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第九話~王子様になりたかった少年~

紗希と美玖が礼司に会いに行っていた時の話・・・


公嗣は1人、小学校の卒業アルバムを見ていた。

卒業文集・・・将来の夢


“僕は大きくなったら紗希ちゃんと結婚して、幸せな家庭を作りたいです”


『懐かしいな・・・。』


あの時は・・・いや、かつては紗希を思いがむしゃらに頑張った時期もあった・・・

中学、高校は紗希と離れ・・・大学でも必死に勉強して・・・有名商社に就職して・・・


「お前の好きな子がずっとお前を好きだと思うなよ。」


ちょっとした仕事の失敗があり、何かと紗希の話をしていたから上司からそんな事を言われ・・・

上司を殴り、仕事を辞める事になった。


我慢すればよかった・・・そうすれば紗希との幸せを掴める可能性もあったかもしれない。


紗希がずっと自分の事を好きだなんて思っているわけじゃなかったけど・・・


でも、紗希への思いを踏みにじられた事が悔しかった。



実家に帰り、紗希の事を思う度・・・


こんな自分ではきっと紗希には嫌われてしまう・・・

紗希は自分に会いたがっている話は聞いていたけど、会わない方が良いのかもしれない。



・・・思いと時は流れ、何もやる気が起きなくなっていた・・・


そんな時に出会ったのが杏奈だった。


彼女が仕事で自分に付き合っているのは分かっている。

でも、いろんな表情を見せてくれて、自分にとっては心の支えだった。



ある日、彼女の見せた弱い部分に力になりたいと思う自分がいた事に気づく。


妹の提案で彼女とのデートが出来ると聞いて心が弾んでいた。

結局はデートはお預けになったけど、いつか・・・


突然、紗希と再会する事になったけど昔の様な心苦しさは無かった。

素直に綺麗になったと言えた・・・


“公嗣君、もし・・・”


晶紀おばさんとの約束は果たせそうにない。



俺は紗希を迎える王子様にはなれなかった・・・

それが結果だった。



部屋がノックされる。

入ってきたのは紗希と美玖だ。


「公嗣さん、聞きたい話があるの。」

『どんな事かな。』


真剣な表情の紗希に何かを感じた俺は紗希の話を聞く事にした。


「どうして公嗣さんは他県にあった中高一貫校に通ったの?」

『それは俺の・・・いや、その質問の意味が知りたい。』


俺の勝手と割り切るつもりだったけど、紗希の質問の意味を知ってからでもいいと思った。


「それは、私に関係あるのかが知りたいの。」

『・・・分かった。・・・そうだね、次の休みのに紗希の家に伺っても良いかな。』


“紗希ちゃん”とどこかで線引きをしていたけど今となっては不要かな。

紗希に何かしらの影響が出ているのであれば、俺は正直に話す必要があると思う。


「次の週の水曜日に。」

『分かったよ。』



そのやり取りに美玖が納得いかなかったのか


「兄さん、ここじゃダメなの?」

『ダメなんだ。』


ハッキリと答えた。



次の週の水曜日・・・

俺は紗希の家に行く前に花屋に行って花束を買った。


ドアホンを押すと、紗希が迎えてくれた。


『紗希、晶紀おばさんに挨拶させてもらっていいかな。』

「ありがとう。」


紗希に花束を渡して仏壇に案内してもらう。


『晶紀おばさん・・・俺、約束を破ります。』


俺は正座してりんを鳴らし、手を合わせた。


『紗希、このまま聞いて貰えないかな。』

「うん。」

『実は、晶紀おばさんが亡くなる前・・・俺と二人で話した事があってね。』


ーーー


16年前、T総合病院


「公嗣君は紗希の事好き?」

『はい。大きくなったら結婚しようと二人で約束しました。』


その言葉を聞いた晶紀おばさんは・・・


「一つ私のお願いを聞いて貰えないかな。」


ーーー


『・・・それが、“紗希から離れてほしい。”という事だったんだ。』

「どういう事なの?」


紗希の言いたい事も分からなくもない・・・

一緒にいたいから結婚する・・・そういう事なのに、何故晶紀おばさんはそんな事を言ったのか。


『ここからは俺の推測している事が3つあるのだけど、続けて構わないかな?』

「・・・うん。」


紗希に了承を得て、俺は話を続けた。


『1つ目はその話の1週間後に晶紀おばさんが亡くなっているんだ・・・今思えば、長くない事を知っていたんだろうな。それで思ったんだよ・・・そこに俺がいたら、紗希も俺も愛に依存するんじゃないかって。』

「それはダメなの?」


紗希の言葉に俺はこう返した。


『晶紀おばさんがいなくなった寂しさを埋める為に紗希が俺を求め、そんな紗希に俺が溺れる関係が良いと言えるのだろうか?』


少しうぬぼれがある事は理解している。

けど、紗希には聞いておくべき事だからあえてそんな言い方にしている。


「それは・・・おじ様の家族は一緒じゃないの?」

『俺の家族くらいの距離なら丁度良かった、でも俺は紗希に近すぎたんだ。』


父さんや母さん、それに美玖を見れば分かる。

紗希と適度な距離で接する事が出来たからこそ今の健全な関係がある。


『2つ目はお互い離れた中できちんと愛が育めるのかどうか・・・俺さ、ずっと紗希の事好きだったんだよ。紗希の為なら勉強が辛くても関係なかったし、色んな事も頑張れた。』


