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十三話『一体いつからバトルものになったんだか』

「心当たりがないわけでもあるまい? 終焉の魔女さんや」



「……な、ナンノコトカナ」


 シラを切ってやり過ごそう。


「誤魔化すのが下手じゃのぉ」


 面白おかしいショーを見ている時のように、笑いながらそう言う老人。

 というか、なんでバレてんの? 服だって変えたし……あ、この爺さんと会った時は、まだ学生服だったわ。


「終焉の魔女なんて人知らないって、第一、俺はユウリって名前だし? 終焉の魔女なんて名前じゃないし?」


「お主から感じる魔力は底知れぬ、それだけの魔力の持ち主はそうは居らぬ、終焉の魔女とやらも相当な使い手と聞くしのぉ。それに人相は国王から聞いておるしな」


 うわお、がっつり顔もバレてんじゃん。全然平気じゃないじゃんアルのウソつき。


「つい先程国王から頼まれてな、終焉の魔女とその仲間の身柄を確保してほしいとな」


 テレロがそう言って二三度手を叩くと、どこに隠れていたのか武装した衛兵が現れ瞬く間に俺達を取り囲む。


「さて、ほぼ詰みの状況じゃ……少しワシの話を」

「テレポート」


 ヘルクスとアルの腕を掴み、転移魔法でその場からトンズラさせてもらう。

 ジェットコースターが頂点から下り落ちる時のような浮遊感と共に、視界が切り替わる。


 目の前に広がるのは雲ひとつない青空。すこし手を伸ばせば届きそうだ。

 この感じ、前にも似たようなことがあったな。


「ちょっ、よりにもよってなんでこんな上空転移するんですかー!」


 アルの叫び声が聞こえてくる。

 転移、また失敗しちゃった。


「でもほら、下の方に街見えるしー、ただちょっと上空に転移してきただけじゃん」


「せめて高度を考えてもらえますか!?」


「落ち着くんだアル君。こういう時、冷静さを失っちゃダメだ」


「……そうですねヘルクスさん、すみません」


 ヘルクスにたしなめられ、アルはゆっくりと深呼吸をして落ち着く。


「それよりもこの高度だよ。落下の衝撃と私の防御力……面白い、どちらが上か勝負といこう!」


 手足を広げ、大の字の状態で落下するヘルクス。そのまま地面と熱いハグでも交わそうというのだろうか。


 流石にそれは死ぬんじゃないかな?


「ああ、この人……平常運転が冷静さ皆無の暴走車両みたいな人だということを忘れてました」

 

 遠くを見つめるような眼差しでヘルクスの事を見ながら、諦めたようにそう呟くアル。


「大丈夫だって、ちゃんと考えてるからさ……フライ」


 二人の腕を掴んで飛行魔法を使う。落下速度が徐々に緩やかになっていき、やがて空中でピタリと停止する。


 これなら落下速度を大幅に低下させて安全に降りることができ……って重ぉ!


