表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/11

己の被召喚回数は?

改稿関係で長めとなりました。

だいたい二から三千字を目安に区切っていく予定です。

「ようこそおいでくださいました、勇者さまっ」

  

 暗闇から弾んだ声が飛んでくる。

 これは異世界召喚だ……よな?

 足元が光始めた時から、覚悟は決めていた。けれど、いざ転移してみると、やっぱり何というかこみ上げて来るものがある。


 淡く輝く小粒が、空気中を舞っている。何度見ても、幻想的だ。

 俺は出所を探るべく、目線を下に落としていった。

 それらは、床に描かれた魔法陣から発せられているようで、この部屋唯一の明かりでもある。

 部屋全体が薄暗い。

 上に行くほどその濃さが増す。天井がどこにあるか見当が付かない。


 これ以上見る物はないな――と上がった顎を引っ込めて、再び視線を足元に向けた。

 目に飛び込んで来たのは、悪寒を誘う置物の数々。改めて見渡すと、あちこちに散布されている。召喚魔法の触媒的な役割を担っているんだな、きっと。


 そして、……俺を含めて五人いる。

 慌てる声と様子から、俺と同じく召喚された側だと考えていい奴らだ。


 そうかそうか。……なら任せてもいいよな。

 幸運なことに辺りは暗く、逃げるには絶好の機会となっている。

 俺は慎重な足取りで、出口へと近づいていった。

 

「えっと、えっと。ありましたっ」

 

 活発な声が響き、俺の野望はいとも簡単に瓦解する。

 理由は単純、部屋の明かりがついたから。

 光を放つ魔法道具が、俺たちを等しく照らし始めた。

全くもうちょっと探してろよ。


 俺の側で魔法道具へと魔力を注ぐ金髪の少女。

 目が合った。


「こんにちわ。勇者さまっ」

「……お前かっ」


 声色から察するに、さきほど聞こえた声は彼女があげたものだろう。

 ありましたとは魔法道具を見つけたということか。

 

 顔も見られてしまったし、こうなったら逃亡は諦めるしかない。

 やれやれ。俺は後ろを振り返る。

 そして――。


「まじかよ」


 ――ついぼっとんと口から驚愕を落としてしまった。 

 彼・彼女半々の四人。人数は増えても、減ってもいない。

 されど、部屋が明るくなったことにより、俺は新たな情報の入手に成功したためにだ。


 服が違ぇ。

 今の俺は、相当空気の読めない存在になっている。

 俺が着ているのは、芦品(あしな)高校指定の全体的に青ががった制服。まあ、学内で召喚されたんだから当然か。

 しかし、他の四人の制服ということにしておこうは、まず青がない。黒色をベースにして、赤色の縦ラインが入っているという――明らかに俺とは別物だ。 


 おいおい。一対四とか始末悪すぎだろっ。 


「あれれ。人数が多いです?

 勇者は三人のはずですけど」


 召喚した側も不測の事態に陥っているらしい。

 声の主は件の少女だ。艶のある金色の長髪を振り乱して、慌てふためいている。清楚というよりはお転婆オーラを否めない。が、おそらく俺たちを召喚した国の姫様なんだろうな。

 服とか装飾品とか豪勢だし。


しっかりしてくれよ。

 これじゃあ、完全に俺が仲間外れになるじゃん。……いや待て。これはチャンスなんじゃないか?

 仲間外れになれば、合法的に勇者の任を下りられる。

 これぞ逆転の発想。

 ならば、やることは一つだ。


「すみませ~ん。どうすれば~いいのでしょう~か?」

「はい!

 ステータスと唱えてみてくださいですっ」


 俺は、オーケストラ涙目の美声をかました。

 さらに身振り手振りを加えて、存在感をアピールする。

 結果、何それ美味しいの?

 と、見ての通りに惨敗だ。

 可笑しい。一目で俺が変だとわかるだろっ。

それにこんな奇行に走るやつと一緒に居たくないよな。っな?


【ステータス】


 仕方ない。ため息交じりの詠唱を行う。

 無機質な画面が現れた。


《和田修平 男 十六歳(爆笑)

 現在の職業:すぐれた勇者

 元枠:英雄王。ダンジョンマスター。商人。etc.

 魔法欄:やってやれないことはない!

 特殊能力:考えるな、感じろ》


 ……。 

 …………。

 …………………。 

 ふーん。だから、嫌だったんだよ!!


「おい。何も起きねぇぞ」

「どうなってんだ?」


 二人が喚いている。口調・音程から男だろうな。

 俺は自分のステータスを隠すように隅の方へ移動したから、はっきりと断定はできないけども。

 どうやらステータスを上手く起動できないらしい。

 うん?

 そういえば――言葉に魔力を込める、詰まるところ詠唱にはコツがいるんだっけ?

 できなくて当たり前か。失敗したかもしれない。

 くそ。誰かと一緒に召喚されたのは、これが初めてだからな。それにもはや俺の中では、慣れた行為になっちゃっているし。


 あの妬ましい過去が、溢れかえってくる。

 この際、はっきりいおう。俺は自分が巻き込まれだなんて……微塵も思っていなかったよ。



====== ====== ======



「突然ですが、貴方には英雄の才能が有るんです!!

