第一章 【あの日】
~第一章「春編」開幕~
春、それは出会いの季節であり、始まりの季節。
新太の目が覚めるとそこにはいつもと違う景色が広がっていて・・・?
周りの反応は、まるで【あの日】と全く変わらなかった。
困惑しながらも新太は【あの日】のように陽葵のことを呼び出す―。
「陽葵は新太君といられてうれしいから」
これは、【あの日】に戻り、彼女の死の原因を突き止め、彼女を救うための物語である。
新太の通う私立北信高校は、駅から徒歩10分に位置し、非常に交通の便が良いことで有名だ。そのため、遠くから電車で通っている者も多くいた。
そんな中、新太の家は学校から近く、自転車で15分の距離にあった。
自転車をこぎ、急いで学校へと向かう。
学校に着いたが、校内は授業中なのか閑散としていた。
新太は音をたてないように気をつけながら、足早に教務室へと向かった。
「失礼します。岩室先生いますか?」
「岩室先生?ちょっと待ってね」
と扉近くの丸めの若い先生が呼んでくれている。
どうやらいたみたいなので教務室に足を運び入れ、岩室先生の机まで向かった。
「おう、灰鹿。元気そうだな」
「ええ、オカゲサマデ。じゃあ問題ないってことで自分はこれで・・・」
「おいちょっと待て、灰鹿」
「はい?」
なんだろう?事情聴取だろうか。
「お前この時間に登校しといて何の連絡もなしとは、いい度胸してるな?」
ゴリゴリの取り調べだった。
ていうか、連絡してくれてたんじゃないのかよ。
「どうした?何か言い訳があるなら言ってみろ」
訳を話そうにも、全く許してくれそうな気配がない。いや、もう指とかバキバキ鳴らしてちゃってるし・・・。
予想外の事態に、新太は己の持つ思考力を総動員させ事態の対処に臨む。
「いや、その、あれですあれ・・・」
どうしたらこの場を速やかかつ穏便に脱することができる?・・・これだ!
どうやら、答えが出たらしい。が、新太は巻き戻りの件で相当な思考力を浪費してしまっている。故に、ろくな答えが思いつくはずもなく、
「・・・重役出勤です!」
「ふん!」
「げぼぉ」
新太は強烈な右ブローをボディに喰らう。
え、てか今この人殴ったよね?教員とか云々の前に人としてどうなの?それ。
「いや、殴ることないでしょ?痛ぇ」
「ん?あぁ、壊れた生徒がいたんで直そうと思ってな」
この人、人の事ブラウン管かなんかだと思ってる?精密機械なんだけど・・・。
「まあいい。よく反省してから授業に参加しろ」
「そんなだから婚期逃すんですよ・・・」
「あ?」
「ひ、いえ、教室行ってきま~す」
この男勝りで、多少、人として難ありなのが新太のクラスの担任である岩室有紀だ。アラサーを迎え結婚に本気で焦ってるらしい。顔やスタイルだけ見れば十分美人の部類に入るだろう。だが、人としていろいろ欠陥があるためなかなか明るい話が挙がらない所謂『残念な人』というやつである。二年生の間では「残念美人」と呼ばれている。
新太は何故か寒気を感じ、急ぎ気味で教室へ向かった。
新太のクラスは五階、一番高い階に位置している。
長い階段を一段飛ばしで駆け上がり、やっとの思いで教室にたどり着いた。
だが、教室の前でその足が止まる。
この扉の先に陽葵がいる。そう考えると自然と足が重くなる。
一度、呼吸を整えなおす。
