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海のdoll  作者: 水菜月
16/16

*遥果 ⑦


 奏多の部屋で、初めて三人で寝る。潮の匂いのシーツの上で。


 灯りを全て消して、窓から射す月明かりだけで探り合う。

 彼の愛撫は焦らしながら、笑ってしまうくらいに公平を保っていて。私たちは交互に声を挙げる。波が寄せたり引いたりするのと同じ。遊びながら。


 これはまるで私の大嫌いな共有。なのに、おとなしく待ってしまう。胸が苦しくて、淡くて、ただただ人形になって。


 ね、さすがに差し込むのは交互には無理ね。

 私は夕映さんに譲ることにして、立ち上がってキッチンに水を飲みに行く。

 そのままデッキに出て、裸のまま、海を眺める。私はあまり泳げない。


 ダダッ、ポーンとくぐもった音が聞えてくる、夏の終わり。

 遠くの雷鳴なのか、ここからは見えない打ち上げ花火の音なのか。音がしない時間に耳を傾けて確かめたくなる。


 裸足のまま家を出た。

 月が雲に隠れてしまったせいで、まだ目が慣れない。

 思ったより坂道の角度がキツクて、速度が上がって足がもつれる。


 いつしか、つかんだ足裏の感触で、砂浜に出たことを知る。

 これが生きているという感触だ。のせて、ほろり。私の重みに耐えかねて、砂が沈む。

 さっき降った雨が沁み込んで、足が重たい。今きっと私だけが踏みしめている地続きの砂浜。一人占めの感覚が心地よくて、震えが来る。


 駆け抜けてきた疾走感。若さゆえの過ちの多さ。

 最後に石につまづいて、倒れた。


 砂だらけの自分を丸ごと洗い流せたらと波の方に近付くけれど、清めるどころか、一波一波が通って来た人のようで、余計にえぐい気分になる。

 この身体と一緒に生きていくしかないんだ。丸ごと。自分ごと、汚れたまま。洗っても落ちはしない。


 波まであと少し。月が顔を出し、海を照らし始めた。

 暗闇に代わって、突然の薄白の世界。波がふざけたフリルのように近づいてくる。

 白いのは波の花。手で掬ったら消えてしまう儚い泡。

 痛っ。

 ちくりとしたのは貝殻か、起こしてしまった蟹の子のハサミか。硝子か、身体の奥か。


 今、私の愛している人たちは一つになっている。執拗に繋がっている。

 感じながら、一方で私を探している。手に入らない方への執着で心を締め付ける。全身で家から放出されたそんな気配を感じるんだ。


 きらきら、月に照らされて、夜の海が私を呼んでいる。

 私は一歩ずつ裸のまま近づき、奏多の代わりに海水が身体の奥に入ってくるのを感じていた。

 遠くから声が聴こえてくる。私のことを呼ぶ、二人の声。


 18才。私は確実に何かを喪失していく。それはもう取り返しがつかない。

 誰もが通るのに、誰もが気づかずに、過ぎていくその瞬間を。


 夕映さん、あなたの熱を帯びた瞳に魅せられて。

 奏多、あなたの射貫くような強い瞳に、私は自分を晒されていく。









<fin.>

挿絵(By みてみん)

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