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フィリ・ディーアが触れる世界  作者: 市境前12アール
終章 フィリ・ディーアの触れた世界に住む人たちと歩く道
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2.騒動を終えた軍人たち

「さあて、どんな顔をしたもんかねぇ」

「……盗んだ物があまりに大胆だと、こちらも反応に困るな」


 訓練場宿舎の格納庫前の滑走路で。プリムとジュディックは、遠くの空を見ながら、少し困ったようなな表情で言葉を交わす。

 フィリたちがこの訓練場宿舎の輸送機を無断で持ち去ってから約一ヶ月が過ぎて。それによって起こった様々な騒動もひと段落し、ジュディックを始めとした部隊員たちは、先日までの騒動が嘘のような平和な毎日を、この訓練場宿舎で過ごしていた。

 普段であれば、任務に就かないときは訓練に明け暮れているはずの彼らだが、今回の騒動で受けた傷跡も深く、なによりも事件の背後にある派閥的、政治的な決着がついていないからだろう、上層部からは待機命令が出されたまま、時間だけが過ぎて行き。


――本来、空軍に所属しているはずのプリムも、それに巻き込まれる形で、原隊復帰することなく、彼らと共に、のんびりとした時間を過ごす。


 そんなプリムが、たまたま格納庫でボーウィ少年と話をしていたところで、突然空から降りてきたピーコックと話をすることになり。こちらにはフィリたちを罰する意思が無いこと、予想外の「客」が教会に来ていることをピーコックに伝えて。フィリたちの所へと戻るために飛び立ったピーコックを滑走路で見送ったプリムは、軽く苦笑する。――どうやらあの孔雀怪獣は、自分の姿を見られることを警戒していたようだけどね。そういうことは、病院で飛ぶ前に考えてほしかったね、と。


――共和国の首都に見目麗しい「聖鳥様」が降臨されたなんてことが、既に遥か遠く、王国の「ディーア家」にまで伝わってるんだ。今更、少しくらい姿を見られたところで、何か変わることも無いだろうにと。


 とはいえ、やって来たのはあの「ディーア家」だからね。あそこなら、他には全く知られていないようなことでも拾い上げそうだけどねと、プリムはそんなことを考えながら、格納庫に備え付けられた通信機を使ってジュディックに連絡を入れて。

 やがて、必要な処置をとったのだろう。ジュディックも滑走路へとやってきて。……兄弟だからだろうか、プリムと同じようなことを考えていたであろうジュディックが、ふと言葉を漏らす。


「……しかし、『生き別れになったディーア家の次女』か」

「フィリちゃんも、実はとんでもない出自だよね。まあ、相手は気にしなくて良いなんて言ってるみたいだけど」

「そんな訳にいかんだろうな。何かあったら外交問題になりかねん。下手な政治家よりもよほど気を使う相手だ。……ディーア家の名前を聞いた時はな、彼らと友好的に接していて良かったと、本気で思った位だ」


 ジュディックの独白めいた言葉に返事をして。続く言葉を聞いて、プリムは軽く苦笑をする。――いかにもアニキらしい、生真面目さが表に出た言葉だと。

 今や王国を形作る重要な勢力の一つとなった、領民を持たずに資本で国を動かす、新しい形の貴族。その中でも「ディーア家」は、王国の新興貴族の中でも有数の、伝統ある大貴族と同じだけの風格を持つに至った一家だ。

 今まで自分が接していた相手が実はその「新たな大貴族」に連なっていたという、あまりに意外な事実を知った兄の率直な意見に、プリムは軽くうなずいて。……それでもまあ、その心配は兄貴には不要だねと、そんなことを思う。――たとえ相手が客人じゃなかったとしても、相手を一方的に利用しようなんてこと、アニキはしないだろうしね、と。


「まあ、例え客人として迎えいれてなかったとしても、結果は変わらなかったと思うよ、アタイは」


 何だかんだと言っても、アニキのとる行動には私心が無いし、常に一本筋が通っているのが見ている人にもはっきりとわかる。そんなアニキの態度が今のアニキの人望を生んでいるのだし、何よりその公正明大で人を軽んじないその性格は、むしろこういった難しい客と接する時にこそ生きるのだと、プリムはそんなことを考える。だからこそ、上官の少将サマもフィリちゃんたちを兄貴に任せてたんだろうし、と。……まあ、その少将サマだって、フィリちゃんの出自なんか知るわけないんだけどさ。

