七話『服を買おう』
◇◆◇◆
「ここがウェスタヴェーラですか」
運よく馬車を捕まえることが出来、一週間程度で目的地のウェスタヴェーラにつくことが出来た。
「随分と賑やかだね」
街の様子に心踊らせる二人とは対照的に、俺はグロッキーだった。
「あー、腰いってぇ」
馬車の乗り心地悪すぎたために、俺の腰は悲鳴を上げていた。
「とりあえず、ギルドに行きましょうか、そろそろ路銀が心許ないですし」
財布の中身を確認しながらそう言うアル。
「あ、俺ギルド使えなくね? 顔知られちゃったし」
「大丈夫ですよ、ギルドには犯罪者や盗賊からの流れ者も多いですし、元々身分が照明できない人の稼ぎ口のようなものですから、ユウリさんの事が露呈する心配はないです」
ギルドのセキュリティ甘々かよ。今はありがたいけど、そんなんで大丈夫なのかね?
個人情報とか結構大事だよ。
「ユウリ君、ギルドはどの辺にあるかな?」
背伸びをしたりしながら、固まった腰をほぐしているとヘルクスがそう尋ねてくる。
「いや、俺に聞かれてもな」
初めて来る街なのに、知ってる筈がない。
「何言ってるんですか? この辺の出身なら知ってるでしょ?」
……あ、そういう事にしてたの忘れてた。
「あ、いやほら、大分昔の事だったから、覚えてないっつーか、忘れちまったっつーか」
口から出任せで適当に誤魔化す。
「まぁ、そこの人にでも聞けばわかることでしょう」
「そうだな、あ、すいませーん」
たまたま近くを通りかかったローブを羽織った老人と、その隣に立っている女性に声をかける。
「はい、なんでしょうか?」
ローブの老人隣に立っている女性が、微笑みながらそう返事する。
「ギルドってどこにありますか?」
「それでしたら、この通りを真っ直ぐ行けばありますよ」
親切に簡単な地図まで書いて渡してくれる女性。
「ありがとうございます」
お礼を言って地図を受け取り、それを頼りにギルドへ向かう。
◇◆◇◆
「……うーむ」
ユウリ達の後ろ姿を、眉間にシワを寄せてじっと見つめるローブを羽織り長い髭を蓄えた白髪の老人。
「どうされましたか老師様」
その隣に立つ女性が、不思議に思ったのかその老人に尋ねる。
「いや、今の金髪の美女なんじゃが」
「ああ、あの変……珍しい服の方ですか?」
「うむ……あいつ、ワシより強くねー?」
「まさか、終焉級にも到達した国最高と謳われる老師様より強い魔導師など居る筈もございません」
女性はありえないといった風に鼻で笑い、そう言う。
「うーむ、そうかのぉ……?」
「ボケるのはまだ待ってくださいよ」
「失礼な奴じゃのぅ」
◇◆◇◆
「アルー、ヘルクスが良いクエスト見つけたから受けないかって呼んでるぜー」
地図のお陰でさして迷うこともなくギルドにたどり着く事が出来た後、各自で別れて手頃なクエスト探してうろうろしていると、ヘルクスが良いクエストを見つけたからアルを呼んできてくれと言うのでアル所に向かった。
「何見てんだ?」
壁に貼られた用紙をじっと見つめていたのが気になり、アルにそう尋ねる。
「賞金首のリストですよ」
そう言って壁に張り出されている手配書を指差す。
「なになに、終焉の魔女? なんかエロいな」
賞金は……一、十、百、千、万、十万、百万……千万……一……十億!?
「十億って、相当危ない奴ってことだよな」
終焉の魔女なんてなんかエロい名前なのに、かなりヤバイ奴だったのか。
「ユウリさん、特徴見てください」
「特徴?」
金髪に特徴的な黒い服を着ており、終焉級魔法を操る男装をした女魔導師?