今だからこそ、紗希への思いを打ち明けよう。

紗希が未来に進む為に必要なものであると信じて・・・


『3つ目は俺と紗希が一緒になる事は晶紀おばさんは反対していなかった。だから離れるという選択肢を与えたんだと思う。本来ならこの話をする事はなかったんだ・・・』


俺は言葉が出なかった・・・


「公嗣さん、続けて下さい・・・」


紗希も言いづらい事なのは理解した上で俺の口から言われる事を望んでいる。


『お互いに離れて愛を育んだ上でそれでもお互いを思い合えるなら、紗希に全てを話して結ばれてほしいって言うのが晶紀おばさんの言葉だったんだから。』

「!!」


晶紀おばさんとの約束を破る形にはなるけど、紗希を苦しめる原因になってしまうなら許してくれますよね・・・



『俺は紗希を迎えに来る王子様にはなれなかった・・・だから、紗希には自由になってほしい。』


その言葉を聞いた紗希は泣いた・・・


でも、俺にはどうする事出来ずにいる・・・



次の日

リビングに家族が集まる。


「杏奈君だが、今月いっぱいで辞める事になった。」

「はい。急な事情につき今月いっぱいになりますが、皆さん今までありがとうございました。少し時間はありますので、精一杯お仕事頑張ります♪」


杏奈は一礼して、仕事に取り掛かる。


『杏奈ちゃん辞めてしまうんだね・・・寂しくなるなぁ。』

「えぇ・・・」



元気のない杏奈に俺はどう声をかけていいのか分からなかった。


パソコン起動し、小説投稿サイトを開くと1通のメールが来ていた。


『書籍化の件?あ、あの小説?』


この間、杏奈に言われるまま編集して予約投稿したあの作品・・・

そういえば・・・あ、あんなに反響あったんだ・・・


「坊ちゃんもいよいよ小説家デビューですか・・・あれ?浮かない表情ですね。」

『うん。それはね。』


杏奈がいなくなったらいくら小説家になった所で意味が無い。

・・・表情が暗くなるのは自分自身が一番分かっている。


『・・・ちょっと考えるよ・・・。』


俺は外に出た。

杏奈がいなくなる・・・こうして外に出られるのも杏奈のおかげ。



1人で喫茶店に入り、コーヒーを頼んだ。


『・・・。』

「兄さん、隣座るよ。」


隣に座ったのは美玖だった。

美玖にコーヒーとケーキのセットを注文した。


コーヒーを一口・・・そして、俺にこう言った。


「兄さん、きちんとお姉ちゃんとは話せた?」

『あぁ・・・』


紗希とはあれで決着がついたはず。


「兄さんはお姉ちゃんの話は聞いた?」

『紗希の話・・・いや、俺だけが話していた気がするよ。』


あらためて振り返ると、俺だけしか話していなかった気がする・・・


「やっぱり・・・」


美玖はスマホを取り出して電話をかける。


「お姉ちゃん?いつもの喫茶店に来れる??仕事?あ、切り上げていいよ。服は私のを好きに使ってくれていいから。うん、じゃあ後でね。」


紗希に電話をかけていたみたいだけど・・・


『え・・・いや、仕事の邪魔はダメじゃない?』

「あ、大丈夫だよ。その辺は都合付くから。」


うーん、良く分からないので美玖に任せておこう。



20分後・・・


「お待たせ美玖ちゃ・・・あ、公嗣さんも一緒なんだ・・・」

『うん。』

「兄さんもお姉ちゃんも二人でちゃんと話してほしいな。それじゃ・・・」


席を立とうとした美玖に俺は手を掴んで引き留めた


「どうしたの、兄さん。」

『美玖、お前にも聞いてほしいんだ。』

「うん・・・分かった。」


とりあえず美玖は席について、紗希の分のコーヒーを追加注文した。


『改めて紗希に言わないといけない事があって・・・』

「うん・・・」

『俺、ずっと美玖には兄らしい事が出来ていなかったから、美玖と一緒にいてくれた紗希には感謝の言葉を言わないといけなかった・・・紗希、美玖のお姉ちゃんになってくれてありがとう。』

「「!!」」


俺の言葉を聞いて二人とも驚いていた。


『あ、あれ?・・・俺、変な事言ったかな??』


慌てる俺に、紗希が答える。


「ううん、そんな言葉を言ってくれた事が嬉しいの。でも、公嗣さんが実家から離れていなくても私にとっては可愛い妹だから、きっと変わっていなかったと思うな。」


「あの・・・それ、私の前で言う必要あるの?」


俺と紗希の言葉に美玖はツッコミを入れる。

まぁ、昨日の時点で話せなかったからね・・・


『まぁ、美玖と紗希を見ていつかは言おうと思ってた事だからさ。』

「私の大事な妹だもの、はっきり言わないと伝わらないよね。」

「まぁ、いいけど。」


美玖のツッコミに俺と紗希はそう言って美玖を納得させる。


『じゃあ、次は紗希の番だね。』

「うん。私は・・・今も公嗣さんが好きです。たとえ公嗣さんが王子様じゃなくても、私の好きな人が公嗣さんなのは変わらないから。寄り道してたけど、お互いの気持ちが聞けて良かった。ありがとう。じゃあ、私は仕事に戻るね・・・」

『そっか、仕事頑張ってね。』


お互い好きだった気持ちを確認できた紗希は仕事に戻っていった。


「ふーん、王子様ねぇ・・・」

『ほ、ほっとけよ。』


美玖の言いたい事は分からなくないけど、そこは流してほしかった。



俺も・・・前を向かないといけないな。

スマホを取り出して電話をかける・・・相手は父さんだ。


『父さん、いきなりでごめん。実はちょっとお願いしたい事があるんだ・・・。』


(第九話 終わり)

最後まで見ていただきありがとうございます。

公嗣視点での話になります。

忘れてはいなかった紗希への思いを明かし、紗希の気持ちも知る事になります。


次で完結になります。

公嗣が礼司に電話した事、そして物語の結末はどうなるのか。

楽しみにしていただければ幸いです。

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