忘れ去られた遺跡を訪ね、刻の行き着く果てを想う
「本を開かずに読めるのか。それは有難いのぉ」
ピーコックの背に乗って、遺跡まで行くことになった旅人と剣は、そのピーコックが話し始めた過去の話に耳を傾け。やがて、その話が終えると、今度は、まるで世間話をするように、目的の「本」についてピーコックと剣が話し始める。
『そりゃあ、普通に開いて読んだ方が気分は出ると思うけどね。だけど、数百年前の本だよね? 痛みそうで、とても普通には読めないよ』
これも性格だろうか。旅人はピーコックとの会話にほとんど参加せず。代わりに、どこか楽しそうに話しをする剣とピーコックとの会話を聞きながら、ときおり相づちを打つように頷きを返したり、短く「そうだな」と口にしたりと、二人の会話の聞き役に徹する。
『それにしてもオルシーちゃん、その遺跡に行って初めて、本を書くことを決心できたんだ。……やっぱり、前の管理者さんの記録に触れたのが大きかったのかな?』
「どうじゃろうのぉ。あのときのフィリもそうじゃが、オルシーとかいうヒトも、ずっと本を書きたいと思っとったようじゃしの。切っ掛けにはなったんじゃろうが、案外、その記録に触れんでもいつか決心したと、そんな気もするのぉ」
人ならざる者たちが繰り広げているとは思えないような、人の心の機微に触れるような話を聞きながら。旅人はふと、ピーコックの言葉に引っかかりを覚えて。一瞬だけ躊躇した後、両者の会話に口を挟む。
「……その言い方だと、その記録に触れてフィリが決心したのも、ただの切っ掛けだったように聞こえるが」
「うん? そりゃあ、そっちは間違いなくそうじゃろうて。……フィリは初めから、少しの間だけここに戻ってくると、そんなつもりじゃったからのぉ。あれはもう、外の世界で過ごすと、既に心を決めとったんじゃろうて。――だからあれは、遺跡に戻ってきて、過去の記録に触れて、『誰かに宣言する』決心がついたと、それだけのことじゃろうよ」
旅人の疑問に、当たり前のように答えるピーコック。その声に、どこか大切な、懐かしい思い出を語るような響きを旅人は感じ。――遠い過去のことを語っているはずなのに、自分を乗せた巨鳥が、まるでつい最近に起こったことを話しているかのような錯覚を覚えたのは、旅人だけなのだろうか。
紛れもなくフィリという名の少女は生きていたのだと、そんな当たり前のことを強く想わせるピーコックの声。その声の持つ説得力に、自身の抱いた疑問を霧散させた旅人は、黙したまま、自身を乗せた孔雀の答えに耳を傾ける。
「フィリはな、遺跡に住んどる限り、儂やメディーンの世話にならんと生きていけんことはわかっとった筈じゃ。外の世界なら、儂らがいなくても生きていけることもな。――現に、外の世界に出てから、儂らはほとんど何もしとらんからの」
『……えっと、貴方はともかく、メディーンは仕事を請け負ってなかったっけ?』
「それでもじゃよ。外の世界で、儂らは確かに仕事を請け負った。でもな、そんなことは他の誰かでもできることじゃろうて。……あの遺跡で生きていくためにはな、儂とメディーンがどうしても必要なんじゃ。――儂らは『誰にも頼らずに』生きていけるが、ただのヒトは、そうはいかんじゃろう?」
ピーコックの言葉に、今度は剣が疑問を呈し。その疑問にもピーコックは揺るがずに答え。その答えを聞きながら、旅人は思う。その答えは、理屈ではなく、その少女と共に同じ時間を過ごしたからこそ言える答えなのだろうと。
――その言葉はきっと、自分たちのような「傍観者」の言葉ではなく、共に生きた「家族」の言葉なのだから。
「こんな言い方をするのもアレじゃがな。あのオルシーとかいうヒトと間近に接したのも、フィリには大きかったんじゃろうなと、今となっては思うしの。――あれほど必死に『生きる』ことを考えとったヒトは、他にいなかったじゃろうからな。……まあ、あのダーラとかいうヒトの思惑を肯定するようで、少し癪じゃがのぉ」