 何だかんだ言っても、兄貴のあのクソ生真面目さは貴重だし、多分自分が思ってる以上に評価されてるとアタイなんかは思うんだけどねと、そんなことをプリムが考えていた所で、視線の先に、見慣れた輸送機がこちらに向かって飛んでくるのが見えて……


「おっと、そんなことを言ってる間に、来たみたいだね。さて、どう接すればいいのかねぇ」


 さて、待ち人が来たのは良いが、どう接すればいいのかねぇなんてことをプリムは口にして。まあ、フィリちゃんの出自がどうであれ、少なくとも「今の」フィリちゃんには関係ないことだしねと、そんなことを考えたところで、プリムはジュディックの独白めいた言葉を聞いて……


「まあ、今までどおりに接するさ。……叱りつけたりしないといけないようなことにならないよう、祈るしかないだろうな」

「『叱りつける』なんて言葉が出てくるだけ、アニキも良い性格していると思うさ」


 まあ、多分アニキはそう接するだろうねと納得しながらも、「本当に」相手の出自は意識しないように接するさと言うジュディックの言葉に、プリムは軽く笑う。


――まあ、確かにアニキらしいといえばアニキらしいけどね。だけど、相手が国賓級の「大貴族」に連なると知ってなおそう言えるのは、考えようによっては大したもんだよね、と。



「勝手に飛行機を持ち出して、本当にごめんなさい!」


 飛行機から降りて、こちらが話しかける前に深々と頭を下げたフィリを見て、プリムは軽く頭をかいて。そのまま頭を上げようとしないフィリを見て、隣のジュディックも、軽く困った様子を見せる。


「あー、うん、まずは頭を上げてくれないか?」


 そんなフィリにジュディックは、多分意識してだろう、「こちらは大して気にしていない」という感じの声をかけて。……その声を聞いて素直に頭を上げるフィリを見て、ジュディックは軽くホッとした様子を見せる。

 それでもまだ軽くうつむいたまま、少し上目遣いにジュディックの方を見るフィリを見て、プリムは思う。……あの孔雀怪獣みたいに人を食った態度を取られても困るけどね、これはこれで扱いに困る態度だね、と。


「先に来たピーコックにも伝えたんだがな。飛行機の件については、特に君たちに責任を問うつもりは無い。……そうだな、変な改造とかがされていなければの話だが」

「えっと……」


 自分の妹がそんなことを考えているとは露知らず、ようやく顔を上げたフィリにジュディックは、少し優し気に声をかけて。その言葉を大人しく聞いていたフィリは、ジュディックの言った「改造」という言葉に、少し下がったところに立っていたメディーンを振り返るように見て。

 そのメディーンが伝えてきた言葉に少しホッとした表情を浮かべたあと、フィリは、その言葉をジュディックへと伝える。


「……機体の基本構造はそのままだって。一応、輸送機の中に元々あった仕組みを使って、わたしが座っていた椅子やオルシーの車椅子を固定したみたいだけど」


 フィリの通訳を聞いて、同じようにホッとするジュディック。――まあね、ここで飛行機が「元のまま」返ってこなかったら、こっちも「うやむや」にするのは難しかったからねと、ジュディックの横でやり取りと聞いていたプリムは、自分の兄と同じように軽く安堵をして。そのまま、まだ少しだけ緊張をのこしているフィリに話しかける。


「まあ、嬢ちゃんたちが嘘をついているとは思わないけどね。けど、そいつは一応、ウチらの商売道具だからね。一応こっちでも確認させてもらうよ。……飛行機の中に忘れ物とかはないね」

「はい。大丈夫です」


 以前と同じようにフィリに話しかけるプリム。そのいつもの口調にようやく緊張を解いたのか、フィリは少し明るい表情でプリムに返事をする。

 そんなフィリの返事を聞いて、すれ違いざまにフィリの頭にポンと手を置いて、プリムは飛行機の操縦席へと歩を進め。軽やかに操縦席に乗って、備え付けられた通信機を使って、格納庫の中で待機していたボーウィ少年を呼びだして。