あれ? おかしいな、全部の特徴が一致してるぞ。
「なぁアル、これってひょっとして」
「ユウリさんの事ですね。しかもアライブオンリーですし、生け捕りにして処刑する気満々ですね」
爽やかな笑みを浮かべてそう言うアル。守りたいこの笑顔。
「オーマイガー……」
終焉の魔女って、いや、確かに終焉級魔法は使ったよ。使ったけどさ、いくらなんでも魔女って程じゃないだろう。
「良かったじゃないですか、顔と名前は割れてなくて」
「確かにそうだけどさ」
顔も名前も知られていないなら、終焉級さえ使わなけりゃ、滅多な事でバレたりはないだろうから、今まで通りの生活が出来そうだ。
「あと、その目立つ服も変えないといけませんね」
俺の着ている制服を指差してそう言うアル。
「唯一の思い出を捨てるのか」
この服は目立つかもしれないが、俺の転生前の唯一の思い出の品を手放すのは嫌だ。
「捨てろとまでは言いませんが、もう少し普通の格好をしてください」
「普通の格好ね……」
普通の格好は俺にとって女装ってことになるんですが。
背流石に女装はしたくない……といっても、手配書でてるし背に腹は変えられないか。
「この際スカート以外は妥協するか」
「……男装に何かこだわりでもあるんですか?」
こだわってるというか、単に女装したくないだけだ。
「ま、アイデンティティーみたいなもんかな、それよりもヘルクスが呼ん出たから戻ろうぜ」
「ああ、はい」
アルと一緒にヘルクスの所に戻ると、彼は一枚の用紙をテーブルの上に置いた。
「これなんてどうかな?」
「新しく出現したダンジョンの探索ですか……いいんじゃないですかね?」
アルは紙に書かれた内容に一通り目を通し、オーケーと頷く。
ダンジョンだって? ゲームで定番の財宝が隠されていたり怪物が住み着いていたりするあのダンジョンか?
流石異世界、ロマンがあるな!
「ああ、まだ手付かずらしくてね、それなら、まだお宝が多く眠っている筈だよ!」
「よし行こう、すぐ行こう!」
お宝なんて聞いちゃ、黙っちゃいないぜ!
「そうですね、でもレイド参加なのですぐに行くのは無理ですね、それに馬車で半日はかかるようですし、ダンジョンに潜るのは顔合わせして、現地に着いた翌日辺りですよ」
「レイド?」
知らない言葉に首を傾げると、いくつかのパーティで作る集団のことだとアルが説明してくれる。
一つのパーティでは達成できないであろう依頼を出す時に良く組まされるそうだ。
「明日顔合わせするみたいです、それで直ぐ出発だそうですよ」
「なんだ、じゃあ早くても明後日以降か」
まぁ、お楽しみは後にとっておくとしよう。
「そうですね、観光でもしますか」
「それなら、私は防具屋に行ってくるよ、ここの防具屋は魔法耐性が抜群に良いそうだからね! 私のにも魔法耐性を付けてもらってくるよ」
魔法耐性付けても意味あるのか?
