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十四話『一体、どこの魔王軍幹部なんだ』

「え、許してもらえるんですか?」

「しかも、国に雇ってもらえるなんて破格の待遇だね!」


 どこからかヘルクスと、彼に肩車してもらっているアルが現れる。


「ちょっと待って、なんで此処に居るの? 馬車は?」


 つか肩車いいな。俺も後でしてもらおう。 


「いや、一番警備が厳重だったので諦めました」


 俺がノコノコ出てきたのに、衛兵が誰一人として来なかったのは大半がそっちに行ってたからか。

 この爺さん、そこまで予想してたのか。


「詳しい話は国王から聞いておくれ、ワシは疲れたからの」


 老体に激しい運動はちときついわいと、その場に座り込むテレロ。


「えぇー」


 国王に話を聞くってことはわざわざ王都まで行かなきゃならないってことだろ?


 折角、一週間も馬車に揺られて遠路はるばるこの街に来たってのに。

 また馬車に揺られて腰痛と格闘しなくちゃならんって考えると、あまり王都にまで行きたいという気は起こらない。


「まったく……そう嫌そうな顔をするでない、ワシがテレポートで送り届けてやる」


 テレロは溜め息混じりにそう言うと、老体を使い潰す気かと文句を言いながら、杖でガリガリと地面を削り、魔方陣のようなものを描く。


「なんでわざわざ魔方陣? なんて描いてるんだ?」


「距離が距離じゃし、ワシ含めて四人を一気に転移させるからの、魔方陣を描いて消費魔力を抑えんと疲れてしまうわい」


 魔方陣って消費する魔力を減らす効果があったんだ。

 ま、俺には無用の長物だな。魔力無限だし。


「ほれ、魔方陣の上に立て……あ、消さんように気を付けての」


 言われた通り、魔方陣を消さないように爪先でそっとその上に乗る。

 そして全員が乗ったところで、テレロが転移魔法を唱えた。

 

 何とも言えない浮遊感の後に視界が切り替わる。


「お?」


 最初に目に飛び込んで来たののは煌びやかな装飾が施された壁だ。上を見上げれば豪奢な照明が真昼間から光を放つ天井。 下を見ると赤いカーペットが目にうつる。


「テレロか」


 部屋の中央の一番奥の段差に備えつけの椅子。そこに深く腰を下ろす初老の男性。 長く重い経験が深い皺となって刻まれており、刀を思わせるような鋭い眼光も相まって、威厳ある風貌をしている。

 あれが、この国の頂点に君臨する男だろう。


「そうじゃよー、ほれ連れてきたぞい」


「礼を言う……さて、話は聞き及んでいると思うが終焉の魔女さん」


 そんな風貌とは対照的に随分と優しい声色でそう話しかけてくる国王。


「えっと、あれだ……っすよね、力を貸したら街を壊した件を不問にしてくれて、報酬までくれるって話」


「そうだ……ここに来たということは引き受けてくれたと考えてもよいだろうか?」


「はい、そう考えてもよいです」


「そうか、よかった……後で報酬の話をしたうのだで、少し待っていてくれ、今は他に予定があるのだ、そなたにも今後関係するであろう」


「国王陛下、勇者の方々をお連れいたしました!」


 室内の扉が開かれ、一人の兵士が入って来たかと思うと大声でそう報告する。


 勇者の……方々?


「フゥゥゥゥゥゥ!」

「イェェェェェェエイ!」

「俺思うんだけどさ、ステータスはチート並みに高くても、チートスキルがないのはどうよ?」

「チートスキルって大体イジメられっこが持ってるからじゃね?」

「納得ぅー、けどクラスにイジメなくね?」

「それな!」

「ねぇ、この国の男まじヤバくない?」

「わかる、めっちゃヤバイ」


 なんだろう、この聞き覚えのある声は。

 なんだろう、あの見覚えのある面子は。


 地球に居るはずのクラスメート達が、どうしてこんなところに居るのだろう。


 クラスまとめて異世界に召喚されましたーってか? 

