。少し派手なネイルの右手をワキワキとして、紅色の瞳を細めてニヤニヤしながらこっちをみていた。


「イテェな!…って、噂をすれば園崎じゃん!爪痛いんですけど!」


「奏音たちおは〜!え、噂をすればって何?うちが超絶美少女すぎてつらみ〜とか?」


「んなの一言も言ってねぇし!」


「え〜違うの〜?」


園崎は、ベージュ色の長髪を指でくねくねさせながら口を尖らせて拗ねてきた。俺たちの中で唯一のTHE・ギャルの彼女は、生活指導の先生によくお世話になっている。お世話になっている割には成績優秀なので『ギャップがすごいリアルラノベギャル』としてよく話題に上げられるらしい。



スマホ画面のクラス表と睨めっこしていた奏音が元気よく顔を上げた。



「あ、ゆみちゃん!おはよう!」


「奏音〜おは〜!ねぇみて!新色にしたの髪!よくない?」



園崎は自分の髪を指さして、ゆらゆらと揺れながらはにかみながら奏音に尋ねる。少し驚いて園崎を見て、その後再認識して顔が綻んだ。


「わ、ほんとだ!可愛いねゆみちゃん!」


「も〜奏音マジ素直で可愛い〜奏音も髪染めよ!」


「うん!卒業したら染める!」


「え〜いい子ちゃんじゃーん!か〜わ〜い〜い〜!」



園崎が奏音に抱きついて頬擦りをしている。女子はすぐ可愛いっていうけどけど口癖なの?言葉の重みなくね?いいの?…どうでもいい事を考えていると、龍也がおもむろに口を開いた。



「指導されまくるから大人しくしてればいいのに…園崎はマゾなのか?」


「んな訳ないじゃん!うちはただ好きな格好してるだけだし!別にいいでしょ学校ちゃんと来てるしテストだって頑張ってるしぃ〜」



ねぇ〜!と奏音へと同意を求めて、奏音も元気よくうんうんと頷く。去年、クラスの『自称恋愛マスター』が「女子は共感と可愛いで生きていける」と言っていたのを思い出して密かに納得した。



一人で納得していると、園崎の後から二人の人物が歩いて来るのが視野に入った。


「ねぇアタシらの事置いてかないでよ」


「あ、ごめ〜んつい」


「ふっ、このオレを気軽に置いていくとは…やるじゃないか…」


「あは、え〜!やった〜!ありがとう〜っふふっ」



園崎が後方を振り返り、悪びれもなく半笑いで会話に対応する。

少し前髪が長めの低身長黒髪ボブヘアーの神楽麻里奈(かぐらまりな)、真面目に制服を着こなし芝居掛かった口調で話す、長身涙ほくろ黒髪マッシュの加賀正宏(かがまさひろ)がのんびり歩いてきた。



園崎・加賀・神楽とは去年同じクラスで、たまたま席替えをしたら近くの席だったというのがきっかけで、仲良くなった。よく6人で昼食を食べたりゲームセンターに行ったりして遊んでいる。所謂「いつメン」ってやつだ。

奏音と龍也も、後方の二人に気づいたようだ。二人の方に振り向いた。



「まりちゃん!まさくん!おはよう!」


「おん、おはよう奏音」


「ああ、御早う。ふっ…今日も元気だな」


正宏がきてから気づいたが、あいつの名前だけまだ見ていない…いそいそとクラス表を確認する。

確認すると、なんと4組だった!



「ちょ…くくっお前だけ4組じゃん!!えぇ〜マジ?!」


「…何?『お前だけ』ということはオレ以外は皆同じクラスなのか?」


「俺と龍也は1組、奏音と園崎と神楽は2組、正宏は3を通り越して4組…あはは!おもろ!」



言われた言葉がうまく飲み込めずにいるのか、しばらく豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をしている正宏。だが理解し始めたのか、だんだんと元気がなくなっていった…。

普段から、少々大袈裟な話し方や無駄に格好つけている表情をしている分、眉と目尻が下がっただけでもちょっと面白く感じてしまう。同じくそう感じたのか園崎がニヤニヤしながら正宏に話しかけた。