 その力を生かすため、異世界へと召喚されてみませんか」

「……そうですか……」


 目の前で、自称女神が口を動かしている。

 英雄の才能があるから、異世界召喚……おいおい最高かよ。

 異世界なんて全人類共通のユメ……本当に夢じゃないよな?

 頬を抓ると、普通に痛かった。

 飛び上りたい気持ちで一杯だったが、必死に抑え込む。

 そっけない風を装った。


「裏表を使い分ける、その態度っ。商人の適性もあるようです」

「えっ?

 普通に育った文明人なら誰でも可能なことだと思いますが。それに商人には」

 

 ばっちり見抜かれていたらしい。

 商人に格下げされてしまう。

 そんなことさせてたまるかっ。英雄の方が断然いい。

 俺は慌てて、強めの拒絶にのりだした。


「はい、神への反抗頂きました!

魔王でも大丈夫そうですね」

「ええっと」

「安心して魔神も任せられます」


 なぜか万華鏡のごとく切り替わっていく俺のセカンドライフ。どんなリアクションを起こしても、抑えることはできなかった。

 吟遊詩人や盗賊などといった、マイナーなものも挟みながら、話は進んで行く。


「なるほどっ。ダンジョンマスターもお願いできると上に伝えておきましょう」

「…………」


疲れた。反応する気力が起きず、黙りこくる。


「それではそろそろいいですか?」

「はい。やっとか」


 職業選択スロットは、ダンジョンマスターで止まった。

 英雄に比べると、……考えるのはよそう。

 自作ダンジョンで、ゆったりとした生活。うん、ありだ。


「それではいってらっしゃい!

 まずは英雄からお願いします」

「えっ。どういうこと?」


驚きが、止まっていた俺の活力タービンをフル回転させる。

 だが考える暇もなく、相手から答えが飛んできた。


「勘違いしているようですが、全部ですよ」

「……マジ?」

「はい大マジです。それもいいですがーーと言ってくれたじゃないですか?」


 そうじゃねぇよ。確かに言ったけどもっ。

 それは英雄の方がいいなってことで、○○もやりたいって意味じゃない。


「違」

「宜しくお願いします」


 声を荒げ……できない。

 俺の意識が重く、深くへと沈んでいった。


 目を開けると、――そこには美少女がいた。

 それから俺の召喚ラッシュが始まったんだ。

 与えられた指示をこなせば、すぐ新しい職場へと召喚されて、……召喚されて……。


 やっと日本に帰ってこれたと思ったんだけど。

 何とか落ち着いてきた所、ここに至る。

 最悪だ。もう異世界は飽きを通り越して、うんざりなんだよ。


 塵積がここにきて、爆発してしまったらしい。

 いかんいかん。深呼吸をしよう。

 ふ―。さて今はステータス画面に集中するべきだ。

 再び目を向ける。


《和田修平 男 十六歳(爆笑)

 現在の職業:すぐれた勇者

 元枠:英雄王。ダンジョンマスター。魔王。etc.》


 まぁ、突っ込みどころ満載なんだけどなっ。

 まず年齢で笑われる筋合いはない。確かにもうずっと十六歳のままだけど――。

 それは『人の一生ではとうていこなせる仕事量じゃありませんっ。ですのでもうこの際、年齢止めちゃいましょう』ってお前らが言ったからだろ。

 ステータスは神が与えた恩恵だったよな?

 あれとは違う神さまなのかもしれないが、俺からすれば同罪だ。


 それに優れたじゃなくて、はぶられた勇者の方が正しいんじゃないか?

 この場で俺を抜擢するとか……ちょっと勘弁してください。

 神さま、こたえてよ。

 

 表記もいい加減だし、……これなら誰かに見られても問題ないか?

 言うまでもないな。ってことは、ステータス選定の前に退場しなければならない。

 仲間外れ感をもっと前面に押し出していくしかないようだ。


「ちっ。どうせ、お前だろ。さっさと薄情しろよ」

「邪魔なんだよ」

「喜んで拝命します」


 そんな時、男二人が炙り出しに動いた。


 ――非常にありがてぇ。気落ちする俺に突き刺さる恵み。

 罵倒がこんなに嬉しいなんて、思いもしなかった。さっさとドロンさせていただきます。

 ステータス画面を消すと、軽く手を振りながら、出口の方へ歩いて行った。


「無視すんなよ」

「うざ」


 何か変だ。俺は満面の笑みでだが、要求にちゃんと応じている。

 無視をしているつもりは毛頭ない。

 足を止めて、振り向いた俺は事態を正確に理解した。

 二人で、女子一人を貶めている模様。顔がこちらに向いていなかった。

 

 いっそここまでくると清々しい。まさかゴーストフラグか?