 俺自身は水中にでも居るかのように体が軽いのだが、アルとヘルクスには魔法の効果が小さいのか、非常に重たい。

 幸いにも、全く効果がないというわけではなく、多少の効果はあるようだが重力の方が上なんだろう。


 だが手を離せばその効果は消えてしまうかもしれない。


 俺が自力で二人を抱えたまま地面に降りるしかないのだが……こと体力に関しては全く自信がない俺だ。早速腕がプルプルしてきた。握力も無くなってきた。


「た、助かったぁ」

「むぅ、少し口惜しいが……ありがとうユウリ君!」


「礼を言うのはまだ早いぜ……なんせ、重すぎて腕がプルプルしてっからな」


 マジな話、いつ落とすかわからん。


「ユウリさんの事は結構信頼してますけど……僕、ユウリさんの体力に関してはこれっぽっちも信頼してませんから」


 ガシッと、笑顔で俺の腕を掴むアル。え、ちょっと待ってよ、なにするのやめて? 肩抜けるから本当。


「ヤバイってアルさん、肩抜けちゃうって」


「肩が外れようとも離しませんよ」


 あら可愛い笑顔……って冗談半分でやってる場合じゃねぇよ。本格的に肩が痛みを訴え始めた。ステータスを見なくてもわかる。俺のHPが二くらい減った。


「本当、肩が悲鳴あげてきてヤバイんですけど」


「ユウリさん、お願いですからなんとか耐えてください」


 何とか耐えてくださいと言われても……死ぬよ、このままじゃ。


 こんなことなら、ちゃんと転移先の座標をイメージしてから使えば……転移先が黙視できるなら、わざわざイメージとかしなくてもいいんじゃね? 見えてるわけだし。


「テレポート」


 視界に写る景色が一瞬にして切り替わる、見たところどこか裏路地のような場所に転移したようだ。

 転移先が黙視できれば、正確に座標をイメージする必要はない……間一髪のところで閃いたのが上手く行ってよかった


「できるなら、最初からそうしてくださいよ……サドなんですか?」


 アルは助かってほっと胸を撫で下ろしつつ、涙目になりながらそう文句を言う。本当に怖かったらしい。


 けど、Sなのはお前だろ。


「どうします? 逃げるなら、馬車を奪うしかないですけど……その場合街中の警備をどう掻い潜って馬小屋までたどり着くかが問題になりますね」


 アルは適当な木の棒を拾い、地面に馬小屋までの簡単な地図を描きながらそう言う。


「まぁ、お二人なら余裕で行けそうですけどね」


 アルは冗談半分に言う。


 確かに、俺は転移魔法で逃げればいいし、ヘルクスはそもそも捕まりそうにない。

 といっても、警備は厳重だろうし見つからずに辿り着ける可能性は低い。馬が狙いだとバレれば馬小屋の警備は更に厳重にされるだろう。


「一番確実そうなのは、誰かが警備の目を反らさせることですね」 


「そうだな、俺が出ていって時間を稼ぐから、お前ら二人は馬車の確保してくれ」


 元々俺が狙いなら俺が一番適任だろう、いざとなったらテレポートで逃げれるし。


「じゃ、よろしくお願いします」


「オーケー任された」

◇◆◇◆


「ワシは魔法を極めたいと思うておる、終焉級こそが魔の極と思うておったが……いざたどり着いたら、もう一つ先へと続く扉が現れよった」


 元の場所に戻ってくると、テレロが空を見上げながら独り言を呟いていた。


 ひょっとして神級魔法の事を言ってるのか? 俺もまだ使ったことはないけど。


「戻ってくると思っておったよ」


 俺の方に向き直り、そう言うテレロ。


「なぁ、勝負しようぜ、俺が勝ったら俺らを見逃してくれ」


 俺はテレロにそう提案した。


 時間を稼ぎつつ、警備の目を俺に向けるなら、やっぱりド派手にドンパチやるのが一番だろう。

 この提案に乗ってくるとは思わないが、どのみちやるつもりだし、ついでに勝って見逃して貰えればラッキーって感じだ。


「ワシは話だけでも聞いてもらえればいいんじゃが……まぁええわい、付き合ってやろう」


 だが、予想外にも乗ってくるテレロ。


「んじゃ、このコインを弾いたら勝負スタートでいいか?」


 俺はポケットからコインを取りだし、テレロに見せながらそう言う。


「ええぞい」


「んじゃいくぜ」


 テレロに向かって腕を伸ばし、親指でコインを弾く。


「サンダーショット」


 それと同時に手のひらをテレロに向け、魔法を放つ。


 俺はコインを弾いたら勝負開始と言った。つまり勝負はもう始まっているってことだ。


 俺の放った魔法は真っ直ぐとテレロに向かって飛んでいく。

 だが、その老体を貫く直前に半透明の球状のバリアが覆い、テレロを魔法から防ぐ。

 バリアの曲面にそって四方に弾かれる魔法。だが、俺の魔法が触れた所からテレロの張ったバリアも消失していく。


 弾かれた俺の魔法は代わりに舗装された道や店先の看板を砕いた。店主さん、ごめんな。


「ぬおっ! おどろいたわい、初級魔法で既に上級並みの威力とはのぉ」


 その威力に肝を抜かれたのか、目を丸くして驚くテレロ。


「普通に防いどいてよく言う、やっぱ簡単には引っ掛かってくれねぇか」


 引っ掛かり安いが、逆に気付かれやすくもあるからなこの手。


「ワシもよくやるからの、しかし、まさか上級の防御魔法が消し飛ぶとはのぉ」


「魔法の威力は、そいつの魔力量に依存する……だっけ? これで力の差は明確になったわけだ。あれー、これほぼ詰みの状況ってやつじゃね?」


「甘いのぅ、戦いとは力ではなく策じゃよ、こんな風にのぉ」


「なんだ? 今の音は?」

「あれ、テレロ様じゃないか?」

「本当だテレロ様だ、おい皆、テレロ様の魔法が拝めるぞ」


 戦闘音につられて……というよりはテレロにつられた野次馬がわらわらと集まってきた。


「一般人のギャラリーが増えただけじゃん」


 これが策? 

