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第2話 初めての狩り

 

 魔力トレーニングとして課されたのは、なぜか、筋トレだった。

 というか、身体を動かすことをスムーズに行うために、走ったり、体を動かす練習をする事だった。


 この体は魔力を含んだ水でくっつけられていて、体を動かす練習すなわち魔力をうまく動かす練習になる、という事だった。


(魔力のトレーニングは、まず、魔力操作。それから、想像を現実にする具象化能力を鍛える事。あとは、それをやりやすくするサンプルっつーか型みたいなものを反復練習して、慣れてきたらオリジナルの魔法を作る。そんな感じだな)


 という事で、この体を上手く動かすことは、魔力操作の練習になるらしい。

 何日も経って、なんども、いろんな身体の動かし方を練習して、かなり普通に動かせるようになってきた。


 ちなみに、その間森で野宿だ。

 幸い、魔物に襲われたりはしていない。

 寝る前に、セイ様が僕の身体を使って、結界を張ってくれるからだ。結界魔法なんて見たことなかったけど、セイ様はこともなげに、簡単だと言っていた。それ全然簡単じゃないと思うんだけどなあ、そんな事魔道具もなくできる人見た事ないし……


 食料は相変わらず木の実を食べたり、小川を見つけたりしてしのいでいる。本当は瘴気に侵された土地の水は人間には毒なのだけれど、僕の今の体はほとんど魔物なので問題ないらしい、それはそれで助かったのかもしれないけれど複雑だ。


 そして今日、初めての狩りをすることになっている。

 本当の狩りは、罠を仕掛けたりするのが一般的なのだと思うけど、今回は罠ではなく僕が狩ることになっている。そんなことが可能なのかな……?


(せっかく魔物の身体くっつけてんだから、もっと有効に使えるように鍛えるぞ。その両足も、馬っつーか天馬だろ多分。本来かなりの力があるはずだ。あいつら翼で飛んでるが、陸上でも変わらず稲妻のような速さだと言われてる)


 稲妻……

 今の僕の走るスピードといえば、全力で走っても、前の身体とさして変わらない程度だ。とてもこれが稲妻の速さになるとは思えない。


(あいつらは筋肉だけで走ってるわけじゃない。魔力を使って加速してるんだ。ただしそれを可能にするのは、それに適した体だ。幸い体はあるんだから、あとは魔力操作できれば良いだけだから不可能じゃない)


 僕はわかってきたけど、と言うか初めからそんな気はしていたけど、この前世の魂ーー信じ難いけれど始祖セイ様ーーは、とんでもなく前向きでポジティブだ。ただ、それを他人に押し付けるのはどうかと思う……


(人聞きの悪いこと言うな、俺は自分に厳しく他人に優しく、を心掛けてるぞ。俺がちょっと精神的に頑丈な自覚はあるからな。ただ、お前は俺と同じ魂なんだ、他人じゃない。だから厳しくしているが、絶対に応えられるはずだ、何故なら俺と同じ魂だからな!)


 ……それはとても疑わしいと思うけどなぁ……

 僕は王家の末っ子で、割と甘やかされていて、あまり体を鍛えてはいなかったけど、本を読むのは好きで、王家の歴史本も結構読んでいた。

 それを読む限り、王家の始祖であるセイ様はもう伝説というか神のような存在で、まさかこんな王子とはいえこれといって特別な所のない僕に転生したなんて、何かの間違いなんじゃないかなぁ……万が一、この魂が本当にセイ様だとしても、子孫が絶えそうで心配して出てきた、とかの方がしっくりくるけど……


(お前、まだそれ疑ってんのか?大丈夫だよ、心配すんな。俺は絶対にお前の前世だ)


 その謎の確信、謎すぎるよ……

 まあ、とにかく、今日は初めての狩りだ。

 狙う獲物は、僕の食料にもなる、小さめの魔物を狙う。


(練習はしたが、まだお前の戦い方怖いんだよな……危なくなったら、俺が出るぞ)


 その時はお願いします……


 僕の装備は、ちょっと古そうな剣、のみ。

 これはもともと、この右腕の持ち主であるゾンビが持っていたものだ。申し訳ないけど腕に掴んでいたものをそのまま使っている。


 そして、左手は固いゴーレムのものなので、盾のようにも使えるかもしれない。物理攻撃を受け止めるとか。


 実は服も着ていない。

 この体に合う服なんて無いだろうけど、もし人間に会えたとしても魔物だと思われそうだ。

 大きいマントとかで覆えばなんとか……大きいマント欲しいなぁ。


(いたぞ)


 あ。本当だ。

 草ウサギかな?毒もなくて食べられる種類だ。


 できるだけ静かに近づき、剣を振り上げーー


(おい!何してんだよ!逃げちまったぞ!)