 だとしたら……相当ヤバイな。


 うちの学校の偏差値は精々下の上。不良高校こうとまではいかないが、相当なバカが揃っている上に個性的な連中が多い。

 アメリカが人種のサラダボウルというのなら、うちのクラスはさしずめキャラのミックスジュースと言ったところだ。


 つまり、なにがヤバイかと言うとだ。


「あっ! なんか金髪美女が居るぞ!」

「やっべー! ちょうマブいぃぃ!」

「フゥゥゥゥゥゥ!」

「イェェェェェェエイ!」


 こいつらの大半が自由人すぎて、手がつけられないのだ。

 俺も好き勝手にやって来た方だとは思うが、こいつら……特に今俺に話しかけてきた四人は俺よりすごい。


「な、なんなんですか、この人たち……」

「す、凄い集団だね……」


 あまりの自由さに若干引き気味のアルとヘルクス。


 彼らは上から順番に、山田、山口、小林、大林だ。山田山口は髪を茶色に染め、それぞれアクセサリーをジャラジャラとなびかせる派手な奴らだが、別にヤンキーというわけではない。むしろビビリだ。

 小林、大林は……丸人間でも適当に想像してほしい。小林の口癖はフゥゥゥゥゥゥ、大林はイェェェェェェイだ。


 こいつらを制御できるのはクラスでも数人。


「その者は一先ず置いておいて、ワシの話を聞いてくれ勇者の諸君」


「皆! 少しの間だけ静かにしてくれ!」


 そのうちの一人がこいつだ。御劔みつるぎ つかさ

 勇猛に輝く黒い双眸に、異常なまでに整った顔立ち。成績優秀、運動神経抜群で女子からの人気もやたらと高い。どうしてこいつが底辺の高校にいるのか不思議なくらいだ。


「静かにするぜぇぇぇフゥゥゥゥゥゥ!」

「静かにしてればいいんだな! イェェェェェェエイ!」


 静かにすると言いながらも奇声をあげる小林と大林。


 制御できていないって? いや、人の指示が耳に入っている時点で、制御できている方なんだ。


「そこ、うるさい」


 もう一人がクラスのマドンナ的存在の結城ゆうき ゆい。黒髪ロングの清楚系美少女。表情が固く、声も淡白で抑揚があまりなく、周囲にあまり感心を示さないような態度をとるが、逆にそれがいいと野郎共に受けている。胸はない。


「フゥー」

「イェー」


 唯は完全にこの二人を静かにする事が出来る唯一の人物だ。この二人が居なければきっと俺のクラスは崩壊していただろう。


「国王陛下、今のうちに用件を」


「うむ、いつも助かる……先ずは君達に彼女を紹介する、終焉の魔女殿だ」


「え? ああ、どーも、終焉の魔女ことユウリでーす」


「ユウリ?」


 俺の名前を聞くやいなや、少し眉を潜める司。


 おっと実名名乗ったのはまずったか? いや、外見……というか、そもそも性別から変わってるわけだし何も問題ない筈だが。


「お? 終焉の魔女ってーとあれじゃね? 街をぶっ壊したっつー?」

「ああ、結構な賞金かかってたな……ってめっちゃ悪い奴じゃん!?」


 顔を見合せ、徐々に表情に焦りの色が浮かぶ山田と山口。


「「気安く話しかけてスンマセンっした!」」


 二人はとても綺麗な土下座を披露し、口を揃えてそう言う。


「確かに王都の惨状は主に彼女が原因だが、それについては不問にした、今後は我が国に協力してくれることになっている。場合によっては、君達との共闘もあり得るだろう」


「残念ですが」

「それはあり得ぬよのぉ」

「なぜならお前達は全員」

「ここで死ぬYO」

「……あれ? 俺何言えばいいんだ?」


 国王の言葉を遮り、どこからともなく現れる奇怪な格好をした五人組。


 ジェイソンマスクタキシードに、ケモミミロリ娘、首なし騎士に、黒人ラッパー、そして鬼。一体どういうグループだよ。

 ちょっとアレなヘヴィメタルバンドでもそこまでカオスじゃねーぞ。


 というか、どこから入って来たんだこいつら。


「バカな! ピエロ紳士を除く魔王軍幹部が勢揃いだと?」


 椅子から勢いよく立ち上がり、驚愕の声を上げる国王。


 ……え、アレ魔王軍幹部なの? なんか陽気なラッパー居るけど!?


