始まりと始業式
春が来た。
だかもう桜は咲かない。
ここ数十年で北極の氷が大量に溶け海が増水した影響で街の殆どが浸水し、桜だけではなく木は殆どが枯れてしまったからだ。
頼りになるのは毎日欠かさずつけている暦だけ。
だが不思議なものでこんな状況でも慣れて仕舞えばそこまで悪いものではない。
殆どの家が2階部分の位置まで浸水し、長い移動には船が必須だ。
船から浸水した街を見れば驚くほど透き通った水の中に、少し錆びた車やアスファルト、赤いポストなどが良く見える。
よく晴れた夏の日などには水面に青空と雲が美しく映え、見渡す限りの水平線は永遠に続くのではないかと錯覚してしまうほどであった。
水面には道路標識や電柱がそのままで、それらが妙に哀愁を誘った。
そんな景色を見ていると、世界が終わってしまったかのような錯覚に陥ってしまう。
とは言え、本当に世界が終わったわけではない。
学校は浸水していない教室が使われ、今も授業が続けられている。
貨幣は以前ほどの価値は持たないが、それでもその役割を未だ果たしていた。
だが数年後も安心できるような安定したお金を稼ぐのはやはり難しいらしく、学校に通う子を持つ殆どの親は比較的浸水の影響が少ない国へ行き出稼ぎをしている。
僕の親もそうだ。
昨年に出稼ぎに行くと聞かされた時は驚いた。
それと同時に、自分のせいで、という申し訳なさを感じてしまった。
「学校なんて行かないよ。お金もかかるし、将来役に立つかも分からない。それに何より申し訳ないよ。」
僕はそう言って申し訳なさそうな顔になった。
しかし、父はそんな僕の顔を見て
「そんなこと気にするな。子を育てるのが親ってもんだ。それに、何にしても一応高校くらいは出ておいたほうがいい。他の国に行くにしても、高校くらい出ておかないと信頼されないからな。」
笑いながらそう言ってくれた。
子供のために他の国に行ってまでお金を稼ぐなんて大変なことだ。
自分なら億劫で仕方ない。
しかし父は笑いながらそう言ってくれたのだ。
僕はまだ子供で分からないけれど、誰かの親になればいつか分かるものなのだろうか。
そんなことを考えながら時計を一瞥すると、焦った。
しまった、そろそろ学校へ行く時間だ。
しかも今日は始業式だ。
唐突に記憶から現実に引き戻され、急いで支度するとベランダから外に出て、すぐに船に乗り込んだ。
船といっても1人か2人乗れるような小さな船で、手漕ぎの物だ。
道路標識や電柱を見て場所を確認しながら学校へ向かうと、正門にはまだ生徒がちらほら見えた。
よかった、幸い間に合ったようだ。
生徒の中には船を持たない家庭もあり、泳いでくる子も多かった。
僕はそのまま教室前で船を降り、窓際に括りつけた。
教室に入ると、静かに座って本を読む子もいれば、既に友達同士だったのか今友達になったのか分からないほど打ち解けあっている子もいた。
僕はスタスタと歩き黒板に書いてある席順で自分の席を確認すると、椅子に座り本を読み始めた。
そう、友達作りは苦手分野なのだ。
5分くらいして、もう既に出来上がったグループがわいわいとしているところに先生が入ってきた。
その先生は女性で、年は25くらいだろうか。ロングの髪に白い肌、薄い化粧をした顔。
第一印象は「優しそうな人」だった。
はじめまして。白色です。
読んでいただきありがとうございました!
この小説の設定自体はずっと頭にあったのですが、どうやって外に出そうか迷っていたところ小説を書き始めてみようと思い立ちました。
今回が処女作の初心者ですが、温かい目で見ていただければ幸いです。