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モノクロの向日葵 -白ー  作者: をぱをぱ
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第一章 デートⅡ

「で、これはどういうことかな?あ・ら・た・君?」

 内野さん、めっちゃ怖い。顔めっちゃ笑顔なのが余計に怖い。

 「えーと、その、見ての通りです・・・」

 陽葵が困ったようにこちらを見る。

 現在、新太たちは半ば強引に近くのファストフード店に連行され尋問されていた。主に新太の方が。

 「じゃあ二人はその、お付き合いしてるってこと?」

 「えーと、まあ、そうですね」

 「死ね」

 「え?」

 俺の聞き間違いじゃなければ今コイツ死ねって言わなかったか?

 「ねぇ、灰鹿。紐なしバンジーと沸騰風呂どっちが良い?」

 やっぱり死ねって言ってやがった。

 「いや、それどっちも死ねっていてるじゃねぇか。なんだよ沸騰風呂って」

 「それもそうね。あはは、ごめんごめん。じゃあ死ぬのと殺されるのどっちが良い?」

 「いや、もう隠す気もないね。死ぬしかないね、それ」

 だから怖いんだって。もう笑顔ですらないよ。ねぇ、真顔やめて?こっわ、もう声しか笑ってないんだけどこの人。

 「美月が手を汚す必要ないよ、このゴミは私が捨てておくから」

 いや、女子高生の言葉使って?あと、言い過ぎにも限度があるだろ。

 「というか、なんでこんなに責められてるの俺」

 「それは、こーんなに可愛い陽葵をだまして、付き合うなんてサイテーだからよ」

 陽葵に抱きつき、頭を撫でながら日奈子が話す。

 「おいー?」

 なんでいの一番にだますなんて発想が出るんだよ、お前らの方がよっぽど最低だよ。

 「大体、あんたみたいのと、こんなに良い子の陽葵が付き合えるわけないでしょ」

 追い打ちとばかりに美月が口撃をする。

 「あのぅ、さっきからあまりに酷すぎません?僕に対して」

 終いには泣くよ?

 「陽葵?ちょっと私と一緒にトイレに行こうか」

 「え?ちょっと雪奈ちゃん?」

 「いいからいいから」

 言われるがまま雪奈に陽葵が連行されていく。

 まずい、そうなると今この場に残るのは、内野とまきひなと吉田さんと俺。

 これ本当に殺されるのでは?

 「はぁ、じゃあ灰鹿」

 「ハイ」

 理不尽には常日頃から慣れているつもりだったが、今回はあまりに理不尽だろ。

 これが社会か―。南無三。新太はそう覚悟決めた。

 「あんた、陽葵の何処が好き?」

 「え?」

 「いいから答えて」

 新太は予想外の質問に戸惑った。だが、答えないことには終わらなそうな雰囲気だ。

 陽葵の好きなところか、正直たくさんある。でも何か一つ上げるとするなら何だろう。

 「顔とかはダメだからね」

 「分かってるよ。そうだな、他人のために一生懸命になれるところかな」

 「「ん?」」

 三人はキョトンとして新太の方を見つめる。

 「陽葵は自分のためじゃなくて他人のために泣いたり笑ったり傷ついたり励ましたりするんだよ。人一倍。そういうどこまでも優しいところが、好きかな」

 なんかコレめちゃくちゃ恥ずかしいな。

 「おえっ、禿げそうになるわ」

 「つまんないわね」

 コイツ等もう殴っていいかな?

 「私は、とても素敵だと思います」

 「吉田さん~」

 やっぱり吉田さんは良い人だなー。それに比べてこいつ等は・・・。

 「まあいいや、じゃあ灰鹿トイレ行ってきなさい」

 「え、なんで―」

 「い・い・か・ら」

 「ハイハイ」

 なんなんだよ、コレ。

 新太は反抗する事無くトイレへ向かった。

 トイレに向かう途中に陽葵と雪奈の二人とすれ違う。

 新太は陽葵と目を合わせ苦笑した。


 さて、半強制的にトイレに行かされた新太だったが、むしろ都合が良かった。

 何故なら、今の状況を再確認できるからだ。

 そう、新太はずっと疑念を抱いている。

 なぜ、ここに女子のグループがいたのかということを。

 前回通りならこの時間にここで遭遇することなんてありえないはず。第一それを狙って場所の変更をしたのだから。

 でも、実際あいつらはここにいた。どうして?