 何を考えてるんだよ。


「今にわかるわい」


 テレロは懐から一本の杖を取り出して軽く振る。

 すると地面から蔓が生え、俺の体に纏わり付くる。


「こんなもんで」


 地面に向かって魔法を放ち、地面ごと巻き付いた蔓を吹き飛ばす。


「しっ! これで自由になったな……サンダーショット」

 

 邪魔な蔓振り払い、自由になった事を確認しテレロに向け魔法を放つ。


「……それは防げると知っておろう?」


 今度は自身の正面のみに曲面のバリアを張って俺の魔法を弾くテレロ。

 弾かれた魔法はギャラリーの足元にある煉瓦を砕き、頭上すれすれを掠めていく。


「キャアッ!」

「危ないだろ!」


 などと俺に向かって文句を言ってくるギャラリー。だったら始めから来るな。第一、弾いたのは俺じゃねえ。


 もう少し火力がないと押しきれないか。つっても、中級だと下手すりゃ殺しちまうよな。あの爺さんはともかく、ギャラリーは確実に……ああ、なるほど俺の攻撃手段を制限させるためにギャラリーを集めたってわけね。


 結構な博打も打つんだな。


「俺が躊躇いなく人殺せるタイプだったらどうすんだよ」

 

「そのときはその時じゃが、現にお主は手が出せん……違うかの?」


 違わねえ。


 実際、初級魔法はこれしか知らないし、他にどんな魔法があるかとか見てる暇もないから動きは封じられてるわけさし。

 ピエロ紳士の方が強かったけど、やりにくさじゃこっちの爺さんの方がずっと上だ。


「ほれ、どうした? 他に撃ってこんのか?」


 楽しそうに笑いながら、俺が動けねえのわかってて煽ってくる。


「お主の力は確かに大きい、現存する魔法全てを使うことも叶おうて、さすればお主の取れる手段は無限……だが、お主自身の技量がそれを有限に留めておる」


「わかるように言ってくれる?」


 いきなり長々と喋り始めるから、イマイチ理解が追い付かなかった。


「まるで、札遊戯で他人の作った組合せを、訳もわからんまま使っとるようなものじゃ」


「わかりやすい例えをどーも」


「まあ、自分の力を使いこなすことじゃな……そうでないうちは、ワシには敵わぬよ」


 そろそろ終わりにしようと、杖先を俺に向けるテレロ。


「いーや、まだだ」


 元々打てる手は少ないし、その大半も封じられた訳だが。何も万策が尽きたわけじゃない。


「むっ、この魔力……」


「スーパーウルトラギャラクシーキャノン!」


 上空に向かってそれを放つ。


 その迫力にギャラリーは唖然とするだけでなく、テレロも驚いたように目を見開く。


「何……今の……」

「あいつの魔法なのか……?」

「最上級魔法……だよな、あれ」


「今のは予告だ! 次は爺さんに向かって撃つ! 死にたくなけりゃとっとと散れ!」


「街中で今のを……?」

「流石に冗談……だろ」


 ギャラリーに恐怖の色が現れる。三割近い人数がこの場から立ち去るが、まだ多くの人間がとどまっている。

 もう一押し位は必要かな。


「ハッタリだと思うなら別に残ってもいいが、死んでから後悔しても遅いからな……スーパーウルトラギャラクシー」


 テレロに向かって魔法を放とうとする。


「おい……なんかヤバイって……」

「に、逃げろー!」

「キャアアアアアアッ」


 ようやく本気だということが伝わったのか、慌てて逃げ出すギャラリー。


「なんちゃって……さてこれで、戦いやすくなったし、第二ラウンドといこうぜ」


 静かになったところで、テレロに向かって俺はそう言う。


「なかなか、面白い事を考える……じゃが、あれではお主は完全に悪者扱いされるぞ?」


「元々、そういう構図だろーが」


 街をぶっ壊した危ない奴を捕まえに来た正義の魔法使い……みたいな。


「まあ、そうなんじゃがのぅ……お主がええなら別にええわい、ワシも久しぶりに楽しめそうじゃしの」


 一瞬にしてしてテレロの背後に無数の光の球や、槍、剣、矢が現れる。ざっと見ても三十は越えているだろう。