やがてピーコックは、いかにも彼らしい、どこか人を食ったような言葉で遠き日の記憶を締めくくり。――その言葉を聞いた剣が、どこかからかうような口調で、話を終えたばかりの孔雀に話しかける。
『癪なんだ』
「そりゃあな。あ奴は、本当に面倒極まりないヒトじゃったからのぉ」
その会話を聞いて、旅人は思う。――全く、どちらも人間以上に人間らしいな、と。
◇
やがて、会話が途切れたところで。剣は、それまで疑問に思いながらもなんとなく聞けなかったことを、ピーコックに質問する。
『……ところで。少し気になるんだけど』
「何じゃ?」
『……今の速度、音よりも速いような気がするんだけど、気のせいかな?』
「そりゃあ、ヌシは今、遺跡の『魔法障壁』みたいなのを張っとるじゃろう? そんなものが張れるのなら、この位の速さで飛んでも大丈夫じゃろうと、そう思ったんじゃが」
『……そりゃあ、思ったよりも速く飛んでるからね。何かあったら全身がバラバラになるような速度で飛ばれたら、身を守るのが普通だと思うよ』
二人の会話を聞いて、旅人は思う。確かに、誰も見ていない所では大げさに力を使う傾向のあるこの剣は、普段も目立たないように、実はとんでもない強度の「防護障壁」を常に展開しているのは気付いていたのだが。
その「防護障壁」が、ピーコックの背に乗ってからどんどんと強化されていくのを感じとって、もしかしてこの剣はすこし過保護なのだろうかと、そんなことを思っていたのだが。どうやら、自分が思っていたよりも遥かに早い速度で飛行しているらしいと、二人の漫才めいたやり取りを聞きながら、そんなことを思う。
『音よりも速く飛べる鳥なんていないはずなんだけど? どういうことなのかな?』
「そりゃあ、今の儂は片翼じゃからのぉ。もはや、『羽ばたいて飛ぶ』なんて普通の飛び方は出来んわい。――普通じゃない飛び方をしとるんじゃ。少しくらい、普通でない速度が出てもおかしくないじゃろう?」
『だからって、音速を超えたりしたらもう、鳥じゃないよね』
「何を言うとる。ちょっと速く飛んだだけで鳥じゃなくなるなんて、そんなおかしい話があるか。儂は立派な鳥じゃ」
『いや、もう完全に怪獣で良いと思うよ』
何かあったら「全身がバラバラになる」ような速度で飛行する孔雀の形をした何かに、そんな速度で飛行していることに気付きながら、文句を言わずに防護障壁を強化して対応した剣。どちらも人間の常識なんか通用しないようだなと、そんなことを思いながら、旅人は、特に口をはさむわけでもなく、二人の仲良さげな言い争いをのんびりと聞き続ける。
――そんな態度も、十分に「常識的な人間の反応」からかけ離れているなんてことを、旅人自身、なんとなく自覚しながら。
◇
そんな他愛のない話をして。過去に起こったことも思いつくままに話をして。他者としゃべるのが好きな孔雀と剣が、言葉を交わさない時間を嫌うかのように、ちいさなことも面白おかしく、楽しい時間へと変え。
――それでも時折、話題の無い時間というのは訪れる。
そんな、ほんの小さな、スキマの時間に……
「そういえば」
『うん?』
……ふと思いついたように、ピーコックが、背に乗せた二人に話しかける。
「ヌシらが旅をしておる理由、確か『大災害の前と後でどんな違いがあるのか、文明が築かれてきた転機を知りたい』とか言うとったが。――なんでそんなことを気にするんじゃ? ヌシらも儂やメディーン同様、ヒトの世界とは距離を置いて生きとるんじゃろう?」
その口調は今までと同じような、いつからかいの言葉が混じってもおかしくないような、どこか軽い口調で。――だが、そんな口調で放たれた疑問は、真剣で。そして、ピーコックがここまで彼らと言葉を交わし。これまで自身が歩んできた道のりと照らし合わせた結果、自然と浮かび上がってきた、そんな疑問だった。
