二話『物理なんて必要ない』
「うわっ……なんですか、いきなり叫んで」
迷惑そうにそう言うローブを羽織った少年。
「あ、いや……すまん、なんでもない」
何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何が起こっているのかわからねぇ、男のはずだったのに気がついたら女になっていたんだ……なんて説明しても信じてもらえんだろうな。
俺ならまず、そいつの正気を疑うわ。
「そうですか、ところでこんなところで何をしてたんですか?」
「あー、魔王を倒す旅的なことを」
「なんだ、同業者でしたか……あ、もしかして獲物横取りしましたか?」
少し、申し訳なさそうにそう聞いてくる少年。
「あ、いや別に俺の獲物ってわけじゃないから、助けられたのは感謝してる」
「そうですか、良かったです……あ、そうだ冒険者カード見せてもらってもいいですか?」
「冒険者カード? なにそれ?」
免許証みたいなもん?
「え? 冒険者カード持ってないんですか?」
「保険証ならあるけど」
財布の中に入っとるからな。
「なんですかそれ、冒険者カードはギルドに登録してもらう身分証みたいなものですけど」
「ギルド?」
クエスト受けて、達成したらお金と素材貰えて、時たま出る緊急クエスト達成すればランクが上がってさらに難しいクエスト受けられるようになる……あのギルドか?
飯食ったり、温泉入ったりするとステータスが上がるあのギルドのことか?
「知らないんですか?」
「いやほら、なんていうか……あはは……」
なんて説明したらいいのかわからなかったので、とりあえず笑って誤魔化す。
「子供でも知ってると思うんですけど……」
「ま、まあいいじゃねーか、それよりそのギルドに登録したいんだけど、案内してくれよ」
「別に構いませんけど、まだはぐれウルフが出ないとは限りませんし、足手まといになるなら置いていきますよ?」
「大丈夫、魔法はそこそこ出来ると思うから……魔法の使い方しらんけど」
「今、すっごく矛盾したこと言いませんでした?」
「気のせいだろ」
「いや、魔法の使い方しらないって」
「全く知らんな」
「えっと……ステータス確認すれば使える魔法見れると思うんですけど」
「どうやって確認するんだ?」
「え? どうって念じればいつでも見られるじゃないですか、流石にこれ知らないのはヤバイですよ……頭は大丈夫ですか?」
「いやいや、知らないわけないじゃないか、ちょっと確認しただけだって」
なんか少年の俺を見る目が冷たくなってきたので、とりあえず話をあわせつつ、ステータス出てこいと念じる。
【来栖有利 性別:女 職業:旅人
体力:10
攻撃力:1
防御力:1
魔法耐性9999
魔力:∞】
おう、マジで出てきた。
えーと何々……いや、攻撃力防御力が1ってなんやねん。そしてよく見たら体力が赤文字なんですけど。これって瀕死ってことじゃね? 俺って瀕死デフォなの? どこぞの三刀流の海賊狩りみたいに、手負い状態が普通なの?
そして魔力が無限てなんやねん! 魔法特化とは言ったけどさ、特化させすぎだろ!
ステータスの下の方に、取得魔法一覧という項目があったのでそれをタッチして開いてみる。
【取得魔法一覧
初級:570種
中級:360種
上級:200種
最上級:120種
終焉級20種
神級:10種
禁忌魔法:53種】
わーお、使える魔法めっちゃある。終焉級とかナニソレかっけえ。よし、使ってみよう。
【終焉級魔法一覧
ミィーティーア、シディラスエクスプロージョン、セラフ・ヴァレスティ……】
やべぇ、どれもクソかっこいい。中級魔法はどんな感じなんだろ。
【中級魔法一覧
どんな攻撃も防ぐバリア、どんなバリアも切り裂くカッター、スーパーウルトラギャラクシーキャノン】
おい、矛盾してんぞ! 小学生かっ!! この魔法作った奴小学生かよっ!!
