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フィリ・ディーアが触れる世界  作者: 市境前12アール
第一章 先史遺跡に住む少女
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5.回想 ~ 大人を夢見る少女(上) ~

 木の上に登り、湖畔から飛び去るピーコックを見送った後。フィリは、辺りに生った果実を見渡す。


(あれはまだ早い、あれも、……、食べ頃発見!)


 枝を伝い、目的の果実に手を伸ばす。良い色、良い色、美味しそうと、手にした果実を鞄にしまいながら。ふと思いついたようにピーコックの飛び去った方向を見るフィリ。


(もう見えないや。……でも、声を出すと来るんだよね)


 ピーコックとメディーンの異常な耳の良さ。ピーコックは無意識の内に、魔法で強化した処理能力を使って、耳に入ってくる音からフィリの声を強引に拾い上げているのに対し、メディーンは元より高感度な受音装置を内蔵している。どちらも、ただの人間であるフィリには真似のできない芸当。だが、そのことをフィリは気付かないまま。


(私もいつか、同じようになれるよね!)


 フィリはそう結論付け、手にした果実を軽く叩く。聞こえてくるコンコンという音に満足するフィリ。他の果実が無いか、辺りを見回す。遠くにある果実に、あの二人のように飛ぶことが出来たら、なんて思いながら。

 事も無げにお肉を焼くピーコック。叩くことなく果実の中を「視る」メディーン。その二人に比べ、まだまだ何もできない自分。


(大丈夫! 昔に比べたら、わたしだって色々できるようになってるから!)


 そう自分を励ましながら、フィリは過去のことを思い出す。まだ何も出来なかった、数年前の自分のことを。



「りんご!」


 メディーンと机をはさんで、いつものお勉強。今日は果物を見て、名前を当てる、そんな内容。――「書き取り」みたいなお勉強と比べると、ちょっと楽しい。

 今も、メディーンが手にした果物を見て、自信満々に答えたところ。ぜったい合ってる、はず……、よし、当たり! あたりまえだね、あたりまえ! 次はなにかな~、メディーンがかごからだした果物を見る。次も当てるから!

 ……なに、あれ。食べたことないよ。えっと、みどり色で、黒い「ぎざぎざ」があって、……わかんない、でもちょっと、「うり」に、似てるかなぁ?


「まくわうり?」


 違うかなぁ、なんて思いながら、好きな果物の名前を答える。甘くておいしいんだ、あんまりご飯に出てこないけど……。たしかこんな感じだったよね? みどり色だったと思うんだ、たぶん。

 あれ、ちがう、……やっぱり。メディーンの予想通りの返事。ちょっと残念。


「……って、えっと、すいか?」


 メディーンの答えに、思わず声がでる。食べたことないよね、その果物?


「知らないよ、そんな果物!」


 文句を一言。……え? 本にのってた? 食べたことがなくてもおぼえなきゃだめ? なんで! 食べないものをおぼえて、どうするの! メディーンに少しだけ、言いかえす。


「カッカッカ」


 ……うるさいなぁ、だいじな話のとちゅうだよ! 頭上を音もなく飛ぶピーコックを軽くにらむ。


「この後の『オヤツ』、そのスイカなんじゃがな。確かに、食いもせん物を覚えてもしょうがないかも知れんなぁ。そうか、フィリは要らんのか」


 ……ちょっと言葉が出ない。どうしよう、少しだけ迷って。


「『すいか』、ちゃんとおぼえた! 食べていいでしょ!」

「カッカッカ」


 ああもう! ピーコックの、意地のわるい笑いをききながす。

 メディーンが伝えてきた「ここまで」の言葉。今日の勉強はここまで。おやつ~。すいかって、おいしいかな~!

 部屋までかけ足。引き出しから「スプーン」を取り出す。かけ足、かけ足! 小屋の横の、さっきまでいた、いつもの机にかけ戻る。「バタン!」後ろで大きく、扉がしまる音が鳴りひびく。――いっけない、あわてちゃって、つい。

 ちょっと体をすくめながら、そっと、ピーコックとメディーンの様子を見る。あきれたようすのピーコックに、とくになにも伝えてこないメディーン。よかった、二人ともおこってないみたい。

 安心して、メディーンが持ってる、お皿にのった、二つに切られた果物をながめて。机のうえに置かれるのをじっと待つ。


「いただきま~す!」


 あいさつは元気よく! そのままのいきおいで、半分に切られた「すいか」の真ん中にスプーンをつきさした。



 この頃のわたしは、まずはメディーンと、朝一番の「施設の点検」。その後「朝ごはん」を食べて「お勉強」。「お昼ごはん」を挟んで「おやつ」の時間まで、お勉強を続けて。「晩ごはん」までは遊びの時間、あとは「おやすみなさい」、そんな毎日だったかな。

 ピーコックはごはんを取ってきてくれてる、ひまで、いじわるで、えらそうな人なんて、そんな風に思ってたっけ。なんでも「ごはん」でゆるすと思ったらおおまちがいなんだから、なんて。

 それに比べると、メディーンは、わたしにいろいろ教えてくれる人だから。こう、もう少し素直に見てた気がする。メディーンの仕事、「施設の点検」とか「お掃除」とかがこう、本にのってるのと一緒で、いつも暇してるピーコックとは違う、なんて思ってたっけ。……施設の中はかってにきれいになるから、いつもの点検と、庭のお手入れくらいだったんだけど。

