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十二話『……顔、バレてんじゃん』

◇◆◇◆


「ピエロ紳士がやられたようだ」


 薄暗い室内。ジェイソンマスクを被りタキシードを身に付けた男が円卓を囲んだ面々にそう言う。名をエンド遠藤


「人間ごときにやられるなど」


 西洋鎧で身を固めた騎士。だが首から上がなく頭は机の上に置かれている。デュラハンという種族だ。

 名はナイト内藤。


「幹部の恥さらしもいいところよのぉ」


 藍色の和服に小金色の髪。そして九本の尾と猫耳が特徴的な幼女が年老いた老婆のような口調でそう言う。

 強大な力故に里を追放され、魔王軍の幹部にその身をやつしたタマモ玉森という獣人という亜人の一種だ。


「くっくっく、だが奴は我々幹部の中でも……」


 鬼。一言で表すならそんな言葉が最適だ。日本で言うところの鬼のような見た目をしているが、日本昔話に出てくるような可愛らしいものではなく、もっと禍々しい外見をしている。

 オーガと呼ばれる種族の頂点に君臨する者、名をオーガ男鹿という。


「最強」


 ドヤ顔でそう言うのはラッパーのような格好をした陽気な黒人男性ボブ。

 


「……」


「……」


「なあ……人間、強くね?」


 オーガ男鹿の声には焦りの色が伺える。


「これ……勝てぬよのぉ?」


 タマモ玉森も同様、その声からは激しい動揺が伺える。


「最早消化試合だ」


 ナイト内藤に至っては、全て諦めたように静かにそう呟く。


「確かにぃー」


 ただボブだけが陽気にそう応える。


「更に悲報だ」


「……待て、まだ何かあるのか?」


 オーガ男鹿はただでさえ、彼らにとっては絶望的な知らせだったというのに、もっと悪いことがあったのかと否にも飛びそうになる意識を必死に留めながらそう聞く。


「ああ、ヴェーラ帝国に異世界より三十名の勇者が異世界より召喚されたらしい」


「おいおいおい、一人だけでも厄介な勇者が三十もだと?」


 勇者。それは魔王にすら匹敵しうる力を持つ可能性を秘めた存在だ。

 成長すれば一人だけでも万を越える軍隊に匹敵するというのに、それが三十も召喚されたとあっては最早、魔王軍に未来はない。 


「待て、その三十名全員が勇者の適正を持つとは限らぬだろう、多くても四、五名程度」


 タマモ玉森の言葉にほっと胸を撫で下ろすオーガ男鹿。


「四、五名でも十分にヤバイんだけどのぉ」


 だが、安堵したのもつかの間。三十人から五人に下がったから、何となく行けそうだと錯覚していたが、よくよく考えれば此方は魔王様一人なのに対し、相手は魔王様と同格の者が五人もいる。