ま、まぁ、気を取り直して終焉級魔法ってのを試し撃ちしてみるかな。
「ミィーティーア!」
あれ? 出ねぇじゃん。っかしーな、発音が悪いのかな?
「みぃーてぃーあ」
出ねぇな。
「みぃーとぅいーあ!」
……あれー、おっかしーな。所得魔法一覧に載ってるから使えると思ったんだけどなー。
「あの、さっきから何言ってるんですか? 本当に頭は大丈夫ですよね?」
「いや、魔法を試してみようと思ったんだが、あまり上手くいかなくてな」
魔法を使うのに何か条件でもあるのかな?
「それは後にしてもらえますか? 早く行かないと日が暮れますよ」
「あ、ちょっと待ってくれよ。名前なんていうんだ?」
俺を置いてさっさと行こうとする少年の後を、慌てて追いかけて名前を尋ねる。
「僕ですか? アルバートですけど」
「アルバートか、アルって呼んでもいいか? あ、俺ユウリっていうんだ」
「会って間もないのに、随分と馴れ馴れしいですね、普通はもっと警戒するもんだと思うんですけど」
「そうかね?」
子供を警戒してもなぁ。
◇◆◇◆
「街が……」
アルの案内で街までたどり着いたはいいが、その街は無惨な姿だった。建物は半分以上が壊れ、街を覆っている壁も半壊している。
魔王によって攻められた後だろうか、この世界の過酷さに思わず息を飲む。
「そんな、僕が出発したときはこんな状態ではなかったのに……一体なにがあったんですか?」
アルが街の警備をしている守衛にそう尋ねる。
「いきなり隕石が降り注いできて、この有り様さ。わかってるのは、どうやら、あれは終焉級魔法らしいってことと、幸い死者も負傷者もでなかったって事くらだが、王都はこの有り様さ。ちくしょう、魔王め!」
へー、さっき俺がぶっぱなそうとした魔法も終焉魔法だったな。珍しい偶然もあるもんだ。
って、あれ? 犯人俺じゃね?
いや、きっと気のせいだろう。気のせいに違いない。気のせいだということにしよう。
「まあ、こんな有り様だが皆が頑張っているお陰で王都はなんとか機能しているんだ」
「そうですか、それは良かった。田舎から長旅をしてきてギルドに登録したかったので、安心しましたよ」
このブラックアルバイトの接客で培った営業スマイルと営業トーク術。
そしてSNSで培った相手に適当に話を合わせる技術。
ふっ、我ながら完璧だぜ。
「お、お姉さんも魔王を倒す為に来てくれたのか?」
「はい、街をこんな姿にしてしまう魔王を放っておくわけには行きませんから」
「ああ、その通りだな。あんたみたいな正義感あるやつは歓迎だぜ! あ、ギルドは街の中央にあるぜ!」
「ありがとうございます」
守衛さんに門を通してもらい街へと踏み入れ、ギルドがあるという中央を目指して歩く。
城壁に足を踏み入れると、柱、梁などの骨組みを外にむき出しにし、その間に煉瓦、土、石を充填して壁とした木造建築の家が建ち並ぶ光景を広がっていた。
といっても、その多くの建物が崩壊しており、多くの人がそれの修繕に当たっていた。
どの人も暗い表情ではなく、明るい表情を浮かべているからか、街が半壊しているというのに、ほのぼのした雰囲気になっている。
死人が出てなかったからいいか……とでもいった感じだ。
神が神だからか、この世界の人も割りと適当なのかもしれない。
「あれがギルドですよ」
しばらく歩くと、西洋の舘のような大きな建物見えてきた。あの建物は他とは違って頑丈な造りなのか、たまたま被害がなかったのかはわからないが、一部崩れていたりとか、そういったのは見当たらない。
「おー!」
荒くれ者の集まりそうないかにもって感じの所に痺れて憧れるっ!
