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フィリ・ディーアが触れる世界  作者: 市境前12アール
転章 血濡れた道の半ばにて
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道を分かち、自由に生きる

「このあたりでいいか。……後は俺一人でいい」


 襲撃を成功させ、追撃も振り切り。鉱山地帯に向かい無人の道をひた走るロード・トレイル。そのロード・トレイルを駆るマークスに、アストは言い放つ。

 全く想像もしていなかったことを言われたからだろう、話しかけられたマークスは一瞬だけ間を置いて。訝しげに、その言葉の意味を聞きなおす。


「……どういう意味さ」

「そりゃあ、言葉通りの意味だよ。『あそこ』に行くのは俺一人でいい、お前はここで降りなって、そう言ってるんだ」


 聞き返されることを想像していたのだろう、準備しておいた言葉をさらりと口にするアストに、マークスは眉をひそめる。


「……ふざけてるのか」


 表情に、声に、怒りの色をにじませながら、静かに問いかけるマークス。――だが、そんな相棒に、隠そうともしない苛立ちと怒りをアストはぶつける。


「ハン! そりゃあこっちの台詞だ! オマエと二人で雁首そろえて、何をどうしようってんだ」


 その声に、どこか虚をつかれたのか、膨れ上がりかけていた怒りを霧散させるマークス。それは、相手の怒りが意外だったのか、それとも、――アストの怒声に、どこか不自然な響きを感じたからか。


「どうしようって、お前……」


 戸惑いながらもその真意を問いかけるマークスに、アストは苛立ったような声を上げる。


「空から()けられてるって気付いてんだろう? 奴らがいつ押し寄せるかもわからねぇ。残念だが俺はこの傷だ、お前を庇いながら戦うなんてことはできやしねえ。――テメェ、無駄死にするつもりか?」

「――おい、お前……」


 その返事に慌てながら、それでも相棒を止めようと意思を固め、声を上げるマークス。――だが、そのマークスを、アストは怒鳴りつける。


「邪魔なんだよ! これからワラワラと敵が押し寄せてくるってのに、足手まといなんざ要らねえ! 一人の方がまだ勝算があるって言ってんだ!」


 その言葉に、マークスは反射的に言葉を返そうとして、最後の「勝算」という言葉に引っかかりを覚え。、――しばらくした後に、静かに問いかける。


「一人でいた方が、勝算はあると、そう言うんだな」

「ああ。だからテメェは、とっとと降りて、どっかに行きやがれ。……馬だろうが物資だろうが、今ならまだ手配できるだろうが」


 アストの答えに、マークスは少しの間、考えを巡らせ。……やがて考えがまとまったのか、ロード・トレイルを減速し始める。


「――わかった。死ぬなよ」

「そう簡単にくたばってたまるかよ」


 二人はそんな言葉を交わし。やがて、無人の道の上でロード・トレイルは停止し。降りるマークスと入れ替わるようにアストは操縦席へと座り。――再び走り出すロード・トレイルを、マークスは黙って見送った。



「……で、ここから一番近い街はどっちさ」


 ロード・トレイルが視界から見えなくなって、しばらくして。マークスは周りを見渡し、やや離れたところに、ささやかな建物の集まりを見つけ、一人歩き始める。


「確かにまあ、今ならまだ、必要な物を手配する事は可能だけどさ。だからってこんなところで降ろされるのは想定外だなぁ。――好き勝手してくれるさ」


 一人、文句の言葉を口にしながら。だが、その言葉からは怒りのような負の感情は一切見られないままに。マークスはいっそ陽気な足取りで、それでもどこか覚悟を決めたかのように、歩を進める。


「まあ、俺っちも好き勝手にさせてもらうさ。――なぁに、相棒(アスト)も自分勝手なことは自覚してる。文句は言わせないさ」


 誰にともなく言葉を語るマークス。相棒がなぜここで自分を降ろしたかを理解しながら。――それでもなお、自分がどういう行動を取ろうが、相棒は文句を言わないだろう、そう確信をしながら。



「……あの野郎、絶対ぇ何かするつもりだろう」


 左腕で操縦桿を操作しながら、アストはぼやく。あの野郎、まさかあんな言葉を鵜呑みにした訳でもないだろう。確かにあんな、巨大な砲をぶん回すような筋肉隆々な奴だが、その見かけとは裏腹に頭を働かせる奴だし、何より、何も考えずにこっちの言うことを聞くタマでもねぇ。――もっとも、近くにいたんじゃ何もできねえってのも本当だったがと、アストは懐に忍ばせたままの奥の手、「魔封魔弾セイント・ブラッド」へと意識を向ける。

 辺り一帯の魔法を無差別(・・・)に封じてしまうこの奥の手を使うためには、独りでいた方が色々と都合が良い、それも、紛れもない事実だったのだ。

 そこまで考えて、アストはバカバカしそうに、それでもどこか楽しそうにつぶやく。


「――まあ、俺の知ったこっちゃねえか」


 自分は既に言いたいことを言った。やりたいこともやった。相手がどう動こうが、そりゃあ相手の勝手だ、そうアストは結論付ける。

 確かに勝算があるとは言った。奥の手を使うのに一人の方が好都合という言葉にも嘘はない。――だが、結局は力で押す以外の手が思いつかないこの状況で、勝つ見込みがそこまで高い訳もない。


 勝てば今まで通り、やりたいことをやって生きる、負ければ今までのツケを払ってくたばる。俺たちは、あの日から今までの間、ずっとそうして生きてきた。今更、相手に違う道なんざ押し付けることはできねぇよなぁと、アストは独り笑う。


――俺が好きに生きる以上、奴がどう生きようが、俺は何も言えねぇよなぁ、と。

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