 あの頃のわたしは、ピーコックに「ぬしはまだ子供じゃけぇ」なんて言われるのが嫌で嫌で。とにかく「お仕事」をしたかった、そうすれば、本の中の「大人」と一緒かな、なんて、そんな風に思ってた。

 ……今だと、ピーコックもすごいって、わかるんだけどね。あの二人には、まだまだ遠いなぁ。



「ごちそうさま!」


 すいかを食べ終わって、元気よく。うん、中は甘くておいしかった! 外の皮はどうかな?、お野菜みたいだったけど。あんまり好きじゃないんだよね~、お野菜。きらいって言うと、ピーコックが火を吐くんだ。メディーンも止めないし。だからちゃんと食べるけどね。――この二人がダメって言うことには逆らえないんだ。食べたあとの種がのった皿を運ぶメディーンを眺めながら、そんなことを思う。

 ……と、今まで空をとんでたピーコックが、机の上におりてくる。


「どうじゃ、美味かったか。……聞くまでもなさそうじゃの」

「うん!」


 ピーコックのよけいな一言は聞かなかったことにして、元気よく返事。また食べたいしね!

 ……と、ピーコック、メディーンの方を見てる?


「……いまいちわからん奴じゃのう」

「そうかなぁ」


 ピーコック、メディーンと会ったの、すごく前なんだよね? なのに、今みたいなことをよく言うんだよね。


「そりゃあ、ぬしはメディーンの言うとることがわかるけぇ」

「……そうかなぁ」


 だって、メディーン、わかりやすいよ? まず、「しせつ」の仕事がいちばん。仕事中は、なにを聞いても教えてくれない。庭のおそうじ中とかなら、声をかけてもだいじょうぶ。いつなら良くて、いつならダメなのか、はっきりしてるんだけど。――ピーコックの方がぜったい、わかりにくいよね。気分でいじわるになったり、やさしくなったりするし。やさしい時のピーコック、ちょっと気味が悪いけど。


「なんじゃ、一度ぬしに聞いた『メディーンの制御論理』。儂にはさっぱりじゃが」

「ああうん、あれは、わたしにもわからないね」


 ピーコックの言葉に、そんなこともあったなぁ、なんて思い出す。一度、なんでわたしを育ててるのか、ピーコックが疑問に感じて、メディーンに聞いたことがあるんだけど。――「どないせいいうんじゃ」とばかりに上を見上げたピーコックの姿は、いまでも忘れられない。

 ……えっと、メディーンには「ゆうせんじゅんい」があって、「しせつのきのういじ」がいちばん。後は、「たんまつでばいすのだいこう」、「かんりしゃのほさ」「しせつのきょじゅうせいいじ」の順番だって。

 わたしにいろいろ教えてくれるのは「たんまつでばいすのしようほさ」、遊んでくれるのは「かんりしゃのほさ」になると。メディーンには珍しく、むずかしい言葉で説明されて。――がんばってピーコックに伝えたんだけど。


「施設はまあ、そうなんじゃろうなぁ。『機能維持』に『居住性維持』。『端末デバイス』ってなんじゃい。……知識を伝えるための装置? 端末が無いから直接伝えてる? なんでフィリと遊ぶのが『管理者の補佐』になるんじゃい。……うん? フィリの精神衛生は『管理者の補佐』に含まれると。――ああもう、さっぱりじゃ。

 ……わかったのはアレじゃな、この施設が、様々な知識を伝えるための物ということぐらいじゃな」


 そんな感じで、顔を上にむけちゃったんだよね、ピーコック。今にも火を吐きそうな感じで。――ちゃんと伝わったかなぁ、あんまり伝わってないんだよね、たぶん。


 ……その時のことを思い出して。メディーン、色んなことを知っているし、わかりやすく説明もしてくれるのに、なんであの時はうまく説明できなかったんだろう。そんなことを思う。

 不思議だよね、なんて思ってた所で、わたしと同じように、静かにしていたピーコックが声をかけてくる。


「……あ奴のことはまあええじゃろう。それより……」


 うん? それより?


「ぬしもそろそろ、『メシ』を採りに行ってみるか? そうじゃな、明日からでも。なに、メディーンも賛成しとる。これも勉強じゃて」


 ……お仕事! ほんとに!? うそじゃない?


「……なんか嬉しそうじゃな」

「もちろん! 『ひまじゃ、ひまじゃ』言ってるピーコックとは違うんだから、あたりまえ!」

「……儂も、暇なのは御免(ごめん)こうむりたいのじゃがなぁ」


 ピーコックのたわごとを背に、芝生に向かって走る。確か果物を集めるのに必要なのは「木登り」だっけ。練習しなきゃ! 庭のはじっこに生えた、いつも登る木に向かう。


「木登り、するよね!」

「……ああ。じゃが、そこまで張り切るもんかのう」


 どこか呆れた声を背に、いつもの木の前に立って、登り始める。練習、練習!


「登り慣れた木なぞ、練習にもならんじゃろう。……ああ、遊びの口実か。なるほどのぅ、悪知恵ばかりつきおるの!」


 いつもならムッとするピーコックの言葉も、今はへっちゃら、気にならない! 上へ上へと登りながら、明日のことを思う。ああ、わくわくする! ――ああ、早く明日にならないかなぁ!

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個人HPにサブコンテンツ(設定集、曲遊び)を作成しています。よろしければこちらもどうぞ。

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