夕日とブランコと君と僕
夕日が川に反射する。田柄橋の近くの公園で、僕と朱里はブランコに乗っていた。
キィキィと鳴るブランコ。二人並んで扱いでいる。
小さい頃、二人でよくこの公園に遊びに来ては、ブランコに乗ったり、滑り台ですべったり、砂場で山を作ったり、追いかけっこをして遊んだ。それも、今となっては思い出。昔々の思い出。
「岐丞、最近変わったよね」
突然、朱里がそんなことを言い出した。
小さい頃からの幼馴染。仲良く遊び始めてから、十年以上の付き合い。そんなことを言われたのは初めてだった。「頼りないね」とは、何回も言われたし、「ダサいよね」も何回も言われた。耳にタコができるほど言われた。正直聞き飽きた。
でも、突然そんなことを言われると、理由を聞きたくなるのが人間の性……いや、僕だけかな?
「変わったって、何が?」
ブランコがキィキィと鳴る。
「最近、カッコよくなってきたよね」
「え?」
カッコよくなった? それを言われたのも初めてだった。というか、そんな言葉が朱里の口から出ること自体、信じられないというか……信じられない。
「どうしたの? 急に」
僕は、朱里に聞く。何で、突然そんなことを言い始めたのか、さっぱり分からなかった。
「うん……」
朱里はうつむいた。そして、
「最近、好きな子とかいるの?」
何を聞くんだ、こいつは。正直びっくりした。何で急に……。
「いないよ」
とりあえず、そう答えた。
「そっか」
さらりと、返す朱里。何なんだろう、本当に。
「なぁ、どうしたんだよ」
ブランコがキィキィと鳴る。
「……」
朱里は黙っている。ブランコの音だけが聞こえる。
「阿佐美ちゃんがね……」
朱里はまたうつむく。そして、黙る。いつもは僕を引っ張っていくような、そんな感じの朱里なのに、今日は何だか違う。まるで、別人と言うか……。
「雪村さんがどうしたの?」
僕は、朱里に問いかける。すると、朱里は僕のほうを見て、
「岐丞のことが……その、好きなんだって……」
あれ?
「岐丞は、阿佐美ちゃんのこと、どう思ってるのかなぁって」
なんか、朱里の様子が変だな。
「雪村さんは、あまり話したことが無いし、どうって言われてもなあ……」
「どうなの?」
曖昧な返答をした僕に、間髪入れずに聞く朱里。本当に、今日は様子がおかしい。
「どうって……うん、まぁ、クラスメイト……かな」
やっぱり、曖昧な返答しか出来ない。
「別に、好きって訳じゃないのね?」
朱里は、ちょっと嬉しそうな感じに聞く。
「うん」
と、短く返答する僕。
そして、一息ついたかのように息をする朱里。そして、
「あのね……」
朱里は、
「……」
僕の耳元で、
「……」
静かに、
「ね?」
ささやいて、夕日に負けないくらい顔を真っ赤にした。
僕も、顔が真っ赤になるのが分かるくらいに、熱くなった。
そうだったんだ。知らなかった。ずっと一緒にいるから、お互いのこと、全部分かってるかと思ってた。でも、それは大きな間違いだった。実際には、何も知らなかったんだ。
僕は、
「いいよ」
と答えた。
僕と朱里はブランコから降り、手を繋いで公園を後にした。
あの頃、小さい頃に夕方まで遊んで、家に帰るときと同じように手を繋いで。
そして、ブランコはしばらく、キィキィと鳴っていた。