「王城の警備もザルじゃのぉ」


 やれやれといった具合に呟くテレロ。


「ユウリさんユウリさん、僕ついさっきユウリさんの口から、幹部との連戦はそうそうないって言葉聞いたばかりなんですけど」


 ちょいちょいと、俺の服の裾を引っ張ってそう言うアル。

 すまん、まさかこんな展開になるのは予想してなかった。

 だって、幹部倒した直後に他の幹部が全員集合とか予想できるわけないじゃん。


「いいね幹部が勢揃い……私の防御力とどちらが上か、勝負してやろうじゃないか」


「待て待て、いきなり飛び込もうとするんじゃない」


 今にも突っ込んでいきそうなヘルクスを必死で引き留める。

 他の奴等の出方がわからない内は、様子見するほうがいい。


「くそっ、皆、各パーティーに別れて一度距離を取れ!」


 司が剣を構え、クラスの全員に指示を出す。

 六人で一つのパーティーなのだろう、司の指示に従い、五組に別れて距離を取り魔王軍の幹部と対峙するクラスメート達。


「さて、私たちも行こう!」


 再び、腰の剣の柄に手をかけて幹部の戦いに参戦しようとするヘルクス。


「だから待てって」

「そうですよ、その前にやることがありますし」


 それをアルと俺の二人がかりで何とか引き止める。


「そうだぜ、先にやることが……やること?」


「交渉でいう押し時ってやつですよ」


 押し時? 交渉? 一体なんのことだ。


「国王陛下」


 なんのことだろうかと首を傾げていると、国王の前まで行き膝を着くアル。


「む、なんだ?」


「今の状況って大ピンチだと思うんですけど、彼らも異世界から召喚されたばかりでまだそこまで強くはない。そこでさっきの話なのですが、報酬の方はいかほどでしょうか?」


 大ピンチってなら、今そんな話なんかしてる場合じゃないだろと思いながらも、アルには何かしら考えがある様子なので大人しく行く末を見守る。


「月に五百万レンス、私からの依頼で特別恩賞を贈呈する。国内での地位も相応のものを用意する」


 月々五百万プラスボーナス付き。年収は最低でも六千万レンス。特別恩賞とやらも考えれば、もっと行くかもだし。

 金の価値は日本の円とほぼ同じ価値っぽいし、年収六千万もあれば相当に贅沢ができる。

 しかも地位も高いものをくれるっぽいし……うん、悪くないじゃん。

 

「月々五百万というのは、少なくないですか?」


 そう言ったのはアルだ。


 別に悪くない待遇のはずだ。ギルドで体張ってチマチマ稼がなくても大金が安定して入ってくるし。

 なにも不満なんてないはずだが。


「ではいくらが望みだ?」


「三千万」


「……高すぎる、八百万で手を打ってくれないだろうか?」


「御言葉ながら国王陛下、計算を間違えてませんか? ゼロの数が一つ少ないと思うのですが」


 不敬罪に触れそうなギリギリのラインで国王を煽るアル。

 それ見て何を考えているのか何となく察しがついた。


 コイツ、取れるだけ取る気だ。


 金は金があるところから持ってくるとは言ったものだが……TPOとかガン無視かよ。


「わかった、一千万だ。月々一千万出そう、それ以上は財政的に無理だ」


 しかも報酬額を倍にしやがった。


「だそうですが、どうしますか?」


 満面の笑みを浮かべたアルが、俺の方に振り向いてそう聞いてくる。


「……へ? え? いや、え?」


 そこで俺に振る!? なんか俺の指示でやらせたみたいに思われるだろうが。


「なるほど、交渉に対して優秀な部下を持っているな……一千万、国に雇われている魔導師の中でも破格の報酬だ」


 ほらみろ、俺が指示したって思われてる!


「どうしますか?」


 笑顔を崩さずにそう聞いて来るアル。

 コイツ、俺に全責任を俺に押し付けるつもりかよ。


 色々とやらかして印象は良くないだろうってのに、更に印象悪くなったらどうすんだよ。

 けど実際おかげで報酬は倍額になったし、それを今さらうだうだ言って台無しにするのは勿体ない。


「わかった、それでいい」


 俺は諦めて頷いた。


 

俺の頭のネジしらない?

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