集まる気配
重造は辺りを見回す。先ほどの少女の少し大きな声には幸い、他の利用者の気に障ってはいないようだった。距離も大分ある。
「驚かせてごめんね。俺たちも、君と同じ神憑きなんだ。今はいないけど、俺には常世思金神が、あっちにいる子には天照大御神が憑いてる。君には、その人……伊邪那美命が憑いているんだね?俺たち、君のような仲間を探しにこの街に来たんだよ」
重造はなるべく優しい口調で少女に話しかけたのだが、少女は冷ややかな表情を変えることはなかった。
「なに言ってんのか全然わかんないんだけど。アタシ別に仲間なんて探してない」
少女から冷たく言い放たれた言葉には、何の感情も伝わってこなかった。強いて言えば、他人を受け入れる気は微塵もないといったような意思は感じ取ることができた。
「あっ、あの……」
少しずつ足を踏み出して、重造の背後に隠れ顔だけ出しながら、照子は怖々と少女に話しかけた。
「あなた、もしかして……蛍原波ちゃん?」
それを聞いた少女の表情は殊更キツくなった。
「それが何? 分かってて話しかけてきたんでしょ」
「あーー!!やっぱり!!」
「え? さっきのポスターの?」
その答えを聞いた照子は重造を押し退けキラキラとした眼差しで波に近寄り、握手を求めた。
「嬉しい!嬉しい!嬉しい!!わたし波ちゃん大好きなの!ね、ね、サイン貰ってもいいですか??!」
辺りを気にしつつ控えめに、しかし猛烈に興奮している照子の突然のテンションに、波は青ざめるようにドン引きし、重造は呆然としていた。
「は……チョット、何こいつ?!いきなりウルサイし鬱陶しいし!わけわかんない!もう、イザナミ!ボサッとしてないでコイツらどうにかして!!」
するとイザナミは自分の握られた右手を静かにあげたと思えば、指先を揃えて開き、虫を追い払うような仕草をした。
それを合図に、一瞬、照子と重造の視界から全てが消え、波とイザナミの前からは照子と重造が跡形もなく消えてしまった。
はぁ、と、大きくため息をついた波は、近くの椅子にもたれかかって小さく舌打ちをし、イザナミは窓の外を眺めた。
「この地に……高天原の……清き気配が……集まりつつあります……」
雲は厚くかかり始め、天気は崩れようとしていた。