「だが、勇者の適正を持たずとも何かしらの才能は秘めている筈だ」


 おまけに、勇者でなくとも何かしら秘めた才能があるときた。

 どのみち、未来は残されてはいなかった。


「……ピエロ紳士が生きてりゃな」


 それに気づいたオーガ男鹿は、明後日の方向に目を向け呟く。


 ピエロ紳士の食べた相手の力を自分のものにする能力があれば、勇者全員を食らい、逆にこちらの力として利用することもできただろう。

 相手の体に乗り移る能力を駆使すれば、それを行うのは造作もないことだった筈だ。


「死んだ者の事を言っても仕方あるまい、もうどうしようもないよのぉ」


 居ない者の事を言っても状況は変わらない。

 残された者で対処するしかないのだ。

 何もしなければ待ち受けるのは死。仮に立ち向かったとしても、待ち受けるのは死。

 完全に手詰まりの状況に追いやられたタマモ玉森は、全てを諦め、目を閉じ微笑むようにそう呟いた。


「ここで一つ朗報だ」


「今更、朗報ってもなぁ」


 天地がひっくり返らないかぎり、この絶望的な状況はひっくり返せない。


「だが幸いにも召喚されたばかりでまだ非力、一般的な冒険者並の力しかもたない」


 その言葉に、全てを諦めていた三人の目に光が戻る。


「潰すなら今のうち……ということかえ?」


「そうだ……弱い今の内に、確実に潰しておかねばならない」


 例えるなら、それはレベル一の勇者がいる最初の村にボス総出で倒しにかかるという、ゲームならばあってはならない事。

 ユーザーからクレームが殺到し、ネットショップのレビューは星1で埋めつくされ、クソゲーというレッテルが貼られること間違いなしだ。


 だが、後がないほどに追い詰められている状況、手段は選んでいられない。


「幹部全員でかかって、こいつらの息の根を止めるぞ……確実にな」


◇◆◇◆


「よかった、皆さんはご無事のようでなによりです」


 馬車に揺られて半日、ようやく街に帰ってこれたので早速クエストの報告をしにギルドに来ると、俺達の顔を見た受付嬢に安心したような表情でそう言われる。


「なにかあったのか?」


 ギルド内の空気も少し張りつめているし、外では衛兵が忙しそうに駆け回っている。


「終焉魔法がダンジョンの近くで使用されたのを観測しまして、どうやら終焉の魔女という危ない人が近くに来ているらしくて、今この街は厳戒態勢なんです」


 あぁ、俺が原因か。

 でも今回は街に被害はだしてないし、むしろ魔王軍の幹部を倒すために使ったんだから後ろめたい事なんてなにもない。

 よし、堂々としてよう。


「一体、どんな人なんでしょうね、終焉の魔女って」


「さぁ?」


 今、貴女とお話してる人です。


「ところで、他のパーティーの方は?」


「ダンジョン内での死亡を確認した」


 俺の代わりにカインがそう答える。


「そうですか、それは……残念です」


 明るい表情が少し曇り、悲しそう呟く受付嬢。


「俺がついていながらすまない」


「いえ、こればかりは仕方ない事ですから、こちらクエストの報酬になります」


 受付嬢が金の入った袋をカウンターの上に置く。


「どーも」


 クエストの報酬を受け取り、ギルドを後にする。


 さて、後はダンジョンで手にいれたお宝を……お宝……。


「あぁっ! お宝! ピエロ紳士からお宝奪うの忘れてた!」


「いや奪うって……言い方が……」


「ちくしょう、あいつも消える前に財宝の在処くらい教えろよ!」


 ありきたりな台詞はく前に言うことがあっただろ! 


「これでよければ……一応は回収しておいたんだが」


 カインがポケットから取り出したのは、黄金で作られ赤い宝石の嵌め込まれた指輪。


「奴が俺を弾き飛ばした時にポケットから落としたようで、運よく回収できた」


 あれだけ頑張って指輪一個とか、しょっぼいなぁ。いや、それでもないよりはマシだが。

 というか、指輪単体だと財宝というよりは装備品みたいだな。


「ま、遠慮なく貰っておくけど」


 そう言いながらカインから指輪を取ろうとすると、カインはひょいとその手を引っ込める。


 ちょ、お宝は全部くれるんじゃなかったのかよ。


「一つ、教えてくれないか?」

「なんだよ」


「お前達……いや、お前は一体何者だ? あの少年は弱いが頭の回転が速い、この先強くなるだろう。あのヘルクスという男、凄まじい回避力だがそれでも人間の範疇に収まっている……だが、お前はなんだ? お前の強さだけが異常だ。一体どうやってその力を手にしたんだ?」


「……あー、神様さえも予想しない不慮の事故で死んでみればいいんじゃね? 運が良ければこうなれる」


 いや、どっちかっつーと運が悪いからこうなったのかもしれないけど。


「なるほど、教えることは出来ないと……強くなりたければ、自分でその道を見つけろということか」


 いや、別にそういう意味で言ったんじゃないんだけど。


「礼を言う……ありがとう。強さを見失いかけていたが、おかげで自分の道が示された気がした。一度初心に帰って出直すとする」


「そうか、頑張れよー」


「そして強くなった暁には……」


 まだ何かあるのかよ。


「ユウリ……俺と結婚してくれ」


「……え?」


 身体中を悪寒が駆け巡り、鳥肌がそびえ立つ。


 この男今なんと言った? 俺と結婚してくれって? 血痕じゃなくて結婚?

 無理! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理! 絶対に無理だ!


 だいたいお前、男しか愛せないんじゃなかったのかよ。中身は確かに男だけどもよ。


 唐突な出来事に、頭の理解が追い付かず困惑していると、カイルが話を続ける。


「俺は以前、魔王軍との戦いの最前線に行ったことがある」


 とりあえず落ち着け俺、冷静になろう。さっきから鳥肌が収まらないが、ここは一度冷静になって対処しよう。

 もしかしたら何か勘違いをしているかもしれないしな。


「そこで一人の魔族と戦ったのだが、その際に男しか愛せなくなる呪いをかけられてしまった」


「お、おう……そうだったのか」


 随分とマニアックというか、BL大好きな腐った女性の方々に好まれそうな呪いだな。


「だが、お前を見たとき心にグッと来た」


 中身が男だからな。

 って、待てよ。それじゃあダンジョン内で二人っきりになったのって結構危なかったんじゃん! なにが『男にしか興味ない安心しろ』だ! 

