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フィリ・ディーアが触れる世界  作者: 市境前12アール
閑章 彼方の刻から振り返る
23/96

忘れ去られた刻の目撃者を求めて

基本的には、本編ストーリーとは関係のない、設定等の説明回です。興味のない方は流し見でも問題ありません。


注:途中、前作「バード王子の独立記」からのネタを含んでいます。(本文中、「注」の箇所)

「……と、ここまでが、修理されたアクセス端末が人の手に渡ることになった経緯だな。確か、場所もこのあたりだと思うが」

『それって、特別貨物車両? それとも戦場の方?』

「戦場の方だな」

『よく、そんな場所が残ってたね? 正確な地図があった訳でもないのに』

「メディーンの残した座標データを、後日、地図と照らし合わせたそうだが」

『……なるほど。すごく正確そうだね、それ』


 人里を離れ、道なき道を進む旅人と(あいぼう)。完全に人気が無いからだろうか、片や相棒にしゃべりかけるのに声を上げ、片や相棒に言葉を伝える度に怪しげな光を放つ。

 誰にも気づかれずに頭の中で会話できるのに、あえてそうしないのは、その方が楽だからなのだろう。――はたから見れば怪しいことこの上ないのだが。


「……目的の遺跡は、まだ先だったか?」

『あと千キロくらいあるね』

「……遠いな」


 何となく残りの距離を聞いてきた旅人に、軽く返事をする(あいぼう)。その、想像以上の距離に、思わず、ため息交じりにつぶやく旅人。

 もっとも、途中で野宿を挟んで、既に一日以上歩いているのだ。ため息まじりになるのも、しょうがないところもあるのだが。


 旅人は、遥か先の目的地に向かい、歩き続ける。



――資料があるなら、作れない?――


『そういえばさ』

「うん?」

『あの悪党二人の使ってた武器、国に資料があったんだよね』

「ああ」

『じゃあさ、その資料を使って、国は生産できなかったの? 別に量産できなくても、相当強い武器だと思うんだけど』

「ああ、それな。共和国がその武器の資料を入手することが出来るタイミングは二回あった訳だが」


「まずは軍の要求仕様に対し、研究所が、実際の性能を記した書類を提出した時だな」

『そう! その資料に、原理とか、書かれてなかったの? だって、十年前なんでしょ? 例え製法とかが書かれてなくても、実現できるとわかれば国だって研究するだろうし、それだけの時間があって、ヒントがあれば、作れないことも無いと思うんだけど』

「まあ、実のところ、国はそこまでの威力があるとは思ってなかったというのもある。だがな……」

『えー、そんな筈ないって、……だが?』

「その中核技術の方が問題でな。まず、シュバルアームの方は火薬だな。……共和国国内はな、火薬の研究は殆どされていなかった」

『ふむふむ』

「そして、研究所から提出された資料には、火薬の原材料が載っていたんだが」

『……材料が載ってたら、作れない?』

「残念ながら。その材料に、硫黄が載ってなかったんだ」

『……えっと、よくわからないんだけど』

「つまり、研究所の出した火薬の原材料は、ニトロセルロースを主体としたもの。……要するに、『無煙火薬』の原材料だったんだ」


『……それだとダメなの?』

「黒色火薬にしろ、無煙火薬にしろ、本来であれば硫黄は必要だ。黒色火薬の場合はそのまま使うし、無煙火薬の場合はセルロースをニトロ化する際の触媒となる硫酸の生産に必要だ。だがな、魔法というのは触媒の代わりになる技術でもある」

『えっと、つまり?』

「研究所はな、原材料となるセルロースと硝石から、ニトロセルロースを直接生産する、そんな魔法式を開発したんだ。そして共和国は、その魔法式を開発できなかったと、そういう訳だ」

『……』

「元々、共和国は魔法の開発能力は高くない。その上、新しい化学変化が組み込まれた魔法式を開発するには、一つの条件がある。……魔素を使って、物質の構造を見ることが出来る能力、血統魔法『解析(アナライズ)』が無くては、作り出すことは出来ない」

『……つまり?』

「研究所で、その魔法式を開発したのは、当時研究員だったアスト・イストレ。そして、研究結果だけタダで明け渡すわけにはいかないのだから、当然、中核技術は隠す。結果として、その魔法式を知るのはアストだけと、そういう訳だな」


