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十六話『どこをどうしたらレディースチームになったんだ』

「ん? なんか見かけない連中が居るようだけど、どこのチームよ?」


 俺達に気付いたアルトリアが訝しげな表情で、そう言いながら数名の部下と共にこちらに歩いてくる。


「いや、えっと俺はですね」


 なんと答えていいか分からず、視線が宙をさまよう。

 やっべー、おっかねぇー。


「待つのだアルトリア」


 国王の威厳ある声が響きわたる。

 サンキュー、助けてくれてありがとな国王様。


「その者は」

「てめぇには聞いてねーよ! すっこんでろ!」

「あ、うん……すまぬ」


 いやそこは引き下がっちゃダメでしょ!? 娘に対しては弱いお父さんかよ!


「で、お前はなんだ?」


 グイッと顔を近づけてそう言うアルトリア。

 あっ、なんか良い香りがする。


「返答次第によっちゃ、ウチ等『死屡刃帝流シルバーテイル』が黙っちゃいないよ」

「言っとくけどー、姫姐さんの剣技スゴイっすからー、あんま舐めない方がいいッスよー?」


 俺を取り囲むようにして、部下の女性が睨みつけてくる。

 マジおっかねぇ。もう泣きそうなんだけど。


「待ってください姫様、彼らは敵ではありません」


アルトリアが俺の事を敵だと思っていると思ったのか、俺とアルトリアとの間に割って入る司。


「そんなことは解ってる。アタシが聞きたいのはそんな事じゃない、こいつがどこのどいつで、信用できる人間かどうかってことだ」


 そう言いながらアルトリアは司の肩を掴み、押しのける。


「俺はユウリ、ついさっき国王に雇われた魔術師です」


「魔術師……そういえばつい最近、終焉の魔女とかいう奴が出てきたが、関係あったりするの?」


 顎に手をあて、じっと俺の目を見つめながらそう尋ねるアルトリア。

 下手な誤魔化しは通用しなさそうだ。 


「えーっと、実はそれ俺だったり……」


 これ、正直に言って殺されたりしないよな? 大丈夫だよな?


「てめえ! てめえのせいでこっちはかなり迷惑したんだぞ!」


 部下の一人に胸倉をつかまれ、グッと顔を近づけられる。


「……ごめん」


 あれは事故なのだが、それを言っても火に油を注ぎそうなので素直に謝る。故意じゃないにせよ、やったのは俺だし。


「ゴメンで済むとおもってんのか? どんだけ損害が出たとおもってんだ、シメあげるだけじゃ済まさねぇぞ!」


 胸倉を掴んでいる手とは別の方の手を強く握り、拳を振り上げる女性。

 一発くらいは殴られても……いや、ダメだ。


「殴るのは待った」


 魔法はともかく物理はマジで死ぬ。本気で殴られたらHPなくなっちゃう。 


「うるせぇ! 問答無用だ!」


「やめな!」


 今にも振り下ろされそうになっていた拳を、アルトリアが掴む。


「ひ、姫姐さん」


 拳を掴まれた女性は、驚きと恐怖が入り混じったような表情でアルトリアの方に目を向けそう呟く。


「拳をおろせ」


 冷たい声色で呟くようにそう言う。気温が一気に下がったような寒気を感じる。


「で、ですが」

「あ?」


 食って掛かる女性を一睨みで黙らせるアルトリア。なんというか、本当におっかねぇ。


「す、すいませんでした姫姐さん」


 拳を下し、申し訳なさそうに頭を下げる女性。 


「分かればいい……それで、ユウリだったか?」


「は、はい」


「いきなり悪かった。あんたの事は親から聞いてたんだが、アタシは自分で確かめないと信用できない質でね、アタシらの代わりに魔王軍の幹部を撃退してくれてありがとう」


 アルトリアはそう言って右手を差し出し、握手を求めてくる。


「あ、いえ、どうも」


 あれ? もしかして、結構いい人?

 差し出された右手を両手で握りながらそう思った。


「長旅疲れただろ、食事の用意が時期におわる、ゆっくりとしていけ」



◇◆◇◆  



 夕飯のために大きな宴会室に向かうと、常に数人の給仕係りが居り、忙しなく動き回っていた。

 適当に空いている椅子に腰を下ろすと直ぐ様料理が運ばれてくる。

「飯うめぇぇぇ! フゥゥゥゥゥ!」

「マジうめぇぇ! イェェェェイ!」

 食事の内容もとても豪華であり、小林大林のテンションがやたらと高く、修学旅行並みに騒がしい夕食だ。


「主、すごいぞこの豪華なりょーり!」

「ああ、そうだろ」


 そしてなぜか、しれーっと馴染んでいる魔王軍幹部のケモミミロリっ娘と、完全にそれを手なずけている内山。


「すごいのだ、こんなおいしいものは初めて食べるのじゃ」


 料理が運ばれてくる度に、嬉しそうにそう繰り返す。そんな姿に母性をくすぐられたのか、給仕係りの侍女の一人が常にケモミミロリっ娘の側について世話を焼いている。

 

 なんかキャラ違うくね?