そして、扉に手をかけたその時、
「あれ?新太君だ」
そう声をかけたのは、他でもない陽葵だった。
「ひ、陽葵?本当に陽葵か?」
「うん。陽葵だよ?」
そこには、何も知らずに可愛らしく首をかしげる陽葵がいた。
そんな当たり前だったはずの景色に新太は酷く動揺する。
新太は泣きそうになるのを何とかこらえる。
「新太君、話があるって言ったのに、待ってても来ないんだもん、心配しちゃったよ。もしかして体調でも悪いの?」
何も知らない陽葵は、純粋に俺の心配をしてくれる。そんな陽葵を見ていたらこらえていた涙が頬をつたった。
「え!新太君どうしたの、大丈夫!?」
陽葵の心配に呼応して涙は絶えず流れ続ける。
よかったここには陽葵がまだいる。
新太が好きになった優しい陽葵が。
新太はこぼれる涙を拭きながら再度心の中で誓った。
『必ず陽葵を助ける』と。
覚悟を決めている新太とは対照に陽葵は、大丈夫?おなか痛い?保健室行く?と心配そうにオロオロしている。
「なんだか廊下が騒がしいな。」
と廊下を確認しにきた先生と新太たちの目が合う。
「うん、何・・・やってるんだ?」
泣いていて喋れない新太に代わって陽葵が答えた。
「先生!」
「はい、白山さん」
「新太君のことをいじめていたわけじゃありません!」
「ぶふっ」
思わず吹き出してしまう。
「うん、先生の事、ばかにしてる?」
「あれ?ち、違うんです、えーと、えーと」
「とりあえず教室はいる?」
「はい・・・」
陽葵が恥ずかしそうにうなずいた。
そんな陽葵のおかげで流れていた涙も止まった。
「ひどいよぉ、笑うなんてー」
「あはは、いや、ごめん、ごめん。ふふ」
「まだ笑うかー!」
陽葵が頬をふくらましむくれている。その姿を見てまた笑えてくる。
そう、陽葵はなにも考えてないようでちゃんと周りのことをよく見ている。
今だって、新太が泣いていることに気を使ってあのような言動をとったのだ。
「ありがとう。陽葵」
「なんだか今日の新太君変だね」
「え?」
「だって、遅れてきたと思ったら急に泣くし、泣いたと思ったら笑うし」
確かに、傍から見れば完全に頭のおかしい奴だ。
どうしよう、よりにもよってこれから告白する人の前で醜態をさらすなんて、これで返事が変わったらどうしよう。
「ヒマリ、オレノコト、キライ?」
焦って片言になってしまう。
「え、急にしおらしくなった!?うーん、そうだな、でも陽葵が新太君の事キライになることなんて多分ないよ?」
陽葵は恥ずかしがる素振りもなくそう言った。
それを聞いた新太は陽葵から顔をそむける。赤くなった顔がバレないように。
新太は動揺が伝わらないように話題を変えることにした。
「そ、そういえば、陽葵はなんで授業中にこんなところにいたんだ?」
「恥ずかしながら、トイレに。えへへ・・・」
なるほど、女子にはいろいろあるから言及しないでおこう。
あれ?そういえばなんか忘れてるような・・・
「なあ、そろそろ教室に入ったらどうだ?お前ら」
先生が教室から覗いて言った
「「すいません・・・」」
授業が終わった。前に聞いたことがある授業のはずだが、全く記憶になかった。理由は明白である。その後に待っている告白のことで頭がいっぱいだったからだ。
そういえば、あの時の告白のセリフってなんだったっけ?