「数の暴力じゃよ」


「どんな攻撃も防ぐバリア」


 一気に迫りくるそれらを、バリアをドーム状に展開して凌ぐ。


 外れた魔法はいとも容易く、地面に穴を空け小さなクレーターを作り出す。

 数が多いだけでなく、一つ一つの威力も決して侮れない。魔法耐性が高いといえど当たればただでは済まないだろう。


「む、なかなかに硬い守りじゃのぉ……中級魔法をいくら連打したところで破れそうにはないわい」


「そりゃ、どんな攻撃も防ぐバリアだからな」


「これならどうじゃ? クリムゾン・ノヴァ」


 テレロが杖を掲げると上空に業火が生まれる。

 太陽。まさにそれは太陽だった。周囲の水分が蒸発し、地を焦がす程の熱気が伝わってくる。


「ワシの得意な炎系統の最上級の魔法じゃが、これは耐えられるかのぉ?」


 テレロが杖を振るうと、それは真っ直ぐと俺の元に向かって落ちてくる。

 バリアに触れた所から炎は周囲へ広がっていき、建物をも飲み込み辺り一面を火の海に変える。


「さて、これで終いじゃな……調子に乗ってちとやり過ぎたかのぉ? 建物は弁償せねばならんな」


 そう呟いて立ち去ろうとするテレロ。


「……待てよ、火がどうしたってんだ? んなもん少し暑いだけじゃねぇか」


 ダラダラと額から流れる汗を拭いながらそう言う。

 確かに熱気は凄まじいが、攻撃自体はバリアで防ぐことができた。威力自体はエクスプロージョンと同じくらいだ。


「その割りには随分暑そうじゃが……まさか、本当に耐えるとはな」


 テレロもまた、滝のように流れる汗を拭う。


「次はこっちの番だな……ああ、言い忘れたけど、さっきのアレ……脅しとかじゃなくて本当に使うからなしっかり防げよ」


 バリアで身を守りつつ、炎の海から出ていきながらテレロに向かってそう言う。


「スーパーウルトラギャラクシー……」


 炎が届かない所まで来たところでバリアを消し、テレロに向かって魔法を放とうと構える。


「アブソリュートテラーシールド」


 七色の七角形が七層をなすバリアを展開するテレロ。


「とみせかけた……どんなバリアも切り裂くカッター!」


 スーパーウルトラギャラクシーキャノンが来ると思っているテレロに、裏をかいて別の魔法を放つ。


「なにっ!」


 俺の放った魔法は鎌鼬のように防御魔法を容易く切り裂き、テレロの頬を掠めていく。


「お主、わざと外しよったな」


 頬から流れる血を拭い、呟くようにそう言うテレロ。


「流石に殺す訳にはいかねぇからな」


「まさか、ワシが手加減されるとはのぉ……まぁええわい、お主の勝ちじゃよ。ワシの攻撃はお主の防御を破れず、お主の攻撃はワシの防御を破った、勝敗は明らかじゃ」


 杖を懐に納めながらそう言うテレロ。


「それじゃあ、約束通り見逃してくれるんだよな?」


「その前に、少しワシの話を聞いてはくれんかの」


 その場から立ち去り、アル達と合流しようとするとテレロがそう呼び止める。


「なんだ?」


「お主は、国王が生け捕りにして処刑でもするのだろうと考えているようだが、それは違うぞい」


「え、マジで?」


 アライブオンリーってことは生け捕りにして処刑するって事じゃないの? え、違うの?


「お主の所業は聞き及んでおる、それが故意ではなく不慮の事故であるということもの」

「国王からは、こう言い預かっておる……国のために尽力するなら全てを無かったことにし、また国内における地位を約束するとな」


「なん……だと……」


 ってことは街をぶっ壊した事も、そのあと外壁を破壊したことも水に流してもらえて、おまけに国家公務員として働かせてもらえると?

 なにそれ最高かよ。



タバコマジック練習してたら、口の中火傷した。

最初から火をつけてやっちゃダメだね。

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