 剣を振り下ろせなかった。

 だって。


「だ、だって、生きてるのに、僕が殺すの?怖いし可哀想だよ!」


(お……お前そこからかよ……)


 がっくり、とセイ様が肩を落としたような気がした。


 草ウサギは逃げてしまったので、昼の明るい日差しの中、森の木かげに腰を下ろした。


(……別に、可哀想だと思うのが悪いわけじゃない。実際向こうからしてみたら理不尽だろ、急に襲われて殺されるわけだしな)


 うん、そうだよね、え、それってなんか……まるで僕が魔神に襲われた時に感じたこととそっくりだね……何もしてないのに急に襲われて……


(お、お前まさか、もう肉食べられないとか言う気か?)


 ……ううん、僕もこれまでたくさんお肉食べてきたし、草ウサギも食べたことあるし、美味しかったし。今、調理された草ウサギが出てきても、食べると思う。

 でも、あんまり実感なかったんだなと思って。

 僕が食べるって事は、僕が他の命を奪ってたってこと。知ってはいたんだけど……


(食わないで死ぬとか俺は嫌だからな)


 ……うん。

 次は、頑張るよ。


(そうしてくれ)





 それから、気持ちを新たにして。

 次に発見したのは、黒岩鹿だった。

 鹿系の魔物は足が速い。


「む、無理だよ!」


 見つけたものの、あっという間に遠くへ行ってしまう。


(お前、次は頑張るって言ってだだろうが!お前の足なら追いつける筈だ、行け!)


 無茶な、と思いつつ、頑張って走る。

 だけど、全然追いつかない。

 とうとう鹿に大きく引き離されて、しかも高い崖に登られてしまった。


(諦めるな、いけるだろ!)


「いけないよ!何言ってるの?!あんな崖登れる?!」


(本当にお前……わかった、見本を見せてやる。ちょっと俺に代われ)


 えっ、良いけど、どうするつもり?

 なんて思っているうちに、セイ様が僕の身体を動かした。


 ーーえっ。

 嘘だ、何このスピード?!

 速い!嘘みたいに速い!


(なかなかいい脚じゃねぇか、よっ、と)


 うひゃあああぁぁぁ?!

 少しジャンプしたと思ったら、森の木を飛び越えるくらい上にあがった!凄い、けど怖いよ!


(行くぞ、見ておけ)


 そういういうと、崖の途中でこちらを見て固まっていた黒岩鹿に、ひとジャンプであっという間に近づき、その首を掴み、ひょいと捻った。


 うぎゃぁぁぁぁあ!嫌だあぁぁぁぁぁー!こ、こ、ころしちゃった……うわあああああぁぁあぁ……


(やっぱり覚悟できてねぇじゃねーか……)


 セイ様はそのまま、息絶えた黒岩鹿をがっしりと掴み、ジャンプして崖の下に降りた。


 ドサリ、と獲物を地におろしたところで、身体のコントロールが僕に戻ってくる。


(俺が身体を動かすと、魔力の消費が激しいな……鍛えればもっと時間を伸ばせるだろうが、今のところ短時間しか無理だな)


「そ、そ、そうですか……」


 コントロールが戻ってきた体は、急に重くなって、がくりと膝をついて座り込んでしまった。だ、怠い。


 初めての狩りで生き物を殺してしまった衝撃と、全身の怠さで、もう寝てしまいたい。

 だけど、とりあえずの食料は確保できたようだった。


(……いや、まずこいつ血抜きして解体しなきゃいけないけど。お前できるか?)


 ……無理です。


(まあ……しばらく休んだらまた俺が見本見せてやるから、徐々に覚えろ)


 ……つ、つらい……


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