 やがて格納庫の方から手旗を持って駆け寄ってくるボーウィ少年とそれを呼び止めるフィリを、プリムは、操縦席の中から、少し興味深げに眺める。


「……、…………、……」


 何事かを言いながら深々と頭を下げるフィリと、遠目からでもはっきりとわかるようにうろたえるボーウィ少年を見て、プリムは軽く笑う。


――まあ、空軍整備兵学校に女っ気なんかないだろうし、あんな勢いで謝られたらどう扱えばいいかわからないのかもしれないけどね。だけどまあ、ちょっとあれはうろたえすぎじゃないかねぇ、と。



「で、さっきは何て言われてたんだい? 少年」

「別に……、『大事にしている飛行機を勝手に使って、本当にごめんなさい』って」


 ボーウィ少年の誘導で飛行機を格納庫へと移動させた後。操縦席から降りたプリムはボーウィ少年に、からかうように問いかけをして。そのプリムの態度に子供扱いされたと感じたのだろう、少しムッとした声で、それでも素直にボーウィ少年は返事をする。


「そうかい。それにしちゃ、ちょっと慌ててたみたいだけどね」

「……」


 なおもからかうような口調を続けるプリムに、ボーウィ少年は口を閉ざして。無言のまま作業を続ける。


「おっと、ちょっと軽口が過ぎたかね。悪い悪い。……じゃあ、点検の方は任せたよ」


 ちょっとからかい過ぎたかねと、そんなことを思いながらも、軽い口調でボーウィ少年に声をかけてから格納庫を出るプリム。やがて、一人だけになったところで、ボーウィ少年は、誰にともなく独白する。


「……その時の気分で仕事をヘマするほどガキじゃないっすよ」


――それはどこか、見られると少し恥ずかしいような気まずいような、そんな自分自身が「幼い」ところを見られたのを自分に対して取り繕うような、そんな独白だった。



 フィリたちから返却された輸送機を格納庫に戻した後。プリムは点検はボーウィ少年に一任して訓練場宿舎へと戻ってきたプリムは、食堂で、一足先に戻ってきたジュディックの正面へと座り。今回の顛末について、少し疑問に思っていたことを質問する。


「……最初の予定通り、フィリちゃんたちは『初めから飛行機を盗み出してはいない』ということにすると。そりゃあ、ウチ等としてもその方がありがたいんだけどね。本当にそれで良いのかい?」

「ああ。一応、マイミー少将にもその方向で処理をすると報告済みだしな」


 ジュディックの答えを聞いて、軽く肩をすくめるプリム。確かに置き手紙には、「ここの飛行機を借りていく」と書かれていたんだけどね。それを本当にそのまま「彼らは飛行機を借りて行っただけだ」なんて言ってうやむやにするだなんて、最初に聞いた時にはびっくりしたもんさ、と。――それをあの兄貴が言い足したことにも、それで納得したあの少将サマにもね。

 ただまあ、言われて見れば、確かに妙案には違いないとは思ったけどね。なにせフィリたちが「借りて行った」のは、輸送機とは言え軍用機だ。フィリちゃんたちを無罪放免に出来たとしても、ウチらの管理責任はね、帳消しにはならないだろうしね。


――もっとも、実行犯はあの「メディーン」だからねぇ。あんな、脱線する列車を力で止めるようなとんでもない存在を相手にしたら、どんな厳重に警備してても防ぎようがないとは思うけどね。


 それでもまあ、こうでもしないと「ウチら」にも責任が来てただろうしね。素直にありがたいとも思うんだけどねと、そんなことをプリムは心の中で呟いて。もっとも……


「まあ、確かに私も一つの部隊を率いる身だ。部隊が管理している兵器が悪用されたのなら、見逃す訳にはいかない立場なのは確かなのだが。……一応『借りていく』という置き手紙もあったしな。

 彼らが『無断で借りていった』飛行機で、何か破壊活動にいそしんだりしたり利益を上げたりしていたのなら、黙っているわけにもいかないのだが。ただ乗り物として利用していただけなら、まあ、こういう判断も時には有りなんだろうさ」


