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海のdoll  作者: 水菜月
10/16

*遥果 ①


「今すぐ会える?」

 ちょうど授業が終わったばかりの水曜の放課後、夕映さんから呼び出された。

 学校のすぐ近くの海岸で待ってるからって。


 夕映さんは、砂浜に降りる石段に座って海を眺めていた。

 私は強風に髪が弄ばれているのを押さえながら、目の前に立つ。

「ほんとに高校生だったんだね」

 はためく制服姿の私を見て、彼女はにやりと笑う。

「余計なお節介を焼く人がいてね。ここの制服着てる遥果を見たって」

「高校生じゃだめなの? もう18よ」

「だめじゃない。ちょっと見てみたかっただけ。可愛い」


「奏多も、知ってる?」

「そうね。彼もその場にいたわ」

 夕映さんは立ち上がって、私の髪を撫でる。

「奏多が遥果に惹かれてるのは、最初から知ってる。『夕映の代わりに彼女抱くけど、いいか』って聞かれた」

「で、いいよって答えたの?」

「はは。別に許可なんて、奏多にはいらないんだ」

 奏多は嘘つきだ。本当のことなんて別に意味がないけれど。


「遥果は、私のことがすきなんだと思ってた」

 わかってて、奏多とのことずっと知らんぷりしてたんだ。夕映さんは残酷だ。

 私を撫でるその指先。あなたに触れられたくて口紅を選んでいたことも、きっと知ってて。

今日は制服だから何もつけていない、無防備な私。


「行こうか」

 私の腕をとって、自分の腕を絡ませる。

 遠くまで海沿いの道を歩いてから、怪しい界隈に足を踏み入れた。女二人で入るラブホ。しかも、私は制服姿。


 至近距離で香る夕映さんの甘い匂いに気絶しそうになる。

 奏多を通して微かに香っていたあなたに、やっと辿り着いた。

 ねぇ、もしかしたら、夕映さんも奏多を通して私を感じてくれた?


「奏多はどんな風に遥果を抱くの?」

 黙っていた。意図がわからない。

 嫉妬で私を滅茶苦茶にしたいのかな。




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