表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

十七話『それはまた、急な展開だな』

 急いで浴場に向かうが、脱衣所の手前に黒こげになって横たわっている男子生徒を見つけて、すでに遅かったということを悟る。


「くっ、すでに女子は皆上がってしまったか」


 惜しくも楽園をあと一歩のところで、夢半ばに朽ち果てた男子生徒達の安らかな成仏を祈りつつ、期待していた分、至福の光景を見逃したという大きなショックを抱えながら脱衣所に入る。


 脱衣所の中にはすでに誰も居なかった。もしかしたら、まだ上がって居ないかもしれないと淡い期待を抱いていたが、そんな風前の灯火のような希望は無情にも打ち砕かれた。


「居ないなら居ないで何も気にせずゆっくりと入れるし、今は疲れを取りたいから、そっちの方がありがたいんだけど……惜しい事したなぁ」


 そう呟きながら着ている服に手をかける。

 悲しいぜ、女子の入浴を見れる絶好のチャンスだってのに、見れない方が今は好都合だなんて。


「うおおわっ! ビックリした!」


 そんな事を考えながら一枚一枚服を脱いでいると、ふと脱衣所の隅で待機している侍女と目が合い、心臓が口から飛び出るかと思うほどに驚いた。 


「私は皆様の入浴の間にお召し物をお取り替えさせて頂く為に待機しております」


 表情を崩さず、淡々とそう言う侍女。


「あ、そうなの? じゃあこれらお願いしてもいいのかな?」


 自分の脱いだ服を指差してそう尋ねる。


「はい、どうぞそのまま入浴を堪能してくださいませ」


「あ、うん、ありがとう」


 そうお礼を言い、服をすべて脱いで全裸になる。

 その間もずっと此方を見つめ続けてくる侍女。

 そんなマジマジと見られると、こっちが恥ずかしくなってくる。


「どうかされましたか? お顔が赤いようですが」


「い、いや、なんでもない」


 恥ずかしさにその場に居られなくなり、たまらず浴場の方に逃げだす。

 流石、王族が利用するだけあって浴場もかなり豪華だ。


「ふぃー、癒されるー」

 

 早速体を洗い流し、だだっ広い湯船に身を沈める。

 あまりの気持ちよさに思わず声が漏れる。あー、連戦の疲れが癒される。

 

 思えばピエロ紳士から始まり、テレロ、その他魔王軍幹部との続く連戦で体のあちこちに疲れが溜まっている。

 魔力消費による疲労はないが、その分体力的な疲労は人一倍だ。


 女の体だと自分の体って感じがあまりしねぇな。

 水面から顔を覗かせる自分の胸にを見ながら、そう感じる。ま、こればかりはどうにもならないか。


「こんばんわ」


 暖かいお湯に肩までゆっくりと浸かり、溜まった疲を癒していると背後から声をかけられる。

 

 この声……結城 唯か、まさかクラスのマドンナ的存在がまだ入浴中だったとは、神様は俺を見捨てては居なかった! 


 クラスの誰もが一度は拝みたいであろう結城唯の入浴姿……すまんな男子諸君、それを拝むのはこの俺が一番最初だ。

 さて画面の前の男子諸君、サービスシーンだぜ。

 

 では、どうぞ!


 期待に胸を膨らませ、ゆっくりと後ろを振り返る。

 ……って嘘だろおい、タオル巻いてやがる。

 いや、しかしだ。これはこれでありだな。そこはかとないエロスを感じる。


「えっと、ユウリさん……ですよね?」


「んあ? ああ、そうだよ」


「私は結城 唯、よろしくお願いします」


「よろしく…… ところで、なんでタオルまいてるの?」

「さっき、男子が覗こうとしてたから、タオル巻けって言われて」


 あの野郎共! あとで全員ぶっ殺してやる!

 余計なことをしやがって! こんなことなら止めとけばよかった!