 多分自分にも言い聞かせてるのであろう、ジュディックの独白めいた言葉を聞いて、この言い訳みたいな言葉は少し何とかしたほうが良いと思うけどねと、プリムはそんなことを思いながら。一つ思ったことを素直に口にする。


「まあ、アニキの言うこともわかるし、間違っちゃいないだろうさ。――けどまあ、アニキらしくないやり方だね、とは思うけどね」


 プリムの言葉を聞いたジュディックは、軽く苦笑いをして。プリムの軽口めいた言葉に、頷きながら返事をする。


――そうだな。それは俺もそう思う、と。



 そうして、これで話も終わったかなと判断して立ち上がりかけたプリムは、どこか独白するようなジュディックの言葉を聞いて、動きを止める。


「結局、今回の事件で俺たちのしたことっていうのは何だったんだろうな」

「うん?」


 兄弟だからか、何気ないその言葉にどこか深い悩みのようなものを感じたプリムは、改めてジュディックの方へと向き直り。その言葉を真剣に聞き始める。


「聖典護衛の任について、任務を果たせずに奪われ殉職者まで出しながら、かろうじて奪還した。任務に関しては俺たちの力が賊よりも劣っていただけだし、たとえ戦争が無くても、軍人である以上仕方がないことだろう。……だが、一体今回の事件は何だったのか、そんなことを思ってな」


 その言葉を聞いて。その悩み方がいかにも兄貴らしいと、そんなことを思いながらも。……それでも、考えすぎだと茶化す気にもなれずに、プリムはその話を静かに聞き続ける。


「今回の事件の裏で手を引いていたのは、派閥争いによる保身のために暴走してしまった我が国の高官である線が濃い。賊は賊で、そのことをわかった上で、始めから裏切るつもりで依頼を受けたフシがある。――俺には、あの賊は我が国の上層部がいつか今回のようなことを起こすと確信した上で、今まで潜伏していたように思えてならないのだ」


 ジュディックの言葉を聞いて、プリムは思う。確かにあの賊は手強かった。だが、それでも、相手はたったの二人だったのだ。相手がどれだけ手強かろうと、普通は軍を相手にそこまで立ち回れたりはしない。それなのに自分たちは、ほとんど最後まで、そのたった二人の賊に、いいようにあしらわれ続けたのだ。……例の高級官僚の屋敷で兄貴が賊に深手を負わせられなければ、きっとあの賊たちを逃がすことになっていただろう。そう思うと、兄貴が色々と考えるのもわかると、そうプリムは思いながら、耳を傾け続ける。


「俺たちが鉱山跡で戦っていた時、マイミー少将はスクアッドを伴ってファダー・ビリアンと会談に赴いていただろう。その時に話していた内容を聞くにな、少将はその『裏』を見据えた上で、先手を打ったということをしみじみと感じてな。――誰もが一つ先を見ながら戦っていた。その中で俺たちは、……俺は、ただ目の前の状況に対応するので精一杯だったなと」


 あの賊たちは、政府高官や教会といった派閥のことといった「裏の事情」を知った上で事に臨んでいた。そして、兄貴の上官であるマイミー少将は、賊が国境から首都に到達するまでの間に裏の事情を調べ上げて、賊と協力関係にあったと思われるビリアン一家(ファミリー)のアジトに乗り込んで、取り引きをして、様々なものを引き出して。彼らから引き出した情報を使って、今も「政治」を舞台に戦っている。


 当然、兄貴もアタイも、そんな立場にいるわけじゃない。だけど……


「今はそれで良いのだろう。だが、俺もいつか、そういうことを考えることができるようにならないといけないのだろうなと、そう思うとな」


 きっと、「このままではいけないのだが、どうすればそうなれるのかわからない」と、そんなことを言いたいのであろうジュディックの心情を理解しながら、ことさら明るく、軽い口調でプリムは話しかける。


「そんなことを言ってもね、そんなのはまだまだ先の話さ」


――その言葉は、今考えたって答えが出ないことなのに悩んでたってしょうがないと励ますような、そんな言葉で。同時に、先走りすぎている自分の兄を諫めるような、そんな言葉でもあって。


「兄貴やアタイはね、まだまだ『人の上に立つ』なんて年でもない。部下を数人、その部下にも迷惑をかけながらなんとかやっていくのが精いっぱい、それが当たり前なのさ。少将サマが一つ先のことを見てた? 自分は目の前のことで精いっぱいだった? あの時のアタイらはそれが任務だった。――考えることができなかったんじゃない。考えないのが正解だったのさ」