どうして、世界と関わりを持とうともせず、旅人として「通り過ぎる」ように生きとるような者たちが、歴史なんぞに興味を持つのかと。ヌシらは、ヒトの中で生きていける者たちでは無いだろうにと。ヒトの世を外から眺めているしかない、そんな存在じゃろうにと。
――それは、これまで彼が歩んできて得た答えが言わせた、そんな質問だった。
そんなピーコックの考えが伝わったのだろうか。剣もピーコックと同じように、どこか軽い口調のまま、真剣に、質問の答えを語り始める。
『貴方たちほど徹底して距離を置いている訳でもないけどね。でも、確かに私たちも、今の社会になじむつもりも無いかな。でもやっぱり、気にはなるよね。――前の文明では大災害に一丸となって立ち向かうことはできなかったけど、それでも人間は生き延びることができた。
今の文明はどうなのか。次の大災害の時には、一丸となって立ち向かえるのか。生き延びることはできるのか。――たとえ一丸となって立ち向かうことが叶わなくても、誰か立ち向かう人は出てくるのか』
その答えは、自分たちが今の社会になじめないと自覚した上での答えで。同時に、かつて人間だった剣や今も人の姿をしている旅人は、ピーコックやメディーンと違う存在だよねと、そんな想いがにじみ出ているような、そんな答えでもあって。
『だって、大災害は過去に何度も起きてるんだよ。その度に、この世界に住んでる人たちは、荒れ狂う自然に翻弄されながらも、聖人と呼ばれた人たちに導かれ、乗り越えてきた。――もう二度と現れないであろう人たちに助けられて』
人の心を宿した剣は思う。「繰り返される大災害」、一つの文明が発展し成熟する度に襲い掛かる、全てを破壊し忘却の彼方へと押し流してしまう未曾有の危機。それは、過去に幾度となく乗り越えられた危機で。
――同時に、乗り越えられたのが奇跡のような、そんな危機でもあって。
人の心を宿した剣は、今回の話を聞いて、一つ確信をする。前回の大災害を乗り越えられたのは一つの奇跡だったのだと。何故なら……
『一つ前の、最後に起きた大災害の時には、聖人さまは現れなかった。そうだね、私には何となくだけど、理由もわかる。――人間が魔鉄を、魔法を見つけたから。それがまたたく間に広がって、世界中で魔法が使われることになったから。
貴方みたいな魔素浸透体は、魔素だまりが無いと生まれない。なのに、世界中で当たり前のように使われる魔法が、魔素を吸収して拡散する。その結果、魔素が一か所にたまる前にかき回される。――だから、人が魔法を使う限り、聖人は生まれない』
……過去に人間を絶滅の危機から救ってきた「聖人」、天変地異と時を同じくして現れる「魔素浸透体」は、人間が魔法を使うようになったと同時に、姿を消したのだから。
『聖人が生まれるとしたら、大災害で人が、生き物が減った後。――貴方のような魔素浸透体は、次の大災害が終わるまでは生まれない。だから、大災害は、文明の力で、人の力で乗り越えなくてはいけない』
かつて、幾度となく繰り返された大災害を乗り越えさせた「聖人」のいない世の中で。かつてと違う文明を築き上げた今の人たちは、本当に「次の大災害」を乗り越えることができるのか。――そう想うのは、そんなにも不自然なことだろうかと、人の心を宿した剣は思う。
きっとそれは、力の問題でも、姿形の問題でもない。「人の社会で生まれ育った存在」と「人の社会の外で生きてきた存在」の違いなのだろう。人の心を宿した剣は、かつて「聖鳥」と呼ばれた孔雀に話しながら、そのことに気付く。
この「孔雀」とまだ見ぬ「機械人形」の物語はきっと、人里離れた「遺跡」が舞台で。そんな彼らには、人の社会には興味が無くて。彼らは、彼らの物語にほんの一瞬だけ関わることになった一人の少女のためだけに「人の社会」に触れて、その必要が無くなると同時に、「人の社会」への興味も失ったのだ。