 ゴースト――意外と悪くないな。

 自由に過ごせて、誰にも認知されないなら願ってもない。


「さっさと消えろ」

「ははっ、ざまーねーな」

 

 さなか罵詈雑言の弾丸が、少女に放たれ続けている。

 標的は整った顔立ちで、背は平均サイズ。サイドテールに結われた黒色の髪が輝いている。四肢は細いが、体型も貧相ということはない。出ている所はしっかりと主張している。

 肌の白さも、不健康さを呼び起こすものではない。

 誹謗を受けても怯えることなく、彼女からはむしろ凛々しさを感じとれた。黒い瞳は真っすぐに相手を凝視している。

 そっと顔の見える位置まで動いた俺。絶賛目を奪われ中だ。


 変態かよっ。

 助けるべきか? 

 助けた所で何になる?

 そもそも俺助けられるのか?

今さら遅い。

 考えるより先に、体が動いてしまった。

 俺は彼女を蔑みから守るように、両陣営の間に割って入る。


「……止めた方がいいと思います」 


 相手は初対面だし、争いは避けたい。

 丁寧な言葉遣いになるのは当然だよな。


「何だてめー」

「ってか、こんな奴いたか」


 そういえば、――ゴーストルートは消え去ったな。

 悔しいけど、今はそれよりもこの美少女。

 たとえこの世が美酒逆転世界だとしても、それをさらにひっくり返すだけの魅力が彼女は持っている。

 要するに、充実した異世界生活を送れる可能性は十分にある。

 

 それを自覚させなければなるまい。

 されど、何を言うべきか。性格は外見だけじゃ判断できないし、強さもわからない。


 色々と考える内に、二人がじりじり近づいてくる。

 これしかないな。


「彼女は可愛いんだよ」

「…………」

「は?」

「ふざけんな」

 

 俺は強く叫んだ。……言っちゃった。 

 だが、結果は彼らを煽っただけ。

 少女は沈黙を貫き、虐めていた男性二人は怒りむき出しで、接近のスピードを上げる。

 数秒後、俺の腹めがけてナックルパンチが発射された。


【与えられたダメージはほとんど魔力に変換されたから安心してちょ。あ、でもちょい待ち。魔力満タンだから、消滅だったわ】


 物理攻撃を自分の魔力に変換。

 確か……ダンジョンマスターとして召喚された時に受け取った能力と似ている。

 もしや、今まで授かってきた魔法・能力が全て使えるのか?

 いや、ないな。それなら俺は最強になってしまう。

 そんな優しい仕様なはずが無い。


【マジなんですけど――】

 

 俺の脳内に声が響く。

 因みにこちらは初仕様だ。 


(本当か?)

【そう言ってるし――】

(本当に今までの恩恵全部使えるのか?)

【そうだし――。さっさと消し飛ばしちゃいなよ】

 

 会話もできるよう。

 それと最後の物騒なワードについてだが、断じて否だ。

 それでも俺の目的は変わらない。


 繰り出された拳は、しょうじき全く痛くない。

 されど、俺は影に徹すると決めた。もちろん彼女のサポートをするためにだ。

 役目を放棄したいからじゃない。これ以上、余計な職業は増やしたくないからとか、クリアしたら即、また新しい世界に召喚されるんだろとか全然思ってないよ。


「ぐはっ」


 逃げるにはいいきっかけだな。

 よって、――大げさに痛がった。

 

「はは、だせー。こいつも無能だな」

「イキってんじゃねえよ。死ね、カス」

 

 腹を抱える俺は、嘲笑を浴びる。

 今度は殴ってきたのとは別の男性が蹴りをかましてきた。

 むろん避ける理由なし。

 確実に物理攻撃を受けたはずが、先ほどのような音声は発生しなかった。


「やめて。私も勇者じゃないから。これで三人でしょ」

 

 他人が傷つけられるのは、我慢ならないのか?

 彼女こそ真の勇者だ。


「そうだねっ」

「なら、行こう」


 姫様が明るい声で頷いた。

 というか居たのか。ずっと黙ってみていたことになるが……よし、残虐姫の称号を授けよう。


 彼女の方は、中々アクティブで、強引に俺の腕を引いた。

 部屋を抜ける。


「おい待てよ」

「勝手に逃げんな」


 扉の向こうから声はする。

 しかし、二人が追ってくる気配はなかった。


「詳しい話をしましょうっ」

「今はそれどころじゃねえ」

「おい、貴様。姫様を侮辱するとは何事だ?」

「ひぇすみません」


 姫様、――あっとうてき感謝。

 残虐姫だなんて俺は何と馬鹿なことをしていたことか。

 きっと姫という立場から、勇者が決まるまで下手に動けなかったんだろう。

 

 続く喧騒は、控えていた騎士たちによるものだな。

 奴らもさぞビビっているはずだ。

 その光景が目に浮かぶ。

 別に暴力を振るわれたこと、許したわけじゃないんだからねっ。

 ……俺は、何をしているんだか。

 とにかくお願いします!


 召喚されたばかりで力加減がわからない。

 全てを引き継いでいた場合、俺にとっての軽くのつもりが脅威になり得る。あっさり殺してしまう可能性もあるからな。

 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