そうだ、『ずっと前から、陽葵の事が好きでした。』だ。
今振り返っても、この告白はなかったなと自分でも思う。
あの時も相当慌てていたこと、それでもこのかっこ悪い告白を心の底から喜んでくれた陽葵のこともよく覚えている。
そういえば、いつから俺は陽葵のことが好きだったのだろう。告白の『ずっと』とはいつのことなんだろう。と、ふと新太は疑問に思った。
新太と陽葵は高校一年で同じクラスになり、いつの間にか話すようになっていた。そして、気づけば陽葵のことが好きになっていた。けれどもずっと昔の事のようにも感じられた。
「何やってんだ、新太。サボりか?」
「うお、急に声かけんなよ」
考え事に集中しすぎて、不意を突かれた。
「いや、そんな急でもなかったんだが・・・。どうした、午前中休みなんて、しかも無断欠席で。岩室先生完全にキレてたぞ」
確かにキレてたな。
「まあ、一身上の都合ってやつかな」
「なんだそりゃ」
こいつはクラスメイトの寺尾梗平だ。イケメン・バスケ部・人当たりよしというモテる三拍子を持つ非の打ちどころのない男。この全国のモテない男子の敵と俺は中学からの仲だ。
「お前さ、もし今の記憶を持ったまま戻りたい時間に戻れるとしたらどうする?」
「なんだ、藪から棒に」
「もしだよもし」
藪から棒になんてセリフ、リアルに聞いたの初めてだな。
「そうだな、子供のころに戻って女風呂にはいるかな」
「つまらんな、聞いて損したわ」
「つまらんか?こんなもんだろ」
しかし、実際こんなものだろう。普通の高校生にはこれほど意味のない質問もそうないだろう。
「まあ、お前がびびって逃げたんじゃなくて俺はよかったよ」
梗平は今日新太が告白することを知っている唯一の人物だ。
これ見よがしに新太の事を梗平がからかう。
「うるせぇ」
新太は鬱陶しそうに、梗平のからかいをはらう。
「でも、来たってことはそういうことだろ?」
「・・・まあな」
「まあ伝えたいことは伝えろよ~」
「へいへい」
一年前ならまだしも、今この時においてこの告白の持つ意味は重さが違う。だからこそ、新太はこの場に来たのだ。
「あ、チキったら、今度ごはんおごってくれ」
「いいだろう」
ややしつこめに梗平が絡んでくる。だが、新太には梗平の言葉の裏に『逃げるなよ』というエールのように聞こえた。だから、新太もそのエールを受け取る。
「二人して、何の話してんのよ」
後ろから声をかけられる。
「今、女子のパーツでまず、どこから見るかの議論してたんだよ」
梗平が答える。
「なにそれ、おもしろそうじゃん」
「なんで呼ばないんだよぅ」
おー、バカが釣れる釣れる、大漁だ。
「俺は、やっぱりおっぱいかな」
このおっぱい好きのバカ一号の名前は曽根大輝である。バカで地雷を踏みがちだが憎めないような奴だ。クラスのムードメーカー的ポジションである。
「それは、スケベだろう」
「うーん、ふくらはぎじゃない?」
この足フェチのバカ二号の名前は赤塚夕だ。こちらも相当のバカである。
「それも、どうかと思うが?」
「うーん足で言うならくるぶしが好きだな」
どうして誰一人として顔が出ないのだろう。新太は割と本気で心配になる。
そして、最後にでた変態の名前が小針大智。こいつは頭の良い変態である。なにそれ怖い。
三人がまるで打ち合わせでもしてきたかのように集まってきた。まあ、よく集まるメンツ。所謂いつメンというやつである。
だが、新太は梗平以外の三人には告白することを伝えていない。もちろん信用がないことは大前提として、確実にろくなことにならないという新太と梗平の判断によるものだった。
「お前ら、人と会ったらまず自分の好きな部位見るのやめない?」
これに大輝が答える。
「でも、新太だって見るだろ?」
まあ、それは否定しないが・・・。
「いや、でも顔から入るんじゃないのか?普通」
これに異論を唱えたのは大智だった。
「顔が悪かった時点で、恋愛対象としてじゃなく性欲にチェンジするから実質見るのは好きな部位だ」
それを聞いていた全員が割とガチで引いていた。
「・・・・・」
「どうしてこんなになるまでほっといたんだよ・・・」
「どういう教育を受けたんだ?」
「前世はビル・ゲイツだったとみた」