――それはきっと、彼らの情が一人の少女に注がれた結果で。それはきっと、冷淡なのではなく。むしろ、それだけ彼らが少女に注いだ情が純粋だったのかなと、人の心を宿した剣はそんなことを思う。
彼らはきっと、大災害に負けないだけの力があり。
彼らはきっと、大切なものを守り通すだけの力があり。
彼らはきっと、そのままの形であり続けるだけの力があり。
――人の社会の外で生きてきた彼らの物語は、人の社会の外で紡がれる、たったそれだけのことだろうと。
『前の大災害が収束してから約七百年、あと百年もすれば次の大災害がやってくる。今の文明は、本当にそれを乗り越えることができるのか。それを知りたいと思うのが、そんなにもおかしいことかな?』
「さてな。儂は鳥じゃけぇ、そんな『人間らしい』理由は持っとらんでな」
そのことに、疑問を投げかけてきたピーコックも気付いたのだろう。自分はそんな「人間らしくない」と、茶化すような言葉を返しながら……
「儂らは、フィリや儂らに関わったヒトたちが、確かに存在したという『証』さえ残ればそれでええ。メディーンもそう思うとるだろうて。――そして儂らは、その『証』のような場所に住んどるんじゃからの」
――それでも、たとえ「人の社会」に興味がなくても。その答えはきっと、彼らなりの「人間らしさ」に溢れていた。
◇
……再び、話が途切れて。それまで、ピーコックと剣の話が終わるのを待っていたのだろう、旅人が少し気まずそうに、ピーコックに声をかける。
その言葉は、それまでの真面目な話から一転した、つまらない内容で……
「……少し、気になったのだが」
「何じゃ?」
「俺が、まるでお前たちと同じくらい非常識な存在のように語られていた気がするのだが……」
……それでも、旅人としては、とても捨て置くことのできないような内容だった。
だが、そんな旅人の言葉を、音の速さを超える速度で飛ぶ孔雀は、何をバカなことをと言わんばかりに否定する。
「――何を言うかと思えば。ヌシがフィリのようにか弱い存在なら、儂だってこんな速度で飛ぼうとは思わんわい。そりゃあ、ヌシが、そのふざけた剣ほどとんでもない存在だとは思わんがの。じゃからといって、普通のヒトと抜かすのは、それはそれでふざけた物言いじゃろうて。――そんなことよりほれ、遺跡はもう、すぐ下じゃ」
そのピーコックの言葉に、旅人は言葉を詰まらせ。……ほんの一瞬、俺は音速で空を飛んだりしないという言葉を言いかけてから、黙って飲み込む。――そういう意味の言葉でないのは明白なのだから。
そうして、返す言葉を飲み込んだ旅人は、続くピーコックの「遺跡はすぐ下」という言葉に、軽く身を乗り出して下の方を見渡して。今までと同じような、一面の自然の風景に、軽く戸惑うように返事をする。
「……何も無いように見えるが」
『――大がかりな障壁が張られてるね』
「ほう、わかるかの。『今の』技術でもわからんように張ったつもりだったんじゃが。――今、解除するからの」
旅人の言葉に、剣が反応して。その言葉に、ピーコックが感心したような声を上げる。そのまま高度を下げて、空中の「見えない何か」の上に降り立って。ばさりと片翼を大きく羽ばたかせる。
――その羽ばたきに反応するかのように、虹色に輝く「天井」が現れて、滲み、消えていき。その下に隠れていた遺跡が、まるで最初からそこにあったかのように、静かに姿を現した。
◇
日が傾き始めた山肌に、突き刺さるように突き出た地面。その大地の上には、一つの大きな建物と、こじんまりとした小さな小屋。庭の中心には小さな噴水と、手入れの行き届いた芝生。少し外れたところに植えられた程よい大きさの一本の木は、青々とした葉を茂らせる。