 考えられるのは、新太が関わったことで目的地が変わったということ。

 だが、新太が原因であの四人の行動を変えるようなことはないはず・・・。なら何故?新太の顔にどっと脂汗が滲む。

 嫌な考えが新太の頭を支配していく。

 いや、落ち着け。まだ断定できたわけじゃないんだ。決めつけるには早計だ。

 新太は顔を洗い、深呼吸する。大丈夫だ、そんなわけないんだ。

 『運命が定められている』なんてそんなはずがない。

 新太がトイレから出ると女子たちは未だ会話を続けていた。

 今戻るとまた文句を言われそうなのでもう少し時間を置くことにした。

 「ねえ、陽葵は灰鹿の何処が良いの?」

 「ええ、はずかしいよぉ」

 会話が聞こえてくる。

 どうやら新太と同じ質問を陽葵にもしているようだった。聞くのをためらったが、それは前々から気になっていたことであったため、新太は聞き耳を立てる。

 「私たちはね、あんたが心配なのよ。本当に灰鹿でいいのかってこと」

 確かに、陽葵はどうして俺なんかの告白を受けてくれたのだろうか。

 陽葵は容姿が良く、人柄もとても良い。今まで陽葵のことが気になっているといった男子も多くいた。

 だからこそ、新太も一度聞いてみたかったのだ。

 「新太君の好きなところかぁ、良いところ見せようとしてから回っちゃうところとか、たまに寝ぐせがついているところとか、寝顔がちょっと可愛いところとか―」

 いや、そこ?なんか恥ずかしいんだけど。

 「分かった分かった、でもあたしたちが聞きたいのはそういう感じのやつじゃなくて・・・」

 そうそう、そこだよ。

 「全部だよ」

 「具体的には?」

 「全部、全部好きかな」

 えへへ、といって照れ隠しをする。

 「はあ、分かった・・・。私たちの負け、降参するわ・・・」

 この時、新太自身はどんな顔をしていたのだろうか。

 それは分からなかったけど、今まで衝撃的な現実を突きつけられ疲弊していた新太の心が癒されていくのを新太は感じた。

 しばらく会話が続いていたが聞く気は起きなかった。会話がひと段落着くタイミングを新太は待った。体の火照りがさめるまで―。

 「もういいのか?」

 「まあ、今日のところはこのくらいにしといてあげる」

 ―迸る雑魚キャラ感・・・。

 「・・・新太」

 「ん?」

 最後に雪奈に声をかけられる。

 「陽葵を泣かせたら許さないからね」

 「・・・ああ、それは任せろ」

 新太は強く返事をした。

 「かっこつけんじゃねー」

 「そうだそうだ」

 「ぐっ・・・。いいだろそんくらい」

 だが、美月と日奈子に野次を飛ばされ調子が狂う。

 「じゃあ、俺たちは行くわ」

 「バイバーイ」

 陽葵が四人に大きく手を振る。

 今は余計なことは考えず、陽葵が楽しめることだけ考えよう。



 「はぁ、ひどい目にあったな」

 「あはは、まさか雪奈ちゃんたちに会うなんてね」

 「ホントだよ・・・」

 「まあ、気を取り直して、次はどこに行くの?」

 「ああ、一緒に買い物でもしようかなと思って」

 「うん、何か欲しいものでも?」

 「まあ、俺じゃなくて陽葵が行きたいかなって思って」

 「陽葵?」

 「雪奈の誕生日って確かもうすぐだろ?だから行きたいんじゃないかって」

 「まあ、買おうとは思ってたけど・・・いいの?」

 「ああ、そのために新潟駅に戻ってきたわけだし」

 「うん!一緒に選ぼう」

 「いや、俺は―」

 いいからいいからと陽葵は新太の手を引く。

 今、新太たちは万代に買い物に来て、二人で雪奈の誕生日プレゼントを選んでいた。

 「どんなものが良いんだろうな、あんまり高いのも困るだろうし」

 「そうだね、でも新太君が選んだものならきっとなんでも喜ぶよ」

 「ホントか?それ」

 あいつが喜ぶところが全く想像できない。

 「そうだよ」

 陽葵はそう言う。

 一通り店を見て回り、新太たちは雪奈の好きなキャラクターがいるというドルニーランドショップに立ち寄った。

 「ねぇ、見て新太君!ティップがいっぱいだよ」

 「へぇー、初めて来たけど凄いな」

 ちなみに陽葵はティップとセールのティップが好きらしい。―いや、セールは?