これにはさすがに共感できずに梗平、夕、大輝の順で大智に辛辣な言葉を浴びせる。あとビル・ゲイツはまだ死んでいない。
だが、そろそろ本当にブレーキを踏んだほうが良い。
なぜならば、先ほどから周囲の女子の視線がつき刺さっているからだ。
ここで助け舟を流すかのようにチャイムが鳴った。
「うへぇ、もう授業かよ」
大輝が嘆く。
そして、新太の机にたむろっていた四人がそれぞれの席に戻っていく。
去り際に梗平が何も言わずに振り向く。言葉こそ交わしていないものの新太には梗平の言葉が伝わった気がした。
『がんばれよ』と。
そう、これで最後の授業だ。
だから新太は梗平に無言でうなずいて見せた。
授業も終盤に差し掛かっていた。
この授業は実質二回目である新太だが、無論、今回もこの授業を聞くことはかなわなかった。
新太は授業中告白のセリフについて考えていた。
前回、緊張から考えていたセリフが出てこなくなりなんともかっこの悪い告白になってしまったのを新太は悔やんだ思い出があった。
だが、あの時の陽葵の反応も同時にとても印象的であった。
それに、この告白は前回とはわけが違った。
意識せずとも告白の言葉選びも慎重にならざるを得ない。
一応、前回言えなかったセリフも、今回新たに考えてきたセリフもある。
刻々とタイムリミットが迫っていく。
なかなか告白のセリフを決めきれない新太は再度自分のなすべき目的について確認する。
今は一年前の四月十七日、陽葵に告白する当日。
そして、この一年後に陽葵は自らの手で命を絶つ。
だから、新太がこの世界でやらなくてはならないことは、陽葵に自殺を選ばせないことである。ならば新太が選ぶべきセリフは―。
終わりを告げるチャイムが鳴る。
周りが帰り支度に勤しむ中、新太は一年前のこの日を思い出していた。
一年前は、人生で一番と言っていいほどに緊張していた。
直前まで告白のセリフの確認なんかをしていたような気がする。
そして、今も告白のセリフを確認している。
あの時から何も変わってないことに新太は少し可笑しくなってしまう。
いや、本当に何も変わっていないかというと少し違う。
あの時も今も緊張はしている。結果を知っていても告白は緊張してしまうものだ。
だが、新太が今抱いている緊張は以前の緊張とは異なった緊張だった。
あの時とは状況がまるで違うから。
そんな緊張を煽るかのように粛々と終礼は進む。
周りは、週の初めということもあり、学校が終わる解放感から私語が絶えずにぎやかだが、
そんなクラスの空気を横目に、新太の緊張はピークに達していた。
しかし、新太の緊張には我関せず、終礼は終わりを告げる
「起立、さようなら。」
そして、遂にその時が来た。
あの時と同じように放課後は少し陽が傾き春の心地よい風が教室に吹き込む。
教室には、俺と陽葵の二人きり。
新太は迷いなく陽葵のもとへ行く。
「陽葵」
「あ、新太君。今日は大変だったね」
えへへ。と陽葵がはにかむ。
「あー、まあな」
「で結局なんで休んでたの?」
「ちょっと頭痛で・・・」
「大丈夫なの?調子悪いならやめとく?」
なにかデジャブを感じる・・・。
「いや、大丈夫。今日がいいんだ」
「そうなの?うん。じゃあ聞く」
今日がいい。それは梗平に脅されたからではない。今日が陽葵の誕生日だからだ。
前回はそれを知ったのは後のことだったから。
新太は、目を閉じて一度深呼吸をする。
そして、目を開き陽葵の方を見た。
すると、そこには涙目の陽葵がいた。
新太は不思議に思った。前回新太が告白したとき、陽葵は泣いていた。
それは、好きだった人に告白されたからだったはずだ。
だが、今陽葵は、新太が告白する前に泣いている。
以前の反応と違う陽葵に新太は戸惑った。
『陽葵は新太が告白することに気づいている?』
そう考えざるを得ない。そして、そのことが新太の選択を揺さぶる。本当にあの告白でいいのかと。
けれども、新太は変えないことを選択した。
逃げたとか、諦めたとかではない。
その言葉が今新太の伝えられる一番の言葉だと思ったから。
「ずっと前から、あなたの事が好きでした。」
陽葵の目から涙が溢れる。
「陽葵・・・」
