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フィリ・ディーアが触れる世界  作者: 市境前12アール
第三章 人の生きる世界と歩く道
26/96

1.新たな住み家(上)

(もうそろそろ、地面に降りるのかな?)


 窓の外を眺めながら、近づいてきた地面に、ぼんやりと、そんなことを考えるフィリ。


 中央山脈地域の外れ、脱線した特別貨物車両の近くから、共和国の小型輸送機で移動するのも既に二日目。最初は、空から見る、遺跡の周りとはまた違った風景を楽しんだり、初めて入る宿の、その部屋の作りや、置かれた家具に好奇心を刺激されたりもしたが、それも一日目までのこと。

 二日目も、最初のうちは初めて見る海の風景に心を躍らせたりもしたが、それもつかの間。やがて、変化の無い空の旅に、暇を持て余し始め。ただ座って時を待つだけの旅路に、つい口から「退屈だなぁ」という言葉が出てしまうような、そんな代わり映えのしない、空の旅。

 ……たまたま、その言葉が、ピーコックの「退屈じゃのぉ」という言葉と重なり、隣に座っていたプリムの笑いを誘ったりしたりもしたが。基本的には穏やかな、フィリにとっては退屈な時間が、延々と続く。


(確か、次に降りる場所が、わたしたちの新しい「家」なんだよね)


 二日目からは、一緒に乗っていたヒトたちと別の飛行機に乗り換えて、今はプリムとフィリたちの四人だけの旅。そっちの方が落ちつくけど、たいくつかなあなんて、そんなことを思いながら、フィリは、隣で静かに手帳を見るプリムをちらっと見る。

 えっと、まずは、わたしたちが住む場所を教えてもらって。色々な規則とかも覚えて、あとは……そんな、飛行機の中でプリムから聞いたこれからのことを思い浮かべ、降りた後へと想いを馳せるフィリ。


 やがて、さらに高度を下げた飛行機は、その車輪を滑走路に触れさせ、重量を預ける。そして、徐々に速度を落とし、滑走路の中ほどで停止する。ようやく着いたと、飛行機から滑走路に出たフィリは、こわばった身体をほぐすように、身体を捻り始める。


――これが、フィリにとっての初めて「外の世界」、共和国首都旧都区域「マイニング」へと降り立った瞬間だった。



「あれ? えーっと、今日はここに泊まるの?」

「泊まる、じゃなくて住む、だね。ここが、これから嬢ちゃんの住み家になるのさ」


 飛行機から出て、うんと背を伸ばしながら、隣のプリムお姉さんに質問する。返ってきた返事に、軽く首を傾げる。うん、確かに地面に降りてくる前までは、ここに住むって、そう思ったんだけど。だけど、えっと……


「こりゃまた、随分と大きな家じゃのう。フィリにはもっと小さい家と、そうじゃな、木登りできる木があれば、それで十分じゃと思うんだが」


 ……そう、ちょっと大きくないかなぁ、この家。昨日泊まった「宿」って建物に似てると思うんだ。ここに「住む」っていわれても。……あと、ピーコック? 何? 木登りできる木って!? ちょっと余計じゃないかな!?

 そんなことを思いながらピーコックを睨んでたら、プリムお姉さんの笑い交じりの視線に気付いて。慌てて表情を取り繕う。いけない、いけない、また笑われるところだった。


「そりゃまあ、訓練場宿舎だからね。百人くらいまでなら泊まれるように出来ているさ」


 まったく、いつもいつも、ピーコックはって、……百人? えっと、そんなにもここ、ヒトがいるの? 大丈夫かな。そんなことを思いながら、「カッソウロ」の先、ちょっと離れた所にある、大きな建物を見る。

 ……ここからだと小さくみえるけど、うん、やっぱり大きい。今まで住んでた遺跡の「施設」と比べてもさらに大きい、けど高さはそれほどでも無いかななんて、そんなことを考えて。――まあ、私の住んでた小屋よりは間違いなく大きいよね。


「ああ、実際に百人も住んでる訳じゃない。今の所は嬢ちゃんたちとアタイらだけだ。まあ、すぐに十人くらい追加になるけどね」


 プリムお姉さんの言葉にちょっとだけホッとする。そっか、今よりも少し増えるだけなんだ。良かった。あの男の子みたいに、ちらちらとコッチを見てくるようなヒト、居ないといいなぁ。