『……ちょっと気になることがあるんだけど、それは後で聞くね? もう一つの武器の方は?』


「アンティアエリアン・アーティレリか。あれはそもそも、軍としてはあまり意味の無い兵器だな」

『……えっと、なんで? 無茶苦茶強かったと思うんだけど』

「武器としてはな、単に三連発で砲撃を放つだけの武器だ。砲が三門あれば、それと同じことができる」

『……そりゃそうだけど』

「そして、一発目で弾道を見て、補正して、二発目からは百発百中。これは砲の性能じゃない。マークス・サショットという男の特殊能力だ」

『……』

「マークスの弾道補正と命中率を支えているもの、これも魔法だな。身体強化を応用した魔法を使って、脳の計算能力を魔法で無理矢理上げている。だからこそ、あの砲には意味がある。その魔法がなければ、あれはただの三連砲なんだ」

『じゃあ、その武器を生かそうと思ったら』

「その魔法を使えるようにならなくてはいけない。『加速演算』、それがあの研究所が付けた名前だ」

『そして、研究所はその習得方法まで開発していた?』

「当然だな。そして、それは中核技術として秘匿された訳だ」


「そして、国がその技術を知る二回目の機会、研究所を国が接収するタイミングだが」

『……その技術を知る研究者が二人とも敵に回ったって訳だね』

「……よくわかったな」

『わかるよ! それくらい! ……でも、なにか資料とかは無かった訳?』

「さてな。俺にもその辺りはわからない。だがまあ、あったとしても……」

『しても?』

「研究の中心人物は、国家に反旗を翻したようなものだ。すんなりと渡そうとは思わないだろうな」

『まあ、そうなんだろうね』



――じゃあ、アストって(注)――


『さっきの話で少し気になったんだけど』

「うん?」

『血統魔法の解析、これってさ、確か、王国の王族が使える魔法なんだよね。この前の話のバード君とか。……普通の人もつかえるの?』

「いや、王族の血を引いていないと使えないのはその頃から変わらない。だがな」

『だが?』

「ちょうどそのバード王子の頃、王家の血を引く人間が量産されてな」

『量産って……、言い方が……』

「……そうだな、だが、市井に三十人も産ませれば、他の言い方は難しいだろう」

『……そういえばいたっけ。酒好き、女好き、仕事嫌いで、誰からも相手されなかった人。……ジャーニーもあの人のこと、全然話さないね?』

「相手にする理由がないからな」

『……相手にしない人がここにも!』

「当時の情勢だ、あんな人間の後始末など後回しにされるだろう。……何せ、役人の約半数がある日突然退職するという大事件が起きたんだからな」

『……相手にしてないことを否定しないよ!』

「子作りしか能がないなら、その結果以外に話すことはないと思うが」

『……冷淡だね』

「ああいった輩は嫌いだからな、俺は。……普通だと思うが?」

『まあ、そうだね』

「話を戻すが。飛行機が開発されて、世界が狭まった。過去の王族の権威に傷がついた。市井に大量の私生児が産み落とされて、政府の処理能力が激減した。これだけ条件が整えば、貴い血だって世間に広がるさ」

『……なるほど。ありがちな話だね』

「うん?」

『ほら、無名の一般人が成り上がった時、よく、実は〇〇の末裔だったとか言ったりしない? それと同じかなぁって』

「……そんなにありがちか?」

『ありがちだよ! 特にこう、物語の主人公とかさ!』

「……それは、どちらかと言うと、『ありがちな話』ではないだろうか?」

『うん? だから、ありがちな話だよね?』

「……まあいいが。もう一度話を戻すと」

『あれ? まだ話が続くの?』

「少しだけな。そうやって一旦は市井に落ちた血だが、王国の混乱が収まった頃に、研究者候補として優遇する政策が取られる。まあ、特殊能力が開花すれば、優秀な研究者になれる可能性が高いからな。たとえ開花しなくても、高度な学問は、けっして本人たちの無駄にはならないだろう。――同時に、王国政府は、彼らに王族としての地位を認めようとはしなかった。どこまでも『平民として』彼らを優遇した訳だ」

『……それで納得するの?』

「するだろうさ。どうやっても得られない地位に執着するよりも、確実に得られる優遇を選んだ方が有利だからな。そうして、徐々に、血統から能力へと優遇措置をシフトしていく。そうやって、自分たちが独占していた『才能』が他国に広がるのを遅らせた(・・・・)と、まあ、そんな話だ。……この頃は、ちょうどそのこぼれ落ちた才能が、広がり始めた頃だな」