よし早速入ろう。
「ようこそギルドへ! お食事なら空いてるテーブルに、モンスターの換金又は依頼の受け付けでしたらあちらのカウンターまで!」
ギルドの建物に入ると、忙しく動いている制服を着た女性が明るい声でそう案内してくれる。
「えっと、ギルドに登録したいんですけど」
ギルドに登録したいため、カウンターに向かい受付のお姉さんに話しかける。
「ギルドへの登録ですね、始めに登録料がかかりますがよろしいでしょうか?」
「ああ、はいはい登録料ね……登録料?」
待って、ナニソレ聞いてない。俺お金なんて持ってねーよ。
「アルさん」
「いやですけど」
「まだ何も言ってないけど!?」
「どうせお金貸してくださいって言うんでしょ?」
「失敬だな。知り合って間もない人間に借りようとするほど、落ちぶれちゃいねーぜ」
「じゃあ、なんですか?」
「お金ください」
「最っ高に落ちぶれてますね」
「お願いします、ちゃんと利子つけて返しますから!」
「はぁ、わかりましたよ……じゃあ利子はヒサンで」
「わーお、なんつー暴利子」
異世界のウシジマくんだー。
「貸してあげるだけ親切だと思いますけど。文句があるなら他を当たってください。宛てがあるならですけど」
「うぐっ……せ、せめてトゴでお願いします」
「まぁ、それでもいいですよ」
アルはそう言うと、懐から財布取りだし銀色のコインを三枚カウンターの上に置く。
「はい、確認いたしました。では、此方の誓約書にサインをお願いします」
コインを回収し、受付嬢がそう言いながら渡された一枚の紙には。
【死んでも自己責任】
そう書かれてた。随分とシンプルだな。嫌いじゃないぜ、そういうの。
ペンを借りて誓約書にサインする。
「署名がおわりましたら、ステータスを読み取って冒険者カードを作成しますので、此方の水晶に手を置いてください」
お、これはあれだな。とんでもない数値を叩き出して周りが驚くイベントだな。
なんたって俺の魔力は無限だからな。
そう思いながら水晶の上に手を置く。
すると、水晶からレーザーのような光が放たれ、その下に置いてある銅製のカードに文字を刻んでいく。
小刻みに揺れるレーザー見てると、GA○TZの人の体が再生されるシーンを連想するな。
やがてレーザーが止まると、受付のお姉さんが下に置いてあったカードを手に取り内容を確認すると驚愕の表情を浮かべた。
「なっ、魔力と魔法耐性が最大値!? すごいですよ、どちらもカンスト状態なんて!」
興奮した様子で口早にそう言うお姉さん。
ほら来た、いやー、期待の新星として華々しいデビューを飾っちゃいますかなー。
「本当にスゴいですよ、この数値! 魔法に関しては即戦力どころかエースクラスです!」
受付嬢がそう言った途端、周りがドッと盛り上がる。
「ねーちゃんスゲーな!」
「あんたみたいなのが、魔王を倒しちまうのかもな」
「期待のルーキーに乾杯!」
いやー、これだよこれ。これこそが俺の望んだ異世界だ! 異世界最高!
「あー、でもそれ以外の面は子供以下ですね」
「うぐっ」
ま、まぁ攻撃力と防御力共に一だからな。
「だ、大丈夫ですよ、これだけの魔法の才能をお持ちであれば、戦闘以外で役立たずでも欲しいパーティーは沢山ありますから!」
「こっふ……」
役立たずて……今役立たずって……。
いや、うん……事実だろうし別にいいんだけどさ。
フォローするなら、ちゃんとフォローしてほしいな。
「では、改めまして……ユウリさん、あなたを冒険者の世界へ歓迎いたします。今度、貴女が輝かしい成果を残されることを、ギルド組員一同、心より期待しております」
こうして、俺の異世界で魔王を倒す旅の第一歩が始まった。
「本当に受け取れちゃったね、四十億」
「きっと、あの子が天国から送ってくれたのよ」
「四十億をプレゼントって……ウチの兄貴は天国で石油王でもしてるのかよ」
「実際は、異世界で姉貴になって街を破壊してるんだけどね!」