「まあ、儂らは、危害さえ与えられなければ、誰と一緒でも構わんのじゃが。当然、部屋は別なんじゃろうな」

「勿論。士官用の、それなりの部屋を準備してるよ」


 シカンヨウの部屋? どんな部屋だろ? けど、そっか、あの建物の中に、部屋が一杯あるんだ。


「フィリにはまあ、あれじゃな、そんな立派な部屋は勿体ないと思うんじゃがのぉ」

「……今まで黙ってたんだがね。あんたは、レディーに対する接し方がなっちゃいないね。こっちは、昨日の宿だって、あんな粗末な部屋で申し訳ないと思ってるんだけどね」


 ピーコックの、いつもの余計な言葉に、プリムお姉さんが言い返してくれる。そうそう、もっと言って! ……けど、あれ? 昨日の部屋、別に悪くなかったと思うんだけどなぁ。そう思ったところで、やれやれと言いたげな感じで、ピーコックが、お姉さんに一言。


「そりゃあ、間違いなく、お前さんの気の回しすぎじゃて」


 ……やっぱりピーコック、一言余計!



 そうして、飛行機から降りたわたしたちは、その「クンレンヨウシュクシャ」まで歩いて。やっぱり大きいなあなんて思いながら、プリムお姉さんの後について、その建物の門をくぐって、その先にある入り口の手前で右に曲がってって、……あれ?


「ああ、その二人も居るしね、とりあえず、当分の間は庭から出入りしてもらうことになるだろうさ」


 ……えっと、プリムお姉さんが言うには、あの入り口は、他の人も使う入り口なんだけど、ピーコックとメディーンが使うには、あんまり向いていないみたい。わたしたちは、外から直接、部屋に入った方がいいんだって。そんなことを説明してもらいながら、大きな建物と、並ぶように植えられた木の間を通る道を歩く。

 建物の白い壁は遺跡の施設や小屋と少し似てる、けど、違う感じもするかなぁと、そんなことを思ってると、隣をズシン、ズシンと歩いていたメディーンが、顔を光らせて。

 えっと、セッカイを使ったセメント? 人工石? それを積み上げて建てられてる? そう教えてくれる。


「良くわかったねぇ。メディーンかい?」


 前を歩いていたプリムお姉さんに、そんなことを聞かれる。いけない、声に出ちゃった! ちょっと恥ずかしい気持ちになりながら、うん、教えてくれたと慌てて返事をする。


「かっかっか」


 ……ほんと、うるさいなぁ。後ろをヒョコヒョコと歩くピーコックに、そんなことを思う。

 けど、ピーコック、そんなに歩くの慣れてないよね、大丈夫かなぁなんて思ったところで、プリムお姉さんが、建物の方へと歩く向きを変えて……


「嬢ちゃんたちの部屋はここだね」


 ……そんな声と共に、一つの扉の前で立ち止まる。



 部屋に入ろうとして、扉から少し離れたところで立ち止まったメディーンとピーコックに気付いて。メディーン、言葉を伝えてきている? えっと、これ、プリムお姉さんに伝えればいいのかな?


「メディーンがね、ここで待ってるって。……強度に問題があるって」

「うん? ああ、一応補強してあるんだけどね」

「えっと、短い時間なら問題ないって言ってるけど……」

「つまり、長い時間はダメと。……それだと、メディーンはこれから先も、この部屋に入れないことになるが、それでいいのかい?」

「んと、大丈夫だって」


 プリムお姉さんがメディーンに話しかけて。メディーンの言葉をわたしがプリムお姉さんに伝えて。そうして、会話が終わったと思ったら、今度はピーコックがその場に伏せこんで……


「儂も、ちょっとここで休んでようかの」


 ……別に、ここで休まなくても、なんて思った所で。同じことを思ったのかな、プリムお姉さんが、今度はピーコックと話し始める。


「……部屋の中で休んだらどうだい?」

「かっかっ、儂はヒトとは違うからのぉ。こっちの方が落ち着くわい」


 まあ、いつもピーコックは外で寝てたから、別に構わないんだろうけど。そんなことを思いながら、二人の会話を聞いて。

 結局、メディーンとピーコックの二人は外で待つことになって。プリムお姉さんと二人で、これからわたしが住む部屋に入る。



 扉を開けて、まずはプリムお姉さんが部屋に入って。その後ろについて、わたしも部屋の中に入る。そして、これから住む部屋を見渡して。……予想とは違う部屋に、少しだけポカンとする。


「まずは、ここが応接間だね」


 ……広い! それに、部屋の中なのに、机と椅子がある! 驚いたまま、部屋を見渡す。

 部屋の真ん中に、四本足の、ちょっと背が低い椅子と机が置いてあって。左手の壁ぎわには、わたしの身長よりも高い、おおきな棚。あと、その隣に扉があって。正面の方にも扉が……って、あれ、この部屋、扉が三つもある?