――そんな、時間が止まったような遺跡の庭を、銀色をした機械人形が一人、ズシンズシンと音を立てながら、芝刈り機を押して歩く。
その機械人形も、周りを覆っていた「魔法障壁」が消えて、上空を旋回する巨大な孔雀やその背に乗った人間たちに気付いたのだろう。軽く上を見上げて……
「クエエェーー」
……一鳴きする巨大な孔雀の声を聞き。その声に返事をするように、機械人形は顔の辺りを光らせて。その孔雀が小屋のすぐ近くに降り立つのを見続けるように、立ち止まってそちらを見続ける。
やがてその孔雀が、彼が運んできた人間と言葉を交わすのを確認した機械人形は、視線を戻し、手にした芝刈り機を押しながら、再びズシンズシンと歩き始める。その様子はまるで、相手は赤子でなければ病人でもない、なら放っておけばいいと言っているようでもあり。
――あの鳥は怪獣ではあるが害獣ではない、害のある存在を連れてくるようなことはしないだろうと、そんな判断を下しているようでもあった。
◇
そうして、遺跡に降り立った一行は、ピーコックに先導されるように小屋の中へと入っていき。やがて、ピーコックに保管場所を教わったのだろう、旅人は、一目で年期が入っているとわかるような古びた一冊の本を手にして、小屋の外へと出てくる。
そのまま、小屋の隣に作られたテーブルの上にその本を置いて。背負っていた剣もそのテーブルの上に置いて、席に座り。
――やがて剣は、その身を優しい光であふれさせ、その光で、古びた本をそっと包みこむ。
『じゃあ、本を読み始めるね』
きっとその光で、閉じたままの本に書かれていることを読み取ったのだろう、そう剣は旅人に話しかけて。その声を聞いた旅人は、少し苦笑しながら、ありのままの事実を話す。
「もう、書かれていることはほとんど全て話したんだがな」
『いいんだよ、そんなことは! どれだけ詳しく話を聞いたって、読んだことにはならないの!』
もう全部話し終えたという旅人に、聞くのと読むのとでは違うと力説する剣。だいいち、話し終えたから読まなくていいのなら、初めからこんな場所に来る必要もなかったよね。――そうじゃない、私は本を読みに来たんだと、そんなことを剣は言い始めて。
自分の出番は終わったとばかりに少し離れたところで身体を丸めていたピーコックは、その様子を眺めながら、少し呆れたような声を上げる。
「……さっきはあんなにも立派なことを言うとったのにのぉ」
『えっと、次の大災害のことかな? それってまだまだ先の話だよ?』
そんなピーコックの言葉に、少しのんびりとした返事を返す剣。これから次の大災害が起こるまでの間、ずっとやきもきしててもしょうがないし、私たちでそれをどうにかしようなんて思ってるわけでもない。
先のことを心配してもしなくても、大災害はやってくる。なら、重く考えてたって仕方がない。だから今は、自分らしくあればいいと、そう言いたげな彼女に、少しからかい気味な声で、ピーコックは話しかける。
「なら、そうじゃの。本気で何もする気が無いのなら、ここにいたらどうかのぉ。そうすれば、誰にも知られずにのんびりできると思うんじゃが」
『……それも、ちょっと退屈だよね。やっぱりもっといろんな場所を旅して、いろんなことを知りたいかな?』
きっと言外に、ヒトに関わる気が無いのなら旅なんてせんでもええじゃろうと、そんな意味を込めたであろうピーコックの言葉に、人の心を宿した剣は、そのことに気付きながらも「旅を続ける」と返事をして。「かっかっか」と、少しだけ柔らかく笑うピーコックの声を聞きながら、剣はそっと、意識を本の方へと戻して。
――人の心を宿した剣は、旅人と孔雀と、遠くで芝刈り機を押す機械人形に聞こえるように、どこか優しい声色で「魔法と血と、色々な想いを抱えた人たち」と題された一冊の本を、声を上げて読み始めた。