「内山殿、その者は魔王軍の幹部であろう?」


 困惑した様子の国王が、内山にそう尋ねる。


「いや、今は俺の使い魔だ」

「そうか……いや、しかしだな」

「今は魔王軍とはなにも関係ない、ただの俺の使い魔王だ。敵から優秀な奴を引き抜くってのはよくある話だろ?」

「確かにそうだが」

「幹部が仲間になったんだ、むしろ喜ばしい事だと思うんだが?」

「いや、確かにそうだが……」


 色々と問題はありそうだが、内山が責任を取ると言っていたので俺はノータッチ。面倒くさそうだし。

 ま、どう転ぼうとなるようになるだろう。


 そんなことよりも、今は食事に集中だ。

 今食べているのは見た目はごくごくシンプルなステーキだが、それが堪らなく美味だ。


 力を込めずともすっと肉にナイフが入り、肉汁の滴るステーキを口に放り込む。顎の力を殆ど使わずに、ほぐれ肉汁が溢れだす。

 舌の上で溶けるという表現をよく耳にするが、まさにそれだ。

 溢れだした肉汁で口の中が満たされ、まるで肉が溶けてしまったかのように感じる。

 味付けは極々シンプルなものだろう、塩と胡椒を少し振っただけでソース等は使っていない。

 地球と比べると素材の元の味が段違いだ。


 これなら、いくらでも食べれそうだと言わんばかりに、次から次へと手が進む。


「僕、ドラゴンのステーキなんて初めて食べます」


 そうか、これドラゴンの肉なのか。よし、今度狩りに行こう。


「はー、美味かったぁ」


 食事を堪能し、満足した俺はゆっくりと椅子にもたれ掛かる。

 異世界に来て一番美味い飯だった。


「そうですねー、昨日食べた殺人スープとは大違いです……いや、比べるのも失礼でしたね」


 アルも椅子にもたれかかって至福の表情を浮かべる。

 殺人スープ、アルも俺と同じ夢を見ていたとは驚きだ。


「後でゆっくり風呂にでも入ってくるかな」

「ですねー、もう疲れがかなりたまってキツいですし」


 ずっと戦い続きで流石に精神的にも体力的にもくたびれた。ゆっくりと疲れを癒したい。

 決して、クラスメートの裸を拝もうって考えてるわけじゃない。そんな事、微塵も思ってるわけないじゃないですか。


「ねえ、お風呂いかなーい?」

「超疲れたしねー」

「それなー、結城さんも行かない?」

「これ食べたら行くから、先に行ってて」


「さて、俺も行くとしよう」


 ……よし、いざ出陣だ!

 冒険者の鍛えられた体は何度か見てきたが、やはり見るなら同年代の柔肌の方がいい。


 俺が席から立ち上がると同時に、立ち上がる何名かの男子生徒。


 ははーん、さてはこいつらも覗きを企んでいやがるな? 

 わるいな、俺は堂々と拝める事ができるんだ。ま、精々頑張りたまえ! アッハッハ!


「あ、アルトリアさん」


 席を立ち、風呂へと向かっていると偶然アルトリアに出くわした。


「アルトリアでいい、ちょうどいい少し付き合えよ」


 右手に持っているのは酒瓶だろうか、それを見せながら誘ってくるアルトリア。


「いや俺今から風呂に」

「そんなの何時でも入れるだろ」


 風呂にいくから遠慮しようと断ろうとしたが、それを遮るアルトリア。


「……わかった」


 少しくらいならいいかと思い、大人しく頷いてアルトリアに着いていく。


 少し歩くと、テラスへと出た。 いつの間にか日が落ちている。色々な事があったからか今日はやたらと長い一日だった。


「飲むか?」


 グラスを二つ用意してそう尋ねてくるアルトリア。


「酒は飲めない」


 俺がそう答えると、アルトリアはそうかと呟き瓶の詮を抜きそのまま直に口をつけて一気に煽る。


「ところでその言葉使いだが、なんというか随分と口が悪いな」


 あんたには言われたくない……なんておっかなくて言えないな。


「理由は聞かずともわかる。アタシも同じだからな。男に舐められたくない、女だからと馬鹿にされたくないってんだろ?」


「ああ、まあ」


 本当は元々こんな感じってだけだが、俺はそう頷く。

 元々男だったからこんな口調なんだと説明しても理解してもらえそうもないし。


「アタシも小さい頃は、もっと上品な感じだったんだけどねぇ、魔王軍に母親……あー、王妃っつった方がわかりやすいか? それを殺されてな」


 アルトリアはそう言いながら少し寂しそうに笑う。


「それは……ご愁傷様で」


 ……いきなりシリアスな話をぶっこんで来たな。反応に困るぞ。


「それで思ったのさ、弱いままじゃダメだってね。強くならなきゃこの世界は生き残れない。アタシの騎士団の奴らはみんなそうさ、肉親を魔王軍に殺されてる。そういったのをアタシが拾ってきて作ったのがこの騎士団ってわけだ」


 アルトリアは、再び一気に酒を煽る。


「そうだったのか」


「悪かったな、長話に付き合わせちまって……こんな話は誰かにしたことないんだが、なんでだろな、アンタにはついつい喋っちまった」


「なんとなく、アンタとアタシが似てると思ってるからかもしれねぇな」


 少し恥ずかしそうに笑うアルトリア。


「俺と?」


 どこが似てるんだろ。


「ああ、まぁ……あれだ、気が向いたらアタシの騎士団に遊びに来な、そんときゃ遊んでやっからさ」


 照れ隠しか、アルトリアは俺に背を向るとそう言って、手をひらひらと振りながら去っていく。


「なんというか、人にはそれぞれ抱えているものがあるんだな」


 夜風に当たり、星が輝く空を仰ぎ見ながらそう呟く。

 アルトリアから聞いた話は、少し感動すら覚えるほどの美談だ。


 ただ一つだけ気になるのが……どんな方向に向かっていったらレディースチームみたいになるんだって事だがな。

 親を殺されて泣くというより、犯罪やらかして親を泣かせるようにしか見えない。


「あっ! 風呂!」


 覗く……じゃない、疲れを取ろうと思ってたの忘れてた!

肉食いたくなった。

だめだ、我慢できん!

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