 「雪奈はスウィッチが好きなんだっけ?」

 「うん、そうだよ」

 「うーん、スウィッチかー」

 女子が喜ぶプレゼントとは何だろうか。

 身に着ける系は、好みが分かれるだろうしな。

 新太はスウィッチが描かれたマグカップを手に取る。

 マグカップならもらっても使えるし、既に使っているものがあってもペン立てに使えるから困らないだろう。

 「なあ陽葵、これなんてどう思う?」

 「マグカップかぁ、うん、良いと思う!」

 「そっか、じゃあ俺はこれにしようかな・・・って俺買う必要なくない?」

 ナチュラルに買いそうだったけど、今。

 「まだそんなこと言ってるの?駄目だよ、せっかく一緒に買いに来てるのに」

 「わ、分かったよ」

 新太は渋々購入を決断する。

 「新太君」

 「どうした?」

 陽葵の方を向くとスウィッチのワンポイントがあしらわれたエプロンを身にまとった陽葵がいた。

 「どうかな?」

 「お、おう。良く似合ってるな」

 「まぁ、雪奈ちゃんにどうかなって思ってたんだけどね」

 「どっちにしても答えは変わんないな」

 実際、雪奈が着ても良く似合っているだろう。陽葵も雪奈も容姿は客観的に見ても優れている。

 「新太君、これは?」

 今度は、もう一つのフリルがあしらわれているタイプのエプロンを身にまとっていた。

 「うん、なんていうか、良い感じだ」

 「もう、なにそれ」

 笑いながら二つともかごに入れる。

 「どっちも買うのか?」

 「うん」

 陽葵のレジが終わり、新太たちは店を後にした。

 「とりあえず、カフェで休憩でもするか」

 「そうだね、ちょっと歩き疲れたね」

 新太と陽葵は近くのカフェで休憩することにした。

 「いらっしゃいませ」

 「抹茶クリームフラペチーノのトール一つとあとチーズタルト一つ・・・新太君は?」

 抹茶なんだって?この手の店に行かな過ぎて全部呪文のように見える。

 ていうか、なんでフラペチーノだけでこんなにメニューあるの?水フラペチーノとかあるだろもはや。

 「カ、カフェラテで・・・」

 「サイズの方はいかがしますか?」

 「え、えーとグ、グランデ?で」

 「かしこまりました。右にずれて少々お待ちください」

 やっと終わった。やれやれ注文するだけで一苦労だ。

 「新太君、頑張ってたね。ふふっ」

 「おい、笑うなよ」

 注文した品が来て、新太たちは席に着いた。

 「そういえば、そろそろ体育祭の役割決めだけど、新太君は幹部やらないの?」

 「え、俺?」

 「うん、新太君が応援してるところ見たいな」

 「いや、俺はいいかな。面倒そうだし」

 「えー、かっこいいと思うよ」

 カッコいいといわれて悪い気はしないが・・・。