「そんなことよりも、聞きたいことがあるんですけど」


 真剣な眼差しを俺に向けてそう言う結城 唯。


「何だ?」


「ユウリさんが着てた服、私たちの元居た世界の学校の制服にとてもよく似てるけど、どこで手に入れたものですか?」


 ボタンとか校章とかは全部取っ払ったんだけど、やっぱわかる奴にはわかるか。


「あれは……たまたま立ち寄った服屋で見つけて」


 俺は無難にそう答える。


 ……やっぱ学ランをそのまま着続けるのは失敗だったかな?

 けど、あれ気に入ってるから捨てたく無いんだよね。


「そっか、ありがとうございます」


 軽く頭を下げてそう言う結城 唯。


「なんでそんな事気にするんだ?」


 もしかして、俺の事心配してくれてるとか? いやー、だったら嬉しいなぁー。


「私達の他にも、もう一人クラスメートが居たんだけど、その人はここに召喚された時に丁度居なくて」


 言っていいものかどうか、ほんの少し考える様子を見せた後、ポツリポツリと呟くように説明し始める。


 おう、屋上でボケーッとしてたからな。そのせいで転落死した。


「だけど、ユウリさんが羽織ってる学ランを見て、もしかしたらそのクラスメートもこの世界の何処かに来ているんじゃないかなって思って」


 目の前に居るんだけどね……なんて口が裂けても言えないけど。

 性別が変わってるなんて知られたくないし、そもそも今それを言ったら、もれなく変態のレッテルが貼られる事になるもん。


「その子の名前もユウリっていうんだけど、司君が言ってたの、あいつはすごい奴だって」 


「へぇ……ん? あれ?」


 ……え? ちょっと待て、確かに司とはそれなりに仲がよかったが、そこまで言われるような事をした覚えはないぞ?


「本当に困った時に助けてくれ奴だって」


 おいおいおい、買い被りにも程があるだろ。そんな奴なら、現在進行形で困ってる俺を助けてくれよ。


「だから、そんな人が今居てくれたらなって思って」


「困ってるのか?」


「そりゃそうだよ、いきなりワケわからない所に連れてこられたかと思えば、いきなり魔王を倒してとか言われて、今まで喧嘩だってやったことないのにいきなり怖いモンスターと戦わせられるし、皆は凄い楽しそうにしてるけど私はもう嫌だよ、早く家に帰りたい……」


 今にも泣き出しそうに、顔を伏せながらそう呟く結城 唯。


 そりゃそうか、普通は不安を感じて当然なんだ。

 逆にイキイキと過ごしてるクラスメートがスゴいんだ。


「帰れないのか?」


「召喚する準備は一年で終わるけど、勇者を送り返すには膨大な時間が掛かるから、最低でも三年は必要って」


「帰れるんじゃないか、それならそんなに不安がる事もないんじゃないか?」 

 

 帰れるのは正直少し羨ましい。つか、俺も一緒に帰れないかな? やっぱ死んでるし無理かな。

 まあ、帰ったら帰ったで色々と困ることになるんだけど。 


「でも、こっちで死んじゃったらもう戻れないんですよ?」

 