 いま入ってきた、外から出入りするための扉に、奥の扉に、あと左手の壁にある扉。……えっと、一つは、建物の中からこの部屋に入ってくるための扉だよね。じゃあ、他の扉は? そう思ったところで、プリムお姉さんが、左手の扉の方に行って……


「こっちが、私室になるね。さらに向こうは寝室」


 左手の扉の奥は私室って言って、わたしたち専用の部屋があるんだって。……この応接間も、わたちたちの部屋なんだよねって聞いたら、ここはお客さんが来た時に招きいれる部屋でもあるんだって。そっか、他のヒトが来ることもあるのかぁと、そんなことに初めて気づく。

 その私室は、応接間よりは少し狭い感じがする部屋で。……でもやっぱり、わたしが遺跡で住んでいた「小屋」よりは大きくて。

 壁際には、わたしの身長よりも高い、大きな引き出しが二つ。その横に、あれは多分、衣かけかな。あと、壁際に、さっきの部屋よりも小さな机と木でできた椅子が一つだけ置かれていて。


「この衣装櫃(ドレッサー)は自由に使ってくれていい。この衣かけもね。見たところ、あまり衣服の類を持っていないようだから、後で買いに行こうか。そんな、異国の正装めいた姿じゃあ、目立ってしょうがないさ」


 そんなことを言いながら、さらに奥の方にあった扉の方に歩いていくプリムお姉さん。……えっと、まだ部屋があるの?


「ここが寝室だね。まあここは寝るだけの部屋だと思ってくれればいい」


 そう言いながらプリムお姉さんが案内してくれた部屋は、うん、ここが一番、遺跡の、わたしの住んでいた小屋に近いかな。

 寝台があって、引き出しがあって。広さも同じくらいで。よかった、この部屋なら落ち着きそうなんて、胸を撫で下ろす。

 あとは、入口の近くにあるトイレとか、お風呂とかのことを聞いて。トイレ、昨日の宿でも思ったんだけと、外の世界のトイレってみんなこんな感じなのかなぁ。これだけは、遺跡のトイレの方が良かったなぁなんて思いながら、プリムお姉さんの説明を聞く。

 晩ごはんの時間にもう一回来るから、それまではくつろいでななんて、そんな言葉で説明が終わって。プリムお姉さんが部屋から出る。


――誰も居なくなった応接間に、ぽつんと一人。話し声のない、静かな部屋で、布が張られた、見慣れない椅子に座る。


 うわぁ、何この椅子、お布団(キルト)よりも柔らかい! 机もピカピカだぁ! なんでこんなにピカピカなの? 普通の木だよね、これ! あと、あの棚! 綺麗なお皿やコップがいっぱい! 


「おおーぃ! 部屋はどうじゃ? 大丈夫そうかのう?」


 外から聞こえるピーコックの声にはっとする。いけない、ピーコックとメディーンのこと、忘れてた!

 ちょっと浮かれていたかな、なんて思いながら、大きな声で、あわててピーコックに返事をする。


「大丈夫だよ! びっくりするくらい広いよ!」

「落ち着けそうかのぉ」


 わたしの答えに、すぐにそんなことを聞いてくるピーコック。落ち着ける、かぁ。どうかなぁ? 少し考えて。……机はきれいだし、椅子はやわらかいし、きっとお布団(キルト)も気持ちいいと思うんだけど。「落ち着けるか?」と聞かれるとどうかな、なんて考えて。ピーコックへ返事をする。


「ちょっと広すぎるかも!」

「かっかっか、やはりフィリには『勿体ない』部屋じゃったか」


 そのピーコックの言葉に、一瞬だけ考えて。飛行機から降りたすぐあとに、「そんな立派な部屋は勿体ない」なんて言われたことを思い出して。……ああもう、ピーコック、飛べなくなってもピーコックだよ、もう!


 なんでいつも、一言多いかな!

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個人HPにサブコンテンツ(設定集、曲遊び)を作成しています。よろしければこちらもどうぞ。

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