 「不服そうだな・・・、陽葵はなにかやりたいのがあるのか?」

 「・・・うん。本当はね幹部とかやってみたいんだけどね」

 「良いじゃん、陽葵なら立候補しても選ばれると思うぞ?」

 「んー、でも、向いてないんだよね。私」

 えへへ、と陽葵が苦笑いする。

 「そんなことはないと思うけどな。人の事をよく見てる陽葵ならさ」

 「えへへ、そう?でも、まとめるのとかは苦手だな」

 「そっか」

 やりたいことをやることがターニングポイントの回避への近道だと思ったが、本人がそういうなら無理に進めることもない。

 「なら実行委員とかどうだ?どっちかって言うと縁の下の力持ちって感じだし、まとめるのは幹部の仕事だしさ」

 「確かにそうだね、じゃあ新太君が幹部やるなら陽葵もやろうかな」

 「なんだそりゃ」

 幹部か―。前回の体育祭では新太は何の役職にもついていなかった。

 「まあ、考えておこうかな」

 「ふふっ、楽しみだな。ん!新太君これ凄いおいしいよ、新太君も食べてみなよ。ほら」

 そう言って、陽葵は使っていたフォークにチーズタルトを一切れ刺してこちらに向けてくる。これはもしや「あーん」ってやつでは?

 「ほら、早くしないと落ちちゃうよ?」

 「いや、ちょっとその、さすがに恥ずかしいんですが・・・」

 肝心の新太はチキってしまった。

 (おい彼氏、チキるなよ)

 店内の心が一つとなった。

 陽葵がハッとなって動揺する。だがしかし、その手を引っ込める事はなかった。

 「い、いいからほら、あーん」

 新太は周りの視線が刺さるのを感じて抵抗することを諦めた。

 「・・・あ、あーん」

 「ど、どうですか?」

 「・・・甘いかな」

 「そっちの感想もそうだけど・・・」

 「う、嬉しかったです・・・なあ、もういいか?」

 「ふふ、へぇ~、そっかぁ」

 いたずらにクスリと陽葵は微笑みを浮かべる。確かにその顔は可愛らしいのだが・・・

 「いや、その陽葵さん?言いにくいんだけどそろそろ・・・」

 新太はそれとなく周囲を見回す。それに合わして陽葵が辺りを見回す。

 一見普通にカフェを楽しんでいるように見える。が、それは虚像。陽葵が前を向いた瞬間、新太に矢のような視線が突きつけられる。

 もはや、結託して新太を殺しにかかるかのような形相だ。

もう、殺気立ってるし、今死ねとか聞こえたんだけど・・・。そして、なぜ陽葵は気づかない?

「アハハ、じゃあそろそろいこっか」

新太は陽葵を急かそうとする。

「まだ、残ってるよ?どうしたの急に」

「いや、そろそろ俺の命が・・・ね?」

「新太君はカフェで何に命を狙われてるの?」

「まあ、うん、ナルベクハヤクネ?」

―俺が死ぬ前に早くね?