「え〜まさ〜一人?ちょー寂しいじゃん!うちが毎日休み時間に会いに行ったげるっ」


「…うむ、助かる」



思っていた以上にショックだったのだろう。いつもなら揶揄われたら『ふっ、可愛いやつめ』と言ってキメ顔で流すのに、素直に反応を返してしまっている…。ますます笑えてきたので、思わず俺も園崎の真似して正宏に話しかけた。



「まさ〜俺も会いに行ったげるっ!」


「…鬼怒川、お前は面白がっているな?」


「そんなことないって!善意善意!」



善意(笑)の笑顔で正宏を見る。普段の格好つけとは打って変わって、仏頂面をしかめて青色の瞳で俺を睨む。目は口ほどに物を言うとはまさにこのことだろう。

周りのやつは正宏が何考えているかわからないとよく言うけど、こいつ程わかりやすいやつはいないと思う。

その様子が更に面白いので追い討ちでおちょくろうとすると、龍也に止められた。



「悠斗それ以上はうざいからやめとけ」


「え、めっちゃどストレートじゃん俺が傷付くわ」


「自業自得だろ」


「しょうがねぇ、手加減してやるか」



そう話していると、見張りで校門近くにいた先生が「お前たちいつまでうろちょろしてるんだ!早く教室に行け!」と言ってきた。皆で顔を見合わせると各々教室へ向かうのだった。



▷▷



全校集会と始業式が終わり、配布物と新しい時間割が配られると早々に解散した。新しいクラスだし自己紹介とかするのかと思いきや、担任の黒山は「そう言うのは各自で適当に済ませとけ」と言ったのですごく早く終わったのだった。俺は荷物をまとめ、龍也の席へと向かい話しかけた。



「なぁ今日部活ないしさ、帰りカラオケ行かね?」


「あ、ごめん。今日楽しみにしてたゲームの発売日だから先帰る」


「そうなん?おけー!じゃあまた明日な!」


「うん、じゃあな」



龍也はリュックサックを背負うと、足早に教室を出ていった。

一人になった俺は、とりあえずスマホを開いた。



(うーん、どうすっかな…奏音達は終ったのかな…聞いてみるか)



メッセージアプリでグループチャットを開く。



『お前らもう終わった?暇ならカラオケ行かね?』



メッセージを送って数分して園崎と神楽から返信がきた。



『ごめ〜ん空いてない〜』


『おじいちゃんの手伝いしなきゃだからパスでよろ』



なんだか振られ三昧である。その後に正宏と奏音からも…



『すまない、先約があってな。また今度で頼む』


『今先生のお手伝い中…!少し時間かかるかも汗』



…お、奏音空いてる?俺はすかさずメッセージを送る。



『わかった。みんなまた今度な!てか奏音空いてるの?用事手伝うからカラオケ行かね??今どこ?』


『空いてる!今職員室!かず先生のところにいる!』


『おけー行くわ』



スマホを閉じて早足に職員室へと向かった。




▷▷




職員室に向かう道中、荷物置き場と成り果てている視聴覚室から奏音が出てくるところに遭遇した。両腕でダンボールを持っていた。元々入口のそばに置いてあったダンボールの隣に持っていたダンボールを置いて扉を閉め、またダンボールを持つためにしゃがみ込んだ。

そこにすかさず声をかけた。



「お疲れ!それ俺が持つよ」


「あ、悠斗くん!お疲れ様!ありがとう!」



ダンボールを持つ。思っていたよりも重みがあった。先生これ女の子にはちょっと重くねぇか…?奏音に依頼したかずせん…もとい輪延和明(わのぶかずあき)先生を少し恨んだ。重みを感じつつ、段ボールを持って前へ歩み始めた。



「なぁ、これ何入ってんの?ちょっと重くね?」


「あはは…重いよね〜。今までの体育祭の競技資料と来賓の名簿が入ってるよ。『初めての体育祭主催担当になったから、資料を見たいけど場所がわからない!』ってかず先生が言ってた…」


