団欒
ただいま~! と朗らかな声が玄関から聞こえたのは、食卓に皿が並びきってからすぐのことであった。
家族全員で出迎えれば、そこには大きな荷物を抱えながら満面の笑みを浮かべている父がいた。雨にびっしょり濡れきって実に寒そうだ。
「パパお帰り! 傘差してこなかったの? まさか忘れる訳ないし」
「いやあ、天気予報ハズレちゃってねぇ! かなり広範囲に降っちゃっててなんだかみんな困ってたから……持ってたやつ、予備も全部貸しちゃったんだよー!あはは……」
「あなたが降らせたんだもの、そのくらい当然よね」
母は楽しげに皮肉を言って、事前に用意していたタオルを夫に渡した。
「ママも共犯者でしょう?」
「なにそれ! 実の両親を犯罪者扱いするって、一体どういう了見か説明していただきたいわね」
「パパとママが今日を楽しみにしすぎた結果のこの雨だよ? 花粉落としてくれるのはありがたいけど、人工的な雨でこの量は……犯罪レベルだと思います~」
「ほう~……随分偉そうな口を叩くようになりましたねぇ、この小娘は」
「あら、私って偉いのよ? 知らなかった?」
「ほれほれ、女衆。お喋りもいいが一家の大黒柱が風邪をひいてしまうぞ。中に入れてやらんかね」
子犬のようにぶるぶると小刻みに震える父の方を見て一瞬の沈黙の後、母と娘の笑い声が響いた。
「ごはん食べるの待っててあげるから、さっさとお風呂入ってきてくださいな」
家族団欒とした夕食後、父は疲れきっていたようですぐに寝てしまった。照子も自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込んで携帯をいじったり漫画を読んだりと、思い思いの時間を過ごした。
明日は土曜で休日だ。せっかく父も帰ってきたのだから久しぶりに家族全員で出掛けたいところだが、あいにく父はまだ会社に仕事があるらしく行かなければならないという。海外遠征というのはどうやら本当に楽ではないらしい。
祖父の書斎で本を読ませてもらったり、一緒に将棋や碁を打つのも照子の趣味の一つなのだが、残念ながら祖父も明日は老人会があって夕方までいないらしい。照子からすれば祖父の書斎はあまりに神聖な場所で、彼がいない間に入っているという事は例え許可を貰ったとしても大変躊躇われる。
――やっぱりいつもみたいに夕貴と遊ぶのがベストかな……
何して遊ぼう。夕貴に絵本を読み聞かせてあげようかな、それとも一緒におもちゃで遊ぼうかな、ちょっとした散歩もいいかも……などと考えていれば、次第に眠気がやってきた。
時計の秒針が律動的に時を刻んでいく音が、照子の意識をゆっくり、ゆっくりと、彼方へと誘う。
まぶたは下がり、やがて照子は深い眠りについた。