 ジュディックがまだ三十前という若さで大尉になっているのは、「武装偵察小隊隊長」という特殊な立ち位置によるところが大きい。――確かにそれは重要な役目だ。だが、何といっても、率いているのはたかが小隊、本来ならそれは中尉や少尉の役目なのだと、プリムはそんなことを考える。

 多分、兄貴は期待されている。だから本来なら雲の上の「少将サマ」とも直接言葉を交わすことができる。……だからといって、出来ることと出来ないことはある、その位は、あの少将サマもわかっているだろうと。

 むしろあの少将サマは、兄貴に「器用にこなす」ことなんか期待していないだろう。まあでもそう言った意味では、こうやって悩むのもあながち間違いとは思えないけどねと、プリムはそんなことを考えながら、最後に軽口を叩く。


「第一、アタイや兄貴がこれ以上出世できるとも限らないし。もしかしたらそいつは、壮大な取り越し苦労なのかもしれないさ」


 そんな軽口に、軽く苦笑しながら、ジュディックはプリムに頷きを返した。



 飛行機から降りて。ジュディックさんとボーウィさんに謝ったあと。わたしやピーコックを訪ねてきた「お客さん」が教会にいるから先に会いに行くって話になって。久しぶりに「特別貨物馬車」に乗る。

 ピーコックとメディーンと、あとオルシーは後ろの貨物車両の中に、わたしとスクアッドさんは御者台に乗って。そのスクアッドさんと話をしながら、教会へと移動を始める。


「ウチの指揮官殿がメディーン殿と似てる!?」

「うん。『ごめんなさい』って謝ったときに、なんでかな、そんなことを思ったんだ」


 そのスクアッドさんに、さっき感じたことを少し話をして。なんとなくだけど、ジュディックさんの反応がメディーンと似ている気がして、そんなことを言ったんだけど。でもスクアッドさんは、どこが似ているのかわからないみたいで。気のせいかなぁなんて思ったところで、貨物車両の中からオルシーが声をかけてきて。


「……何となくわかる気がするわね」

「――そっちの嬢ちゃんもそう思うんスか。どの辺りが似てるのか、俺にはよくわからないっすが」

「なんていうのかしら。『融通の利かせ方』かしらね。さっきの軍人さんもメディーンも、こう、なんていうのかしら? 必要な時には『決められたことは絶対だけど、こういう考え方もある』みたいな考え方をする気がするのよね」

「……そうかなぁ。でも、そんな気もするかなぁ」


 オルシーの言葉に、そんなような、違うような、そんなことを思いながら返事をして。その話を聞いたスクアッドさんが、ジュディックさんのことを話し始めたんだけど……


「――いやぁ、まあ、確かにウチの指揮官殿だってそういう『抜け道』を使うこともあるっスけどね。それ以前に、決まり事は愚直なまでに守るお人ですし、少しくらいなら良いんじゃないかと言っても頑として譲ろうとしないような、どこまでも生真面目なお人ですぜ?」

「それだ!」「それね!」


――そのスクアッドさんの言葉に、わたしとオルシーが声をそろえて返事をする。


「その生真面目なのに、融通を利かせようとして悩むところが似てるのよ」


 オルシーの言葉に、思わずうんうんと頷いて。それを聞いたスクアッドさんが軽く肩をすくめて、冗談めいた口調で話しかけてきて。


「……なるほど。ウチの上官殿は『命令を守ろうとしながら融通を利かせようとする機械人形とそっくり』っすか。――何となくわかる気がするってのはいいことなんですかね」


 そんな言葉に、わたしとオルシーが思わず笑って。……あれ、えっと、笑ってよかったのかななんてふと考えたんだけど。うん、けどみんな笑ってるしいいんだよねと、そんな風に思いなおして。


――そんな、和気あいあいと話に花を咲かせながら、一行を乗せた馬車は、「お客さま」の待つ教会へと、ゆっくりと進んでいった。

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個人HPにサブコンテンツ(設定集、曲遊び)を作成しています。よろしければこちらもどうぞ。

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