「へぇ〜…奏音はよく知ってたな場所」


「うん。去年育休した理事長と結構仲が良くて、たまたま資料整理を手伝ったんだ!その時に聞いたの」


「ほ〜ん…先生達も大変なんだなぁ。まだ始業式始まったばっかなのにもう体育祭のこと考えなきゃいけねぇの」


「かず先生もちょっと疲れてそうだったなぁ〜」


「それで、奏音から声かけたのか?」


少し驚いた顔でこっちをみる奏音。まるで『なんでわかるの?!』とでも言いたげそうな目だ。奏音はいつも周りをよく見ていて、何かあれば自分から声をかけられるような優しい気遣いができる人。

…だけど自分のことをいつも後回しにしてしまう。だから俺は、必要以上に奏音に対して過保護になってしまう。もっと自分を労ってほしい、と思うが、こういう時ほど素直に口から出る訳もなく…。


「相変わらずお節介焼きだな奏音は〜。かずせんだって今までしっかり生きてきた大人なんだから、平気だろうよ」


「うぅ…それはそうだけど…」


何も言えずもどかしそうに下を向く奏音に、少し罪悪感を抱きつつ…。やっぱり自分を大事にして欲しいので口酸っぱく言い続ける。



「何にでもイエスマンだと『この人頼めばなんでもやってくれる!』とか思われるぞ?気をつけろよ?」



奏音を見やりそう言うと、彼女も少し考えたのか…。こちらを見て、眉をはの字にして困ったようにはにかんだ。



「そうだね。今度から気をつけるよ!ありがとう、心配かけてごめんね。悠斗くんはいつも私を気遣ってくれるよね…そういう優しいところ昔から変わらないよね…私そういうところ好きだよ」



なんの気なしにまっすぐこちらを見つめてくる。好きって!意識しないで言ってくれちゃって!どうせ「友達として」とか言うんだろ?!もうやめろって勘違いするから!

無垢な瞳に耐えきれず、そっぽを向いてしまう…。



「お、おう!ありがとな!俺も奏音のなんでも素直に受け入れられるところs…尊敬してるよ」



そう言った後、なんだか小っ恥ずかしくなって少しだけ早足になった。後ろから「ちょっと待ってよ〜!」と聞こえる。少し冷静になって慌てて立ち止まり、奏音の方へ振り返った。



「わりぃちょっと早かったな…ん?」



奏音の後ろの廊下が黒く歪んでいた。まるで写真を燃やしてできた焦げのように。声をかけようとしたその瞬間、奏音に虫取り網のようなものが被さった。…ように見えた。

ほんの一瞬の出来事で状況が飲み込めないでいると、奏音が俺に向かって思い切り飛び込んできた。



「はっ?!お、おい奏音?!どうし…た?奏音?奏音!!!」



飛び込んできたと思ったら力無くこちらに倒れ込んできた。色々とやばい。

受け止めるためにダンボールを投げたせいで中身は飛び散るし、受け止めたはいいものの尻餅をついてしまいケツが痛い。そして何より大変なのは、奏音が呼び掛けに反応しないこと。どうにか倒れ込んできた奏音を仰向けにして壁に寄り掛からせる。

完全に気を失っていてうんともすんとも反応がない。俺は突然のことで頭の中は真っ白で、パニックになっていた。



「鬼怒川くん?すごい大きな声…って光星さん?!どうしたの?!と、とにかく保健室…えっと救急車!」



後ろからかずせんの声が聞こえる。慌てた様子で救急車を呼ぶために電話をかけている。



「鬼怒川くん、とりあえず保健室へ行って先生連れてきて!

急に倒れた人を動かしたらまずそうだし、一旦床に寝かせるから!僕は救急車に電話する!」



かずせんの声と背中を叩かれて我に返る。…そうだ、先生呼ばなきゃ!

