幽霊?神?
テル子と呼ばれている理由もしっかり付け加えて、天照に納得して貰えるように少し説明した。
「分かった、テル子ね?」
「はい。……それで、ぶっちゃけさっきの話し全く理解できなかったんですけど気にしない事にしておいて……私に協力してほしいこととは一体何でしょうか。それは私にしか出来ないこと?」
「そうなの!」
天照は思い出したように目を輝かせ、両手を思いっきり照子の肩に掛けた。
「わたしの家族を一緒に捜して欲しいの!」
「は、はい?」
「この日本のどこかにいると思うんだけど全然気配がつかめなくて…ひさしぶりに会いたいのよ!」
「えっ、ちょっと、待ってよ」
力のこもった天照の手を自分の両肩から剥がし、落ち着け落ち着けと心の中で何度も唱えた。
「……あなた、迷子なの? 遭難? それ警察に行った方がいいんじゃない?」
「え? ……うーん、迷子も遭難もまた違うような……みんなとは千年以上前からずーっと会ってないから」
「……いや、だから、それ、なんの話しですか?」
「それに、ついさっきこの世界に来たものだから、最近の世の仕組みについては夢の中で得た情報くらいしか分からないんだよねえ」
「はぁ?」
痺れを切らしたように照子は言い放った。
「ちょっとちょっと。さっきからあなた変なことばっかり言って、私をからかってるのね? そうなんでしょう!」
いつの間にかベッドに侵入してると思えば、照子が見た夢をまるで一緒に見ていたかのような発言をし、自分はついさっきこの世界に降りてきた神だといったり、千年以上前から会っていない家族や知り合いを捜せというのだ。照子が怒った所で無理もない。それより、見ず知らずの侵入者の話をここまで耐えて聞いていたことの方が褒め称えられるべき事なのである。
「からかう? どうしてわたしが会ったばかりのテル子をからかったりするの?」
「何でもいい! もうっ……ママ起こしてくるから、ここでちゃんと待ってて下さい」
「あ、人呼ぶの? 別にいいけど、」
そう言って照子は天照の言葉を最後まで聞き届けることなく、1階の部屋で眠っている母を起こしに行った。
「まだ五時よぉ~ママ眠いのにぃ」
「私だって眠いよ! ちゃんと歩いてってば!」
照子は、娘の話をまったく信じず嫌がる母を無理やり起こし、ようやく2階の自分の部屋の前まで引っ張って来ることに成功した。
そしてドアを開き部屋の明かりをつけ、先ほどからずっと天照が座っているベッドの方を指差す。
「ほら! 言ったでしょう? いつの間にか入ってたんだって!」
母は半開きの目をぱちぱちさせて、無言で娘が指差す方を凝視した。天照もこちらを見ながら、にこやかに手を振っておはようございますなどと挨拶している。
「知り合いじゃないのよ? どうしよう、やっぱり警察に連絡するべき? ねえ、ママ……」
そう言ってる途中、母は電気を消し欠伸をしながら部屋を出て行った。驚いた照子は、階段を降りようとする母の右腕を掴み必死で引き止めた。
「あんたさぁ……寝ぼけてるんじゃない?」
「な、なんでよっ」
「誰もいないじゃないのよ。それともなあに、幽霊でも見えるようになったわけ? 怖いからそう言うのやめてよね。おやすみ」
「嘘! ママが寝ぼけてるんじゃないの? ねえ、ちょっとっ」
本当なんだってば信じて! と叫んでもまるで相手にしてくれず、母は自分の寝室へと戻ってしまった。
ドアの前でへたり込んで途方に暮れる照子のもとに、遠慮がちに天照が近づいてきた。
「大丈夫?」
「……大丈夫な訳ないでしょう…これは一体どういうことなの……? なんでママには見えないの…? もしかして、あなた本当に幽霊……?」
「幽霊ではないけど、神だから見えなくてもしょうがないわよね~。というか、わざと見えないようにしたんだけど」
「またそんな変なこと言って……じゃあ神さまって言うならその証拠見せてよ、神さまらしい事を私の前でしてみせて!」
天照は、えー、とめんどくさそうな反応をした後、辺りを見回してなにやら考えていた。
そして閃いたように照子の方を向き直して訊ねた。
「証拠を見せることが出来たら、わたしの家族、一緒に捜してくれる?」
「ええ、いいわよ。見せられるものなら
」
にぃっと何かを企むかのように怪しく口角を上げ、天照は窓の外を指差してこう言った。
空は淡く白み始めてはいたが、どんよりとした雲が重く垂れ込んでいる。
「今日、今から丸一日、雲一つない快晴にしてあげる」