『……つまり、才能のある普通の人として、認められてた?』

「王国ではな。他国に流れた者はどうだろうな」

『……王国に行けばいいのに』

「そこは、色々あるだろうさ。150年も経てば、新しく移り住んだ地を祖国と定めた人もいるだろう。何より……」

『何より?』

「王国で優遇されてることを知らなければ、どうしようもない。当時は、今ほど情報に満ちた時代でも無かったからな」

『……今はいい時代だね』

「当たり前のことを知ることが出来るからな。先に情報があって、そこを訪れることが出来るのは、幸せなんだろうな。……例え、あと千キロ歩こうとも、な」

『……なにか、含んでる?』

「いや、遠いだろう、この距離は」



――森の中で、馬?――


『話は変わるけど』

「なんだ?」

『森の中で馬って、役に立つの? 馬って、草原っていうイメージがあるけど』

「さあな」

『……さあなって』

「まあ、見晴らしの良い場所なら、十分に走れるとは思うが。あと、森の中でも、全力疾走は難しいが、荷を運ぶこと位はできるだろう」

『木の根っこに躓いたりしない?』

「……それは、たとえ草原でも、躓く奴は躓くと思うが」

『馬って躓くの?』

「『千里の馬も蹴躓(つまづ)く』という言葉がある位だ。躓くんじゃないか?」

『……なおさら、森の中は厳しくない?』

「歩きやすい所を通れば、歩く分には問題ないんじゃないか? 今となっては疾走するイメージが先行しているが、車がない時代だと、むしろ荷物を牽引する方が多かったと思うぞ。森の中で切り倒した木材を運んだりとかな。森の中だから全く役に立たない訳じゃないと思うが。……まあ、森にもよるのだろうが」

『……なるほどね』



――飛行機があるのに前人未到?――


『あとさ、この辺りが前人未到の地って、なんで? 開拓すれば、普通に人が住めそうだけど』

「そうだな。まずこの辺りは中央山脈と言われる天険の地だ。四方を峻険な山々や渓谷に囲まれている。陸路で道を作るためには、その山々や渓谷に道を通さなければいけなかった。この地にたどり着くまでが、まず困難だと思うが」

『でもでも、飛行機とかあるし。だったら、地形とか関係なく、ひとっ飛びじゃない?』

「……航空機による輸送だと、どうしても限界はあるからな。街をつくるだけの物資を運ぶのは、並大抵のことではないだろうな」

『なるほど。……あとね?』

「別に俺は、何でも知ってる訳じゃないんだがな」

『そう言わずに。飛行機でも超えることが出来ないような山々って言ってたけど。どの位の高さなの?』

「ああ、五千メートルを超える山々だな。……実の所、超えれない訳じゃないが」

『そうなの?』

「まあな。中の人間が無事で済まないだけで」

『……それは超えられるっていうの?』

「ちゃんと対策すればな。気圧と空気の濃度、あと気温、その辺りをクリアすれば何とかなるんだろうがな。当時の技術では、まだ無理だったと、そういう話だな」

『……なかなか簡単には、自然に打ち勝てないんだね』

「……お前は、自然に喧嘩を売っている存在のような気がするがな」

『えー、だって、自分一人では移動できないし。結構不自由だと思うけど』

「そうは言うがお前、そもそも年を取らないだろうしな」

『……それは、可愛い子はみんなそうだよ! 永遠の十代!』

「トイレにも行かなくてよさそうだしな」

『……なんで急にそんな下ネタを』

「いや、そりゃ不思議だろう。年を取らず、トイレにも行かないと主張する女性。年齢はな、まだ説明が付く。ピーコックという実例もあるしな。……だが、トイレはどうやっても説明が付かないと、そう思わないか?」

『……えっと』

「せめて、そういう事を言う女性が何も食べずに生きていけるような存在なら、まだ説明が付く。お前みたいにな。だから、お前がそう言う存在だということを疑ってる訳ではない。問題は、明らかに人間なのに、そう主張する摩訶不思議な存在だ。……彼女たちがどうやって自然に打ち勝っているか、興味無いか?」

『無いよ、そんなの!』

「だが、えてしてそう言う女性は、綺麗好きでもあるんだ。そう考えると、やはり、何らかの手段で自然に打ち勝っていると考えるのが自然だろう。単にトイレに行かないだけなら、不潔きわまり……」

『……えい!』

「ぐあ!」

『ちょっと慣れない電撃魔法、使ってみたよ。……ちょっと黙ってくれないかなぁ。デリカシー、無さすぎだよ』

「……悪かった。別にお前がどうという訳じゃないんだが」

『いや、そういうことじゃなくてね?』

「だが俺は、別にお前が、風呂に入らない存在だからといって、不潔だと……」

『……えい!』



『あと何日くらいかかるかなぁ』

「普通に考えると、まあ、一月くらいかかると思うが」

『遅!』

「……いや、森の中を歩いてると考えれば、相当早いと思うが」


 そんな会話をしながら、果てしない距離をただ歩き続ける旅人と(あいぼう)。二人が目指す遥か遠くに地に向かい、ゆっくりと進み続けていた。


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個人HPにサブコンテンツ(設定集、曲遊び)を作成しています。よろしければこちらもどうぞ。

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