 ああ、そうか、それが一番の不安要素か。

 それが少しでもなくなれば、結城 唯の抱えている不安も少しは解消されるだろうか。


「それなら、一つ約束しよう」


 どちらにせよ、不安がってる可愛い子を放っておくのは男が廃るってもんだ。


「約束?」


 キョトンと首を傾げる結城 唯。


「俺の目の届く所では死なせない」


 死なせないとは約束できないが、少なくとも俺の目の届く範囲では死なせない。

 それくらいの事なら出来る。


 こういう台詞は恥ずかしいんだが、少しでも不安なくなるなら安いもんだ。


「……本当に?」


「本当だ」


「……もしかして……」


「ん?」


「いや、なんでもないです……それよりも、有難うございました、少し楽になった気がします」


 微笑みながらそう言う結城 唯。


 よかった。恥ずかしい台詞を口にした甲斐があった。


「先に上がります……あ、それと私の事は唯って読んでください」


 そう言って、湯船から上がるり脱衣所に戻っていく唯。


「……俺ももう少ししたら上がるか」


 唯背中を見送った後、ゆっくりとお湯の中で手足を伸ばし、もう少しの間、気持ちのいい風呂を堪能する。


◇◆◇◆


 その翌朝、部屋の外がやけに騒がしく目が覚める。


「なんだ、朝っぱらから」


 まだ覚醒しきっていない目を擦りながら、重たい体を起こして部屋の外に出て、隣の部屋で寝ているアルとへルクスを起こしに行く。


「なー、なんかあったみたいだぞー、俺らも行ってみようぜー」


 ドアをノックしてそう声をかけるが、中からの反応はない。

 ドアノブに手をかけると、カギはかけて居なかったのか簡単に開いた。


 部屋の中に入ると、へルクスとその上に乗っかって熟睡しているアルの姿が見えた。寝るときでもヘルムは外さないんだな。


「おーい、おーきーろー」


 熟睡しているアルの体を揺すって起こす。


「騒がしいですね、なにかあったんですか?」


 二、三度体を揺すったところでアルもまた、覚醒しきっていない目を擦りながら起きてくる。


「さあ?」

 

「失礼いたします、ユウリ様」

 

 開いているドアを二度ノックする音が聞こえ、そちらを振り向くと昨日脱衣所で見かけた侍女が入り口の側に立っていた。


「国王陛下がお呼びです、至急謁見の間までお越しくださいませ」


 そう言われ、へルクスを叩き起こして謁見の間まで出向くと、緊迫したような表情の司と内山とそれにおんぶされて熟睡しているタマモの三人と小林大林の二人、そしてテレロ、アルトリアの姿があった。


「無事な者はこれだけか」


 俺たちが中に入ると、神妙な面持ちでそう言う国王。


「無事って?」


 一体何があったと言うのだろうか。


「実は……異世界より召喚した勇者、それと城で仕えている侍女や執事が突然倒れてしまった」


 深刻な表情でそう言う国王。


 それはまた、急な展開だな。


「なんだって! それは大変だユウリ君、急いで回復魔法で治療してあげないと」


 へルクスがそう言う。


「そうだ……」

「いや、それは無理だ」


 俺の言葉遮り、司が強めの口調でそう言う。


「なに?」


「何度も試したけど、回復魔法もどんな治療薬もまるで効果がないんだ、皆衰弱が激しい、このままじゃ持って数日だそうだ……」


 数日って猶予がないじゃねぇか。


「そういえば、唯の姿が見えないな」


 この場に彼女の姿が見えない事に、嫌な予感はしながらも司に尋ねる。


「ああ、彼女も倒れた」


 悪い予感は見事に適中した。表情を曇らせながらそう答える司。


 おいおい冗談じゃねーぞ、昨日約束したばかりなんだ。なのに舌の根が乾かねぇ内に破ってたまるか。


「原因はわからないんですか?」


「心当たりがあるとすれば、昨日の魔王軍幹部の言葉じゃな」


 アルの質問にテレロがそう答える。


 昨日の魔王軍幹部……そういえば、確か成功したとか言ってたな。もしかして、奴らが企んでいたのはこれだったのか。


「じゃあ、そいつらを倒せば何とかなるかも知れねえってことか?」


「待ちな、そうは言っても居場所がわからねぇ事にはどうしようもねぇ」


 すぐにでも幹部を倒しに向かおうとする俺を制止してそう言うアルトリア。

 確かに、無闇に探しても時間の無駄だ。けど何もせず手をこまねいているのも時間の無駄であることには変わりない。


「なんか、手はねぇのか?」


 魔王軍幹部の居場所がわかるような手立ては。


「なんじゃ、騒がしいのぉ、一体なんの騒ぎじゃ」


 内山におんぶされていたタマモが、眠たそうな声をあげながら目を覚ます。




 ……居場所知ってそうな奴いたわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