 誰が好みだとか聞かなくてよかったわー。


「俺は確信した、お前はこの男しか愛せなくなる呪いを解く鍵になるかもしれないと……だから、俺と結婚してくれ」

「嫌だ」


 即答した。


 俺の聞き間違いである事を期待したが、聞き間違いじゃなかった。


「なっ、何故だ!?」


 何故って……そりゃ、俺はホモじゃないからに決まってるだろ! 

 それにそもそも、呪いを解く鍵にはなれないだろう。だって俺男だし。

 精神的に男だと見抜く呪いの効力はマジもんだし。


「何がダメなんだ?」


「え? そりゃぁ……お前、色々とダメだよ」


 性別がダメなんだよ……と言って良いものだろうか。仮にも性別の事で悩んでる? っぽいしな。


「そうか……だが、諦めるわけではない、必ず強くなりまた戻ってくる」


 なんと言ったものかと考えていると、勝手に勘違いしたのか修業して出直してくると言い出すカイン。


「いや、戻ってこなくていい」


「さらばだ……あっ」


 そう言い残し、走り去っていくカイン。だが、足が壊れた塀に引っ掛かり顔面から地面に叩きつけるように転ぶ。


「……だ、大丈夫か?」


 すげえ嫌な音したぞ? ぐちゃって感じの。


「大丈夫だ、問題ない」


 何事もなかったかのように立ち上がるカイン。だがその鼻からはだらだらと赤い血が流れている。

 問題ないことないじゃん。


「暫しの別れだ、これは渡しておく」


 カインは指輪を弾いて俺に渡し、そのままどこかに走り去っていく。


「えっと……なんか凄い人ですね」


 成り行きを見守っていたアルが話しかけてくる。

 見てたんなら、助け船の一つでも出してくれよと言いたい。


「そうだな」


 ようやく鳥肌が収まってきた。


「……ところで、カインさんクエストの報酬いらなかったんでしょうか?」


 言われてみれば、あいつ報酬の分け前受け取らずに消えてったもんな。


「せっかく四等分したのに」


 ヘルクスは少し残念そうに、四袋に分けた報酬をそれぞれ片手に二袋ずつ持ってそう言う。


「まぁ……あの様子だと、どうせすぐ会うだろうよ」

 

「それもそうですね。あ、そうだ……ユウリさん、ちょっと明日付き合ってもらっても良いですか?」


 ふと、思い出したようにそう言うアル。

 さっきの事があったから、こいつもかと思ったが流石にそれは俺の勘違いのようだ。


「構わねえけど、何に?」


「魔法を学びたいんです」


 ああ、そういえばそんな事言ってたっけ?  元々、アルはそれが目的でこの街に来たんだったもんな。


「宛とかはあんのか?」


「ないですけど、この街にはテレロ=アルスという高名な魔導師がいると聞きました」


「まさか直接尋ねて教えてもらおうって腹積もりか?」


「そうですけど」


 アルは当たり前だとでも言わんばかりに、キョトンと首を傾げる。


「そうですけどって……いくらなんでも無理ないか?」


 アルの話を聞く感じでは、その魔導師は相当に偉い人のようだ。いきなり押し掛けて魔法を教えて下さいなんて頼んでも、相手にして貰えるとは思わないんだが。


「なんじゃ、お主魔法を学びたいんかのぉ?」


 突然、背後からにょきっと顔を出してそう尋ねる一人の老人。


「うおおう! なんだよジイさん、びっくりさせんなよ」


 心臓止まるかと思ったわ!


 ん、このジイさんどっかで見かけたな。

 ……ああ、そうだ。ギルドに行く道を尋ねた美人さんの横に立ってたジイさんだ。


「こいつはすまんのぉ……なんぞ、ワシの名前が聞こえてきたからついつい」


「あ? 名前?」

「え……ってことは、もしかして……」


「ワシの名前はテレロ=アルスじゃ」


「「ええええぇぇぇぇ!」」


 世間って異世界でも狭いもんだな。


「それで、ワシに魔法を教えてほしいとか聞こえたんじゃが?」


「あ、はい……その、是非ご教授を」


 深々と頭を下げてお願いするアルだが、流石にいきなり教えてくれってのは……。


「いーよ」


 あ、いいんだ。

 少しの間荷物を持ってくれと頼まれた時のように、軽い口調でそう承諾するテレロ。


「ワシもそこのお嬢さんに用事があるのでな」


 テレロは俺を指差してそう続ける。


「ん? 俺に?」


 道聞いた時に何か落し物でもしたかな。


「心当たりがないわけでもあるまい? 終焉の魔女さんや」


 ……顔、バレてんじゃん。

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