「じゃあ、僕らは服でも買いに行きますか?」
「そーだな」
ギルドを出て二人で街をブラブラと散歩しながら、適当な服屋を見つけて店内に入る。
「いらっしゃいませ、本日はどのような品をお求めで?」
アルと一緒に店に入ると、女性の店員が出迎えてくれる。
「この人に普通の服を」
アルが俺を右手で差してそう言う。
「かしこまりました、では此方など如何でしょうか?」
そう言って店員が持ってきたのはゴスロリ調のワンピース。
ないな。ゴスロリは似合わないだろ。可愛い系ならともかく美人系には。第一、スカートは履きたくない。
「そういうのは、俺よりもこっちのアルの方が似合いそうだな」
背丈的にも、顔の造形的にもピッタリだろう。
「しばきますよ?」
「そうですね、私もそう思います」
「なん……だと……?」
アルは思わぬ女性店員さんの追撃にショックを受ける。
「俺はもっと格好いいものの方がいいんだけど」
「そんな……僕が……女の子みたい……?」
余程ショックだったのか、膝をついて立ち上がれないでいる。
別に女の子みたいな顔だとは言ってないぞー。女装が似合いそうだとは思ってるけど……あれ? 一緒か。
「格好いいですか……そうですね、それならば此方など如何でしょうか?」
そう言って持ってきたのはのは黒い革のズボンに、白いブラウスのような服。
うーむ、まだ少し女ものっぽいが、そこそこ格好いいじゃないか。
「上着は様々用意できますが、今お召しになっているものを、こちらで自然な風に仕立て直す事もできますよ」
「マジで?」
「はい、見たところ良い作りですし、捨てるのは少し勿体ないと思います」
「じゃあよろしく頼む、大事な物なんだ」
「承りました、少し時間を頂ければ直ぐに仕立て直すことも出来ますが、どうされますか?」
「どうせ暇だし今頼むよ」
学ランを脱いで店員に手渡す。
店員さんは学ランを受けとると、少々お待ち下さいと言い、店の奥に消えていく。
「暫く他の服も見て回るかな」
「そうですね、折角ですし靴も見ていかれてはどうですか?」
ようやく立ち直ったのか、アルがそう提案してくる。
「そうだな、これも大分ボロボロだしな」
長年履き続けていたスニーカーも大分ボ
ロくなっているし、異世界でスニーカーと言うのもミスマッチなので、服に合わせて靴も買い替える事にする。
「といっても、コーディネートには自信ないからな……どれが似合いそうなのかわかんねぇや」
「じゃあ、これとかどうです?」
アルがそう言って持ってきたのは黒色のブーツ。
「おお、格好いいな」
ブーツとか履いたことなかったから、少し憧れのようなものもある。
「さっきの服に似合うと思います」
「そうか? じゃあ、それにしよう」
「お待たせしました、このような感じで如何でしょうか?」
店員さんから渡された学ランは校章とボタンが取り払われ、変わりに首もとに赤いベルトが掛けられていた。他にも作りが変わったところもあるが、概ね原型を留めている。
なかなか格好いいな。
「少しサイズが大きかったので、マントのように肩に羽織って、首もとのベルトで固定していただくように変えさせていただきました」
とりあえず、勧められた服を全て身に付けてみる。
「おー、大分自然な感じになるものですね」
感心したように、拍手を送りながらそう呟くアル。
「以外と馴染むもんだな」
気に入った。これにしよう。
「これ全部でいくらくらい?」
「全部で六万レンスですね」
「六万っ……」
手持ちは四万と少し、全然足りないな。
「アル、金ないから少し貸してくれね?」
「利子トゴでいいなら」
「相変わらずの暴利子……」
「でしたら、お客様の元のお召し物をこちらで買い取らせて、その分値引きさせていただくこともできますが」
「マジ? じゃあお願いします」
「かしこまりました、ではその分値引きして五万レンスで如何でしょうか?」
くっ、値下げしても一万足りない。
「アル、一万レンス貸してください」
「はい、十日以内に返してくださいね、ギルドの登録料も早くしないと一.五倍ですよ」
そうだった。あれ、残り二日か三日位しかないんじゃね?
クエストの報酬入ったら返そう。
アルから金を借り、店員さんに代金を支払う。
「お買い上げ有難うございます」
そう言う店員さんの声を背に受けながら店を出る。
大分痛い出費ではあったが、これで賞金首として狙われる心配はなくなった。
「心おきなく観光するか、アルの奢りで」
なんせ、全財産殆ど使い切ったからな!
「奢りませんよ」
「ケチ」
「ケチらしいので、利子をトゴからヒサンにします」
「謝るからその利子は勘弁してください」
その利子はマジで笑えない。
喉いってぇ