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あめのちはれ。  作者: 小鹿野 三子
雨女と晴女?
9/23

誓約



 その日、次の日の早朝まで、天照が窓の外を指差した瞬間から、日本全国が彼女の言った通り雲一つない晴天となった。

 照子(てるこ)にとって、天照(あまてらす)との出会いは衝撃的なイベントである筈なのだ。普段なら豪雨になってもおかしくなく、それはもう避けられない事実となる。


 しかし今日、その理はいとも簡単に、天照のおこした奇跡によって崩されてしまった。

信じようがない事実が、疑うことすらままならない真実へと大きく変わってしまったのだ。



  彼女は正に、神。


  太陽の化身、天照大御神(あまてらすおおみかみ)



 風に乗って流れ去っていくことも難しいと思われていたあの重たい雲が、一瞬のうちに消え去っていった。

 この怪奇現象は、早朝と言えども多くの人々が見ていて、その日のうちに数々のメディアで取り上げらた。テレビ番組では緊急で特番が組まれるなどし、高視聴率を獲得していた。


「誰かとの久しぶりの誓約(うけい)に、少し張り切り過ぎたわぁ~。まぁ簡単なんだけど」


と、天照は溢れんばかりの笑顔を振り撒く。

 人には見えない、太陽の女神が怪奇現象を起こした張本人だと、科学が溢れるこの時代に――熱心な宗教徒以外に――誰が思うであろうか。


「わたしが神だって、信じてくれた?」


 信じ難い。信じがたいが、信じるしかない。この世界の全ての人が首を横に振っても、自分の目だけは、頭だけは、信用してあげなければいけないのだから。


「……まだ少しあやしい」


 かといって、疑ってはないが彼女を信じきるにはまだ早い。えぇー? と、文句ありげな天照に、照子は質問した。


「私の悩み、なんだかわかる?」

「わからない」


 即答だった。

 考える気はさらさらないらしい。照子も構わず続けた。


「私だけの悩みというか、この家の人の悩みなんだけど。」

「あぁ、わかった!」


 今度は(てのひら)をポンと叩く。


「何?」

「テル子、恋人いない」

「そうじゃなくていやそうなんだけどそうじゃなくて違うからやめてお願いやめて」

「冗談でしょ泣かないで」 


 両手で顔を覆う照子に、天照は話を逸らすように慌てて答えた。


「雨。雨が降って降って困ってる?」


 天照のどんぴしゃりな答えに、そうなの、と、顔を勢いよくあげた。

 どうしてなの? と彼女は問う。


「この家ね、雨の化身みたいな子が()いてるの。大きい子だからとっても古くからいるのね。で、その子の子ども達が、あなたの家族それぞれ一人ずつにくっついてると思ってくれれば分かりやすいかな。あなた達を愛してるのねぇ。きっとテル子のご先祖様がいいことしたのよ、(うじ)と彼らのおかげでテル子たちすごく強く護られているもの。

 テル子、大けがとか危険な目に遭ったことないでしょ」


 そういえばそうだ。大けがどころか、かすり傷や(あざ)を作ることも、生まれてこの方ほとんどなかった。


 氏と彼らのおかけで……ということはつまり、夕貴(おとうと)の母が交通事故に遭ってしまったのは、余所(よそ)に嫁いで雨の化身たちの加護から抜けてしまったから、ということだった。なるほど、それなら合点(がてん)がいく。

 しかし、「オプションで雨を降らせてしまうようになる呪い付きだけど」と天照がボソッと付け足したのを照子はもちろん聞き逃さなかった。


「それでも! 私の気分の浮き沈みなんかで、しょっちゅう雨に降られるなんてもうこりごりだよ。だから、そこであなたを手伝う条件!」


 照子は軽やかに立ち上がった。


「天照のお仲間さんたちをみんな見つけられたら、その、オプションの呪いだけ取っ払って!」 


 気迫あふれる眼差しは真剣そのものだった。


 ビシィッと向けられた指先に、「お、おう」と驚いたように返事した天照は、気を取り直してスクッと立ち上がった。


「じゃ、誓約成立(うけいせいりつ)ってことで! これからよろしくね、テル子!」


 神に差し伸べられた手を取り、その日から照子は大多数の人とはひと味もふた味も違う、珍しい人生を歩み始めるのだった。


「うん……よろしく」



誓約(うけい)

 古事記にて、天照はその弟君であるスサノオとの間で行われた賭けのような占いの事です。詳しくは古事記を読んでください^^

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