急いで立ち上がると、俺は全速力で保健室を目がけて走り出した…。



(エピソード1 end)

登場人物紹介

鬼怒川悠斗(きぬがわゆうと)…曙学園高等部2年1組。黒髪の2本のアホ毛がある癖っ毛、朱色の瞳のぱっちりした目をした少年。自分に素直で物事を深く考えるのが苦手な性格。良く言うと朗らか、悪く言うと単純バカ。運動神経抜群で体がとても丈夫。剣道部に所属しており、1年の頃から主将として都大会などに出場している。そこそこ腕が立ち短気な性格も相待って結構喧嘩っ早い。照れ隠しや隠し事がある時に鼻の下を擦る癖がある。基本サバサバしているが、幼馴染で片想い相手の奏音の事になると少し過保護気味になる。漫画を読むのが趣味で、特に王道展開が多い少年漫画を愛読している。父、母の三家族。


光星奏音みつぼしかのん…曙学園高等部2年2組。焦茶髪の肩下くらいのツインテールに黄土色の瞳のくりっとした目が特徴。少し優柔不断だけど明るく心優しい性格。思い出を大事にしていて、仲良しのいつメンと過ごす日々を写真に撮るのが趣味。運動が苦手で、よく転ぶ。部活動には入っておらず、学校帰りに買い物に行く家庭的な面もある。特技はかごめかごめの後ろの人を当てる事で、目を瞑っていても自分の周囲の生き物を認識することができる。中学時代に両親を亡くして以来一人暮らしをしていて、一通りの家事ができる。


緑川龍也みどりがわりゅうや…曙学園高等部2年1組。赤茶色の天然パーマに深緑の瞳で三白眼の少年。視力が悪く、メガネをかけている。常に物事を客観的に捉えるリアリスト。可愛くない性格とあまり笑わないことも相待って、少し近寄りがたい存在として扱われることが多い。悠斗と奏音の幼馴染で、二人のことを早くくっつかないかなと思いながら眺めている。部活は剣道部に入っているが、あまり強くない。趣味はアニメとゲームで生粋のオタク。登場人物の心情を考えながら展開を考察するのが好き。母、祖父、姉、愛猫の五家族。


園崎優美そのざきゆみ…曙学園高等部2年2組。ベージュ色のロングヘアーに紅色の瞳、猫っぽい目のギャル。成績優柔でスポーツ万能な才色兼備。だけど高校生にしては少し派手な見た目のせいで先生達からは問題児扱いされている。SNSで情報収集をするのが趣味で、スマホなどでネットサーフィンをしていることが多い。基本誰とでも打ち解けられる明るい性格だが、自分のことに関しては何一つ打ち明けようとしない。部活動には所属しておらずたまに助っ人として運動部に呼ばれることもある。

出生について謎が多く、幼少期に加賀家の前で倒れていたのがきっかけで住み込みで加賀家の使用人として働いている。


加賀正宏かがまさひろ…曙学園高等部2年4組。癖のない黒髪のマッシュヘアに紺色の瞳、キリッとした目をした少年で右目の涙ぼくろが特徴の少年。高身長でガタイがよく、淡々とした口調も相待って威圧的と感じられやすく少し近寄りがたい雰囲気を醸し出している。何事にも真面目で責任感が強く、嘘がつけない正直な性格。しかし外見の割には調子に乗りやすかったりと少し抜けている所もある。困っている人は放っておけず助けてしまう反面、他人に頼るのが苦手。昔から剣道を嗜んでいたこともあって、剣道部に所属しており、副部長も務めている。様々な企業を開設したとして有名な「株式会社KAGA」の御曹司で、上流武族の末裔。家のまえに倒れていた優美を見つけた張本人。父・母・祖父・祖母の五家族。


神楽麻里奈かぐらまりな…曙学園高等部2年2組。癖っ毛の右目を隠したグレーのボブヘアーと、紫色の瞳のジト目が特徴の少女。常にダウナーでマイペース、そして自由気ままでのんびり屋。しかしその反面、負けず嫌いな所もあり、一度やると決めたことはやり通す頑固者でもある。父方の実家が妖怪退治屋、母方の実家が巫女の家系で住まいが神社なため、スピリチュアルに囲まれて生活している。その為並大抵なことでは驚かず肝が据わっている。体力を付けるために陸上部に所属している。猫が好きで、部活帰りに縁川宅へ良く入り浸っている。将来の夢は父の家業を継いで妖怪退治屋になりたいが、母が巫女家業を継がせようとしてくる為現在は別居中。反攻のため高等部1年生の頃から父方の祖父母と暮らしている。父・母・妹の四家族。


挿絵(By みてみん)

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