表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海のdoll  作者: 水菜月
3/16

*夕映 ③


 夕映さんは間もなくメジャーデビューが決まっている。

 地元ではかなり名も知られてきた海辺の歌姫。


「佐倉さんって、夕映さんのファンだったんだね」

 唐突に教室で話しかけてきたのは、同じクラスの相川君だ。

「え、どうして」

「金曜日、ライブで見かけたよ。どの曲がすき?」


 ほとんど初めて話すのに、すきな人が同じという理由だけで、どうしてこうも親し気にできるんだろう。

「別にどれがといういう訳では」

 会話を早く打ち切りたくて、適当な返事をした。


「一人で来ているみたいに見えたんだけど。よかったら次は一緒に」

「一人じゃないよ。スタッフに知り合いがいるんだ」

 近づかないで。あの時間は私のもの。みんなで分かち合うためじゃないんだ。


「えー、そうなんだ。いいなぁ、紹介してよ」

 はぁ。まとわりつかれる不快さにもう耐えられない。

「私行かなくちゃ」

 無理矢理立ち上がってその場を逃げた。

 ふと思う。この人、私が奏多といたとこを本当は見てたんじゃないかしら。



「ねぇ、これって佐倉さんだよね」

 クラスの女子たちが、私の周りに群がって一冊のファッション雑誌を広げた。

「ああ、うん」

 わぁーって歓声が上がって、ものすごい注目を浴びる。先月スタジオで撮ったポートレートだ。


「すごい、本郷奏多に撮ってもらうとか、あり得なくない?」

「この誘いかける目線とか大人っぽーい」

「彼の前でこんなポーズできるとか、佐倉さんっておとなしいかと思ったら大胆なんだね」


 奏多が若者に人気のカメラマンだということは知っていたけど、彼に撮ってもらったモデルというだけで、私への見方が180度変わるのは不思議だ。

「真っ黒でサラサラした髪、艶々してきれいだもんね」

 気安く触らないでほしい。私はあなたたちにはならないのだから。


 私は共有という言葉が嫌いだ。何がシェアだ。ふざけるな。そんなもの、この世には存在しない。

 先に手を挙げるか、後から奪うか。なかよしごっこなど、ただの見せかけだ。


 平和な振りして大勢の中に紛れ込んだ自分を想像する。イヤだ。今更そんなものはいらない。

 彼女たちが私に近付いてくるのは、あわよくば奏多に会わせてほしいと思っているからでしょう?

 透けてみえる欲望。突然の羨望。未知なるものへの嫉妬。


 相変わらず喋らずにいる私は、相当感じが悪いはずなのに、彼女たちの勝手な妄想は止まらない。


 欲しいなら、それなりのことをしなくては。私は取り巻きの中の一人で満足はしない。欲しいものは、自ら手に入れる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