陽葵が急いでくれたこともあって何とか新太は一命をとりとめた。

いやもう、他の客がナイフを持ち始めたときは終わったと思いましたよ。

時刻は17時30分。

予想外の事態もあって、だいぶ時間が押してしまっている。

けれども新太には最後にもう一つだけ行きたい所があった。

「陽葵、もう少しだけ時間良いか?」

「うん、大丈夫だよ」

新太が向かったのはここら一体を一望できる高台である。

辺りは暗くなり始め、真昼の暑さは一体どこへか消えてしまった。

「うぅ、さすがにちょっと冷えるねー」

「そうだな・・・」

確かに、陽葵の服装では少し肌寒そうだ。そう思った新太は自分が着ていた上着を陽葵にかけた。

「これでいくらかマシだろ」

「・・・うん。でも、新太君は大丈夫?」

「ん?俺はあついくらいだったから」

「・・・ありがと」

歩くこと十分弱で目的地に到着した。

新太たちが着いた頃には既に夕日は沈んでしまっていた。

しかし、その代わりに万代の夜景を一望することができた。

「うわあ、すっごい綺麗・・・」

「ホントだな」

予定していた景色ではなかったがこれはこれできたかいがあったな。

「ここさ、実は今月で解体されるんだよ」

「え、そうなの?来れてよかったね」

「陽葵」

「うん?」

新太は鞄の中から包装された小さな箱を取り出した。

「その、これ・・・」

そして、それを陽葵に差し出す。

「え、結婚ですか?それは、ちょっと待ってもらえませんか・・・?」

「ち、違うわ!」

確かに一見したらそう見えなくもない。だが、違う。これは、陽葵へのプレゼントとして前々から新太が用意していたものである。

新太はこのタイミングで渡そうと前々から考えていた。

「・・・陽葵の誕生日プレゼントだよ」

「え、陽葵の誕生日はもう過ぎてるよ?」

「俺たちの付き合った日だろ?」

「知ってたの?」

「ああ、だからずっと渡そうと思ってて」

「もしかして前から・・・」

「陽葵、こんな俺と付き合ってくれてありがとう。・・・これからもよろしくお願いします」

「―ありがとう。陽葵こそよろしくお願いします」

良かった。とりあえずサプライズとしては成功かな。

「でも、ちょっと狙いすぎかな?」

ギクッ。痛いところを突く。

「やっぱり、そう思います?」

「まあでも、新太君らしいというか。ねえ、開けてもいい?」

「良いよ」

新太が誕生日プレゼントに選んだのはブレスレットであった。

陽葵はデートに行くときは、いつもブレスレットや腕時計などを身に着けていた。

だから、陽葵が好きであろうと思い至った。

「わあ!可愛いブレスレットだ。ありがとう、陽葵の宝物にするね」

まあ、陽葵が喜んでいればそれで良いか。

時刻は18時を迎えた。そろそろこの時間も終わりを告げようとしている。

「そろそろ時間も終わるし、帰ろうか?」

新太はそう陽葵に告げ、陽葵が立ち上がったその時だった。

陽葵が立ち眩み、立ち上がることができないままうずくまってしまった。

「陽葵!?大丈夫か?」

「だ、大丈夫。ちょっと、立ち眩みがしただけだから・・・」

そう言う陽葵の顔は、どう見ても青ざめていた様子であった。

―やっぱり、長期間外にいるのはまずかったか?

新太は違和感を抱く。

(何だこの感覚・・・。)

「本当に大丈夫か?悪い、無理させちゃったか?」

「ううん、新太君は悪くないよ。陽葵が悪いだけだから・・・」

いや、陽葵は全然悪くないだろう。悪いのはこの暑さの中で外を歩かせた新太の方だ。

(あれ?やっぱりおかしい・・・。)

新太は再び違和感を覚えた。

違和感というよりも既視感?

(前にも、おんなじことがあったような、気のせいか?)

新太は続けて思った言葉を話す。

「陽葵は、悪くないよ・・・ごめんな・・・無理させて・・・?」

(いや、気のせいなんかじゃ、ない。)

間違いなく新太がこのセリフを言うのは初めてではない。

その証拠に新太はこの次に陽葵が返す言葉を知っている。

(陽葵は笑顔できっとこう返す)


「『無理なんかしてないよ。新太君といられて陽葵は嬉しいから』」




その後、新太は陽葵の様子が落ち着くまで待ってから駅へ向かった。

陽葵は何事もなかったかのように終始笑顔のまま別れを告げた。

陽葵を見送った後新太はまっすぐに家へと帰宅した。

帰って、お風呂に入って、ご飯を食べて―。そんな日常の習慣をいつも通りに行った。

だが、新太はその間に一言も発することはなかった。

喋ってしまうと考えてしまいそうになるから。

女子グループと遭遇したこと。

陽葵が体調を崩したこと。

以前のデートで経験したことが今回のデートでも起こったこと。これらが指し示す意味を。

けれども。けれど、どれだけ考えないようにしていても、心の中ではそこに行きつく。

もしかしたら、運命は変えられないんじゃないかと。

どれだけ違う道を選んだとしても根本たる事象そのものを変えることはできないのではないだろうかと。

新太は苦しくなってたまらずに水を飲む。

(そんなはずないだろ?運命が決まってるなんて。だって、それなら・・・それなら陽葵は・・・?)

いつの間にか、手にした500mlのペットボトルは空になっていたが、それでも胸の締め付けるような痛みが取れることはなかった。

「そんなはず、ないんだ・・・」

まだ少し冷える五月の夜の冷気が、新太にじんわりとまとわりついて離れなかった。




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