「・・・新太君は卑怯だよ」
「え?」
やはり【あの日】と言葉が違う。
『卑怯』とはどういう意味なのだろう。
「えっと、ごめん・・・」
「ううん、嬉しいの。」
陽葵が泣きながら微笑む。あの日と同じ笑顔で。
その顔を見て新太は自分の選択は間違ってなかったと思った。
こぼれる涙を抑えながら陽葵が答える。
「陽葵も新太君の事、大好きです。ずっと前から。こんな陽葵で良ければ最後まで傍にいさせてください。」
まさか、人生で同じ人に二回も告白するとは思っていなかった。と新太は改めて今の奇妙な状況を鑑みる。
告白後、教室で新太は泣いている陽葵を慰めていた。
「わかったから、頼むから泣き止んでくれよ・・・」
こんなところ誰かに見られたら確実に殺される・・・。
「ひっく・・・」
嗚咽しながら、あふれてくる涙をぬぐう陽葵。
まあ、告白してここまで喜んでもらえると一年やり直していることを忘れてしまうくらいにはうれしい。
だが、新太にはなぜ陽葵がここまで喜んでくれているのか理解しがたかった。
好きな人から告白されたからといってここまで人は喜べるものなのだろうか。まるでプロポーズでも受けたかのように喜んでいる陽葵を見て喜びを感じながらも新太は、ほんの少しの疑念を抱いた。
やっとの思いで新太は陽葵を落ち着かせることに成功した。
しばらくの間泣いていたせいか、陽葵は息を切らせてせき込んでしまっている。
既に陽は傾き辺りは仄かに暗くなってきている。
新太は一年前と同じように、二人で帰宅しようと考えた。一年前は、緊張や恥ずかしさで上手く話せなかったのをよく覚えている。
しかし、今の新太には不本意ながら余裕を持っている。
だからこそ、誘うことにしたのだ。前回よりも良い結果にするために。
だが、その考えは次の陽葵の返事で全くの無駄骨となった。
「ごめん!今日は一緒には帰れない」
時刻は19時となり、真っ暗な中新太は一人黙々と自転車をこいでいた。
そして、今日の出来事をまとめ頭の中を一度整理する。
まず、朝起きたら一年前の告白当日の朝に目覚めた。記憶だけそのままの状態で新太だけが。その後、学校へ遅れて行き授業を受ける。その際、この時間の陽葵と初めて会う。そして、放課後に陽葵に告白。
これが今日一日の流れである。
そして、今日一日で新太が確信したことは、未来は変えられるということだ。
今日の告白の時の陽葵の反応や、そのあとの帰宅の返事が確固たる証拠だ。
そう、当たり前だが新太の行動が変わるなら新太とかかわる人間の行動も変わる。実際、今日この時間に新太が一人で帰ったという過去は存在しなかった事実だ。
こんな当たり前の事実が、今の新太には何よりの励みになっていた。
もしかしたら結末は変わるんじゃないのかと。
まだ少し冷える春の夜が疲弊した新太の頭をやさしく冷やし、いつもよりも考えに集中できている。
だから、新太は考えてしまう。
『なぜ陽葵は自殺を選んでしまったのか』と。
答えは出ない。陽葵がいじめられていたとは到底考えられないし、死にたいほど悩んでいたようにも、新太の目には映らなかった。
だが、自分が見ている世界がすべてではないことを新太はもう知っている。
きっと自分が知らないところで何かが起きているに違いない。
だからこそ、まずは手掛かりをつかむ。それを突き詰めない限り未来が変わることはない。
これからの動き方を考えているうちに家の前に到着していた。
この時、時刻は既に20時に差し掛かっていた。
「新太遅いよ?ご飯は?」
「いや、今日はいい」
「あんた大丈夫?」
親の心配にいい加減に対応し、自分の部屋へ直行する。
とにかく今日は疲れていた。一日に処理できる情報の許容量をとっくに越していた新太はただただ眠りたかった。
荷物を放り投げ、着替えないまま布団に倒れこむ。
薄れゆく意識の中で、新太はこれからの出来事について振り返っていた。
おそらく、一緒に下校することを抜いて、最初のイベントは初めてのデートだったはずだ。―初デートは確か映画だったっけ。
―ありきたりではあるな。
―どこに行くのが最適なのだろうか。
―どうしたらより良い結果になるだろうか。
そんなことを考えているうちに新太の意識は途絶えた。